『キャビン・フィーバー』:2002、アメリカ
山中で生活しているヘンリーがウサギを捕まえて小屋に戻ると、愛犬が寝そべっていた。ヘンリーは愛犬に話し掛けるが、反応は無かった。彼が愛犬に触れると、その体は真っ二つに裂けた。大学生のポール、カレン、バート、マーシー、ジェフは車に乗り、山小屋へ向かっていた。カレンは後部座席でポールに体を預けて転寝し、バートも反対側で眠り始める。マーシーとジェフは恋人同士で、楽しそうに会話を交わす。5人は雑貨店を見つけると、立ち寄ることにした。
ポールは軒先のベンチに座っていたデニスの隣に座り、彼に話し掛けた。デニスはいきなりポールに噛み付き、父親のトミーが注意する。トミーはポールに「この子に近付くと破傷風になるぞ」と警告し、裏の川で手を洗うよう促した。川へ赴いたポールは野良犬2匹と遭遇し、笑顔で可愛がった。5人がバニヤン山の小屋で1週間を過ごす予定だと聞いた店主のカドウェルは、森に入るなら気を付けろと助言した。買い物を済ませた5人は店を出ようとするが、バートはトミーにお菓子の万引きを見つかって商品を返却した。
一行が山小屋に到着すると、マーシーとジェフは寝室でセックスを始めた。バートはエアライフルを手に取り、リスを撃ちに森へ向かう。ポールはカレンと出掛け、「ずっと前から君が素敵だと思ってた」と告白する。カレンは「競争しましょう」と受け流し、湖へ行く。彼女はポールに、幼馴染のケンからキスされそうになった出来事を語る。カレンはポールとキスを交わすが、すぐに離れて湖へ飛び込む。困惑したポールが「僕を好きなの?デート中だろ」と言うと、彼女は「まさか」と笑って泳ぎ始めた。
バートは火を起こしたまま立ち去り、リスを狙い森へ戻った。何かが動いたので彼は発砲するが、それはヘンリーだった。バートが狼狽していると、ヘンリーは衰弱した様子で立ち上がった。彼が「病気なんだ、水をくれ」と言いながら近付こうとすると、バートは怖がって威嚇発砲した。彼がが山小屋へ戻ると、マーシーとジェフが火を消していた。バートは2人から「危うく火事だ」と無責任な行為を叱責されるが、まるで反省の色を見せなかった。
その夜、5人はキャンプファイヤーを囲み、ポールはジェフたちに促されてトラウマになった出来事を話す。幼い頃に良く出掛けていたボウリング場で、強盗事件が発生したという出来事だ。犯人の男は従業員を縛り付けて椅子に座らせ、ハンマーで次々に頭を殴った。男は消火用の手斧で手首を切断し、生首をポールに見立ててレーンに投げた。犯人の正体は、ボウリング場の両替係だった。ポールは真剣に話したのだが、仲間は冗談だと捉えて笑い飛ばした。
ドクター・マンボという愛犬を連れたグリムという大学生が5人の前に現れ、キャンプファイヤーに参加させてほしいと持ち掛けた。5人は断ろうとするが、グリムがマリフィナを持っていると言うので歓迎する。グリムはマリファナをテントの外へ置いて来たと言い、取りに戻った。ポールたちが山小屋で酒を飲んでいると、訪問者がやって来た。ジェフはグリムだと思ってドアを開けるが、顔が焼けただれたヘンリーだった。バートは彼に気付かれるとドアを閉め、仲間に「伝染病だ、中に入れるな」と告げた。
ジェフは救急車を呼ぼうとするが、携帯電話は圏外になっていた。ヘンリーが車を盗もうとしたので、5人は武器を持って飛び出した。ヘンリーは車内で吐血し、外へ出て女性たちに近付いた。マーシーはスプレーを噴射し、ポールが松明を振りかざしてバートを威嚇した。するとヘンリーの体に引火し、彼は苦悶しながら姿を消した。ショックを受けたポールが塞ぎ込んでいると、ジェフは「お前はみんなの身を守ったんだ。火は雨で消える」と告げ、バートは「どうせ死んでいた」と口にした。
翌朝、ジェフとバートは自動車修理工場を見つけるため、山小屋を出る。マーシーは「助けを呼ぶ」と言い、1人で外出する。ヘンリーは死亡して貯水池に落ちており、そこから水道管を通って山小屋まで流れ着いた水をカレンが飲む。ジェフとバートは近所の農場に辿り着き、婦人が豚を吊るして罵りながら何度も突き刺す様子を目撃する。婦人は2人に気付くと、「見てただろ。マレーに言っとくれ。病気の豚なんか連れて来て」と声を荒らげた。
