『ケーブル・ガイ』:1996、アメリカ

スティーヴン・コヴァックスは恋人ロビンから距離を置こうと言われ、同棲生活を解消することになった。シングルになったスティーヴンはケーブルTVに加入し、ケーブル・ガイを呼ぶ。大遅刻して現れたケーブル・ガイは、ちょっと変わった男だった。
スティーヴンはケーブル・ガイから中継アンテナの見学に行かないかと誘われ、「暇な時にでも」と軽い気持ちで答える。翌日、ケーブル・ガイは本当にスティーヴンのアパートに車で現れ、彼をアンテナ見学に連れて行く。スティーヴンはケーブル・ガイにロビンとのことを話してアドバイスを貰い、彼女と会って関係を修復しようとする。
ある日、スティーヴンが仲間のリック達と一緒にバスケットボールをしていると、そこにケーブル・ガイが現れる。彼はスティーヴンの友達だと言って参加するが、張り切りすぎて試合を台無しにしてしまい、みんなから呆れられる。
スティーヴンはケーブル・ガイから「一緒にビールでも飲もう」と誘われるが、断って立ち去る。彼が家に帰ると、留守番電話にはケーブル・ガイから10件ものメッセージが入っていた。やがてケーブル・ガイは友情をくれた礼として、スティーヴンの部屋に高価なAV機器を運び込み、大勢の人を呼んでカラオケ・パーティーを開く。
最初は一方的に押し掛けて来るケーブル・ガイと親しく付き合っていたスティーヴンだが、ロビンとの関係にまで深く関与しようとしたため、友人関係を終わりにすると告げる。するとケーブル・ガイはスティーヴンに対して、次々と罠を仕掛け始める…。

監督はベン・スティラー、脚本はルー・ホルツJr.、製作はアンドリュー・リクト&ジェフリー・A・ミューラー&ジャド・アパトー、共同製作はウィリアム・ビーズリー、製作総指揮はブラッド・グレイ&バーニー・ブリルスタイン&マーク・ガーヴィッツ、撮影はロバート・ブリンクマン、編集はスティーヴン・ワイズバーグ、美術をシャロン・シーモア、衣装はエリカ・エデル・フィリップス、音楽はジョン・オットマン。
主演はジム・キャリー、マシュー・ブロデリック、レスリー・マン、ジョージ・シーガル、ダイアン・ベイカー、ジャック・ブラック、ベン・スティラー、エリック・ロバーツ、ジャニーン・ガラファロ、アンディ・ディック、ハリー・オレイリー、デヴィッド・クロス、エイミー・スティラー、オーウェン・ウィルソン、キャメロン・スターマン、キャシー・グリフィン、ミサ・コプロヴァ、ポール・グレコ他。


コメディアンでもあるベン・スティラーが監督を務めた作品。
ケーブル・ガイをジム・キャリー、スティーヴンをマシュー・ブロデリック、ロビンをレスリー・マン、スティーヴンの両親をジョージ・シーガルとダイアン・ベイカー、リックをジャック・ブラックが演じている。

また、テレビで大きく取り上げられている双子殺人事件の双子をベン・スティラー、その事件の再現ドラマの主演俳優をエリック・ロバーツ、ケーブル・ガイとスティーヴンが出向く店のウェイトレスをジャニーン・ガラファロが演じている。

ジム・キャリーがキチガイ男を演じているのだから、どう考えたってコメディーだろうと思っていたら、妙にスリラーっぽい匂いが漂ってくる。
ひょっとしたら、製作サイド「最初はコメディーっぽく入って次第にサイコ・スリラーになっていく」という展開を敢えて狙ったのかもしれない。
ただ、結果的にはどっちつかずの中途半端な作品になっている。

内容やキャスティングを考えると、ブラックな笑いを散りばめたコメディーにするのが最も適切だったのではないだろうか。
いや、もしかすると、製作サイドは最初からブラック・コメディーとして作っているのかなあ?
だとしたら完全に失敗してるけど。

この映画でのジム・キャリーは、特にスリラー映画の怖いキャラクターを演じているわけではない。彼はそれまでの主演映画と同じように、“アクの強いバカ”を演じている。
ただ、そのキャラクターの捉え方、扱い方、見せ方は、いつもと違っていた。
ケーブル・ガイは馴れ馴れしくて、思い込みが強すぎて、自己中心的で、傍迷惑な奴だ。
普通に考えれば遠慮願いたい男だが、コメディー映画では「どこか憎めない可笑しな奴」として見せることも可能だ。
しかし、この映画では真逆を行ったわけだ。

ジム・キャリーはコメディアンとして、「ハイテンションでクレイジーで、近くにいたら疲れるかもしれない奴」を演じている。
普通のコメディーであれば、そんな人物を“面白い奴”として見せるのだが、この作品では“薄気味悪い奴”として見せている。

それはつまり、ケーブル・ガイというキャラクターを通して、ジム・キャリーというコメディアンを薄気味悪い奴として見せているようなものだ。
彼に対して、「コメディアンとしてキャラを作っているんだろうけど、怖いよ、アンタ」と告げているようなものだ。

そのようにコメディアンとしてのジム・キャリーを否定するようなことを、自身もコメディアンであるベン・スティラーがやらかしている。
それって、突いてはいけない場所を、その場所を突かれたら痛いことを最も分かっている人が突いているようなものだ。
もしもベン・スティラーが意図的だったらと考えると、この映画の内容よりも遥かにゾッとする。


第19回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会