『X-MEN:アポカリプス』:2016、アメリカ
紀元前3600年、古代エジプトのナイル。世界最初のミュータントであるエン・サバ・ヌールはエジプトを支配していたが、他の体に自分の魂を移し替えようとする。彼は四騎士を伴ってピラミッドに足を踏み入れ、儀式を執り行おうとする。しかし反旗を翻した兵士の一団が、ピラミッドを崩壊させる仕掛けを作動させた。移し替えの儀式は完了し、四騎士は命を張ってヌールを守ろうとする。しかしピラミッドは崩れ落ち、ヌールは生き埋めとなった。
1983年、オハイオ。学校でミュータントに関する授業を受けていたスコット・サマーズは、目の異変を感じてトイレへ駆け込んだ。乱暴な同級生が追い掛けて来ると、スコットは目からオプティック・ブラストを発射して彼を攻撃してしまった。東ベルリン。地下闘技場では連行されたナイトクローラーがエンジェルと戦わされるが、嫌がって檻の中を逃げ回る。地下闘技場を訪れたミスティークは檻を流れている高圧電流を停止させ、それに気付いたエンジェルとナイトクローラーは脱出する。ミスティークは追われるナイトクローラーを捕まえ、同行するよう告げた。
マグニートーはポーランドの製鉄所で一般市民として働き、妻子と共に平穏な生活を送っていた。ハヴォックは弟のスコットを連れて「恵まれし子らの学園」を訪れ、ジーン・グレイやビーストと会った。学園長のプロフェッサーXはハヴォックからスコットを紹介され、力を理解して制御する方法を訓練するよう促した。エジプトのカイロを訪れたCIA局員のモイラ・マクタガートは、隠蔽されていた地下遺跡を調査した。するとカルト集団が儀式を行っており、太陽光を浴びたピラミッドの封印が解けた。
ヌールがはミュータントのアポカリプスとして復活し、地震が起きたのでモイラは慌てて脱出した。その揺れは製鉄所にも届いて事故が発生し、マグニートーは危機に陥った仲間を救うため咄嗟に能力を使った。彼は何事も無かったかのように装うが、複数の工員が目撃していた。ジーンは世界が終わる悪夢にうなされ、テレパシーで彼女に触れたプロフェッサーXも恐ろしい光景を目にした。プロフェッサーXはビーストから震源地がカイロだと聞かされ、セレブロを使ってモイラの動きを知った。
マグニートーは妻子を連れて逃走を図るが、工員たちの密告によって動いた警官隊が娘のニーナを捕まえた。マグニートーは警察に投降するが、能力に目覚めたニーナが妻と共に殺害されてしまう。激昂したマグニートーは、能力を使って警官隊を全滅させた。アポカリプスはカイロの町を歩き、泥棒のオロロ・マンローを見つけた。プロフェッサーXはアレックスを伴い、過去の記憶を消したモイラの元へ行く。モイラはプロフェッサーXの存在を知っており、彼を歓迎した。
モイラは彼の質問を受け、ヌールを信奉するカルト集団を追っていたことを教えた。さらに彼女はヌールについて、死を感じると他の体に魂を移し替えること、そのミュータントが持つ能力は蓄積されていくこと、行く先々で必ずパワーを注入した4人の守護者を従えること、彼の君臨する世界は大災害で滅びることを説明した。マンローからミスティークへの憧れを聞かされたアポカリプスは、テレビ画面に手をかざして世界情勢を学んだ。彼は世界が救いを求めていると感じ、マンローに能力を与えた。
ミスティークは闇商人のキャリバンに金を渡し、ナイトクローラーの偽造パスポートを用意してもらう。ミスティークが反感を抱く用心棒のサイロックを睨んでいると、キャリバンはマグニートーが妻子を殺されたという情報を教えた。スコットは力を制御するサングラスをビーストに贈られ、ジーンに声を掛ける。ジーンは能力を制御できないことを明かし、学園一の化け物は自分だと告げる。ミスティークは学園へ戻り、ナイトクロウラーをビーストに紹介した。
アポカリプスはストームとなったマンローを伴ってキャリバンの元へ出向き、サイロックにパワーを与えて仲間に引き入れた。するとサイロックは、新たなミュータントの情報を彼に提供した。スコットは学園生活に退屈を感じ、ジーン、ナイトクロウラー、ジュビリーを連れてショッピング・モールへ出掛けた。アポカリプスはサイロックの案内で翼の折れたエンジェルの隠れ家へ行き、泥酔している彼にパワーを授けてアークエンジェルに強化させた。
