『ウルフマン』:2010、アメリカ
1891年、英国のブラックムーア。ベン・タルボットは森に入り、狼男に襲われた。一方、彼の兄であるローレンスは、ロンドンで舞台俳優として活躍している。そんな彼の楽屋を、ベンの婚約者であるグエン・コンリフという女性が訪れた。ベンが1ヶ月前から行方知れずになっており、ローレンスが何か知っているのではないかと思ったのだと彼女は話す。失踪した夜に村で2人が死亡しており、グエンはベンがトラブルに巻き込まれたのではないかと心配していた。
協力を要請されたローレンスは、舞台の契約で明日にはアメリカへ行くことを告げて断った。父のジョンと仲が良くないため、帰郷したくなかったのだ。しかしグエンから嫌味を浴びせられたローレンスは結局、ブラックムーアへ戻ることにした。列車で老紳士と出会った彼は、銀細工の杖をプレゼントすると持ち掛けられる。ローレンスは遠慮するが、転寝している内に老紳士は杖を置いて姿を消していた。
杖を持って帰郷したローレンスが実家へ行くと、ジョンはベンが修道院の近くで死体となって発見されたことを話す。ローレンスが遺体の確認に行くと、肉を削がれた無残な状態だった。ナイ保安官、モントフォード大佐、ロイド医師、酒場の主人であるカーク氏といった村の人々は、酒場で犯人について語る。フィスク司祭は凶暴な生き物の仕業だと考えるが、カークは2週間前から来ているロマが災いを運んで来たのだと訴えた。
するとマックイーンという男が「ロマは何の関係も無い」と言い、25年前にも同様の事件が発見されたことを話す。彼は「父親が死体を発見したが、生きたまま食われたようだった。犯人は鉤爪を持ち、銃など全く相手にしない。父は銀の弾丸を作り、満月の夜は家から一歩も出なかった」と語るが、他の面々は「犯人は狼男」という説を笑い飛ばした。モントフォードが「ベンの母親は頭がおかしくなって自害した。あれはロマの売女だろ」と言うのでローレンスは激怒して酒を浴びせ、店からつまみ出された。
夕食の時、ローレンスとジョンはグエンの前で言い争いを始める。居心地の悪くなったグエンは、席を外した。ローレンスはジョンに、ベンの遺留品にメダルがあったことを話す。ジョンは彼に、それがロマのメダルであること、ベンがロマとの交渉役だったことを教えた。寝室に入ったローレンスは、少年時代のことを思い出す。ある夜、物音が聞こえたので庭に出ると、ジョンが剃刀を手にした母の死体を抱えていたのだった。
ローレンスが森へ行くと、グエンが佇んでいた。子供の頃は父から逃げて森に来ていたことを彼が話すと、グエンは「お父様は人を寄せ付けない人ね。私がお母様に似ているせいだとベンは言っていた」と語る。ローレンスは彼女に、自分が病院に1年間入れられ、その後はアメリカの叔母に預けられたことを話す。グエンは父が取ってくれた宿へ移り、ローレンスは村に残ってベンのことを調べようとする。ジョンは彼に、「明日まで待った方がいい。今夜は満月だからな」と忠告した。
その夜、ローレンスはメダルについて調べるため、ロマのキャンプへ行く。馬子の少年が「マレーヴァなら知ってるはず」と言うので、ローレンスは占い師のマレーヴァに会う。カークたちはロマの飼っている熊が犯人だと決め付け、キャンプに銃を持ってキャンプに乗り込んだ。そこへ大きな獣が現れ、人々を襲い始めた。ローレンスは逃げた獣を追い掛け、銃を構えて森に入った。しかし待ち伏せていた獣に襲われ、瀕死の重傷を負う。
マレーヴァは若いロマの反対を受けながらも、ローレンスを手当てした。一命を取り留めたローレンスは、タルボット邸に運ぴ込まれた。グエンは屋敷に戻り、使用人のシンと共にローレンスを看病した。ローレンスは1週間後に目を覚まし、診察したロイドは尋常ではない回復の早さに驚いた。ロンドン警視庁のアバライン警部が屋敷に来て、ローレンスに事情聴取する。ローレンスは襲って来たのが動物だったと証言し、「目撃者は私より良く見ていたはずだ」と告げる。するとアバラインは、「目撃者で生き残った村人は誰もおらず、ロマは悪魔の仕業だと言うだけなんですよ」と述べた。