ジェフとパートが修理工場を探していることを話すと、婦人は「この辺りには無いよ。町へ行きな」と冷たく告げる。しかし2人がマレーと面識が無いことを告げると、彼女は態度を豹変させた。彼女は笑顔で2人を家に招き入れ、無線でレッカー車を呼んだ。ジェフが「車を世捨て人に壊された。バットで追い払ってやった」と語ると、婦人は「世捨て人ってヘンリー?従弟だけど、そんな悪いことは出来ない」という。ジェフとバートは部屋に飾ってある写真を見て、山小屋に来たのがヘンリーだと気付いた。慌てた彼らは「天気がいいので町まで歩くよ」と告げ、逃げるように去った。
マーシーはカヌーで湖を渡り、1軒の家を見つけて中に入った。するとジェフとバートが先に侵入しており、「誰もいない。電話も無い。他の家も留守のようだ」と述べた。カレンは具合が悪くなり、ベッドで休む。ウィンストン保安官代理が山小屋へ来て、ポールに「昨日、騒ぎがあったそうだな」と事情説明を求めた。ポールが「小屋に男が押し入ろうとしました。何かの病気らしく、酷い状態でした」と話すと、ウィンストンは「報告しておく。その男はもう来ないさ」と告げた。「車の修理は頼めますか」とポールが問い掛けると、彼は「明日の午後までに誰か寄越す」と約束した。
ポールとバートが洗車していると、マンボが現れた。ポールが石を投げ付けようとすると、マーシーが威嚇発砲でマンボを追い払った。グリムの居場所を気にするポールに、ジェフは「どこかで腐ってるさ。感染が森中に広がってるんだ」と言う。彼が「もう待てない。すぐに出よう」と言うと、ポールは「車も見られてるし、僕らは余所者だ。ヘンリーに火を付けたことは、すぐに調べが付く」と話す。バートは「車を直そう。町まで行けば何とかなるかもしれない」と語り、ジェフに銃を持ってマンボを警戒するよう頼んだ。
カレンはポールに、添い寝を求めた。ポールは眠っているカレンの体に触れ、太腿が血だらけになっていることを知って仰天した。バートは「あいつと同じ病気だ」と言い、他の面々を追い出してカレンを寝室に閉じ込めた。カレン以外の4人は互いの体を調べ、感染の症状が出ていないことを確認した。4人はカレンを山小屋から連れ出し、納屋に隔離した。助けを呼ぼうと考えたポールは近所の家に行き、裸でベッドにいる女性を窓から覗き込む。そこへ女性の夫が現れて激怒し、ショットガンでポールを追い払った。
山小屋へ逃げ帰ったポールは、些細なことで喧嘩を始めたバートとジェフを怒鳴り付けた。バートは落ち着きを取り戻すため、水を飲んだ。マンボが納屋に近付いたので、ジェフが威嚇発砲で追い払った。バートはカレンに「もう大丈夫だ」と呼び掛けるが、返事は無かった。次の朝、バートは車の調子を確かめ、エンジンが掛かったので喜んだ。彼は仲間たちに、「車が直った。出発するぞ」と告げる。ポールはマーシーは、高熱を出して衰弱しているカレンを納屋から連れ出した。
バートは吐血し、カレンやヘンリーと同じ症状が出ていることに気付いた。しかし彼は感染を仲間に打ち明けず、運転席に乗り込んだ。カレンが車内に血を吐くと、ジェフは「汚染される」と乗ることを嫌がった。バートはジェフに感染を疑われて苛立ち、仲間を置き去りにして車を発進させた。ポールとマーシーがカレンをマットに乗せて介抱していると、ジェフは1人で去ろうとする。マーシーが呼び掛けると、彼は「近付くな。一緒に助かりたかったのに、触るなんて馬鹿だ。道連れは御免だ」と告げて走り去った。
ポールとマーシーはカレンを納屋まで運び、山小屋に戻った。マーシーはポールを誘惑し、セックスに及んだ。シャワーを浴びた彼女は、背中の傷跡が真っ赤になっていることに気付いた。バートは雑貨店へ戻り、トミーに「友達が病気だ」と助けを求めた。感染に気付かれた彼は、それを認めて近くの病院を尋ねる。トミーは「そこから動くな。医者を呼んでやる」と電話を掛けに行く。しかしデニスがバートに噛み付くと、トミーは「息子を感染させた」と激怒する。彼が店員のフェンスターにショットガンを用意させたので、バートは慌てて車で逃走する。トミー、カドウェル、フェンスターは車に乗り、バートを追い掛ける…。製作&監督はイーライ・ロス、原案はイーライ・ロス、脚本はイーライ・ロス&ランディー・パールスタイン、製作はサム・フローリッチ&エヴァン・アストロウスキー&ローレン・モウズ、製作総指揮はスーザン・ジャクソン、共同製作総指揮はジェフリー・D・ホフマン、製作協力はジェームズ・ウォルドロン、撮影はスコット・キーヴァン、美術はフランコ=ジャコモ・カルボーネ、編集はライアン・フォルシー、衣装はパロマ・カンデラリア、音楽はネイサン・バー、主題歌はアンジェロ・バダラメンティー。
