『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』:1959、アメリカ

フロリダの沼で密漁をしていたレムは、水中に潜む奇妙な生物を発見して5発の銃弾を撃ち込んだ。町に戻った彼は、仲間と共に酒場で 集まった。主人のデイヴは奥の部屋にいる妻のリズを呼び、ラジオの音楽がうるさいのでボリュームを下げるよう求めた。しかしリズは 「ほっといて」と冷たく言い、部屋に戻ってしまった。レムは仲間に沼で見た生物の話をする。「醜い生物に5発撃ち込んだ。変な形で、 タコみたいに吸盤があった。40年も密漁しているが、あんなのは初めてだ」と彼は語った。
仲間たちはレムの話を笑い飛ばし、「そんな生物がいるなら、持ち帰ればスティーヴ・ベントンが賞金を払ってくれる」と言う。レムは 「賞金があっても触りたくない」と険しい顔で告げた。奥の部屋では、デイヴがリズに「悪気は無いんだ。でも俺の評判が。尻に敷かれる 男は軽蔑される」と言い訳していた。しかしリズはタバコを吹かしながら冷たく無視した。デイヴが触れようとすると、「触らないで」と 彼女は拒絶した。リズはデイヴを無視して出掛けていった。
州保安官スティーヴは密漁を取り締まるため、恋人のナンを連れて沼地に来ていた。「密猟者は賢いが、いつか監獄に送ってやる」と言う 彼を見て、ナンは「気を付けて、彼らは報復するわ。貴方は外の人間」と心配する。悲鳴を耳にしたスティーヴは、銃を持って現場へと 走った。すると、そこにはリズがいた。彼女はレムの無残な死体を発見して悲鳴を上げたのだった。
コーヴィス郡保安官は、アリゲーターにやられた事故死として片付けようとする。スティーヴは「アリゲーターが死因じゃない」と反論 する。ナンの父親であるグレイソン博士の検死によれば、レムの死体の傷はイカやタコに似ていた。コーヴィスが「海の生物が内陸にいる はずがない。首を突っ込むな」と言うと、スティーヴは「くたばれ」と罵って保安官事務所を後にした。
スティーヴはグレイソン家を訪れ、話を聞くことにした。グレイソンは「タコもイカも吸盤そのものは無害で、オウムのようなクチバシを 攻撃と防御に使う」と説明した。ナンは「奇形のワニかも」と言うが、グレイソンは「違うだろうが、何かは分からない」と答えた。 スティーヴは湿地を徹底的に調べることに決めた。翌日、彼はナンと共にボートで沼地に入り、未知の生物を捜索した。しかし日が暮れる まで捜索したものの、何も発見することは出来なかった。
デイヴは酒場でリズに悪態をつかれていた。デイヴが得意客に品物を届けようとすると、リズは「出て行け、豚野郎」と罵った。デイヴが 出掛けようとすると、親友カルがやって来た。デイヴが去った後、カルは店に入ってリズを呼んだ。2人は不倫関係にあった。スティーヴ はナンに、「未知の生物の証拠は見つからなかった。君のお父さんには申し訳ないが、時間を無駄には出来ない」と告げた。
リズとカルは車で外出し、沼地の近くで情事にふけろうとした。そこへデイヴが現れ、ライフルを構えた。激怒した彼は、立ち上がるよう 2人に要求した。リズとカルは何とかなだめようとするが、デイヴの怒りは収まらない。カルが「銃を下ろせ、殴るぞ」と言うと、デイヴ は「やってみろよ」と沼に威嚇射撃した。2人が逃げ出すと、デイヴは発砲しながら追い掛けた。追い詰められたカルは「俺が悪いんじゃ ない、彼女が誘ってきた」と釈明し、リズは「なんて男」と唾を吐き掛けた。
デイヴは「行け、行かないとそこで殺す」と発砲し、リズとカルを沼に入らせた。2人が泣いて必死に謝ると、デイヴは「良し、上がって 来い」と告げた。その時、沼から2匹の巨大ヒルが出現し、リズとカルを水中へ引き擦り込んで消えた。デイヴの通報を受けたコーヴィス は沼を捜索するが、リズとカルの死体は見つからない。デイヴは怪物の仕業だと説明するが、コーヴィスは相手にしない。コーヴィスは、 デイヴをリズとカルの殺害犯人として連行した。
沼地の住民スリムと友人ピータースは、コーヴィスに「2人の遺体を見つけたら金は出るんだろ」と尋ねた。コーヴィスは「一人50ドル」 と言う。スリムたちはワニが死体を巣に引き込んでいると考え、長い縄を使って引きずり出そうと考えた。デイヴは留置所の中で自殺した 。グレイソンはスティーヴに、ダイナマイトを使うことを提案する。しかしスティーヴは「未知の生物がいる確証が無い」と却下した。彼 は、リズとカルの事件についてはデイヴの犯行だと考えていた。
グレイソンは「自殺前にデイヴと会った。ショックを受けていた。あれは何かを見た恐怖だ」と言う。スティーヴが「未知の生物がいる としたら、なぜ僕らが捜索した時は襲撃してこなかったんだ」と反論すると、グレイソンは「夜行性で、光を嫌って沼底にいるんだ。爆破 すれば気絶して浮かんでくる」と説明する。それでもスティーヴが反対すると、ナンが「頑固者」と批判した。
スリムたちはボートで沼を移動し、櫂で水中を突いた。すると巨大ヒルが出現し、ボートを引っくり返してスリムたちを沼底の洞窟に 引き擦り込んだ。そこにはカルとリズの姿もあった。巨大ヒルはスリムたちの首筋に襲い掛かり、血を吸った。スリムたちが行方不明に なったが、コーヴィスは沼地の連中を嫌っており、2日が経つまで捜索するつもりは無かった。
スティーブはボランティアを集めて沼地を捜索したが、2人を見つけることは出来なかった。ボランティアのイヴァンは、「アリゲーター も他の動物も全くいなかったのは妙だ」と口にした。グレイソンは「動物がいないのならダイナマイトを使おう。遺体が浮き上がる」と 言う。しかしスティーヴは「大きいのは見つからなくても、小さな生物はいる。爆破は自然の財産を破壊する。それに許可が必要だ。 ちゃんとした使用理由が求められる」と反対した。
グレイソンはナンと共に沼へ行き、ダイナマイトを仕掛けた。そこへスティーヴがやって来るが、既にダイナマイトは仕掛けられた後だ。 彼らの眼前で爆発が起き、水上にはカル、スリム、ピータースの死体が浮き上がってきた。グレイソンが検死するとカルの死体に銃創は 無く、血が完全に抜かれていた。彼はスティーヴに「首に巨大なヒルにでも吸われたかのような傷があった。3人とも2日は沼の中にいた が、カルは死後2時間から3時間、スリムたちはもっと短い」と語った。
スティーヴは、沼の底に洞窟があり、それで未知の生物は爆発に耐えたのではないかと推測した。リズが洞窟で生きている可能性もあると 考えたスティーヴは、元同僚のマイクを呼び寄せ、アクアラングを使って沼に潜ろうと決めた。当日、沼地には住民や警官が集まった。 コーヴィスは「頭がおかしい、巨大ヒルなんて」と冷笑する。スティーヴが潜水すると、巨大ヒルが出現した…。

