『恐竜伝説ベイビー』:1985、アメリカ

西アフリカの熱帯雨林には、モケーレ・ムベンベという象より大きい爬虫類がいると言い伝えられてきた。しかし、その姿を確認できた科学者は存在しない。コンゴで調査活動を行っている古生物学者のエリック・キヴィアットは、祭りで盛り上がる町に出た。彼は学者のエティエンヌを尾行し、路地裏で刺殺して鞄を奪った。鞄を開けたエリックは、中に入っていた数枚の写真を確認する。その写真には、恐竜のような生物が写っていた。
コンゴの若者たちに野球を教えていた記者のジョージ・ルーミスは、アメリカの本社から電話を受けた。本社の上司はスポーツ部のデスクになるようジョージに持ち掛け、月曜までに帰国するよう促した。すぐにジョージは、エリックの下で調査活動を行っている妻のスーザンに知らせようとする。スーザンはエリックに、自分が発見した骨を見せた。スーザンはブロントザウルスの骨だと確信していたが、キリンの骨だと断定されて落胆した。だが、本当はブロントザウルスの骨で、エリックが嘘をついたのだった。
スーザンがテントを去った後、エリックは助手のナイジェルに、「君は嫌ってるが、彼女は優れた資質を持ってる」と告げる。ナイジェルが「それで、見込みは?」と訊くと、エリックは「彼女の発見は、エティエンヌの写真の裏付けになる」と言う。2人はスーザンに内緒で、骨の発見場所へ行ってみることにした。エリックはジープで出掛ける直前、訪ねてきた赤十字のピエール・デュボワ医師と話すことをスーザンに指示した。
ピエールはスーザンに、10日ほど前に政府のパトロール隊が奥地に住む少数民族2名を連れ帰った出来事を語る。パトロール隊は部落でコレラが発生したと考えていた。その2名は死んだが、原因はコレラではなくブドウ状球菌による食中毒だった。その部族は千年も前から同じ食事をとる習慣が続いており、ブドウ状球菌による感染の記録は残っていない。ピエールは「なぜ未知の動物の死体を食べて食中毒になったのか」と言い、部族が食べた生物の骨を見せる。それはスーザンが発見した骨と酷似していた。
調査に行きたい気持ちが強いスーザンは、ジョージに帰国を延ばすよう持ち掛けた。ジョージが「もう寝よう。明日は荷造りだ」と軽く受け流したので、スーザンは腹を立てた。彼女はジョージを批判する置き手紙を残し、ヘリコプターで部族の村へ向かった。ジョージは水上飛行機をチャーターし、ケンジーという男の操縦でスーザンの後を追った。彼が村に到着すると、スーザンとピエールが病に倒れた村長を診ていた。村長は「村のハンターが死んでいる生物を見つけて持ち帰った。肉を食べた者は病気になった」と言い、その生物の絵を描いた。スーザンは、それがブロントザウルスに似ていると感じた。
ジョージとスーザンはケンジーの水上飛行機に乗り、村の近くを流れる川の上流へ向かった。彼らの動きを知ったエリックは、ナイジェルに行き先を掴むよう命じた。ケンジーはジョージたちに「2日後に迎えに来る」と告げ、ガイドを残して飛び去った。だが、そのガイドはゴムボートで逃げ出してしまい、ジョージとスーザンは取り残された。ジャングルを進んでいたジョージたちは、原住民に包囲された。しかしスーザンがポラロイド写真を撮影して渡すと、原住民は2人を歓迎した。
原住民はジョージとスーザンを村に招き、宴を催した。酒を飲んだジョージたちは、妙な気分になった。スーザンが恐竜のことを尋ねた後、原住民は忽然と姿を消した。ジョージとスーザンがテントを張っていると、何かの鳴き声らしき音がした。子供が欲しいジョージは肉体関係を求めるが、スーザンは「そんな気分にならない」と断った。その直後、テントが激しく揺れて剥ぎ取られた。驚くジョージたちの傍らを、ブロントザウルスが悠然と歩いて行った。
翌朝、エリックとナイジェルは軍隊を護衛に付け、船でジョージたちの捜索場所へ向かった。ジョージとスーザンはブロントザウルスを発見し、後を追った。するとブロントザウルスは1頭ではなく、両親と生まれたばかりの子供の3頭だった。ジョージとスーザンは、その大発見に大喜びした。スーザンは興奮した様子で写真を撮影し、ジョージに「飼い馴らしてケンジーの発信機を取り付けましょう」と言う。2人は果物を集め、恐竜に与えた。
ジョージが水浴びをしていると、恐竜のベイビーが近付いてきた。スーザンはジョージに指示を出し、2人はベイビーの足首に発信機を取り付けた。エリックの一行は浜辺から上陸し、恐竜の母親を見つけて麻酔銃を撃ち込んだ。激昂した恐竜の父親が現れると、人民軍の兵士たちはエリックの「殺すな」という命令を無視して一斉射撃した。母親が眠りに落ちている傍らで、父親は息絶えてしまった。
その様子を見ていたジョージが抗議のために飛び出すと、人民軍の大佐は彼を射殺しようとする。駆け付けた原住民が矢を放って妨害し、その間にジョージは逃亡した。エリックの一行はジョージたちの荷物を荒らし、無線機を奪った。彼らは母親恐竜を捕獲し、その場を後にした。スーザンはジョージに、「ベイビーを捕まえて戻れば、博士を出し抜くことが出来る」と告げた。2人はエサを使ってベイビーをおびき寄せ、テントに誘い込んで捕獲した。
ジョージとスーザンはベイビーを連れて、ケンジーと別れた地点まで戻った。しかし目を離した隙に、ベイビーに逃げられてしまった。翌朝になって発信機の反応があったため、ジョージとスーザンは移動した。すると川の向こうにエリックたちのキャンプ地点があり、母親恐竜が捕まっているのが見えた。2人は母親恐竜を助けに行くが、すぐに捕まった。エリックは恐竜ベイビーの存在を知り、捕獲しようと目論んだ。ナイジェルはエリックに、大佐が母親恐竜を乱暴に扱っているので今のままだと死んでしまうと報告した。エリックは大佐を殺害し、その罪をジョージとスーザンに被せた…。