出演はライダー・ストロング、ジョーダン・ラッド、ジェームズ・デベロ、セリナ・ヴィンセント、ジョーイ・カーン、ジュゼッペ・アンドリュース、アリー・ヴァーヴィーン、ハル・コートニー、ロバート・ハリス、リチャード・ブーン、マシュー・ヘルムズ、クリスティー・ウォード、デヴィッド・カウフバード(イーライ・ロス)、マイケル・ハーディング、リチャード・フラートン、フィル・フォックス、ノア・ベルソン、ダグ・マクダーモット、マット・カペイロ、サム・フローリッチ、トム・テレル、ジョー・アダムス、ティム・パラチ、ジュリー・チャイルドレス他。
イーライ・ロスの商業映画監督デビュー作。
無名キャストばかりの低予算B級ホラー映画だが、全米興行収入ランキングで初登場3位にランクインした。
イーライ・ロスは注目の新人となり、クエンティン・タランティーノやボアズ・イェーキンが製作総指揮に携わった次の作品『ホステル』もヒットさせた。
ポールをライダー・ストロング、カレンをジョーダン・ラッド、バートをジェームズ・デベロ、マーシーをセリナ・ヴィンセント、ジェフをジョーイ・カーン、ウィンストンをジュゼッペ・アンドリュース、ヘンリーをアリー・ヴァーヴィーンが演じている。
グリム役のデヴィッド・カウフバードは、イーライ・ロスの変名。序盤、デニスがポールに噛み付くシーンではSEを大きな音で鳴らし、観客を脅かそうとしている。
「犬が真っ二つに裂ける」という様子から即座に「楽しそうな5人組」へ切り替える展開からして、ショッカー演出で怖がらせようとしているのかは何となく予想できた。
っていうか、ハリウッドのホラー映画の大半は、そういうノリだしね。
ただ、残酷描写ではなく、「急に大きな音を出して脅かす」というのを早々と用意していることで、安っぽさが半端無い。しかも、これから繰り広げられる恐怖劇の根源がデニスにあるわけじゃなくて、彼「噛み付く癖のある少年」というだけなのだ。
だったら、それは観客を怖がらせようとするポイントがズレているんじゃないかと。SEを入れて「ここはビビるシーンです」とアピールするのは、違うんじゃないかと。
グリムが来た時にもSEを入れて脅かしているけど、これも単なる肩透かしみたいなモンだし。
だって、それって「グリムという男が5人の前に現れました」というだけのシーンであって、何も怖がるようなことは無いんだし。キャンプファイヤーのシーンでは、ポールがボウリング場の強盗事件を語り、犯人が従業員を惨殺したり遺体でボウリングを楽しんだりする映像が挿入される。
「この辺りで残酷描写でも入れておかないと観客を退屈させちゃうかな」と思ったのかもしれないけど、それも恐怖を醸し出すポイントを間違えているとしか思えない。「実は今回の事件と関係している」ってことならともかく、そうじゃないんだし。そもそも、それはポールが体験した出来事じゃなくて、ただの伝聞だし。
前述した「音で脅かす」という演出にしても、そこの残酷描写にしても、本筋の薄さを全く無関係な要素で穴埋めしようとしてどうすんのかと。
そうやって何でもないようなシーンで過剰なショッカー演出を入れているせいで、肝心な本筋にも悪影響しか及ぼしていない。ホントに観客を怖がらせたいシーンが訪れても、何でもないシーンとの差異が見えなくなっちゃうからね。ヘンリーが火だるまになって逃亡した夜、学生5人が山小屋で「今日の出来事」を回想する様子が描かれる。
ヘンリーが火だるまになった出来事がショッキングなのだから、全員がそのことを振り返るのかと思いきや、そうじゃなくて雑貨店の出来事なんかも思い出している。
また、車のフロントガラスに付着した血が垂れ落ちるシーンでは、それを逆再生で写している。ここで感じるのは、「だから何なのか」ってことだ。
そこまではショッカー演出オンリーだったのに、ジワジワと雰囲気で不安を煽ろうと試みたのかもしれない。でも、その夜は特に何も起きないまま終わるので、「いや、何も起きないのかよ」とツッコミを入れたくなる。そういう箇所もあるものの、基本的には分かりやすいショッカー演出を重ねるベタベタなB級スプラッター映画のノリで進めている。
その一方で、実はなかなか被害者の数が増えない。
「若者5人が湖の近くにある小屋へ遊びに来る」という設定を考えれば、そいつらが順番に死んでいくことは容易に予想できる。
実際、そいつらが順番に死んでいくのだが、それは終盤に入ってからのこと。それまでに死ぬのはヘンリーだけ。
