『キャデラック・マン』:1990、アメリカ

ニューヨーク。車を運転していたジョーイ・オブライエンは、棺を運ぶ霊柩車がオーバーヒートで立ち往生している様子を目撃した。彼は 車を降り、葬儀会社の社員にタージョン・オートの名刺を渡した。ジョーイはカー・セールスマンなのだ。さらに彼は棺を運ぶ手伝いを した後、夫を亡くした未亡人にも車を売り込もうとするが、あえなく失敗に終わった。
ジョーイは不倫関係にある人妻ジョイとベッドインしながら、自分や同僚ヘンリー、モリー、社長のビッグ・ジャックや息子リトル・ ジャックたちが出演するタージョン・オートのCMをテレビで見た。店舗がクイーンズから郊外に移転するため、翌日に在庫一掃セールを 行うのだ。ジョーイは遅刻して出勤し、アルバイトのフランキーと言葉を交わす。リトル・ジャックはジョーイに、人妻である社員ドナ への熱烈な気持ちを吐露する。
ジョーイはリトル・ジャックから、店の移転を機会に社員が削減されると聞かされた。リトル・ジャックはジョーイに、12台の車を売る ようハッパを掛けた。ジョーイはジョイと会い、買い物に付き合った。ジョイは金持ちの夫ハリーへの愚痴をこぼしたり、「貴方を他の女 と共有したくない」とワガママを言ったりする。ジョーイが別れた妻ティナと会うことさえ、ジョイは不満なのだ。
ジョーイはマフィアの親分トニーの元へ行き、車の購入についてお願いをした。トニーは息子フランキーのアルバイトをジョーイに世話 してもらったこともあり、子分に話をすると約束した。ただしジョーイには2万ドルの借金があり、トニーは「あまり待たせるな」と釘を 刺した。ジョーイはティナの元へ行くが、迷惑がられた。すぐに2人は言い争いになり、ジョーイは娘リサを大学に行かせる資金を毎月 支払うと安請合いしてしまった。ジョーイはティナに、義兄にセールへ来てもらうよう伝えてほしいと頼んだ。
ジョーイは自分を溺愛する母の元へ行き、ここまでの行動で4台は売れたと気楽に考える。遊びに行くことにしたジョーイは、リトル・ ジャックから電話を受け、自分の部屋をドナとの密会用に貸し出した。ジョーイはデザイナーの卵ライラの元へ出掛けた。パーティーで 相手にされなかったライラが腹を立てたため、ジョーイが慌てて御機嫌を取った。
翌日、出勤したジョーイの元へ、ティナから電話が掛かってきた。リサが昨晩に恋人ルイと出掛けたまま、帰らなかったというのだ。 すぐに来てほしいと頼まれたジョーイだが、今は無理だと断った。ジョーイが同僚と話していると、ドナの夫ラリーがバイクで店に現れた。 ラリーはドナに「なぜ日曜なのに働く?」と怒鳴るが、彼女に冷たく追い払われた。
ジョーイの同僚ベニーは車が2台しか売れておらず、解雇されるかもしれないという苛立ちをリトル・ジャックにぶつけ、ジョーイにも 話し掛けてきた。ジョーイの元にライラから電話が掛かり、宣伝用のマネージャーが必要だと言って来た。電話を切って客に応対して いると、またティナから電話があった。ジョーイが苛立ちながらもセールスに精を出していると、そこへハリーとジョイが現れた。先に 来ていた他の客を放り出し、ジョーイは慌ててハリーとジョイに接客した。
ジョーイが何組もの客を抱えて困っていると、ラリーがバイクで店に突っ込み、ガラスを突き破った。彼は当たり構わずマシンガンを乱射 し、店員と客はパニック状態に陥った。ラリーはドナの浮気を確信しており、「誰とやった?」とわめいた。怒ったドナが「全員とやった」 と言うと、ラリーはいきなり彼女に発砲した。ドナは怪我を負って倒れ、意識を失った。
嫉妬に駆られたラリーは、フランキーを浮気相手と決め付けて射殺しようとする。その時、ジョーイは「自分が浮気相手だ」と名乗り出て、 「他の誰ともドナはやっていない」と告げた。ジョーイが撃たれそうになったので、ジョイが慌てて中に入った。このため、ハリーは妻の 浮気を知った。ジョーイは意識を取り戻したドナにも目で合図を送り、話を合わせるよう求めた。
ニューヨーク市警察のウォルターズ刑事らが店を包囲したため、ジョーイはラリーに女性たちの解放を勧めた。ラリーはドナ以外の女性を 解放し、人質を取ったまま店に立て篭もる。ウォルターズは「要求は何か」と尋ねるが、ラリーには要求など何も無い。しばらくして メイソン警部が駆け付け、陣頭指揮を執ることになった。メイソンは店に電話を掛け、犯人の要求を尋ねる。しかしラリーは何も考えて いないので、答えに困窮する。ジョーイはラリーと警察の仲介役を務め、15分の猶予を貰った。
ジョーイは人質全員を奥の部屋に行かせ、ラリーと2人きりで話をする。ジョーイは穏やかな調子でラリーに話し掛け、ドナとの関係修復 を促した。ジョーイはラリーに数名を解放するよう勧め、葬儀会社の男とロシア人の客、アジア人の客が店外に出された。その直後、 テレビでニュースを知ったライラが、警官隊の目を盗んで店内に乗り込んできた。ジョーイを心配して現れたのだが、他の女とも交際して いると知って腹を立て、すぐに出て行った。
ティナが現場を訪れ、店の向かいでメイソンたちが待機している中華ダイナーに赴いた。ティナはメイソンの仲介で、ジョーイと電話で会話 を交わした。ティナはラリーを電話に出すよう要求し、「リサを探さなきゃいけないのにジョーイを閉じ込めて」と文句を言う。さらに 「ジョーイのママが心配している」と言われ、ラリーは申し訳ない気持ちになる。ジョーイのママとも電話をするハメになったラリーは、 彼女に注意されて低姿勢で謝った。
すっかり落ち込んだラリーは自殺しようとするが、ジョーイが必死で制止し、ここから出る名案があると叫んだ。ジョーイは、まず手始め に人質全員を解放し、さらにドナも解放するよう持ち掛けた。ラリーはジョーイを信用し、言われた通りにした。そこでジョーイがラリー に告げた名案とは、ここから出て警察に投降するというものだった。最初は怒ったラリーだが、ジョーイの熱い説得に打たれて受け入れた。 ジョーイは自分の後頭部に銃を突き付けるようラリーに指示し、彼と共に店から外へ出た…。