ミスティークはビーストからプロフェッサーXを説得するための協力を要請されるが、マグニートーを助けたいと告げる。マグニートーは製鉄所へ行き、密告した工員たちを始末しようとする。そこへアポカリプスが3人の手下を伴って出現し、一瞬で工員を全滅させた。彼に「救いたいのはお前だ。共に来い」と誘われたマグニートーは、4人目の騎士となった。彼らはアウシュビッツへ移動し、マグニートーは両親が虐殺された辛い出来事を思い出す。アポカリプスはマグニートーの能力を強化し、「人間は消滅する。より良き世界を築く」と宣言した。マグニートーは絶叫し、アウシュビッツを崩壊させた。
クイックシルバーはマグニートーがアウシュビッツを崩壊させた事件をテレビのニュースで知り、母から「あの人と会えば傷付くことになる」と忠告された。プロフェッサーXはモイラを連れて学園へ戻り、ミスティークがいるので驚いた。彼はミスティークと2人になり、マグニートーを見つけ出してほしいと頼まれる。プロフェッサーXはセレブロを使い、マグニートーの喪失感を知る。彼はテレパシーで戻るよう説得するが、マグニートーは拒絶した。
アポカリプスはテレパシーに介入し、プロフェッサーXの能力を支配した。彼は世界中の基地の人間を操り、全ての核ミサイルを発射して宇宙へ追放した。アポカリプスは四騎士を伴って学園へ現れ、気絶しているプロフェッサーXを連れ去った。ハヴォックがオプティック・ブラストを放ったため、学園は大爆発を起こす。たまたまプロフェッサーXを訪ねようとしていたクイックシルバーは能力を使って学園の面々を救助するが、爆発の最も近くにいたハヴォックには気付かなかった。
モールから戻って来たスコットは、兄の死を知って悲嘆に暮れた。そこへストライカー大佐の率いる部隊がヘリで現れ、衝撃波を放ってミュータントを気絶させた。スコット、ジーン、ナイトクローラーは咄嗟に身を隠し、何を逃れた。ストライカーは倒れている面々を順番に確認し、ミスティーク、クイックシルバー、ビースト、モイラを連行するよう部下に指示した。スコット、ジーン、ナイトクローラーはヘリに瞬間移動し、ストライカーの秘密基地へ向かった。
アポカリプスはプロフェッサーXに、目的達成への協力を求めた。プロフェッサーXは拒否してマグニートーを説得しようとするが、怒りに燃える彼には聞き入れられなかった。ストライカーはアポカリプスが起こした現象が全てプロフェッサーXたちの仕業だと決め付け、モイラの言葉にも耳を貸さず監禁する。アポカリプスはプロフェッサーXの能力を増幅させ、地球を破壊するメッセージを世界中に発信した。プロフェッサーXはアポカリプスに気付かれないよう、ジーンだけに自分の居場所を知らせた…。監督はブライアン・シンガー、原案はブライアン・シンガー&サイモン・キンバーグ&マイケル・ドハーティー&ダン・ハリス、脚本はサイモン・キンバーグ、製作はサイモン・キンバーグ&ブライアン・シンガー&ハッチ・パーカー&ローレン・シュラー・ドナー、製作総指揮はスタン・リー&トッド・ハロウェル&ジョシュ・マクラグレン、共同製作はジェイソン・テイラー&ジョン・オットマン&ブロンデル・アイドゥー、製作協力はキャスリーン・マッギル、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、美術はグラント・メイジャー、編集はジョン・オットマン&マイケル・ルイス・ヒル、衣装はルイーズ・ミンゲンバック、視覚効果デザインはジョン・ダイクストラ、音楽はジョン・オットマン。
出演はジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンス、オスカー・アイザック、ニコラス・ホルト、ローズ・バーン、エヴァン・ピーターズ、タイ・シェリダン、ソフィー・ターナー、オリヴィア・マン、コディー・スミット=マクフィー、アレクサンドラ・シップ、ルーカス・ティル、ジョシュ・ヘルマン、ベン・ハーディー、ラナ・コンドル、ジェリコ・イヴァネク、アンソニー・コネツニー、ウォーレン・シェーラー、ローチェル・オコエ、モニク・ガンダートン、フレイザー・エイッチソン、アブドゥラ・ハマム、ヘシャム・ハムード他。
「ファースト・ジェネレーション」から始まった「X-MEN」シリーズ新3部作の完結編。
監督は旧シリーズから含めて4度目の登板となるブライアン・シンガー。脚本は旧シリーズ完結編から4作連続(番外編は除く)となるサイモン・キンバーグ。
プロフェッサーX役のジェームズ・マカヴォイ、マグニートー役のマイケル・ファスベンダー、ミスティーク役のジェニファー・ローレンス、ビースト役のニコラス・ホルト、ハヴォック役のルーカス・ティルは、新シリーズのレギュラー陣。クイックシルバー役のエヴァン・ピーターズ、ストライカー役のジョシュ・ヘルマンは、前作からの続投。
