『X-MEN:ファイナル ディシジョン』:2006、アメリカ&イギリス

ジーン・グレイの死から20年前。まだ同胞だったプロフェッサーXとマグニートーは、少女時代のジーン・グレイを“恵まれし者の学園” に勧誘するため、彼女の家を訪れた。普通なら生徒の勧誘に出向くことなど有り得ないのだが、ジーン・グレイは特別だった。それだけ 驚異的な能力を持っていたのだ。両親はジーン・グレイの能力を、病気だと考えていた。
プロフェッサーXはジーン・グレイに、彼女がミュータントであることを教えた。ジーン・グレイは外の通りにある車を浮遊させ、能力の 一端を見せた。彼女は底知れぬ能力の持ち主だったが、まだコントロールする術を知らなかった。10年前、ウォーレン・ワージントンの 息子・ワージントン三世は、風呂場に閉じ篭もっていた。父親がドアを開けるよう求めても、なかなか開けようとしない。父親が強引に ドアを開けると、息子は背中から生えた翼をハサミで切り落としていた。
それから10年後、そう遠くない未来。ウルヴァリンはストームやアイスマン、シャドウキャット、コロッサスと共に防御訓練を行った。 本来はサイクロップスがリーダーを務めるのだが、彼が恋人ジーン・グレイを失って塞ぎ込んでいるため、ウルヴァリンが代理で務めた。 ローグはアイスマンと交際中だが、能力のせいで彼に触れられず、そのことで関係はギクシャクしていた。
ミュータント省の長官に就任したヘンリー・マッコイは、政府の幹部会議に出席した。会議では、トラスク局長に化けて食品医薬局に侵入 したミスティークを拘束したことが報告された。ミスティークは逃げられないよう、移動式刑務所に収容されているという。ミスティーク が盗もうとした物として、大統領はマッコイにリーチという少年のデータを見せた。彼はワージントン研究所にいるミュータントだ。 大統領はマッコイに重大な事実を告げ、ミュータントの説得を依頼した。
“恵まれし者の学園”では、プロフェッサーXがモイラ・マクタガート博士から送られてきた映像を見せ、シャドウキャットやジョーンズ たちに授業を行っていた。授業の後、彼はストームに、自分の後継者として考えていることを告げた。そこへマッコイが訪れ、製薬会社が ミュータントの抗体を開発したことを告げた。それはキュアと名付けられた薬品だった。
アルカトラズ島にあるワージントン研究所では、キュアに関する記者発表が開かれた。その薬には、ミュータントの能力を打ち消す効果が あるという。ワージントン所長は、それを病気の治療薬だと説明した。この会見を受けて、ミュータントの決起集会が開かれた。そこに 参加したマグニートーは、ミュータントを滅ぼそうとする人間に対し、ブラザーフッドに入って戦うよう呼び掛けた。
マグニートーの誘いに応じ、カリストやアークライト、キッド・オメガなどがブラザーフッドに加入した。カリストには、ミュータントの 居場所と能力を察知する能力があった。マグニートーは、一人のミュータントの捜索を彼女に頼んだ。マッコイはワージントン研究所を 訪れ、カヴィタ・ラオ博士の案内でリーチと面会した。彼に近付いただけで、普段は獣化しているマッコイの皮膚が人間の肌に変化した。 彼から遠ざかると、再び元通りになった。キュアは、リーチの遺伝子を使って開発されたものだった。
サイクロップスはジーン・グレイが死んだアルカリ湖を訪れた。すると、湖の中からジーン・グレイが出現した。彼女は、サングラスを 外したサイクロップスの目を見ても平気だった。サイクロップスはジーン・グレイとキスをするが、彼女の異変には気付かなかった。湖の 異変を察知したプロフェッサーXは、ウルヴァリンとストームを差し向けた。2人が湖に到着するとサイクロップスの姿は無く、彼の サングラスが空中を漂っていた。ジーン・グレイが倒れているのを発見した2人は、彼女を連れ帰った。
プロフェッサーXはウルヴァリンに、ジーン・グレイの潜在能力が底知れないこと、そのパワーを切り離した結果として2つの人格が 生まれたことを話した。無意識の領域に潜む別人格が、自らをフェニックスと名乗っていたことを彼は明かした。今の人格が、どちらかは 分からないという。ワージントン所長はキュアの投薬第一号として、息子を選んだ。しかしワージントン三世は直前になって拒絶し、 背中の翼を広げた。彼はミュータント“エンジェル”の姿になり、空を飛んで姿を消した。
マグニートーとブラザーフッドの面々は、カリストの能力によってミスティークが収監されている刑務所トラックを発見した。彼らは トラックを襲撃し、ミスティークを檻から出した。さらに彼らは、一緒に収監されていたジャガーノート、マルチプルマンという2人の ミュータントも仲間に加えた。ミスティークは、薬の根源がワージントン研究所にいる少年だと報告した。その時、倒れていた警官が キュア銃を発射した。マグニートーを庇ったミスティークはキュアを注射され、人間になった。マグニートーは、ミュータント能力を 失った彼女を見捨てて立ち去った。
ウルヴァリンが見守る中、ジーン・グレイは治療室で意識を取り戻した。ジーン・グレイは積極的に体を求めたが、ウルヴァリンは異常を 感じて離れた。サイクロップスのことを尋ねると、ジーン・グレイは苦しそうな表情を示し、「殺して」と囁く。ウルヴァリンが困惑して いると、ジーン・グレイは恐ろしい形相に変貌した。彼女はウルヴァリンを弾き飛ばし、逃走した。一方、カリストはマグニートーに、彼 を超える能力を持ったミュータントの存在を感知したことを報告した。
プロフェッサーXはジーン・グレイを救うため、ウルヴァリンとストームを伴って彼女の生家を訪れた。すると、マグニートーがパイロや カリストたちを引き連れて現れた。プロフェッサーXとマグニートーは同行者を外に残し、ジーン・グレイと面会する。プロフェッサーXは 「救いに来た」と告げるが、マグニートーは「優れた力を抑える必要は無い」とそそのかす。ジーン・グレイは強い念動力を発揮し、 プロフェッサーXの肉体を崩壊させた。マグニートーはジーン・グレイを連れて、その場を去った。
“恵まれし者の学園”では、プロフェッサーXの葬儀が行われた。ショックで塞ぎ込むシャドウキャットを、アイスマンは慰めた。その 様子を見ていたローグは、ウルヴァリンに「私だって人と触れ合いたい」と言い残して学園を去った。エンジェルは身の安全のため、学園 に現れた。悲しみに暮れていたストームだが、皆の前で「学園を続ける」と宣言した。
マグニートーはパイロを差し向け、政府へのテロ攻撃を行った。マグニートーはテレビ放送をジャックし、「今回の攻撃は戦いの始まりに 過ぎない。ミュータント諸君は仲間に入るか、さもなくば邪魔をするな」と告げた。大統領は、ワージントン研究所を閉鎖し、キュア兵器 で武装した部隊を配備するよう命令を下した。ローグはキュアを打つため、ミュータントの治療場所を訪れた。
ウルヴァリンはジーン・グレイを連れ戻すため、ブラザーフッドが集まっている森へ向かった。彼は見張りのスパイクを倒し、集会に潜入 した。マグニートーはミュータントの軍隊を組織し、「アルカトラズ島へ乗り込もう」と熱弁を振るった。ジーン・グレイが一人になる のを見たウルヴァリンは、後を追った。そこへマグニートーが現れ、「彼女は自分で望んで、ここへ来たのだ」と告げる。ウルヴァリンは ジーン・グレイを連れ戻そうとするが、マグニートーに弾き飛ばされた。
政府はミスティークの密告により、ブラザーフッドが集まる森を発見した。大勢のミュータントの存在を感知した大統領は、攻撃命令を 出した。だが、それはマルチプルマンが分身能力で作り出した囮だった。その間にマグニートーとブラザーフッドは、ゴールデン・ゲート ・ブリッジに到着していた。マグニートーは橋を切断して捻じ曲げ、アルカトラズ島へ渡る道を作った…。