監督はバーナード・L・コワルスキー、原案&脚本はレオ・ゴードン、製作はジーン・コーマン、製作総指揮は ロジャー・コーマン、撮影はジョン・M・ニコラウスJr.、編集はカルロ・ロダート、美術監督はダン・ホーラー、音楽は アレクサンダー・ラズロ。
出演はケン・クラーク、イヴェット・ヴィッカーズ、ジャン・シェパード、マイケル・エメット、タイラー・マクヴェイ、ブルーノ・ ヴェソタ、ジーン・ロス、ダニエル・ホワイト、ジョージ・シーザー他。


ロジャー・コーマン印のZ級ホラー映画。
DVDでのタイトルは『吸血怪獣ヒルゴン』。『巨大ヒルの襲撃』というタイトルでテレビ放送されたこともある。白黒で、上映時間は 62分と短い。
監督は『X星から来た吸血獣』のバーナード・L・コワルスキーで、その映画と同じ曲を使っている。
スティーヴをケン・クラーク、リズをイヴェット・ヴィッカーズ、ナンをジャン・シェパード、カルをマイケル・ エメット、グレイソンをタイラー・マクヴェイ、コーヴィスをブルーノ・ヴェソタが演じている。

冒頭のシーンは、画面が真っ暗なので、何が何やら良く分からない。
分かるのは「レムが何かを目撃して撃ちまくった」ということだけ。
しかも、それは生き物が動いたというより、「ただ単に波が立って、そこに浮かんでいた物体も揺れた」という風にも見える。
その後、なんだかんだとあってリズがレムの死体を発見するが、その時点では、その死体が誰なのか良く分からない。

スティーヴはコーヴィスに自分の考えを否定されると、「くたばれ」と罵る。
態度が悪いなあ。
そんな悪態をつくキャラにしても、何のメリットも無いのに。
で、スティーヴはナンを連れて沼地を捜索するが、もしもレムを襲った生物がいるのなら、恋人を連れて行くのは危険でしょうに。
ただし、BGMは不安を煽ろうとしているが、やってることは、ただノンビリとボートを漕いでいるだけ。
何事も無く、コーヒーを飲んだり喋ったりするだけで3分ほどを費やして終了。

