『救命士』:1999、アメリカ

1990年代前半のニューヨーク。木曜日、救命士のフランク・ピアースは同僚ラリーと共に、深夜勤務で救急車を走らせる。フランクは、半年前に助けることが出来なかった18歳のホームレス少女ローズの亡霊に悩まされ、精神疲労が溜まっている。
心拍停止で倒れた老人バークは、彼が好きなシナトラのレコードを掛けると脈が戻った。病院では患者が一杯だと苦情を言われたが、何とか引き取ってもらった。騒がしい患者ノエルは、水を飲むと危険だという変わった病気だった。彼は、バークの娘メアリーの知り合いだった。メアリーは、ノエルに水を飲ませた。
再び救急車を走らせたフランクは、常連利用者である酔っ払いミスター・オーを乗せて病院に戻った。病院の外では、メアリーが1年ぶりというタバコを吸っていた。メアリーはフランクに、父親とは仲が悪くて最近は口も利かなかったことを語った。
金曜日、フランクは隊長から、遅刻や欠勤の多さを非難された。フランクはクビにしてくれと頼むが、隊長は人員不足を理由に拒んだ。ラリーが休んだため、その夜はマーカスとコンビを組んだ。フランクはバークの意識が戻ったと聞き、メアリーを病院へ運んだ。
フランクとマーカスは、妊娠している少女の出産を手伝った。彼女は双子の赤ん坊を産んだが、1人は死亡した。マーカスはフランクの休みたいという希望を聞き入れず、新たな出動依頼を引き受けた。しかし飛び出した車にぶつかりそうになり、横転事故を起こした。
土曜日の朝、フランクはメアリーと親しい売人サイから勧められたドラッグを飲み、ローズの悪夢を見てパニックに陥った。その夜、彼はトムとコンビを組んで出動した。トムは問題ばかり起こすノエルを叩きのめそうと言い出し、フランクに協力を求めた。だが、ローズの亡霊に襲われたフランクは、殴り倒されたノエルを助ける…。

監督はマーティン・スコセッシ、原作はジョー・コネリー、脚本はポール・シュレイダー、製作はスコット・ルーディン&バーバラ・デ・フィーナ、共同製作はジョセフ・ライディー&エリック・スティール、製作協力はジェフ・レヴィン&マーク・ロイバル、製作総指揮はアダム・シュローダー&ブールス・S・パスティン、撮影はロバート・リチャードソン、編集はテルマ・スクーンメイカー、美術はダンテ・フェレッティー、衣装はリタ・ライアック、音楽はエルマー・バーンスタイン。
主演はニコラス・ケイジ、共演はパトリシア・アークエット、ジョン・グッドマン、ヴィング・レイムス、トム・サイズモア、マーク・アンソニー、メアリー・ベス・ハート、クリフ・カーティス、ネスター・セラーノ、アイダ・タートゥーロ、ソニア・ソーン、シンシア・ローマン、アフェモ・オミラミ、カレン・オリヴァー・ジョンソン、アーサー・J・ナスカレラ他。


ジョー・コネリーの小説を、『タクシードライバー』『レイジング・ブル』『最後の誘惑』の監督&脚本家コンビで映画化した作品。フランクをニコラス・ケイジ、メアリーをニコラス・ケイジの奥さんであるパトリシア・アークエットが演じている。
他にラリーをジョン・グッドマン、マーカスをヴィング・レイムス、トムをトム・サイズモア、ノエルをマーク・アンソニーが演じている。また、男性配車係の声をスコセッシ監督、女性配車係の声をクイーン・ラティファが担当している。

この映画、マスコミから「救急車版の『タクシードライバー』」などと称されたりもした。なるほど、舞台は『タクシードライバー』と同じニューヨークの街だ。車から見る夜の街が映し出される冒頭シーンからして、『タクシードライバー』とそっくりだ。
内容も、かなり似ている。『タクシードライバー』のトラヴィスも今作品のフランクも、夜間勤務で車に乗る。2人とも、何の快楽も無い都会の生活によって、ストレスを溜め込んでいる。2人とも、孤独を抱えており、1人の女性の存在によって救済される。

だが、大きな違いがある。トラヴィスは確かに心を病んでいたが、限界ギリギリという所まで追い詰められてはいなかった。彼は『タクシードライバー』の劇中で女にフラれてしまい、都会への苛立ちが沸点を超えてしまったために、行動を起こす。
一方、フランクは、登場した時点で既に限界ギリギリの正体だ。つまり、どうしようもない社会の中で、精神疲労が蓄積してプッツンへと近付いていくという経緯は無い。彼にとってのキーポイントであるローズの死は、半年前の出来事だ。そこからプッツン寸前である現在の状態に陥るまでの過程は、ナレーションによって説明されるだけだ。

さて、この映画は、果たして何が言いたかったのだろうか。フランクのナレーションによる心情説明は非常に多いが、それは主題に繋がる独白ではない。最後にフランクはバークを安楽死させ、メアリーにローズの幻影を重ねて「あなたのせいじゃない」と言われ、どうやら救済されたらしい。しかし、何が何だか良く分からない。
劇中、メアリーはノエルに医者が止めている水を飲ませたり、病院から逃がしたりする。そこからは、「死ぬ奴は死ぬんだから、好きなようにさせてやれ。どうせ死は回避できないんだから、仕方が無いこともあるんだ」という意見が見える。

そして最後、フランクはバークが「殺してくれ」と言った幻聴を聞き、彼を安楽死させる。ここからは、フランクがメアリーの意見に同調したように見える。だが、それは彼の勝手な思い込みであり、本当にバークが殺してくれと言ったわけではない。そうなると、果たして「死ぬ奴は死ぬんだから仕方が無い」という収め方でいいのかどうか、疑問が残る。
終盤に来て、「だから何が言いたいのか」という所がボンヤリしてしまう(ボンヤリどころか、まるで見えない)。
だが、説明する必要など無いのだ。
前述したように、この映画は『タクシードライバー』の救急車版だ。
だからスコセッシ監督は思ったに違いない。
全て『タクシードライバー』で説明しているから、もう説明は要らないはずだと。

 

*ポンコツ映画愛護協会