監督はB・W・L・ノートン、脚本はクリフォード・グリーン&エレン・グリーン、製作はジョナサン・T・タプリン、製作協力はE・ダーレル・ホーレンベック、製作総指揮はロジャー・スポティスウッド、撮影はジョン・オルコット、編集はハワード・スミス&デヴィッド・ブレサートン、美術はレイモンド・G・ストーリー、衣装はサリー・ダウニング&パディー・シャーキー、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はウィリアム・カット、ショーン・ヤング、パトリック・マクグーハン、ジュリアン・フェロウズ、キアロ・マチーヴォ、ヒュー・クァーシー、オル・ジェイコブズ、エディー・タゴー、エドワード・ハードウィック、ジュリアン・カリー、アレクシス・メレス、スージー・ノッティンガム、ステファン・クローラ、アンソニー・サーフォー、ジーノット・バニー、ロジャー・カールトン、テレーズ・タバ他。


『アメリカン・グラフィティ2』のB・W・L・ノートンが監督を務めた作品。
アフリカの熱帯雨林地域に生息するとされているUMA(未確認生物)のモケーレ・ムベンベから着想を得ている。
っていうか、まあ『E.T.』の亜流だ。
ジョージをウィリアム・カット、スーザンをショーン・ヤング、エリックをパトリック・マクグーハン、ナイジェルをジュリアン・フェロウズ、ケンジーをヒュー・クァーシー、大佐をオル・ジェイコブズ、軍曹をエディー・タゴー、ピエールをエドワード・ハードウィックが演じている。

なぜ奥地に住む部族がブロントザウルスの死体の肉を食べたのか、それはサッパリ分からない。
その正体が分からない時点で、ピエールは「千年も前から同じ食事をとる習慣が続いており、ブドウ状球菌による感染の記録は残っていない。なぜ未知の動物の死体を食べて食中毒になったのか」と疑問を口にしている。
その疑問は、生物の正体がブロントザウルスだと明らかになっても解決されないのだ。「生物がブロントザウルスだったから食べた」ってのは、何の答えにもならないからね。
むしろ、彼らはモケーレ・ムベンベを怖がっているはずで、畏怖している怪物の肉を食らうってのは不可解だわ。

原住民の村で宴を見物していたジョージとスーザンは、彼らに勧められた酒を飲んで「妙な気分になった」と言う。
いかにも後の展開に繋がりそうなんだけど、何も無い。
その後に「原住民が忽然と姿を消す」という展開があるのだが、ひょっとすると「酔っ払って意識が朦朧としている中、まるで魔法のように原住民が消えた。それは果たして夢か、現実か」みたいな幻想的なシーンとして描きたいのか。
正直、どういうシーンとして見せたいのか、サッパリ意図が見えない。

スーザンはピエールから骨を見せられた後、「骨がそっくり残っていれば大発見」ということで調査に行きたがっているのだが、それは違和感がある。
というのも、ピエールは「部族は未知の生物の肉を食べた」と話しているのだ。もちろん食べた段階では死体になっているわけだが、その直前までは生きていたってことだ。
つまりピエールの証言が確かならば、「恐竜が生きている」ということになるわけで、スーザンは古生物学者なんだから、それに気付かないはずがない。
でも、そのセリフからすると気付いていないように思えてしまう。それは大いに違和感がある。