監督はブレット・ラトナー、脚本はサイモン・キンバーグ&ザック・ペン、製作はアヴィ・アラッド&ローレン・シュラー・ドナー& ラルフ・ウィンター、共同製作はリー・クリアリー&ロス・ファンガー&ジェームズ・M・フレイタグ&カート・ウィリアムズ、製作協力 はデヴィッド・ゴーダー、製作総指揮はケヴィン・フェイグ&スタン・リー&ジョン・パレルモ、撮影はダンテ・スピノッティー、編集は マーク・ゴールドブラット&マーク・ヘルフリッチ&ジュリア・ウォン、美術はエド・ヴァリュー、衣装はジュディアナ・マコフスキー、 音楽はジョン・パウエル。
出演はヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー ストーム、イアン・マッケラン、パトリック・スチュワート、ファムケ・ヤンセン、アンナ・ パキン、ケルシー・グラマー、ジェームズ・マースデン、レベッカ・ローミン、ショーン・アシュモア、アーロン・スタンフォード、 ヴィニー・ジョーンズ、エレン・ペイジ、ダニエル・カドモア、ベン・フォスター、マイケル・マーフィー、ダニア・ラミレス、ショーレ ・アグダシュルー、ジョセフ・ソマー、ビル・デューク、エリック・デイン他。


