『X-MEN:フューチャー&パスト』:2014、アメリカ&イギリス

未来のニューヨーク。戦争によって街は荒廃し、ミュータントと彼らを助ける人間は苦しい日々を余儀なくされていた。センチネルと呼ばれるロボット軍隊がモスクワに出現し、地下に潜んでいたミュータントのキティー・プライドやアイスマン、ブリンク、サンスポットたちが襲撃される。彼らは必死に反撃するが、まるで歯が立たなかった。中国へ避難した一行は、プロフェッサーX、マグニートー、ウルヴァリン、ストームたちと合流した。
プロフェッサーXは一行に、センチネル計画がトラスク博士の考案であることを話す。1970年代の優秀な武器設計者だったトラスクは、密かにミュータントの研究を開始した。それに気付いたミスティークは、1973年のパリ協定でトラスクを抹殺した。だが、それによってセンチネル計画の重要性を悟った政府がミスティークを捕まえて拷問し、実験によって変身の秘密を突き止めた。政府は対ミュータント兵器のセンチネルを生み出し、現在の状況を招いてしまったのだ。
プロフェッサーXは1973年へ戻ってミスティークを救い出し、センチネル計画を阻止したいと考えていた。しかしキティーの能力を使ったとしても、何十年も前に精神を飛ばすと壊れる可能性が高かった。そこで再生能力を持つウルヴァリンが名乗りを挙げ、過去に戻ってからの行動についてプロフェッサーXに尋ねる。プロフェッサーXは1973年の自分がテレパス能力を失っていたことを語り、「私を見つけて納得させるのだ」と指示した。マグニートーは「私も見つけるのだ」と言うが、どこにいるのかは分からなかった。
過去に戻ったウルヴァリンは、ベッドで目を覚ました。隣にはグエンという女が寝ており、そこへ犯罪組織の男たちが乗り込んで来た。グエンはボスの娘であり、ウルヴァリンは詰め寄られる。事情を説明しても分かってもらえないので、彼は一味を始末して立ち去る。同じ頃、トラスクは政府の閣僚会議に出席し、ミュータントの危険性について語っていた。政府はセンチネル計画を否定するが、トラスクは独自で実験を進めていた。
サイゴンではミュータント兵士たちの血液が採取され、トラスクに送られていた。用済みとなったミュータント兵士は始末される手はずになっていたが、ミスティークがトラスクの配下たちを倒して救出した。ウルヴァリンは“恵まれし子らの学園”を訪れるが、施設は閉鎖されていた。ウルヴァリンは留守を預かっているビーストと会うが、追い払われそうになる。強引に建物の中へ入ったウルヴァリンはプロフェッサーXを見つけ、事情を説明する。ウルヴァリンはプロフェッサーXの秘密を語り、彼を信用させた。
ウルヴァリンから協力を要請されたプロフェッサーXは、「レイヴンは私の話を聞かない」と言う。ウルヴァリンはマグニートーも必要だと話し、やさぐれた態度を示すプロフェッサーXを説教した。しかしプロフェッサーXは耳を貸さず、ビーストが「彼は何もかも失った。戦争が悪化して多くの教師と生徒が徴兵され、自分の殻に閉じ篭もった」とウルヴァリンに話す。ビーストは脊髄を治療する薬を発明したが、プロフェッサーXは過剰投与で能力を失っていた。
レイヴンのことを回想したプロフェッサーXは協力を承諾し、マグニートーがケネディー大統領暗殺の罪によってペンタゴンの地下にある特殊房に収監されていることを教えた。ミスティークはトラスクに化けて彼のオフィスに潜入し、仲間が実験台として酷い目に遭っている証拠写真を目にした。ウルヴァリンは特殊房に潜入するため、超高速移動の能力を持つクイックシルバーと接触した。ウルヴァリンたちはツアー客に紛れてペンタゴンに入り込み、マグニートーを脱獄させた。
ウルヴァリンたちはクイックシルバーと別れ、飛行機でパリに向かった。マグニートーはプロフェッサーXから非難され、「仲間は次々に死んだ。お前は何をしていた?全員を見捨てたんだ」と声を荒らげた。彼はケネディー暗殺が冤罪だとプロフェッサーXに明かし、彼もミュータントだったから救おうとしたのだと語った。会議に出席したトラスクはセンチネル計画について説明する。彼がミュータントの遺伝子を見分ける装置を持参していたため、ベトナムの将軍に化けていたミスティークの正体が露呈した。
ミスティークが軍人のストライカーたちと戦っていると、ウルヴァリンたちが駆け付けた。スタンガンを浴びて倒れたストライカーを見たウルヴァリンは、トラウマで動けなくなった。マグニートーは「君がいる限り、我々は無事でいられない」とミスティークに言い、射殺しようとする。咄嗟にビーストが彼を突き飛ばし、その隙にミスティークは窓を破って逃亡を図る。マグニートーはハンクを叩きのめし、大勢の野次馬に目撃されたミスティークを捕まえようとする。
ビーストが駆け付けてマグニートーに襲い掛かり、ミスティークは逃走した。マグニートーはビーストを拘束し、その場から立ち去った。プロフェッサーXは混乱したウルヴァリンを落ち着かせ、会場から抜け出した。ミュータントの存在が明らかになったことで、ニクソン大統領はトラスクの説明を受け入れ、センチネル計画の推進を承認したトラスクはセンチネルのプロトタイプ8体が既に開発済みであることを明かし、研究材料としてミスティークを捕獲するための協力を要請した。
ミスティークはマグニートーを見つけ出し、怒りを示して詰め寄った。マグニートーは事情を説明した後、「もう君を殺す必要は無い。彼らは君が道路に落とした血液からDNAを採取した」と語る。ミスティークはマグニートーの説得に応じず、姿を消した。ウルヴァリンは「レイヴンを見つけるのに、貴方の能力が必要だ」とプロフェッサーXに告げ、薬を我慢するよう頼んだ。プロフェッサーXは久々にセレブロを使うが、レイヴンの居場所を見つけられない。セレブロが故障してしまい、プロフェッサーXは「私には無理だ」と弱音を吐く。するとウルヴァリンは自分の心を覗かせ、未来のプロフェッサーXと対面させる…。