リズとカルが沼地でイチャイチャしていると、そこへデイヴが現われる。
デイヴが現われるまでに、ダラダラと3分半ぐらい費やしている。
安い映画ってのは大抵、時間の無駄遣いをするものだ。
で、デイヴがライフルを発砲し、リズとカルを追い詰めて行く。
巨大ヒルとは何の関係も無いところでサスペンスを作っている。
このように、本筋とは無関係な箇所で緊迫感を煽ろうとするのも、安い映画では特に珍しくも無いことだ。
むしろ、それでも緊迫感を煽っているだけマシと言うべきかもしれない。

リズたちが沼に入ったところで、ヒルゴンが登場する。
もちろんヒルゴンってのは日本で勝手に付けた名前で、劇中でそう呼ばれているわけではないが、何となく造形と合っている気がする。
そのヒルゴン、吸盤をくっ付けたゴミ袋をスッポリと被った人間が演じているという形。
造形がチャチでキグルミ丸出し(というレベルにさえ達していない)なので、ヒルゴンが登場すると、「夫が妻と浮気相手を 追い詰める」という本筋とは無関係なところで盛り上げたサスペンスが、本来は怖がらせるべき箇所に来て台無しになるという、見事な 本末転倒ぶりとなっている。

スティーヴの「自分たちが捜索した時には未知の生物が現れなかった」という疑問に対し、グレイソンは「夜行性だから光を嫌って沼底に いる」と説明する。
ところがスリムたちが死体を捜索していると、昼間なのに堂々とヒルゴンは出現している。
おいおい、ってことは夜行性じゃないのかよ。
そうなると、スティーヴたちが沼を捜索した時に襲って来なかった説明が付かなくなるぞ。

ヒルゴンは、沼の中ではもちろん泳いでいるのだが、なんせ前述したようにゴミ袋を被った人間なので、中で手足をバタバタさせている姿 が伝わって来る。
もはや、溺れそうになって、もがいているとしか見えない。
で、ヒルゴンはスリムとピータースを洞窟に引き擦り込んでいるんだが、ゴミ袋の中の手で彼らを抱え上げるのが見え見え。
それと、ヒルなのに、陸地に上がると立ち上がって歩くってのは、どういうことなのよ。
もはやヒルでも何でもないじゃねえか。

その洞窟にはリズとカルが生きたまま連れ込まれているんだが、なぜスリムたちの血を先に吸って、そいつらを後回しにしているのかは 不明。
ひょっとすると、リズたちの血も死なない程度には吸っているのかもしれんが、良く分からん奴らだ。
で、ボランティアが沼地を捜索するシーンでは、ヒルゴンが沼の中から姿を見せているが、それに彼らは気付かない。
っていうか、なんでヒルゴンは捜索隊を襲撃しないんだよ。
そんでもって、そこも、ただ捜索するだけで何も起きないまま4分半が経過する。

グレイソンがダイナマイトを爆発させると、カル、スリム、ピータースの死体が浮き上がってくる。
だけど、その直前にヒルゴンの巣が写った時、リズも含めた4人とも、まだ動いているんだよね。
ってことは、まだ生きてたってことじゃないのか。
そうなると、カルたちはヒルゴンに殺されたわけじゃなくて、ダイナマイトの爆発で死んだことになってしまうんじゃないのか。

グレイソンは検死の後、「3人とも2日は沼の中にいたが、カルは死後2時間か3時間、他の2人はもっと短い」と説明しているが、 だからさ、アンタが爆破する直前まで、4人とも動いてたんだってば。
ってことは、それはシナリオの矛盾じゃなくて、「既にカルたちは死体のはずなのに、役者が動いてしまった」という、そっちの問題 なのか。
まあ、どっちにしてもボンクラだが。

スティーヴが潜水して捜索すると、ヒルゴンが登場する。浮上したスティーヴはボートのマイクに「かなりダメージを与えた」と言って いるが、その前に巨大ヒルがいたことについて説明をしろよ。
そのセリフだと、「既に巨大ヒルがいることはご存知でしょ」という説明になってるぞ。
でも、それを知ってるのは観客だけで、マイクは知らないんだから。
っていうか、スティーヴはボートまで浮上しただけで、まだ沼に浸かってノンビリ喋ってるのに、なぜヒルゴンは襲撃してこないんだよ。

その後、リズが水上にプカプカと浮いてくるが、「死体が浮かび上がってきた」ということなのか、「自分で脱出したけど力が無くて 浮かび上がった」ということなのかは不明。
ボートに救助された後も、グッタリしていて全く動かないし。
洞窟では自ら水の中にゴロンと転がり落ちていたけど、「それなら生きてたんだろ」と思うかもしれんが、カルたちの悪しき前例が あるもんでね。
「死体が洞窟から水中に転がり落ちる」というシーンだったのに、それを自然な形で描写できず、役者が自ら転がり落ちるという形に してあったとしても不思議は無いのだ。
それぐらいボンクラ度数の高い映画なので。

(観賞日:2010年5月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会