『ケミカル51』:2001、イギリス&カナダ

1971年、カリフォルニア州オックスナード。カリフォルニア大学薬理学部を卒業したばかりのエルモ・マケルロイは、スピード違反で ハイウェイ・パトロールに捕まった。エルモは警官にマリファナを勧めるが、「1960年代は終わったんだ」と宣告される。薬理学者として の道を断たれたエルモは、薬理学修了証明書を燃やして真っ当な将来に別れを告げる。
30年後、ロサンゼルスのダウンタウン。マケルロイは麻薬組織の大物ザ・リザードの下で、POS51という新種のドラッグを製造して いた。POS51は、子供向けドロップ菓子にも見えるPOS51だが、合法成分によって作られた究極のドラッグだ。彼はザ・リザード を裏切り、イギリスのデュラントと取り引きすることにした。
ザ・リザードは他の組織と取り引きをするつもりで、複数のボスを連れてエルモの元にやって来た。だがエルモは既に逃亡し、しかも罠を 仕掛けていた。薬品が化学反応を起こし、部屋では大爆発が起きた。何とか生き延びたザ・リザードは殺し屋ダコタに連絡を取り、借金を 帳消しにすると約束して48時間以内にエルモを始末するよう求めた。
エルモはイギリス行きの飛行機に乗り、その斜め前の座席にはダコタが座った。リヴァプールでは、デュラントの手下フィーリクスが 相棒フレデリックと薬剤師のローレンスを連れてエルモの出迎えに向かう。アメリカ嫌いのフィーリクスにとって望まぬ仕事だが、 リヴァプールFCとマンチェスター・ユナイテッドのチケットを貰える約束なので、仕方なく空港へ向かう。
フィーリクスはパブへ立ち寄り、マンUのサポーターを発炎筒で挑発して逃亡する。しかしローレンスをパブに置いてきたまま、彼は 空港へ向かってしまう。チンピラのブロウフィッシュたちはローレンスから取り引きのことを聞き出し、空港でエルモを襲ってヤクを横取り しようと企む。刑事のケインも部下のアーサーたちと共に空港を張り込むが、エルモを見失ってしまう。
エルモはフィーリクスと合流するが、薬剤師がいないことで不機嫌になる。フレデリックが早とちりでローレンスを殺してしまったため、 フィーリクスは代理を呼ぶことでエルモを納得させる。ダコタは犯罪組織を率いるイキに接触し、武器の手配を頼む。ホテルの一室で エルモとフィーリクスを待ち受けたデュラントは、代理の薬剤師クドシーを呼んでいた。
ダコタがエルモを狙撃しようと準備していると、ザ・リザードから電話が入る。ザ・リザードは、エルモを生かして他の連中を殺すよう 指示を変更してきた。ダコタは言われた通りにデュラントたちを狙撃するが、エルモだけでなくフィーリクスも殺さなかった。エルモと フィーリクスは部屋から脱出し、待ち構えていたブロウフィッシュたちを蹴散らした。
ケインたちが追ってきたため、エルモはフィーリクスは車で逃亡する。ケインたちを撒いた後、エルモとフィーリクスはダコタの姿を目にした。 フィーリクスはエルモに、ダコタが昔の恋人だと打ち明けた。エルモはフィーリクスの紹介で、イキとドラッグを取り引きすることにした。 そのイキは、ダコタからフィーリクスの居場所を聞かれていた。
エルモはイキからサンプルを用意するよう求められ、ラボを探すようフィーリクスに告げる。2人が薬局で材料を購入していると、 ブロウフィッシュたちが取り囲んだ。彼らがラボを持っていると知り、エルモとフィーリクスは脅しに屈したと見せかけて利用することに した。エルモはラボでサンプルを作った後、ブロウフィッシュたちを騙して強力な下剤を飲ませ、逃亡する…。

監督はロニー・ユー、脚本はステル・パヴロー、製作はデヴィッド・パプケウィッツ&マルコム・コール&アンドラス・ハモリ&シートン ・マクリーン&ジョナサン・デビン、共同製作はマーク・アルドリッジ、製作総指揮はエリ・セルデン&ジュリー・ヨーン&ステファニー ・デイヴィス&サミュエル・L・ジャクソン、撮影はプーン・ハンサン、編集はデヴィッド・ウー、美術はアラン・マクドナルド、衣装は ケイト・カリン、音楽はヘッドリラズ、音楽監修はアビ・リーランド&ダン・ローズ。
出演はサミュエル・L・ジャクソン、ロバート・カーライル、ミートローフ、リス・エヴァンス、エミリー・モーティマー、ショーン・ パートウィー、リッキー・トムリンソン、ポール・バーバー、マイケル・スターク、スティーヴン・ウォルターズ、アンナ・キーヴニー、 クリストファー・ハンター、ジェームズ・ローチ、マーク・アンウォー、アンガス・マッキネス、ナイジェル・ウィットメイ、ジェイク・ エイブラハム、エイド、ニック・バートレット、ロバート・ファイフ他。