人気のアメコミを基にした3部作のラスト。
前作まではブライアン・シンガーが監督を務めており、この3作目も彼が撮る予定だった。
しかしブライアン・シンガーは、なかなか監督が決まらなかった『スーパーマン リターンズ』のオファーを受け、こちらを制作途中で 降板した。
そのため、20世紀フォックスは慌てて後任探しに奔走し、“ラッシュ・アワー”シリーズのブレット・ラトナーを招聘した。

ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマン、ストームのハル・ベリー、マグニートーのイアン・ マッケラン、プロフェッサーXのパトリック・スチュワート、ジーン・グレイのファムケ・ヤンセン、ローグのアンナ・パキン、 サイクロップスのジェームズ・マースデン、ミスティークのレベッカ・ローミン、アイスマンのショーン・アシュモアは、1作目から 通しての出演となる。
パイロのアーロン・スタンフォード、コロッサスのダニエル・カドモアは、前作から引き続いての登場。パイロはキャラとしては 1作目から登場しているが、アーロン・スタンフォードが演じたのは2作目から。同じようなことは、マッコイとシャドウキャットにも 起きている。キャラとしては、マッコイは2作目、シャドウキャットは1作目から登場していたが、演じる俳優がそれぞれケルシー・ グラマーとエレン・ペイジに変更されている。
今回から登場する面々は、ジャガーノート役のヴィニー・ジョーンズ、エンジェル役のベン・フォスター、ワージントン役のマイケル・ マーフィー、カリスト役のダニア・ラミレス、カヴィタ・ラオ博士役のショーレ・アグダシュルー、大統領役のジョセフ・ソマー、 トラスク局長役のビル・デューク、マルチプルマン役のエリック・デインなど。

まず気になったのは邦題のサブタイトル。
なぜ原題のサブタイトルをカタカナ表記にした「ラスト・スタンド」じゃなくて、勝手に決めた別の英語に変更したんだろう。
例えば原題が難しいので、日本人でも理解しやすい英語にするというのなら、まだ分からないでもない。
でも、「ディシジョン」って、あまり馴染み深い英語じゃないでしょ。
「ラスト・スタンド」の方が、「スタンド」が「抵抗」の意味で使われていることは分からなくても、言葉としては馴染みがあるでしょ。

1・2作目から引き続いて登場するキャラクターだけでも、かなり多いのに、さらに新しいキャラクターを投入している。
そのくせ、上映時間はシリーズ最短となる105分。
当然ではあるが、旧キャラも新キャラも、総じて扱いが薄くなっている。それぞれのキャラが抱える物語、キャラが交差するドラマなんて 、まるで描かれず、ただ目の前にある出来事を事務的に片付けていくだけだ。
登場人物は、ただの人形に過ぎない。「質より量」という考え方なのか、キャラの数と種類を増やして、そいつらを戦わせることで時間を 埋める。最初から最後まで、ずっとダイジェストっぽい感じになっている。
ブライアン・シンガーが撮った1・2作目の出来映えが秀逸だったとは思わないが、でもブレット・ラトナーの本作品に比べれば遥かに 良かった。

ブレット・ラトナーにも同情の余地が無いわけではない。
ブライアン・シンガーが急に降板してしまい、彼が最終作に残した問題の後始末を全てさせられるハメになったという事情はある。
伏線を張る部分は他人がやっていたのに、それを回収する役目はやらなきゃいけないって大変だぜ。話を広げるだけ広げておいて、「後は 知らない」という状態になっているんだから。
ただし、そういう事情を鑑みても、やはり「目の前の皿を空にすることに精一杯で、慌ただしく口に入れたので消化不良」という内容に 納得は出来ないが。

Xメンのリーダーであるサイクロップスは、1作目でも2作目でも扱いが悪かった。
しかし何しろリーダーなのだから、最終作では彼に活躍の場を与えるのだろうと思っていたら、あっさりとフェニックスに殺されて出番を 終えた。
最後まで、まるで活躍しなかった。
ただしサイクロップスに関しては、演じるジェームズ・マースデンをブライアン・シンガーが『スーパーマン リターンズ』に重要キャラ として引っ張ったため、ほとんど撮影スケジュールが取れなかったという事情があるらしい。

