『X-ファイル:真実を求めて』:2008、アメリカ&カナダ

元FBI特別捜査官のダナ・スカリーは、現在は医師として働いていた。大病院に勤める彼女は、サンドホフ病の疑いがある少年患者のクリスチャンを担当していた。サンドホフ病は不治の病であり、治療法は発見されていない。そんなスカリーの元を、FBI特別捜査官のモズリー・ドラミーが訪ねて来た。フォックス・モルダーの居場所について問われたスカリーは、「もう同僚じゃないわ」と告げた。
ドラミーに「彼と連絡が取れたら、FBI捜査官の命を救うことが出来る」と言われたスカリーは、隠遁生活を送っているモルダーの元へ赴いた。スカリー以外の人間とは接触を断っているモルダーだが、現在でも超常現象に対する研究は続けていた。スカリーはモルダーに、捜査官1名が行方不明になっていること、FBIが「協力すれば殺人罪を取り下げ、過去は全て水に流す」と約束したことを話す。
スカリーは「霊能者を自称している重要な証言者が現れたの」と話すが、モルダーは「僕に濡れ衣を着せたんだぞ。謝罪すべきだ」と言い、協力に否定的な態度を見せる。しかし妹であるサマンサの写真を見つめた彼は、条件付きで協力することにした。モルダーとスカリーはワシントンのFBIビルへ赴き、支局長のホイットニーと対面した。FBIが捜索しているのはモニカ・バナンという捜査官で、もうすぐ失踪から3日が経過しようとしていた。
ホイットニーはモルダーたちに、「行方不明の直後、彼女の家から16キロ先で切断された腕を発見した」と告げた。腕の写真を見せられたスカリーは、「だけど、これは男の腕よ」と指摘する。「犯行現場と血痕と血液型が一致した?とモルダーが質問すると、ホイットニーは「犯行現場はガレージ。凶器も出たわ。そこからが行き詰まり」と述べた。霊能者はジョー・クリスマンという神父で、モニカ失踪の6時間後に現れて「彼女が生きているヴィジョンを見た」と証言したのだという。
「サイキックは科学者じゃない。僕なら神父に張り付くね」とモルダーが皮肉っぽく言うと、ホイットニーはジョーに小児性愛の前科があることを教えた。ホイットニーはモルダーとスカリーを車に乗せ、ジョーが暮らしている寮へ赴いた。そこは性犯罪者の寮で、彼ら自身が運営管理しているのだという。スカリーは性犯罪者であるジョーに攻撃的な態度を示し、霊能力も信じなかった。モルダーはジョーに犯行現場まで案内するよう頼んだが、スカリーは同行しなかった。
ホイットニーはジョーの力を信じておらず、霊能力をアピールして教皇への好感度を上げる作戦だと考えていた。モニカの家に到着すると、ジョーは庭で立ち止まり、「男が2人いて、1人が押さえ付けた。そして何かが付いたトラックに連れ戻した」と言う。しかし「彼女は苦しんでる」と口にしたものの、モニカの居場所についてホイットニーに訊かれると「分からない」と苦しそうに答えた。ドラミーは「良く言い当てたよ」と嫌味っぽく告げるが、モルダーはジョーの両目から血が流れているのを目撃した。
病院に戻ったスカリーは、クリスチャンから「男の人が怖い顔で僕を見てる」と言われる。スカリーはクリスチャンの資料を勝手に見ている管理部長のイバーラ神父に気付き、歩み寄って注意した。病院で大きな権限を持っているイバーラは「適切な治療が行われているか、この目で確かめたくてね。我々の仕事は延命治療ではない。彼は別の施設に移すべきだ」と告げた。シェリル・カニンガムという女性は屋内プールから来るまで帰宅する途中、トラックに激突された。運転手は停止した車のガラス窓を叩き割り、彼女を拉致した。
スカリーはモルダーにクリスチャンのことを話し、「根治治療があるけど、誰も口にしない。神の冷酷さを呪うわ」と口にした。彼女は切断された腕の薬物検査について思い出し、「妙な薬物反応があったわ。放射線治療に使う薬物と、動物用鎮静剤のアセプロマジンが検出された」と言う。モルダーはジョーが「犬が吠えていた」と話していたことを連想するが、スカリーは「彼は嘘つきよ。貴方は無理に信じようとしてる」と告げる。