監督はロジャー・ドナルドソン、脚本はケン・フリードマン、製作はチャールズ・ローヴェン&ロジャー・ドナルドソン、製作協力は テッド・カーディラ、撮影はデヴィッド・グリブル、編集はリチャード・フランシス=ブルース、美術はジーン・ルドルフ、衣装は デボラ・ラ・ゴース・クレイマー、音楽はJ・ピーター・ロビンソン。
出演はロビン・ウィリアムズ、ティム・ロビンス、パメラ・リード、フラン・ドレッシャー、ザック・ノーマン、アナベラ・シオラ、 ロリ・ペティー、ポール・ギルフォイル、ビル・ネルソン、 エディー・ジョーンズ、ミミ・チェッキーニ、トリスティン・スカイラー、ジュディス・ホーグ、ローレン・トム、アンソニー・パワーズ 、ポール・ハーマン、ポール・J・Q・リー、ジム・ブレイト、エリック・キング、リチャード・パネビアンコ他。


『追いつめられて』『カクテル』のロジャー・ドナルドソンが監督を務めたコメディー映画。
ジョーイをロビン・ウィリアムズ、ラリーをティム・ロビンス、ティナをパメラ・リード、ジョイをフラン・ドレッシャー、ハリーを ザック・ノーマン、ドナをアナベラ・シオラ、ライラをロリ・ペティー、リトル・ジャックをポール・ギルフォイル、ビッグ・ジャックを ビル・ネルソンが演じている。
他に、棺を運ぶ臨時の運搬用トラックを運転してくる墓堀人の役でビル・ナン、老未亡人の役でエレイン・ストリッチが出演している。

冒頭、葬儀会社の人間と未亡人に立て続けに車を売り込もうとするジョーイだが、未亡人には「人間の屑」と罵られて失敗する。
そりゃ描写が違うだろ。
そこは実際に人間の屑と思われるような行動を取ったとしても、口八丁手八丁でたくみに車を売り付ける様子、セールスに成功する様子を 見せるべきでしょ。
そこでセールスに失敗したら、笑いにも何にもならないぞ。

ジョーイは敏腕のセールスマンのような描写で登場するのに、なぜ人減らしの対象になっているのかが解せない。
例えば、成績はいいが遅刻が多いなど勤務態度に問題があるとか、女癖の悪さが仇になっているとか、そういうわけでもない。
また、「これまで仕事も私生活も全て順風満帆だったのに急にピンチ」という落差を感じさせない描写なのも引っ掛かる。
そもそも、「ヤバいピンチに追い込まれた」という危機感が全く感じられないし。
その辺りをスルスルと、ノホホンと進めちゃイカンのじゃないか。