サミュエル・L・ジャクソンが製作総指揮に携わり、『チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁』のロニー・ユーが監督を務めた作品。
タイトルは「ケミカル・フィフティーワン」と読む。
「The 51st State」という原題は、ザ・リザードが終盤に言う「イギリスはアメリカの51番目の州だ」というセリフから来ている。
エルモをサミュエル・L・ジャクソン、フィーリクスをロバート・カーライル、ザ・リザードをミートローフ、イキをリス・エヴァンス、 ダコタをエミリー・モーティマー、ケインをショーン・パートウィー、デュラントをリッキー・トムリンソン、フレデリックをポール・ バーバー、アーサーをマイケル・スターク、ブロウフィッシュをスティーヴン・ウォルターズ、フェリックスの母シャーリーをアンナ・ キーヴニーが演じている。

サミュエル・L・ジャクソンはアフロのズラを被ってバンダナを締め、口ヒゲ&アゴヒゲという子門真人チックな風貌で登場する。
30年後になると、今度はキルトのスカートを履いて最後まで行動する。
そしてエピローグでは、城の庭で全裸になって叫ぶ。
別にサミュエル・L・ジャクソンがイメチェンを図ったわけではない。元々、彼は『ローデッド・ウェポン1』『パルプ・フィクション』『ディープ・ブルー』 などの出演暦で分かるように、バカ映画、バカな役柄が好きな、バカ魂の持ち主なのだ(と勝手に私は思っている)。

アクション・コメディー(クライム・コメディーかな)なので、笑いのネタは色々と用意されている。
フィーリクスはわざわざ寄り道してマンUサポを挑発するし、フレデリックは薬剤師を忘れてきちゃうし、基本的に出てくる奴らはみんな アホ。アーサーは拷問した後のデュラントを降ろせとケインに命じられ、一気にコンテナを降ろしたために殺してしまう。
デュラントはイボ痔持ちで、専用クッションを持った部下がウロチョロする。アーサーはケインがアーサーに「民族衣装を着ている奴が エルモだから尾行しろ」と言うと、民族衣装の男が何人も通過していく(肝心のエルモはキルトのスカート以外はゴルフルック)。
フィーリクスがフレデリックの早とちりに怒ってトランクを閉めようとすると、ローレンスの死体の手が引っ掛かって閉まらない。
そんな感じで、まあ色々とやっているが、今一つ弾け切れていない印象。

フィーリクスがアメリカ嫌いだという設定を使い、イギリスとアメリカのカルチャー・ギャップをネタにするという味付けもあるが、後半 に入ると消えている。
エルモとフィーリクスが少しずつ互いの主張に馴染んでいく、というわけではない。単純に、扱うことが無くなるだけだ。
2人の掛け合いの妙はそこにあるわけだから、そこの面白さもおのずと消える。
エルモとフィーリクスにダコタが絡んでくることで、本当ならば弾けっぷり、面白さがさらに増してもらわないと困るんだが、むしろ逆に なっているのも困りもの。フィーリクスとダコタのロマンスが絡むと、ジコチューの悪党だったエルモが2人のヨリを戻させようという 「いい人」になっちゃうのも萎える。
ダコタのキャラが比較的おとなしいのもマイナスだろう。シャーリーをもっと使ってやれば、そこのロマンスももう少し弾けてくれたように思うんだが。
勢いの良さ、テンポの良さ、ノリの良さを出そうという意識は、前半のカメラワークや音楽から伺える。
ただし話が進むに連れて、その意識は次第に薄れていったようだ。

この映画がキャラクター映画であることは明白だ。個性的なキャラクター、奇抜なキャラクターを多く揃え、キャラクターの面白さで 引っ張っていこうとする。ドラマよりもキャラクター優先ということで、小池一夫スタイルとでも言うべきだろうか(その解釈はたぶん 違うと思うぞ)。
ただ、本当ならば、「キャラクターが勝手に動いてしまう、そもそも決めてあった筋道を外れて暴走してしまう」という、枠を逸脱する 破天荒さが必要だったはずなのだ。
この作品は極端に言えば、「破綻してナンボ」みたいな映画だったと思うのだ。
いい意味で弾けまくり、ハチャメチャなパワーを爆裂させて欲しかった。
ところがロニー・ユー監督は、手堅くまとめてしまったようだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会