モルダーとスカリーは、ホイットニーから呼び出しを受けた。ジョーは彼女たちを同じ場所に案内し、「遺体が見つかる」と言っていた。しかし捜索しても発見できないので、FBIは引き上げようとする。モルダーがジョーを信じようとするので、スカリーは「貴方は妹を助けるために協力してる。貴方はまだ妹を捜してるのよ。でも、もう救うことは出来ないのよ」と言う。しかしモルダーはスカリーを無視し、ジョーに付いて行く。「ここを掘って」とジョーが指示した場所をモルダーとFBIが掘ると、氷の下に女性の頭部があった。驚くスカリーに、ジョーは「諦めるな」と告げた。
シェリルは謎の施設に連行され、箱に閉じ込められていた。小窓から施設の中を覗いた彼女は、手術台に乗せられている男が血の涙を流すのを目にした。スカリーが病院の会議に赴くと、イバーラ神父は「クリスチャンをホスピスに移すことが決定した。彼の治療は不可能だ。君の同僚から反対意見は出なかった」と言う。次の議題に移ろうとするイバーラに、スカリーは「治療できます。幹細胞治療が有効です」と主張した。それは地獄のような苦しみを伴う治療だが、スカリーは「決断するのは管理部ではなく担当医です。不満なら、もっと上の人間と相談して下さい」と強硬な態度を取る。するとイバーラは冷淡な口調で、「神と相談した上での決断だ」と述べた。
モルダーはスカリーに電話を掛けるが、彼女は幹細胞治療に関する調査に没頭していた。モルダーは留守電に、発見されたのがモニカの頭部ではなかったこと、氷の下から11名の四肢が見つかったこと、何年も前から捨てられている可能性が高いこと、また動物用鎮静剤が検出されたことを吹き込んだ。ジョーはモルダーたちに、「女性が拉致されて箱らしき物の中に閉じ込められている」「モニカが一緒にいるかどうかは分からないが、犯人は同じ男たちだ」と彼は語る。
モルダーはホイットニーに、車と過去72時間の行方不明者のリストを用意するよう頼んだ。モルダーたちはシェリルの車が放置されている現場を調べ、彼女が利用していたプールへ向かった。一方、病院ではスカリーの主導でクリスチャンの治療が開始された。モルダーは病院を訪れ、別の女性が拉致されたこと、被害者は2人とも同じプールを利用していたことを話す。それだけではなく、2人の女性には「メディカル・ブレスレットをしている」「血液型はABマイナス」という共通点もあった。
モルダーとスカリーは、犯人が臓器売買のために女性たちを拉致したと推理した。犯人は医療関係者だと睨んだモルダーは、スカリーに協力を求める。だが、スカリーは「私は医者よ。もうFBIじゃない。貴方も私も不幸になるだけ。自分自身を見つめ直して。私には私の戦いがある」とモルダーに語った。スカリーはクリスチャンの両親から、治療の中止を要求される。2人はイバーラと話した結果、「もう息子を苦しめたくない。後は神に委ねる」と決めたのだという。スカリーは「治療の成果が出たら?決断が間違っていたら?」と問い掛け、2人を翻意させようとする。
シェリル誘拐犯のヤンケは、マナーズ・コロニアル病院から移植用の肝臓を運び出そうとしていた男は、リッチモンド地方検事局のコールと警官に呼び止められた。コールはヤンケに許可証の提示を要求し、違法な臓器搬送について質問した。スカリーはジョーの元を訪れ、「諦めるな」という言葉の意味を尋ねる。「分からない」という答えに、スカリーは苛立ちを示す。ジョーは「私は神に仕えたかった」と口にした後、発作を起こして小刻みに体が震え始めた。
一方謎の施設でも、手術台の患者が同様の発作を起こしていた。施設の面々がそちらに気を取られている隙に、シェリルは鍵の開いていた箱から逃げ出した。しかし外に出た途端、猛犬に襲われた。ジョーは救急車で搬送され、寮にやって来たモルダーはスカリーが彼と会っていたことに疑問を示す。ホイットニーはスカリーに、容疑者を見つけたことを話す。しかしヤンケには物証が無かったため、すぐに釈放されていた。
そこへドラミーの部下から、フランツという新たな容疑者の資料が送られてきた。彼ははヤンケの勤務していた会社の社長で、ジョーとは20年来の旧友だった。ジョーの被害に遭った37人の少年の1人がフランツで、マサチューセッツでヤンケと結婚していた。ドラミーたちはフランツの会社に乗り込み、無人のオフィスを調べる。外で待機していたモルダーとホイットニーはヤンケを発見し、逃亡する彼を追う。ドラミーはヤンケが置いていった臓器ボックスを開け、モニカの頭部を発見する。一方、ホイットニーはヤンケに突き落とされ、モルダーの眼前で命を落とした…。

