『カポネ』:2020、アメリカ&カナダ

1931年10月17日、ギャングのアル・カポネは脱税の罪で懲役刑を受けた。服役中に梅毒が悪化し、彼の心身は蝕まれた。カポネは約10年後に釈放され、政府の監視下でフロリダでの生活を始めた。晩年の彼は、親族からフォンスと呼ばれていた。感謝祭を祝うため、彼の家には一族が集まった。子供たちの遊び相手をしていたフォンスは1人の少年に凝視されるが、それは幻覚だった。彼がクリーブランドからの電話に出ると、相手は隠し子のトニーだった。彼は「感謝祭だから電話した」と言い、フォンスが「金の無心か」と尋ねると無言で切った。そんなトニーの横には、電話を盗聴しているFBI捜査官のクロフォードたちがいた。
フォンスは兄のラルフや息子のジュニアから、感謝祭が終わっても屋敷に残ることを持ち掛けられた。ラルフは「来年もここに住むなら、物を手放さないと」と言い、彫像や絵画を売るよう提案した。フォンスは激しく咳をした時、その弾みで尿を漏らした。彼はジュニアに、妻のメエには内緒にするよう命じた。後日、作業員が彫像や絵画の撤去や移動を開始し、フォンスはロドリゴという男から「彫像は脇に移しますか?」と質問される。フォンスはレディー・アトラスの彫像に決して触らないよう命じ、池の向こうに人影を見つけると「悪魔め、見えてるぞ」と怒鳴った。
フォンスはロドリゴを怪しんでおり、屋敷を出て行く彼を睨み付けた。トニーはフォンスに電話を掛けるが、メエが出たので無言で切った。フォンスは就寝しようとした時、腹部に怪我を負った少年の幻影を見た。彼は脱糞し、悪臭に気付いたメエは飛び起きた。翌日、メエに呼ばれた医師のカーロックが屋敷を訪れ、おしめを使うよう告げた。しかしフォンスは、彼が誰なのかも分かっていなかった。カーロックはメエに、「家族に滞在してもらっては?何かあった時、男手がいた方がいい」と勧めた。するとメエは、「28年間、平穏に日々を求め、耐えて来た。こんな暮らし、平気よ」と語った。
メエからの電話を受けたジョニーは、友人であるフォンスのために屋敷へ赴いた。フォンスは「あそこを見ろ」と池の向こう側を指差すが、ジョニーにはワニしか見えなかった。フォンスが「俺たちを見張ってる」と言うので、ジョニーは呆れた。フォンスは「釣りに行こう」と誘い、ジョニーが車を運転する。2台の車が尾行して来るが、フォンスは「気にするな」と言う。船で海に出たフォンスは、「俺に話があるんだろ?」とジョニーに言われて「1000万ドルを隠した」と打ち明ける。「どこに?」とジョニーが訊くと、彼は「分からん」と言う。釣った魚をワニに食われたフォンスは激怒し、ショットガンを持ち出して射殺した。ジョニーは慌ててショットガンを取り上げ、「たかがワニのせいでムショに戻る気か」と諌めた。
その夜、フォンスはメエとジョニーの3人で、『オズの魔法使』を観賞した。手下のジーノはFBIの合図を受け、窓の鍵を開けた。トイレに赴いたフォンスは侵入していた捜査官と遭遇するが、「ちゃんと流せよ」と言うだけで立ち去った。またトニーは電話を掛けるが、メエが出たので切った。フォンスはポーチでジョニーと話し、トニーについて「もう1人の息子がいただろ。最近、いつ会った?」と訊かれる。フォンスは「誰のことだ?」と返し、メエに「ジョニーのために酒を持って来い」と大声で命じた。しかしフォンスの隣には、ジョニーの姿など無かった。
フォンスはメエを罵り、顔に唾を浴びせた。カッとなったメエが平手打ちを浴びせると、フォンスは倒れ込んだ。メエが慌てて彼をベッドに運び、暴力を詫びた。フォンスが「クズどもを追い払ってくれ。小さいガキがいるのに、ハジキを持ったゴロツキがうろついてる」と言うので、メエは「子供はいない」と教えた。フォンスは「お前が天使だと分かる。出来ることなら、折れた翼を直してやりたい」と話し、メエは微笑する。しかしフォンスは豹変して、「お前は何者だ?お前が仕組んだな」と声を荒らげた。
メエが席を外している間に、フォンスは警察に電話を掛けた。彼が「俺は誘拐されたようだ。これは俺じゃない。この男のことは知らん」などと語る声を、FBIが盗聴していた。フォンスは風船を持った少年を目撃し、後を追った。するとダンスフロアにいた大勢の客が歓迎し、ステージではルイ・アームストロングが『ブルーベリー・ヒル』を歌った。また少年を見つけたフォンスが後を追うと、鏡には若い頃の姿が写った。そこへ過去のジーノが現れ、男を拘束して拷問している部屋にフォンスを案内する。ジーノは頭から袋を被せた男を尋問し、ナイフで何度も刺した。
ジーノは男を殺害し、部屋を後にした。フォンスが続くと踊り子のロージーが現れ、「坊やがお休みをと」と囁いた。ロージーはフォンスと2人きりになると、「宝は意外と近くにある。湿った場所を掘ってみて」と告げた。窓の外から激しい銃撃があり、ロージーは死亡した。フォンスが部屋を出ると、ダンスフロアの面々も全滅していた。建物の外に出たフォンスは、風船の少年を発見した。フォンスは「ママが撃たれた」と叫び、少年に近付こうとする。そこへ車が走って来て、ひかれたフォンスは正気に戻った。
カーロックはクロフォードと密会し、「彼は脳卒中で倒れた。しばらく付き添う」と伝えた。クロフォードは隠した金の情報を聞き出すよう要求し、「聞き出せなければ司法取引は無しだ」と通告した。カーロックはメエやジュニアたちに、フォンスは脳に永久的なダメージを受けていること、左半身に軽い麻痺が残ったことを説明した。彼は健康のために葉巻を禁止し、代用品として人参をフォンスに与えた。カーロックはフォンスに絵を描かせて金の隠し場所を聞き出そうとするが、失敗に終わった。
ジュニアはカーロックに頼み、フォンスと2人にしてもらう。彼は「もう芝居はいいよ」と言うが、フォンスの様子は全く変わらなかった。風船を持った少年の絵を見たジュニアが「これは誰?」と訊くと、フォンスは「息子のトニーだ」と答えた。ラルフはフォンスに「金のありかを教えてくれ」と頼み、もう金が無いのだと訴えた。彼はジーノや作業員について、「俺の勘だが、送り込まれたスパイだ」と話す。ジュニアはメエに少年の写真を見せ、フォンスが「息子のトニー」と言ったことを伝える。「トニーという隠し子はいる?」と彼が訊くと、メエは否定した。「いいお父さんだった」とメエが口にすると、ジュニアは「まだいるよ」と述べた…。

