『喝采の陰で』:1982、アメリカ

アイヴァン・トラヴァリアンはブロードウェイで人気の劇作家。ニューヨーク大学で講師をしている妻グロリアには、3度の離婚歴がある。2人の間には、アイヴァンの先妻との息子イゴール、グロリアの連れ子ボニー、スパイク、デビー、ジェラルドという5人の子供がいる。
ある時から、グロリアは深夜に遊び歩いたり、黙って外泊をしたりするようになった。彼女はラリー・コッツウィンクルという愛人と浮気をしていたのだ。話し合いを求めるアイヴァンに、グロリアは冷たい態度で「家には戻らない」と告げ、子供を残して家を出た。
ボニーとデビーは実父ロジャー・スレシンジャーの元に、スパイクも実父の元に引き取られた。アイヴァンは、イゴール、父親が海外にいるジェラルドの2人の面倒を見ることになった。一方、仕事の方では、プロデューサーのアーノルド・クレップリッチ、演出家のモリス・ファインスタインと組んだ新作の上演が迫っていた。
アイヴァンは、新作に出演する映画女優アリス・デトロイトと関係を持った。アリスはアイヴァンの家で同棲生活を始めるが、理想との違いに失望するようになった。不意にグロリアが戻り、アリスを連れ込んだアイヴァンを非難した。まだグロリアに未練があるアイヴァンは、アリスに同棲生活を終わりにしようと告げた。
新作の脚本執筆が進まない中、ボニーとデビーがロジャーの元から逃げて来た。養育費目当てで引き取ったロジャーとの生活に馴染めないという。さらに、スパイクも向こうの暮らしに溶け込めず戻って来た。アイヴァンは、5人の子供と共に暮らすことにした…。

監督はアーサー・ヒラー、脚本はイスラエル・ホロヴィッツ、製作はアーウィン・ウィンクラー、製作協力はドロシー・ワイルド、撮影はヴィクター・J・ケンパー、編集はウィリアム・レイノルズ、美術はジーン・ルドルフ、衣装はグロリア・グレシャム、音楽はデイヴ・グルーシン、主題歌『Home to You』はマイケル・フランクス。
主演はアル・パチーノ、共演はダイアン・キャノン、チューズデイ・ウェルド、ボブ・ディッシー、アラン・キング、ボブ・エリオット、レイ・グールディング、エリック・ガリー、エルヴァ・レフ、B・J・バリー、アリ・メイヤーズ、ベンジャミン・H・カーリン、
ケン・シルク、ジェームズ・トルカン、トニー・ムナフォ、ルーベン・シンガー、コズモ・アリゲッティー、ケヴィン・マックラーノン他。


アル・パチーノ版、もしくはアーサー・ヒラー版の『クレイマー、クレイマー』と呼ばれたりする作品。
アイヴァンをアル・パチーノ、アリスをダイアン・キャノン、グロリアをチューズデイ・ウェルド、モリスをボブ・ディッシー、クレップリッチをアラン・キングが演じている。

序盤、アイヴァンは帰宅して、子供と仲良くジャレ合っている。そこにグロリアも加わり、アイヴァンの44歳の誕生日を楽しく祝っている。子供達はアイヴァンを心から愛しているし、アイヴィンも仕事一筋で家庭を顧みないといった感じは全く無い。
一方、グロリアは深夜の2時まで遊び歩き、何も言わずに3日も家を留守にする。話し合おうと言うと、逆ギレする。朝になって話し合おうと決めたのに、夜が明けると姿を消してしまう。話し合いのために学校に行ったアイヴァンを、まるで厄介者扱いする。おまけに、「あなたとは一緒に年を取りたくない」とまで言い放つ始末だ。

『クレイマー、クレイマー』と違って、アイヴァンに非は全く無いし、グロリアには同情の余地が全く無い。子供達は5人とも、アイヴァンに懐いている。グロリアの連れ子でさえも、最初からグロリアではなくアイヴァンと共に暮らしたいと考えている。
グロリアは完全無欠のヒールなので、ヒールとして扱えばいい。ところが、肝心のアイヴァンがグロリアに未練タラタラという困った状態だ。子供達が「やめた方がいい」と言っているのに、グロリアを連れ戻しに行ってしまう。おまけに、ラリーに向かって「妻を寝取った」と罵声を浴びせる。
いやいや、非難されるべきはグロリアでしょうが。
早い段階で観客はグロリアに愛想を尽かしているのに、「アイヴァンはグロリアに未練があって彼女を連れ戻そうとする」という方向で話を進めて行くのは納得できない。最終的にグロリアを連れ戻すのはやめているが、そこで話を作って行くこと自体が違うのだ。

「アイヴァンが5人の子供を抱え、てんやわんや」という筋書きになるのかと思いきや、すぐに3人の子供達が引き取られていく。残りの子供は2人になるが、まだ家庭のドラマは描かない。それよりも、アイヴァンとアリスの恋愛をメインに持って来る。
その後も、グロリアへの未練とか、仕事の行き詰まりとか、そういったことが描かれる。子供達との関係は、ほとんど描かれない。アイヴァンと子供達との関係でドラマを作っていかないと、「5人で仲良く暮らす」という収束を持ってきてもパッとしないのに。

最後になって、アイヴァンに「誰も引き取ると言ってこないので、かわいそうだから面倒を見る」と言わせてしまうのは絶対に違う。
そこは「子供達を愛しているので一緒に暮らす」と言わせなきゃダメだろ。
なんで最後に愛ではなく同情を理由にしてしまうのかなあ。


第3回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低オリジナル歌曲賞
「Comin' Home To You (Is Like Comin' Home To Milk and Cookies)」

 

*ポンコツ映画愛護協会