アパラインは「犯人は獣ではなく異常者かも。かつて精神病院に収容されていて、犠牲者は過去に彼を邪険にしたことがあるとか」と語り、ローレンスが犯人だと疑っていることを匂わせた。次の満月の日が近付く中、モントフォードやロイドたちはローレンスを捕まえて連行しようとする。するとジョンが威嚇発砲し、ローレンスの引き渡しを拒否した。グエンの手当てを受けたローレンスは彼女に欲情を抱き、腕を掴む。しかし困惑するグエンを見て、その場を立ち去った。
ローレンスは自分の肉体に変化が起きていると確信し、グエンに「ここを出て行くんだ。ここにいたら危ない」と告げる。彼はグエンを馬車に乗せ、ロンドンに帰らせた。村人たちは狼男の伝説を信じ、窓を塞いだり銀の弾丸を作ったりして防衛手段を取る。アバラインが酒場へ行くと、カーク夫人はタルボット邸を調べるよう求めて「あの屋敷は呪われてる」と言う。しかしアバラインは「呪われているというだけで勝手に敷地を歩き回ってもいいという令状は取れない」と告げ、その要求を受け流した。
満月が夜空に浮かぶ中、ローレンスはジョンが庭に出るのを目撃し、後を追った。ローレンスが母の霊廟に入ると、待ち受けていたジョンは「私の言葉を信じろ。妻を深く愛していた。夜になると彼女を捜し回ってしまう。私は死んでいる。だが、真の闇は目の前にある」と語る。彼はローレンスを外に出してから扉を施錠して霊廟に閉じ篭もり、「村人はお前を殺さないが、責め立てるだろう。獣が出て来る」と言う。その直後、ローレンスは狼男に変身した。
ローレンスは仕掛けられていた罠の穴に落下するが、駆け付けた村の男たちを落として殺害する。穴から飛び出した彼は発砲を受けても全くダメージを受けず、さらに殺戮を続ける。翌朝、ローレンスが意識を取り戻すと、元の姿に戻っていた。ジョンは返り血を浴びているローレンスに、「恐ろしいことをしたな」と告げる。そこへアバラインが駆け付け、ローレンスはランベス精神病院に収容された。そこは少年時代にローレンスが入院していた場所だった。
精神科医のホーネッガー医師はローレンスを椅子に拘束し、氷風呂に沈めては注射を打つ。ローレンスは「父はどこだ?父を殺さないと犠牲者が増える」と訴えるが、ホーネッガーは無視して電気ショック療法を用いる。治療の連続でローレンスが体も心もボロボロに傷付く中、ジョンが病院を訪れる。彼はローレンスに、インドの山で狼男の少年に噛まれたこと、それが原因で自らも狼男になって妻を殺したことを明かす。さらに彼は、何年にも渡って満月の夜はシンが自分を霊廟に監禁していたこと、グエンの出現で全てが変わったことを話す。ジョンはベンがグエンを連れて村を出ると決めた満月の夜、シンを殴って霊廟から飛び出し、ベンを殺害したのだ…。監督はジョー・ジョンストン、オリジナル版脚本はカート・シオドマク、脚本はアンドリュー・ケヴィン・ウォーカー&デヴィッド・セルフ、製作はスコット・ステューバー&ベニチオ・デル・トロ&リック・ヨーン&ショーン・ダニエル、共同製作はストラットン・レオポルド、製作総指揮はビル・カラッロ&ジョナサン・モーン&ライアン・カヴァナー、撮影はシェリー・ジョンソン、編集はデニス・ヴァークラー&ウォルター・マーチ、美術はリック・ハインリクス、衣装はミレーナ・カノネロ、特殊メイクアップ・デザインはリック・ベイカー、視覚効果監修はスティーヴ・ベッグ、音楽はダニー・エルフマン、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はベニチオ・デル・トロ、アンソニー・ホプキンス、エミリー・ブラント、ヒューゴ・ウィーヴィング、ジェラルディン・チャップリン、アート・マリク、アンソニー・シャー、デヴィッド・スコフィールド、マリオ・マリン=ボルケス、エイサ・バターフィールド、サイモン・メレルズ、デヴィッド・スターン、ニコラス・デイ、マイケル・クローニン、ロジャー・フロスト、ロブ・ディクソン、クライヴ・ラッセル、ロレイン・ヒルトン、ジェマ・ウィーラン、クリスティーナ・コンテス、マルコム・スケイツ、オリヴァー・アダムス、オルガ・フェドリ他。