でも、薄っぺらいのはサイクロップスだけじゃない。
Xメンの指導者であるプロフェッサーXは、あっさり砕け散る。
ストームは学園の後継者という重要ポストを担うことになるが、本人に関わるエピソードは何も無いので存在感は薄い。
マグニートーは、ラストバトルであっさりキュアを注射されて能力を失う。
前作まではブラザーフッドのサブリーダー的な役割を果たしていたミスティークは、警官の発砲にブラザーフッドの面々が誰も気付かない という、ややミュータントにしては間の抜けたシーンでマグニートーを庇い、能力を失って、あっさり見捨てられる。その後は、政府への 密告シーンでチラッと顔を出すだけ。

ジーン・グレイは、目覚めた直後に「殺して」とウルヴァリンに囁くところで心の揺らぎを示すものの、それ以降は完全にフェニックスに なっている。
2つの人格の狭間で苦悩・葛藤することは無い。
というか、ほぼ無表情でロボット状態。
エンジェルは、少年時代は自分で翼を切り落とすぐらい、ミュータントであることを嫌がっていた。
しかし青年になった彼は、キュアによる治療は拒絶する。
ということは、今度は人間になることを嫌っている。
ならば、そこまでには心の変遷があったはずだが、そんなものは全く描かれない。

ローグは1作目ではキーパーソンのように登場したものの、2作目ではすっかり存在感が薄れており、3作目でも扱いは小さい。
キュアの開発を受けて「それを使うか否か」で彼女が迷うドラマも無い。簡単に治療を決めて、あっさりと学園を去る。
ローグがキュアを使おうとすることにアイスマンが反対するとか、そこで三角関係のドラマがあるとか、そんな広がりは無い。
っていうか、そもそも映画全体を通して、キュアは重要なアイテムとして使われていない。Xメン側でもブラザーフッド側でも、キュアの 登場による揺らぎや迷いなんて微塵も無いのだ。
迷わずに使用を決めたローグを除くと、誰一人としてキュアの使用に興味を示さない。
キュアなんて放置しておいて、ジーン・グレイとリーチを巡る攻防戦になっている。

前作の終盤でXメンの一員だったパイロがブラザーフッドに寝返ったので、それが今回の物語における軸になるのかと思っていたら、 そんなことは全く無い。
パイロは、単なるマドニートーの子分という存在に留まっている。
かつての仲間との友情とマグニートーへの忠誠でパイロが揺れることも無ければ、Xメンがパイロと戦うことに苦悩することも無い。
アイスマンとパイロの、かつての親友の対決も、ただ敵意を向け合うだけであり、複雑な心情の揺れ動き、愛憎のぶつかり合いは全く 無い。

このシリーズにおいてはウルヴァリンが主役に据えられていたはずだが、この最終作に来て「主役なんて誰もいない」という状態になって いる。
まあ「ピンじゃなくてXメンという集団が主役」と解釈すれば、それも納得できないわけではない。
ただ、前作でウルヴァリンが自分の過去を探る行動を開始していたのに、この最終作では全く触れられないってのは、いかがなものか。
過去が解き明かされないというのも問題だが、それ以前に、ウルヴァリンに過去を探ろうとする意識が全く無いのだ。

前作まではチョイ役だったシャドウキャットが、何の伏線も無く、いきなり主要グループの一人に格上げされている。
そして、ローグと交際しているアイスマンとのロマンスめいたモノまで用意されている。
「チョイ役を大きく扱うより先に、今までのキャラにおける未解決の問題を全て片付けろ」と言いたくなる。
ただし、オバサン化してしまったアンナ・パキンよりは、エレン・ペイジをえこひいきしたくなる気持ちも、まあ分からないでは ないんだが。

終盤に入ってフェニックスが暴走し、Xメンとブラザーフッドの戦いは決着が付かないまま、どっちも退却せざるを得なく なっている。。
で、ウルヴァリンが「止められるのは俺だけだ」と思い上がった発言をして、実際にフェニックスの暴走を止めてしまう。。
ジーン・グレイってサイクロップスの恋人だったのに、完全にウルヴァリンと恋仲の扱いになってんのね。。
っていうか、それまで全く動かず傍観していたキャラが急にパワーを爆発させ、それをウルヴァリンが止めて終わりって、何だよ、それ。。
何も終わってないでしょ。ブラザーフッドは、まだ存続しているわけだし。。
「まだ続編を作ろう」という意識が強く働いたのか。。
まあ、そういうことなんだろうな。それはマーベル・コミックお得意のやり方だもんな。

(観賞日:2009年1月21日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(女性)】部門[アンナ・パキン]

 

*ポンコツ映画愛護協会