モイラ役のローズ・バーンは、新シリーズ第1作からの復帰。アンクレジットだが、ローガン役のヒュー・ジャックマンは出演者の中で唯一、旧シリーズもスピンオフも含めての皆勤賞。
他に、アポカリプスをオスカー・アイザック、スコットをタイ・シェリダン、ジーンをソフィー・ターナー、サイロックをオリヴィア・マン、ナイトクローラーをコディー・スミット=マクフィー、ストームをアレクサンドラ・シップ、エンジェルをベン・ハーディー、ジュビリーをラナ・コンドルが演じている。
スタン・リー夫妻が本人役で登場し、スコットの担任教師役でブラット・パックのメンバーだったアリー・シーディーが出演している。今さら言うことではないし、仕方が無いことではあるんだけど、旧シリーズに登場したキャラクターを別のキャストが演じているのは、ちょっと引っ掛かる部分もある。
特にスコット、ジーン、ストームに関しては、前作で旧シリーズのキャストが登場していただけにね。
完全に旧シリーズと新シリーズを分けているならともかく、ローガンだけは同じ役者が続投しているので、余計にそういうことを感じてしまうのよね。
あと、エンジェルに関しては、過去のシリーズにも登場しているのに「それとは別の奴」という扱いになっているので、なんだかなあと言いたくなる。冒頭シーンからして、乗り切れない描写になっている。細かいことかもしれないが、「普通なら必要が無いはずなのに、なぜピラミッドを 崩壊させる仕掛けが最初から設置されているんだよ」と言いたくなる。
で、そんなシーンで生き埋めになったアポカリプスは、もちろん現在のシーンに移ると復活する。
「バカな連中の軽率な行動が、眠っていた悪の存在を呼び覚ます」というのは、今まで数多くの映画で使われてきたベタベタなパターンだ。
それはいいとしても、「太陽光が差し込んだら復活する」って、どんだけ簡単な方法なんだよ。
あと、モイラが遺跡に入らなかったら太陽光は差し込まず、アポカリプスは復活しなかったんじゃないか。復活したアポカリプスがカイロの町へ出るシーンは、まるで喜劇のようになっている。
アポカリプスの見た目と現代のカイロがミスマッチで、なんか滑稽に見えてしまうのだ。
最初から「圧倒的な力で人々を恐怖に陥れる」という様子でも見せてくれればともかく、フードで顔を隠して一般人を装っているのよね。
その後で数人を始末する展開があるけど、最初に感じた滑稽な印象を忘れさせるほどの力は無い。
こういうのって、ファースト・インパクトが大事なのよね。アポカリプスがカイロの町を歩くシーンが描かれた時に感じるのは、「あまり大きくないな」ってことだ。
ラスボスだからって、絶対にガタイの大きさが必要というわけではない。逆にサイズは小さくしておいて、「見た目からは考えられないようなパワーの持ち主」というギャップで強さを示す方法もある。
だけどアポカリプスの場合は、そういうキャラじゃないわけで。
なのでサイズがイマイチってのは、マイナス査定になってしまう。それと見た目だけじゃなくて、中身の方も「その圧倒的な強さ」ってのが今一つ伝わらないのよね。
ミュータントのパワーを増幅させたり、大勢の人間を一瞬で殺したり、プロフェッサーXを支配したりと、幾つものシーンでパワーは披露しているのよ。でも見せ方がイマイチなのもあって、その圧倒的な脅威が伝わりにくいのよね。
旧シリーズのラスボスだったマグニートーまで手下にしているぐらいの奴なのに、「X-MENが束になって掛かっても勝てないかも」という絶望感は微塵も感じられない。
しかもジーンが本気になったら、あっさりと倒されちゃうし。アポカリプスって早い段階で「人類を滅亡させる」と宣言しているのに、それに見合う行動を起こさないのよね。
彼はプロフェッサーXを支配して基地の面々を操るんだけど、それが出来るのなら核ミサイルを宇宙へ放つのではなく全世界へ撃ち込めばいいでしょ。それで人類滅亡は実現できるぞ。
わざわざ全ての核ミサイルを無くしてから人類を滅亡させようとするのは、無駄な手間でしかないでしょ。
なぜかアポカリプスはグダグダと色んなことを喋って、無駄にモタモタしているのよね。中盤でアレックスは命を落とすんだけど、その描き方には賛同しかねる。
クイックシルバーが瞬間移動で学園の人々を救助するシーンは、彼以外の全てが制止している状態の中でEurythmicsの『Sweet Dreams (Are Made Of This) 』が流れ、ノリノリで描かれる。
助けられる人々の表情も含めて、どことなくユーモラスなテイストが感じられるシーンになっている。