1941年にユニバーサル・ピクチャーズが製作したロン・チェイニーJr.主演の古典怪奇映画『狼男』をリメイクした作品。
監督は『ジュラシック・パーク III』『オーシャン・オブ・ファイヤー』のジョー・ジョンストン。
脚本は『8mm』『スリーピー・ホロウ』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーと『13デイズ』『ロード・トゥ・パーディション』のデヴィッド・セルフ。
ローレンスをベニチオ・デル・トロ、ジョンをアンソニー・ホプキンス、グエンをエミリー・ブラント、アバラインをヒューゴ・ウィーヴィング、マレーヴァをジェラルディン・チャップリン、シンをアート・マリクが演じている。まず言えることは、「なんでベニチオ・デル・トロとアンソニー・ホプキンスなのか」ってことだ。この2人、素顔のままでも、既に狼男っぽさを感じさせてしまう。
特にベニチオ・デル・トロなんて、登場した時点で「彼は狼男」と説明されても納得しちゃうような風貌だ。
そもそも彼の念願だった企画だから、本人が主演するってのは当然っちゃう当然なんだろう。しかし、そうであるならば、「素顔の時点で狼男としての説得力があり過ぎる」という問題を加味した上でシナリオを作るべきだった。
この映画のシナリオだと、むしろ狼男っぽさなんて感じさせないような俳優が主役を務めた方が、変身した時のギャップが出るし、適していると思うのよ。色んなことがボンヤリしているってのも、この映画の欠点の1つだ。
「村に狼男の伝説があり、人々が信じている」ということのアピールがボンヤリしている。
っていうか、たぶん「最初から伝説はあるけど信じていなかった。でも事件が起きたので信じた」という流れがあるはずなんだけど、そこがボンヤリしている。
ローレンスが「自分を噛んだのは狼男であり、自分も変身してしまう」と感じるようになっていく経緯もボンヤリしている。ローレンスと父親の関係もボンヤリしている。
険悪なのかと思ったら、意外にそうでもない様子があって、でも激しく言い争って、でも直後に穏やかな会話があったりして、どういう関係性として描きたいのか良く分からない。
きっと母の死が理由で関係が悪化したという設定のはずなんだけど、母の死によって、具体的にどういう風に関係が悪化したのかもボンヤリしている。
ローレンスが母の死を見た時に何を感じたのか、父に対して何を思ったのか、そこがボンヤリしている。劇ローレンスが「父が狼男だ」ということに、どれぐらい気付いていたのかもボンヤリしている。
精神病院に収容された時、彼は医者たちに対して「父を殺さないと犠牲者が増える」と言っている。ってことは、父が狼男だと気付いているのかと思ったが、だとすると気付いた理由や経緯が良く分からない。
そして訪ねて来たジョンが正体を明かした時、ローレンスは驚いている。ってことは、彼の正体に気付いていなかったのか。
でも、そうなると今度は「父を殺さないと犠牲者が増える」という発言の真意が分からなくなってしまう。ジョンがベンを殺した理由も、ボンヤリしている。
彼はローレンスに「グエンは私からベンを奪い、2人で消え去ろうとした。私の中の獣が許さなかった」と言っている。そのコメントだと、「息子を村から連れ出そうとしたグエンを憎んでいた」と受け取れる。
ところが、その直後に彼は「ベンは家を出て行くと宣言した。私からグエンを奪ってだ」と発言するのだ。それは「グエンに惚れたのでベンが邪魔に思えた」という意味に解釈できる。
ベンを殺しているんだから、「グエンをモノにしたいから」ってのが理由としては分かりやすい。
ただ、それなら「グエンは私からベンを奪い、2人で消え去ろうとした」というコメントは邪魔でしょ。そんなの要らないでしょ。
