『ウルフ』:1994、アメリカ

出版社の編集局長ウィル・ランダルは、満月の夜に雪道で狼に噛まれた。翌日、彼は社長のレイモンド・アルデンから、左遷を通告された。後釜は、ウィルがクビになるなら付いて行くと言っていた部下のスチュワート・スウィントンだった。彼は密かにアルデンに取り入って、次期編集局長に就任する約束を取り付けていたのだ。
ウィルは、自分の体に異変が起きていることを感じていた。遠くの声が聞こえるようになり、臭覚も鋭くなった。彼は匂いを嗅いで、妻シャーロットが浮気していることを察知した。ウィルはスチュワートのマンションに行き、部屋に入るのを阻止しようとした彼に噛み付いた。そしてウィルは部屋に行き、シャーロットがいることを確認した。
以前は仕事を失うことを恐れて左遷人事を受け入れるつもりだったウィルだが、今の彼は攻撃的な性格に変身していた。ウィルは出版社のトップライター達に連絡を入れて、自分と行動を共にする約束を取り付ける。この事実をウィルはアルデンに突き付け、編集局長に返り咲くことを承諾させた。ウィルはスチュワートに、クビを宣告した。
ウィルは、アルデンの娘ローラと親しくなっていた。だが、彼は自分が狼男に変身し、彼女に襲い掛かるのではないかと恐れる。そんな中、ウィルは借りている部屋で、ローラと一夜を共にした。翌朝、刑事のブリッジャーが部屋を訪れ、シャーロットが死体で発見されたことを告げる。ウィルは、自分が妻を殺したのではないかと不安になる…。

監督はマイク・ニコルズ、脚本はジム・ハリソン&ウェズリー・ストリック、製作はダグラス・ウィック、製作協力はジム・ハリソン、製作総指揮はニール・マクリス&ロバート・グリーンハット、撮影はジュゼッペ・ロトゥンノ、編集はサム・オースティン、美術はボー・ウェルチ、衣装はアン・ロス、特殊メイクアップ効果はリック・ベイカー、音楽はエンニオ・モリコーネ。
出演はジャック・ニコルソン、ミシェル・ファイファー、ジェームズ・スペイダー、ケイト・ネリガン、リチャード・ジェンキンス、クリストファー・プラマー、アイリーン・アトキンス、デヴィッド・ハイド・ピアース、オム・プリ、ロン・リフキン、プルネラ・スケイルズ、ブライアン・マーキンソン、ピーター・ジェレティー、ブラッドフォード・イングリッシュ、スチュワート・J・ズリー、トーマス・F・ダフィー、トム・オッペンハイム他。


古くから映画の世界では何度も描かれてきた狼男を題材にした作品。
ウィルをジャック・ニコルソン、ローラをミシェル・ファイファー、スチュワートをジェームズ・スペイダー、シャーロットをケイト・ネリガン、アルデンをクリストファー・プラマーが演じている。

タイトルからしてそうだし、最初のシーンでウィルが狼に噛まれるので、彼が狼人間になることは誰だって分かるだろう。
しかし、なかなか狼男に変身しない。
というか、ある意味、ジャック・ニコルソンって最初から狼男っぽい雰囲気があったりして。

観賞後、「どうしたいの?」「何がやりたいの?」と、クエスチェン・マークが幾つも頭の中に浮かんでしまった。
狼男の話だが、怖さは無い。ホラーとして作られているわけではないようだから、それは許そう。では、異形の存在の悲劇が描かれるのかと言うと、それも違う。派手なアクションや、たっぷりのSFXで引っ張って行くわけでもない。
では、何が描かれているのか。
左遷男ウィルが狼男になって仕事を奪い返し、一方で女と親しくなり、一方で殺人が発生しており、別の狼男が現れて女に襲い掛かり、ウィルが戦う話だ。
なんじゃ、そりゃ。
まあね、メガホンを執っているのがマイク・ニコルズ監督だし、どうしても人間ドラマを描きたかったんだろうとは思うけど、バラバラじゃん。

序盤でウィルがスチュアートに裏切られる様子が描かれるので、じゃあウィルが狼男の特殊能力を利用して逆襲する話がメインになって、反撃しながらも変身を恐れる様子で引っ張っていくのかと思いきや、スチュアートへの逆襲は大して扱われない。で、出版社での話と狼人間に変身する話は、どんどん遠ざかって行く。
大体、ウィルがスチュアートを潰すことに成功したのは、狼男の特殊能力のおかげしゃないのよね。攻撃的な性格になったから、成功したわけで。でも、そこは性格の変化だけじゃなくて、五感が鋭敏になったことなどを、もっと活用すべきじゃないかと。

で、出版社の話より、ローラとの恋愛模様がどんどん幅を利かせてくる。だが、恋愛の途中で、ウィルが狼人間に変身しそうになるとは無い。そこで使われるのは、「狼人間に変身すること」ではなく、「狼男に変身することを恐れるウィルの心」の部分だけ。
そうなると、ウィルが本当に狼男である必要は無くなってくる。というのも、ウィルが「本当は狼男ではないのだが、自分が狼男かもしれないと思い込んでいる人間」という設定であっても、終盤の展開を除けば、同じ恋愛劇は成立するからだ。実際、脚本を書いたジム・ハリソンは、そういう精神の病を経験したらしい。

終盤に入ると、ちょっとホラーらしい展開になるけど、それは、どんどん話がズレていった結果としてホラーっぽくなったというだけのことだからね。まあ、前半でスチュアートがウィルに噛まれていたから、ヤバイなあという予感はあったんだけどね。

 

*ポンコツ映画愛護協会