監督はクリス・カーター、脚本&製作はフランク・スポトニッツ&クリス・カーター、製作総指揮はブレント・オコナー、撮影はビル・ロー、編集はリチャード・A・ハリス、美術はマーク・フリーボーン、衣装はリサ・トムチェスジン、音楽はマーク・スノウ。
出演はデヴィッド・ドゥカヴニー、ジリアン・アンダーソン、アマンダ・ピート、ビリー・コノリー、アルヴィン・“イグジビット”・ジョイナー、ミッチ・ピレッジ、カラム・キース・レニー、アダム・ゴドリー、ニッキー・エイコックス、アレックス・ディアカン、ファギン・ウッドコック、マルコ・ニッコリ、カーリー・ルシャインスキー、スペンサー・メイビー、ヴェロニカ・ハドラヴァ、デニス・クラスノゴロフ、パトリック・キーティング、ロジャー・ホーチョウ、スティーヴン・E・ミラー、ザンザ・ラドリー、ロレーナ・ゲイル、ドナヴォン・スティンソン、ディオン・ジョンストン、サラ=ジェーン・レドモンド他。


1993年から2002年までアメリカで放送されていたTVドラマ『X-ファイル』の劇場版第2作。
TVシリーズのクリエーターであるクリス・カーターが監督&脚本&製作を務めている。
モルダー役のデヴィッド・ドゥカヴニー、スカリー役のジリアン・アンダーソン、スキナー役のミッチ・ピレッジは、TVシリーズの出演者。
ホイットニーをアマンダ・ピート、ジョーをビリー・コノリー、ドラミーをアルヴィン・“イグジビット”・ジョイナー、イバーラをアダム・ゴドリー、シェリルをニッキー・エイコックスが演じている。

劇場版の第1作は1998年の公開で、まだTVシリーズが続いていた時期だった。
それに対して今回は、もうTVシリーズが終了してから6年も経過している。完全に出し遅れの証文であり、「今さら」感が強い。
それだけでも充分すぎるほどのマイナス要素だが、おまけに内容がすげえ地味。TV映画で良かったんじゃないのかと。
っていうか、6年も経ってから映画を作って、この地味な内容って、どういうつもりなのかと。

この映画、UMAもUFOも登場せず、異星人が事件を起こすことも無い。
モルダーたちが政府の陰謀を調査したり巻き込まれたりすることも無い。スケールの大きな超常現象は何も起きない。
「ジョーが超能力を持っているかも」という部分に、超常現象の要素がわずかに盛り込まれている程度。
「この映画で描かれる事件って、元X-ファイル課が乗り出す必要も無いんじゃないか」と思えてしまう。

ひょっとするとクリス・カーターとしては、「原点回帰」を意識したのかもしれない。
TVシリーズは異星人を巡る政府の陰謀がどんどん大きくなり、SFとしての要素が色濃くなっていった。しかし当初は「身の周りで起きている超常現象絡みの事件を解くミステリー」という色が強かったはずで(ワシはTVシリーズを途中までしか見てないけど)。
だから、そこに戻ろうということだったのかもしれない。
モルダーとスカリーを「簡単に超常現象を信じる人」と「懐疑的な人」という関係性にしているのも、原点回帰が狙いなんだろう。