そういうコメントを先に喋らせている意味は何なのかと。ジョンのグエンを見る目や、ローレンスの要請でグエンが村を去った時の様子なんかを見ると、彼がグエンに惚れているという解釈は正解なんじゃないかと思う。
しかし、ジョンがグエンに横恋慕してベンを殺害したのなら、彼女をモノにしようとする動きが全く見えないのは引っ掛かる。
それがベンを殺した理由なら、もっと積極的にグエンを奪おうとしろよ。狼男にならないと、そこも活動的にならないってか。
しかし、そうなるとグエンの存在価値まで怪しくなっちゃうぞ。
ぶっちゃけ、グエンを巡るローレンスとジョンの三角関係が無いのなら、彼女を排除して「母と弟を殺した父に対して主人公が決着を付けようとする」ってことで成立しちゃうしね。そもそも、ローレンスとグエンのロマンスからして大いに問題があるんだよな。「薄っぺらい」という以前の問題として、そもそも初期設定を間違えていると感じる。
グエンはベンの婚約者であり、ローレンスは彼女が楽屋へ来た時に初めて会っただけだ。そんな状態から、後半には「ローレンスとグエンが互いに愛し合ってキスをする」という関係に発展させるのは、そもそも無理があるでしょ。
グエンはベンに惚れていたはずなのに、そんなに簡単にローレンスに鞍替えしちゃうのかと。ただの尻軽女じゃねえか。
ローレンスにしても、ベンの婚約者を奪うことに対する迷いが無いし。初期設定&その後の描写を変えれば、ローレンスとグエンの恋愛劇を上手く使うことは出来たと思うのよ。
例えば、初期設定は「以前からローレンスはベンと良く会っていて、グエンのことも以前から知っている。実は仄かに好意を寄せていた」という形にする。
その後も、「グエンへの思いを隠したまま、ジョンから彼女を守るために戦う」という無法松みたいなキャラにすればいい。
そうすれば、グエンを尻軽にすることも、恋愛劇が薄っぺらくなることも、恋愛成就への流れが性急になることも回避できただろう。狼男の意思がどれぐらい残っているものなのか、それもボンヤリしている。
ジョンが愛する妻を殺してしまったってことは、狼男になると人間モードの時の意識が完全に消えると解釈できる。ローレンスが変身した時も無差別に人を殺しているので、その認識で正解じゃないかと思える。
しかしジョンの説明だと、ベンがグエンを連れて村を出ると宣言した時、狼男に変身して殺害している。それは明らかに、標的を狙っての殺人だ。
そうなると、「狙った獲物を殺す」という意識はあるということになるんだよなあ。終盤の狼男バトルにしても、相手を殺そうという意識を持ったままで変身し、その意識が残ったまま戦っているし。「ジョンは狼男になって愛する妻を無自覚に殺していた」「母と弟を殺したジョンと同じ怪物になってしまったローレンスが、父を殺しに行く」という内容なのだから、本来なら悲劇的な匂いが強くなってもいいところだ。
だが、そんな雰囲気は皆無だ。
ジョンの妻に対する愛、ローレンスの母親や弟に対する愛、そういうモノが全く表現されていないのも、大きなマイナスだ。
そのせいで、「愛する者を失った悲しみ」「愛する者を奪われた怒り」ってのも全く伝わって来ない。この映画、当初は『ストーカー』のマーク・ロマネクが監督を務める予定だったがユニバーサルと意見が合わずに降板し、クランクインの3週間前になってジョー・ジョンストンが代役に決まった。
つまりジョー・ジョンストンにとっては準備期間が短く、厳しい仕事だったということは言える。
ただし、それは製作サイドの事情であって、観客にとっては何の関係も無い話だ。「そういう事情だったら出来栄えが悪くても仕方が無いよね」なんて、観客は大目に見てくれない。どういう理由であろうと、駄作は駄作でしかないのだ。
そもそも前述した問題点の多くは、たぶん脚本の時点で生じているモノだしね。
ちなみに本作品は興行的に成功せず、評価も芳しくなかったため、続編企画が中止になっている。
まあ、そうなるだろうね。(観賞日:2015年3月19日)