恐竜の骨を見つけようとしていたスーザンが、いつ頃から「恐竜が今も生きているのではないか」と考えるようになったのか、そこがハッキリしないんだよな。
もちろん普通に考えれば恐竜が今も生きているなんて有り得ないわけだが、その辺りにおけるジョージとスーザンの立ち位置がボンヤリしたまま進行しているのはマイナス。
例えばスーザンが「生きているかもしれない」と言い出し、それに対してジョージが「そんなの有り得ない」と否定するような関係性も見られない。

スーザンが恐竜の生存を信じ、ジョージが否定するという対立関係を明確にして、物語を進めても良かったんじゃないかと思う。
もしくは、スーザンも骨は見つけたがっているけど恐竜が生きているとは思っていない設定にして、原住民の証言もせいぜい「謎の生物を見た」という程度にしておく。肉を食べて食中毒になるなど、恐竜が実在する可能性を強く感じさせるような要素は排除しておくってのも1つの手だろう。
最初から「恐竜が生きている」ってのをかなり強く感じさせる構成になっているのだが、それがあまりプラスに作用していないと感じるのだ。
何となく慌ただしさも感じるし。

ジョージとスーザンがテントを壊して歩いて行くブロントザウルスを目撃するシーンがあるが、すぐにカットが切り替わって翌朝のシーンになるのは、あまりにも淡白だ。
初めてブロントザウルスを目撃した時の、ジョージとスーザンの反応を丁寧に描写すべきでしょうに。
「何か巨大な生物が歩いて行くのが遠くに見えた」というレベルじゃなくて、目の前を歩く様子をハッキリと見ているんだから。
そんで「確かに恐竜がいた」と2人が知り、そこから考え方や行動に変化が生じる、という流れに結び付けるべきでしょ。

翌朝になって、ジョージとスーザンはブロントザウルスを見つけて興奮したり大喜びしたりしている。
だけど、「いやいや、お前ら昨晩の内に見ていただろうに」と言いたくなる。
だから、最初に見た時点で「まさか本当にいるなんて」という驚きを示すべきで、そのリアクションをすっ飛ばして感動や喜びに行くのは違うんじゃないかと。
恐竜が今も生きているってのは信じられないような出来事なのに、それを最初から2人とも簡単に受け入れてるってのは、話の見せ方として物足りなさが残る。

スーザンに全く共感できないどころか、むしろ不快感さえ抱いてしまうってのが、この映画の致命的な欠点だ。
まず彼女がジョージに滞在の延長を要求する際、「骨がそっくり残っていれば大発見よ。私の発見よ」と話している段階で、その言い方が引っ掛かる。
そこには学者としての純粋な探究心ではなく、「大発見で有名になってやろう」という強い野心が見えるからだ。
そういう意味では、根っこの部分は、悪党扱いされているエリックと大して変わらないのだ。

スーザンはジョージが滞在の延長を断ると腹を立て、置き手紙を残して勝手に出発してしまう。
しかも、その手紙は「勝手なことをしてごめんなさい」的な内容ではなく、ジョージを「分からず屋」と激しく罵倒する内容なのだ。
この半年間、ジョージは記者の仕事を犠牲にして、スーザンの恐竜調査に付き合うためにアフリカへ来ていたのだ。つまりスーザンのために付き合ってきたのに、本社から出世の話が来たから戻ろうとしたら、一方的に批判されるのだ。
すげえ身勝手な女だぜ、スーザンって。
彼女に対する不快感は、「演じているのがショーン・ヤングだから」ってのは全く関係が無い。むしろ、ある意味でピッタリの配役になっているけど。

ジョージが村まで来ても、もちろんスーザンは謝らない。自分が悪いなんて、これっぽっちも思っていないからだ。
で、夫に対して何の思いやりも見せずにワガママを通し続けるスーザンだが、原住民に包囲されるとジョージに「何とかして」と言う。都合のいい時だけ、「女は男に守られる存在」ってのを押し出して来る。
そんでジョージが腕時計を渡して必死に原住民の気を引こうとしていると、いきなりフラッシュを焚いて写真を撮り始め、原住民を怯えさせる始末。
たまたま原住民が気に入ってくれたから良かったものの、かなり軽率な行動にしか見えないぞ。

母親恐竜を麻酔銃で捕獲するエリックはもちろん酷い男だが、「ベイビーを捕まえて戻れば、博士を出し抜くことが出来る。見つけたのは私たちだもん」と言っているスーザンだって、相変わらず野心たっぷりなのだ。
エリックにエティエンヌや大佐を殺させることで残酷性をアピールさせているけど、恐竜に対する扱いや考え方だけを取ってみると、終盤に至るまではスーザンも大して変わらないのだ。
スーザンは終盤になってようやくベイビーを守ろうと考えるようになるけど、そこまでは「恐竜の発見という手柄の奪い合い」でしかないんだから。
で、そこまでスーザンは恐竜の捕獲に野心たっぷりのくせに、ジャングルで呑気にセックスしている間にベイビーに逃げられるというマヌケっぷりをさらしたりもするんだけど。

(観賞日:2014年8月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会