そこに全く似つかわしくない悲劇を盛り込んでまで、アレックスを殺しているのだ(クイックシルバーはブルドックまで救っているのに)。
そりゃ無いわ。旧シリーズでラスボスだったマグニートーが腑抜けみたいになっちゃってんのは、どうなのかと。こいつは新シリーズに入ってから作品ごとに立ち位置をコロコロと変えているんだけど、今回もブレブレだ。
序盤、彼は妻子を殺されて「俺の大切な家族が」と泣き、激昂して警官隊を全滅させる。そしてアポカリプスに誘われ、人類全滅に加担しようとする。その流れだけを考えれば、妻子を殺された彼には全面的に同情するし、「やっぱり人間は信頼できない」ってことで怒りに燃えるのも理解できる。
しかし、実はクイックシルバーが息子ってことが判明するのだ。つまり彼は、クイックシルバーと母親を捨てているのだ。
そうなると、「大切な家族が」とか言っていた言葉は何だったのかってことになる。そんなマグニートーは、アポカリプスに勧誘されると、あっさりと手下になる。
チームを率いて人類を滅亡させようとするんじゃなくて、手下になって行動するのね。
その時点でチンケな奴に成り下がっているのだが、最後の戦いでは簡単にアポカリプスを裏切る。
表面上は「友情に目覚めて改心する」という形であり、わざわざ鉄骨を地面に突き刺して「X」のマークを作るなど「燃えるシーン」として演出しているんだけど、「そもそもテメエがブレブレじゃなかったら、もっと早く問題は解決していたんだぞ」と言いたくなる。後半、ストライカーの基地に侵入したスコットたちは、「ウエポンX」として監禁されていたローガンを解き放つ。兵士たちを惨殺したローガンはジーンになだめられて落ち着きを取り戻すと、走って雪山に消える。
つまりローガンは「スコットたちにとって邪魔な兵士を一掃する」という役目を担うためだけに登場し、仕事が終わると退場するわけだ。
でも、このエピソードって丸ごと要らないのよね。
それはローガンを登場させるためだけのシーンなんだけど、そこには「次回作『ローガン』に繋げるための前フリをしておきたい」という目的があるのだ。その目的を遂行するために、いびつなシーンが挿入されているのだ。何しろ登場する主要キャラクターが多いもんだから、新たに登場する面々を深く掘り下げることなんて全く出来ていない。アプカリプスの四騎士になる連中も、まあ見事に薄いこと。
ストームがミスティークに憧れているという要素も、まるで活用されていない。サイロックやエンジェルに至っては、単なる「敵の手下」というだけで終わっている。
アプカリプスと四騎士の関係性も、仲間に引き入れるシーンからして「圧倒的なカリスマ性や才覚で相手を屈服させたり崇拝させたりする」という力が感じられない。
ただ、それにしてもマグニートーやストームがクライマックスの戦いで寝返るのは、「雑な展開だな」と感じるぞ。ブライアン・シンガーは前作において歴史が改変されるストーリーを用意し、自身が監督を務めていない『ファイナル ディシジョン』と『ファースト・ジェネレーション』を無かったことにしてしまった。
それに伴い、『ファースト・ジェネレーション』で初登場したキャラ、つまり自分の監督作では未登場だったミュータントを、アレックス以外は一掃してしまった。
そして生き残ったアレックスも、この映画で簡単に始末した。
「このシリーズは俺の物」という意識が、よっぽど強かったようだ。特にブライアン・シンガーは『ファイナル ディシジョン』を嫌っているようで、わざわざスコットたちが映画館へ『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』を見に行く展開を用意し、「やっぱり『帝国の逆襲』は超えられない」「でも1作目が無かったらシリーズは続かない」「3作目が最悪っていう感想は全員一致ね」という台詞を設けている。
これは『ジェダイの復讐』を揶揄しているように見せ掛けて、実際は旧シリーズ第3作『ファイナル ディシジョン』を扱き下ろしているのだ。
だけどさ、今になってネチネチと批判するぐらいなら、なぜ続投のオファーを断って『スーパーマン リターンズ』を選んだのかって話だぞ。
しかも『スーパーマン リターンズ』でコケただけでなく、この映画もシリーズでダントツに低い評価と興行成績を叩き出しているのだ。旧シリーズの3作目を扱き下ろす目的でナイフを投げ付けたつもりが、実はブーメランで見事に自分の元へ舞い戻って突き刺さっているわけだ。
すんげえカッコ悪いぞ、それ。(観賞日:2017年10月15日)
2016年度 HIHOはくさいアワード:第9位