その後、ジョーイが女性たちと会うシーンが、のんべんだらりと描かれるだけの時間が続く。
例えば「他の女とバッティングしないように上手くスケジューリングしながら」とか、「その女によってコロコロと自分のキャラを変えて 」とか、まあ何でもいいが、とにかく喜劇的にしようという作業が見えない。
もちろんシリアスではないのだが、笑いの匂いも無く、ただ漫然としているだけ。
ジョーイが大勢の客を相手にしながら電話の応対もしてイライラする場面も、上手くやれば、もっとドタバタ喜劇になるのになあ。ただ 慌ただしくやってるなあ、なんかゴチャゴチャしてきたなあという印象しか受けないんだよな。
あと、手の掛かる客に振り回されているわけじゃなくて、単にバッティングしているというだけに留まっているのも、作り込みが 足りないんじゃないかと。

ラリーが店に突っ込んでマシンガンを乱射する場面には、何のコミカルさも無い。
何しろ、いきなりドナを撃ってるしね。たまたま軽傷で済んだけど。
その後、ジョーイが「ドナの浮気相手は自分で他には誰もいない」と名乗り出るのは、不可解極まりない。
なんで急に彼が「正義感のある人」みたいなことになっちゃうのかね。
むしろ、そんな男らしい振る舞いとは正反対にいるようなキャラだったように思うんだが。
ジョーイはマシンガンを突き付けられて殺されそうになっても、まだ自分だと言い張るぐらい男らしく振舞うんだが、いやアンタは正義感 より笑いを取れと思ってしまう。例えば人質騒ぎを利用して店に来た客に車を売ろうとか、あるいは犯人であるラリーにまでセールス しようと考えているとか、そういうことならともかく、ホントに正義感オンリーでの行動になってるのよね。
むしろドナとは本当に浮気していて、それがバレないように苦心する展開の方がいいんじゃないのかと思ったりもするが。

そのジョーイのキャラは、それまでの流れを完全に無視したかのようなモノになっているんだが、それだけではない。
そこまでに彼と周囲の女性陣との関係を紹介してきたわけだが、それが立て篭もり事件と全く繋がらない。
立ち篭り事件の最中、ジョーイが他の女との関係を知られないようにアタフタするでもない。
ジョイとの不倫がハリーにバレたり、ライラが他の女との関係を知ったりするが、そのことで事件があらぬ方向へ進んだり、余計に状況が 混乱したりということも無い。
そもそも、ジョイはさっさと解放されてしまい、店内に残る女性は肉体関係の無いドナだけ。後から強引にライラを絡めるが、すぐに退場 してしまい、全く引っ張ることが無い。ティナも同様で、トラブルに深く関わってくることは無い。
事件の中でジョイとハリーが険悪になるが和解するとか、ライラが誰か他の男といい雰囲気になるとか、そういう脇役の使われ方も無い。

ジョーイはトニーに多額の借金をしているらしいが、それが後の話に全く繋がらない。
ジョーイが世話してトニーの息子フランキーが店でアルバイトしているのも同様。
とにかく前半で紹介した人物設定や相関関係が、後の展開において全く影響を及ぼさない。
ジョーイが女好きだとか、どんな時でもセールス第一だとかいう設定も、何の意味も持たなくなる。
で、なぜかジョーイとラリーの関係を軸に据えてしまう。
本来ならジョーイとラリーの関係が軸になるのではなく、ラリーという乱入者の登場によって、それまでに形成されていたジョーイを巡る 人間関係が大きく揺り動かされるという展開にすべきではないのか。
最初は別々の話だったものを、何かの事情で強引に繋ぎ合わせたのかと思うほど、前半と後半がバラバラになっている。

ジョーイは「君のための良い計画がある」とラリーに告げて人質を解放させるが、その言葉には何の説得力も無いぞ。「こういう計画 だから人質を解放すべき」という説明があるわけじゃなくて、ただ「解放しろ」と言うだけなのよ。
なんでラリーは納得するかね。
で、ジョーイの思い付いたの計画ってのは、「おとなしく投降する」というもの。
ヘナチョコすぎるぞ、そのプランは。
そんで、どうやって話を着地させるのかと思ったら、ラリーが撃たれて病院送りになる。
いやいや、ちっともコミカルにならない解決法って、どうなのよ。なんでシンミリした人間ドラマみたいな収束にしちゃうかね。
そんで最後は「感動の夫婦愛&家族愛」みたいな描写。
いやいや、そりゃ無理がありすぎるぞ。ジョーイが浮気男ってことに変わりは無いんだし。

(観賞日:2008年4月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会