しかも彼は火だるまになっているので、それが死因の可能性も高い。ヘンリーに限らず、本作品に登場する面々の中で、明確な形で「伝染病が原因で死亡する」というケースって、実はゼロなのだ。みんな誰かに殺されている。
それでも、「本当に恐ろしいのは伝染病ではなく人間」というテーマがあって、それを徹底ししているのであれば、それも分からなくはない。
しかし犬に噛み殺される奴もいれば、「その人が好きだから安らかに眠らせる」という意味で殺すケースもある。
なので、そういうテーマが浮き彫りになるわけでもないのだ。ポールはバートと一緒に洗車中、急に顔を強張らせて「バート、動くな」と告げる。カットが切り替わると、マンボが近くに来ている様子が写し出される。
マンボの姿をスローモーションで見せているが、どういう狙いがあるのかは全く分からない。
そもそも、そこまでマンボに怯えるのも良く分からない。そりゃあ初登場の時も吠えていたけど、恐怖の対象として描くのは不自然さがある。
むしろ、「グリムの飼い犬だから甘く見ていたら襲われそうになって慌てる」みたいな流れでもいいんじゃないかと思うぐらいだ。ジェフはグリムが死んでいると決め付け、「感染が森中に広がってる」と言う。
だけど、なぜヘンリーが伝染病だと断定できるのか。それはヘンリーが言っただけで、何の確証も無い情報だ。なので、過剰に反応し、「もう待てない。すぐに出よう」と言い出すのは不可解だ。
ただし、それに反対する友人たちの心境も良く分からない。こいつらが何をどうしたいのか、サッパリ分からない。
ずっと山小屋でいたいわけでもないでしょうに。
ただ、どっちにしろ車が直らないと移動は難しいわけで、ジェフの「すぐに出よう」という台詞にしても「お前は小屋を出たとして、どこへどうやって行くつもりなのか」とツッコミは入れたくなるけどね。ポールはカレンのために助けを呼びに行ったはずなのに、裸の女性を窓から見つめる。「たまたま目に入っただけだが、女性の夫に誤解されて追い払われる」ということではない。ポールは明らかに、エロい気持ちで彼女を凝視している。
だから旦那に追い払われるのは当然と言えよう。
この手の映画に出て来る若者はボンクラ揃いと相場が決まっているけど、ポールに関しては「惚れた女を助けたい」という一心で行動していたはずだ。それに、ポールって一応は5人の中で主人公のポジションのはずでしょ。
「エロい気持ちでボンクラなことをやらかす」ってのは、脇役がやるような役回りだぞ。
「あえてセオリーを裏切る」という趣向を持ち込んで、その一環としてやっているならともかく、そうじゃないんだし。納屋に近付いたマンボを追い払った後、バートがカレンに呼び掛けても返事は無い。それなのに、なぜかポールたちは誰も納屋に近付いてカレンの様子を確認しようとしない。
返事が無いんだから死んでいるのかと思ったら、翌朝のシーンでカレンは衰弱しているけど普通に生きている。
だったら、「呼び掛けたのに返事が無い」という手順って、まるで無意味でしょ。
そこに限らず、この映画って、「必ず後の展開に繋げるべきと感じる描写が、何も無いまま放り出される」ってのが幾つもあるのよね。
その肩透かしは、ホラー映画でありがちな「殺人鬼が現れたと思ったら誰もいない」みたいな演出とは全く別物で、ただ雑に放り出しているだけだぞ。感染したバートが雑貨店で助けを求めるシーンでは、急にデニスが「パンケーキ、パンケーキ」と繰り返し、カンフーの動きを披露する。
それだけでも唐突でワケが分からないのだが、なぜかスローモーション映像の演出まで付けており、「何がしたいのか」と言いたくなる。
少なくとも、ホラーとしての演出じやないことは断言できる。
じゃあ何が狙いなのかと考えた時、まるで答えが分からない。ただ脈絡が無くてキテレツなだけだ。これが全体を通してキチガイ印の突き抜けた内容なら、ある種の面白さを感じるカルト映画になっていたかもしれない。
でも基本はチープなホラーなので、たまに目的の見えないヘンテコな演出が入ると、それは「ただ間違っているだけ」という風にしか見えないのよ。
この映画はクエンティン・タランティーノやピーター・ジャクソンが絶賛したという触れ込みで公開されたけど、ようするに彼らは昔のカルト映画を褒めるのと同じような感覚だったんじゃないかと。
マニア的な感覚で「大好き」と言うようなノリなんじゃないかと。(観賞日:2019年3月27日)