脚本&監督はジョシュ・トランク、製作はラッセル・アッカーマン&ジョン・シェーンフェルダー&ローレンス・ベンダー&アーロン・L・ギルバート、製作総指揮はロン・マクレオド&スティーヴン・ティボー &アンジャイ・ナグパル&ジェイソン・クロース&アドルシア・アパナ&クリス・コノヴァー&アヴィヴ・ギラディー&デヴィッド・ジェンドロン&アリ・ジャザイェリ、共同製作はマシアス・メリングハウス&ブレンダ・ギルバート&アンドリア・スプリング&ガーリック・ディオン、製作協力はジョン・フェリー&トマス・“ダッチ”・デカジ、撮影はピーター・デミング、美術はスティーヴン・アルトマン、編集はジョシュ・トランク、衣装はエイミー・ウエストコット、音楽はEL-P、音楽監修はアンドレア・フォン・フォレスター。
出演はトム・ハーディー、リンダ・カーデリーニ、マット・ディロン、カイル・マクラクラン、ジャック・ロウデン、ノエル・フィッシャー、ジーノ・カファレリ、アル・サピエンザ、キャサリン・ナルドゥッチ、ニール・ブレナン、メイソン・グッチョーネ、ローズ・ビアンコ、マヌエル・ファジャルドJr.、クリストファー・ビアンカリ、エドガー・アレオラ、ジェマ・ジーグラー、CC・ルイス、デヴィッド・ワックス、ティルダ・デル・トロ、ウェイン・ペレ、ジョシュ・トランク、ジェイソン・エドワーズ、カイデン・アクリオ、メイソン・ローザス、エマ・ウィロービー、タラ・フォイ他。


『クロニクル』『ファンタスティック・フォー』のジョシュ・トランクが脚本&監督&編集を務めた作品。
フォンスをトム・ハーディー、メエをリンダ・カーデリーニ、ジョニーをマット・ディロン、カーロックをカイル・マクラクラン、クロフォードをジャック・ロウデン、ジュニアをノエル・フィッシャー、ジーノをジーノ・カファレリ、ラルフをアル・サピエンザ、ロージーをキャサリン・ナルドゥッチ、法定代理人のマッティングリーをニール・ブレナンが演じている。