監督はブライアン・シンガー、原案はジェーン・ゴールドマン&サイモン・キンバーグ&マシュー・ヴォーン、脚本はサイモン・キンバーグ、製作はローレン・シュラー・ドナー&ブライアン・シンガー&サイモン・キンバーグ&ハッチ・パーカー、共同製作はジェイソン・テイラー、製作総指揮はスタン・リー&トッド・ハロウェル&ジョシュ・マクラグレン、製作協力はトム・コーエン&デレク・ホフマン&キャスリーン・マッギル、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、美術はジョン・マイヤー、編集はジョン・オットマン、共同編集はマイケル・ルイス・ヒル、衣装はルイーズ・ミンゲンバック、視覚効果監修はリチャード・スタマーズ、音楽はジョン・オットマン。
出演はヒュー・ジャックマン、ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンス、ハル・ベリー、イアン・マッケラン、パトリック・スチュワート、ニコラス・ホルト、アンナ・パキン、エレン・ペイジ、ピーター・ディンクレイジ、ショーン・アシュモア、オマール・シー、エヴァン・ピーターズ、ジョシュ・ヘルマン、ダニエル・クドモア、ファン・ビンビン、エイダン・カント、ブーブー・スチュワート、ファムケ・ヤンセン、ジェームズ・マースデン、ルーカス・ティル、エヴァン・ジョニカイト、マーク・カマチョ、アレクサンダー・フェリーチ、ヤン・ゲルステ他。