しかし、TVシリーズでスケールを大きくしてしまった後、映画版でスケールの小さい地味な話をやると、「スケール・ダウン」という印象にしか繋がらない。
原理主義的な考えを持つ一部のコアなファンにしか、その原点回帰は理解されないのではないか。
それはまるで、TVシリーズでは忍者同士の戦いをやって最終的には宇宙の支配を企む敵との戦いに発展しておきながら、映画版では忍者設定を排除してクーデターを企む学生連中と戦った『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』みたいなモンでしょ(その例えは分かりにくいわ)。

まず根本的な疑問として、「なぜ冒頭シーンで、モニカが2人の男に襲われるシーンを見せちゃったのか」ということがある。
それを描写したことによって、「モニカの拉致は人間の仕業であり、そこに超常現象は何も介入していない」ということが分かってしまう。
それだけでも、観客の興味を幾らか減退させてしまうことに繋がる。
ただ、そもそも「事件に超常現象が絡んでいるか」という部分については、最初から完全に放棄しているんだよね。

この映画では「ジョーの霊能力は本物なのか」という部分にしか、超常現象に関するミステリーを設定していない。
だけど、繰り返しになるが、「何故そんな地味な内容にしちっゃたのか」と言いたくなる。
「モニカは異星人に誘拐されたかもしれない」とか、「誘拐されたのではなく超常現象によって姿を消したのかもしれない」とか、「政府の陰謀が絡んでいるのかもしれない」とか、そういう方向でミステリーを転がして行った方がいいんじゃないかと思うんだよなあ。

これまた繰り返しになるが、「人間による犯行が明らかにされている拉致事件」であるならば、元X-ファイル課が乗り出す必要は無いんじゃないかと思うのよ。
「超常現象の絡む事件を捜査する」ではなく、「通常の拉致事件を捜査するのに超常現象を利用する」ってのは、X-ファイル課の仕事じゃないでしょ。そもそもジョーの霊能力に頼らずに捜査すればいいだけだし。
それと、モニカだけでなく、次なる拉致事件も描かれていて、そこで緊張感を盛り上げているけど、それって普通の刑事ドラマとしてのサスペンスでしょ。
超常現象とは無関係な部分で緊張感が盛り上がるって、なんか違うんじゃないかと。

っていうかさ、もはや超常現象という要素を、そんなに重視していないように思えるんだよね。それよりも、この映画は宗教や信仰に重きを置いている。特にスカリーの方は、「超常現象を信じるか否か」という部分での揺れ動きじゃなくて、信仰に関わる部分で気持ちが揺れ動いている。
だけど、それって『X-ファイル』でやることなのかねえ。
いや、これがTVシリーズの一篇として作られているのなら、そういう話が混じってもいいとは思うのよ。だけど劇場版として作っている以上、やはり『X-ファイル』の核となる部分、たぶんファンが期待している話ってのをやるべきで、それは異星人絡みの話じゃないかと思うんだけどなあ。
宗教や信仰のエピソードをやりたいのなら、それは『ミレニアム』の特別版か何かでやればいいんじゃないかと思うぞ。

それに、実はスカリーって誘拐事件の解決に関して、何もしていないんだよね。
彼女はクリスチャンの治療に没頭しており、モルダーを事件に巻き込んだ後は、ほぼノータッチだ。そんで誘拐事件とは無関係な「クリスチャンの治療で苦悩する」というドラマが用意されている。
そちらにもジョーという男が絡んで来るので、誘拐事件と完全に接点が無くなるわけではないが、でも随分と遠い。
スカリーがいなくても誘拐事件の方は解決に至ってしまうし、「ひょっとしてスカリーって要らなくねえか」とさえ思っちゃう。

じゃあモルダーの方はどうなのかというと、ジョーを妄信する彼がバカチンにしか見えないという問題があったりするのだった。
それに、実はジョーがいなくても解決に至っているんじゃないのか、この事件って。
あと、37人の少年を毒牙に掛けて来た醜悪な犯罪者が、捜査に協力したりスカリーに「諦めるな」と告げたりして、それでモルダーとスカリーが救われても、スッキリした気持ちにならないし。
「死ぬ間際になって改心したからって、テメエの罪は消えねえし、感謝したくもねえよ」と言いたくなる。

(観賞日:2014年1月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会