ジョシュ・トランクはデビュー作『クロニクル』で注目を集め、20世紀フォックスの大作映画『ファンタスティック・フォー』の監督に抜擢された。
しかし出演者と揉めたり、何度も撮影を延期したりとトラブルを繰り返し、20世紀フォックスは編集権を取り上げた。そして完成したフィルムを大幅にカットし、マシュー・ボーンに追加撮影を任せた。
『ファンタスティック・フォー』は酷評を浴びて興行的に惨敗し、続編の企画も無くなった。
ジョシュ・トランクは『スター・ウォーズ』シリーズのスピン・オフ作品を手掛けることが決まっていたが、『ファンタスティック・フォー』の惨敗を受けて降板を余儀なくされた。

これで完全にメジャー会社から干されてしまったジョシュ・トランクが、『ファンタスティック・フォー』から5年ぶりに手掛けたのが、この映画である。
アーロン・L・ギルバート(『ジョーカー』『アダムス・ファミリー』)やローレンス・ベンダー(『キル・ビル』『イングロリアス・バスターズ』)のように、ヒット作を製作したプロデューサーたちが、彼に手を差し伸べた。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『レヴェナント: 蘇えりし者』のトム・ハーディーが、主演を引き受けてくれた。
まだジョシュ・トランクにも、再浮上のチャンスは残されていたのだ。
しかし本作品も酷評を浴びてコケたので、復活の可能性は限りなくゼロに近くなった。
脚本も自分で執筆しているので、何の言い訳も出来ない。

フォンス(アル・カポネ)は病気のせいで体がボロボロになっており、些細なことでオシッコやウンコを漏らしてしまう。
脅し文句を口にして凄んでも、まるで説得力が無い。貫録のある態度で振る舞ったところで、威厳や脅威は完全に消え失せている。
フォンスは精神的に不安定になっており、記憶力は大幅に減退している。猜疑心が強くなり、幻覚を見て不安を抱いたり苛立ちを覚えたりする。
かつては全米を震え上がらせた大物ギャングのフォンスだが、すっかり情けない男に成り果てている。

そんな晩年のアル・カポネを描いた話だが、一言で表現するならば「何がオモロイねん」という仕上がりだ。
フォンスは序盤で少年の幻覚を見るので、幻覚シーンに関しては少年絡みに絞り込んでもいいところだが、そういうわけではない。
池の対岸にフォンスが見つける人影も幻覚なのかと思ったら、それは実際に監視している連邦捜査官だ。
フォンスの「ゴロツキが屋敷に入り込んでいる」「見張られている」ってのも猜疑心から来る妄想ではなく、紛れも無い事実だ。

ジョニーは実際に屋敷へ来てくれたのかと思いきや、フォンスがメエに酒を持って来るよう命じるシーンでは、その場に実在していない。
ただしジョニーがアパートでメエからの電話を受けるシーンはあったので、「そこまでの彼も全て幻覚だった」ってことではないはずだ。1シーンだけジョニーが幻覚になるのは、無駄に混乱を招くだけ。
もちろんフォンスは混乱しているので、それを観客にも体感させようという狙いがあったのかもしれない。でも、仮にそうだとしても、何の得も無いし、面白くもない。
ただ、そんな風に思っていたら、終盤になって「フォンスがジョニーの幻覚を見る」というシーンが用意されているんだよね。
ってことは、やっぱりジョニーは一度も邸宅に来ていないのか。だとすると、「ジョニーがメエからの電話を受ける」というシーンは反則にも程があるぞ。

アル・カポネの何をどう描きたかったのか、サッパリ見えて来ない。
ただ漫然と彼の晩年を描くだけでは厳しいと考えて、他の要素を持ち込もうとしたのなら、それは充分に理解できる。その方針自体には、全面的に賛同できる。
ただし、実際に導入した要素や方法が大間違いだったのだ。
フォンスの幻覚なら幻覚、猜疑心なら猜疑心、FBIへの警戒心ならFBIへの警戒心と、もう少し要素を絞り込むべきだったんじゃないかと思うのだ。
色んな要素を持ち込んで無節操に並べた結果、収拾が付かなくなっているんじゃないかと。

バリバリに元気だった若き日のカポネを並行して描き、その落差を示そうとしているわけではない。妄想の中のフォンスを以前と変わらず元気に動き回らせて、現実との違いで悲哀を強調するわけでもない。
そしてフォンスの死までを描かないまま、映画は幕を閉じる。
結局、彼が金を隠した場所は分からないままだ。FBIの捜査は、クロフォードの直接尋問が空振りになるシーンで打ち止めとなる。
トニーの存在は、何の意味があったのか良く分からないままで終わる。
何もかもが中途半端なままで放り出されており、風呂敷を畳もうとする意識は微塵も感じられない。

(観賞日:2022年10月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会