『X-メン』から『X-MEN:ファイナル ディシジョン』までの3部作の前日譚である『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の続編。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』をシリーズ4作目、『ウルヴァリン:SAMURAI』を6作目と数えると、7作目に当たる。
『X-メン』『X-MEN2』のブライアン・シンガーが監督に復帰し、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』のサイモン・キンバーグが脚本を務めている。
ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンは、アンクレジットでの出演だった前作を含め、キャストで唯一のシリーズ皆勤賞。エグゼビア(若年期)役のジェームズ・マカヴォイ、マグニートー(若年期)役のマイケル・ファスベンダー、ミスティーク役のジェニファー・ローレンス、ビースト(若年期)役のニコラス・ホルト、ハヴォック役のルーカス・ティルは、前作からの続投。ストーム役のハル・ベリーは、初期3部作からの復帰。マグニートー(老年期)役のイアン・マッケランとエグゼビア(老年期)役のパトリック・スチュワート、ジーン役のファムケ・ヤンセンは、初期3部作と『SAMURAI』に続いての出演。
ローグ役のアンナ・パキン、アイスマン役のショーン・アシュモア、サイクロプス役のジェームズ・マースデンは、初期3部作からの復帰。キティー役のエレン・ペイジは、3作目に続いての出演。コロッサス役のダニエル・クドモアは、2作目と3作目に続いての登場。
アンクレジットだが、ビースト(老年期)役のケルシー・グラマーは3作目からの復帰。他に、トラスクをピーター・ディンクレイジ、ビショップをオマール・シー、クイックシルヴァーをエヴァン・ピーターズ、ストライカーをジョシュ・ヘルマン、ブリンクをファン・ビンビン、サンスポットをエイダン・カント、ウォーパスをブーブー・スチュワートが演じている。

まず確実に言えることは、一見さんでは絶対に付いて行けないってことだ。
いきなり本作品から観賞する人は少ないと思うが、そういう気持ちになった場合は「やめておきなさい」と忠告しておく。それは果敢な挑戦ではなく愚かな過ちであり、もはや「この映画を充分に楽しめるかどうか」というレベルではない。
シリーズ作品の中には、「前作を見ていなくても、それなりに把握できる」というケースもある。
でも、この映画は、今までのシリーズを見ていないと何が何やらワケが分からないまま終わってしまうこと請け合いだ。

少なくとも、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』と『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』は事前に見ておく必要がある。
しかも、「その2作なら前に見ているから大丈夫」と安心していたら、それは大間違いだ。単に「見たことがある」というだけでは不充分で、「ちゃんと内容を記憶している」ってことが要求される。
そこで使われていたキャラクターが再登場したり、設定が持ち込まれたりしているからだ。
それを覚えていないと、「こいつは誰だっけ?」「こいつは何を言っているんだ?」と考え込む羽目になる。
そして幾ら考えても、覚えていなかったら答えは出て来ない。

だから『X-MEN:ファイナル ディシジョン』と『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』を覚えていなければ、事前に復習しておいた方が賢明だ。
ただし、この映画が恐ろしいのは、その2本の知識を必要としておきながら、一方で「無かったこと」にしてしまうという大胆な方針だ。
ブライアン・シンガーは自らが監督していない2本を黒歴史にしたかったのか、あるいは自分が演出する上で邪魔だと感じたのか、その2本の設定を全てチャラにしてしまうシナリオを用意したのである。

このシリーズは何本も作られる中で、どんどん矛盾点が増えて来た。何しろ色々と細かい設定があるし、複雑に入り組んだ人間関係があるし、その関係性は作品ごとに変化するので、その全てを綺麗に整理するのは簡単じゃない。
全てを1人の監督が担当していれば、続編が作られる度に少しずつ辻褄を合わせる作業が行われたのかもしれない。
しかし、途中で監督が交代しているので、ブライアン・シンガーが第2作までにイメージしていた流れとは違う形になっているはずだ。
そこの細かい擦り合わせは、もちろん無いわけで。

『X-MEN:ファイナル ディシジョン』の時は、急に降板したブライアン・シンガーの後始末をブレット・ラトナーが試みたが、他人が張った伏線なので回収方法が分からず、残念なことになってしまった。
今度はブライアン・シンガーが後片付けをする役回りを担当することになったわけだが、彼は「どうせ矛盾点を全て修正するのは無理」と開き直ったようだ。
そこで「全て無かったことにすれば、矛盾点も消えるじゃん」という、かなり荒っぽい方法を採用した。

っていうか、最終的には全てを無かったことにしてしまうけど、そこまでは本作品の中にも色々と引っ掛かる点がある。
プロフェッサーXは『ファイナル ディシジョン』で死亡し、脳死状態の患者に意識を移していたが、未来の世界では何事も無かったかのように生きている。同じ作品でマグニートーは能力を失ったはずなのに、こちらも未来の世界では普通に能力を持っている設定だ。
ウルヴァリンの爪は『ウルヴァリン:SAMURAI』で骨製になったはずだが、未来の世界ではアダマンチウム製に戻っている。
あと、最終的にローグやジーン・グレイ、サイクロプスが復活したのは大歓迎だけど、「センチネル計画と関係なくね?」とは思っちゃうぞ。

センチネルがミュータントを全滅させようとしている未来から話が始まるので、「いや前作からの繋がりは?」と困惑してしまう。
しかも、時代が大きく離れただけでなく、プロフェッサーXとマグニートーが何食わぬ顔で共闘しているのだ。
前作では仲間だった2人が考えの相違から袂を分かつまでの経緯が描かれていたわけで、普通に考えれば続編では「対立する両者のバトル」になるはずじゃないのかと。
何事も無かったかのように共闘しているので、「何があったんだよ。そこまでの経緯を描いてくれよ」と言いたくなる。

設定としては「センチネルがミュータントを全滅させようとしている」という世界観なのだが、そこまで絶望的な状況にあると感じるわけではない。各地でミュータントが次々に惨殺される様子が描かれているわけではない。
「既に少数になっている」ってことなのかもしれんけど、そもそも今までの作品だって、ミュータントはマイノリティーとして描かれていたわけで。
キティーたちがセンチネル軍団に襲撃されるシーンがあるものの、例えば「次々に仲間が惨殺されてキティーしか残らない」という状況になるわけではないし。
なので雰囲気として、「ミュータントが絶望的な状態に追い込まれている」というモノが足りないんじゃないかと。

序盤でウルヴァリンが過去へ送られるので、彼がメインとして活躍するかと思いきや、そうでもない。過去へ移動した後の彼は、そんなに目立った活躍が見られない。
ウルヴァリンはピンで主役を張るシリーズがあるので、本家では脇に回すってのも納得できる。
ただし、活躍しないどころか、ほぼ役立たずってのはマズいだろ。
肝心な時にトラウマで動けなくなるわ、混乱したせいでキティーを危機に陥らせるわ、ただの厄介者じゃねえか。

ウルヴァリンをメインで使わないのなら、他に誰を活躍させるのかと思ったら、新登場のクイックシルバーがマグニートーを脱獄させるエピソードで「こいつがいれば他は要らなくねえか」というぐらいの能力を披露する。
それがマズいと判断したのか、すぐにウルヴァリンたちは彼と別れてパリへ向かう。
いやいや、それなら最初から登場させんなよ。「都合のいい女」みたいな使い方をするなよ。
ただし、パリ協定のシーンでも、クイックシルバーがいたら全て丸く収まった可能性が高いんだよな。
そういう諸々を考えると、そもそも能力値の高すぎる彼を登場させたこと自体、間違いなんじゃないのかと。

1973年のプロフェッサーXは、単なる腑抜けのダメ人間に成り下がっている。
一方でマグニートーは、パリ協定のエピソードに至るまでは、「立派な信念を持つ大人の男」のようにカッコ良く描かれている。ところがパリ協定のシーンに到達すると、いきなりミスティークを始末しようとするバカな奴に成り下がってしまう。
ミスティークを説得しようとすべきだろうに、どんだけ短絡的なのかと。
っていうか、その騒動でミュータントの正体が露呈したためにセンチネル計画は進められるので、今さらミスティークを殺しても無意味だし。彼女がトラスクに捕まらなくても、他のミュータントが捕まって計画に利用されるのは確実だし。
むしろ彼がミスティークを撃ったことで政府にDNAを採取されちゃうんだから、テメエでテメエの首を絞めてるようなモンだぞ。

(観賞日:2016年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会