『ウェス・クレイヴンズ ウィッシュマスター』:1997、アメリカ

遥か昔、天使は光の中に生まれ、人間は地上に生まれ、ジンが炎の中に生まれた。ジンの仲間たちは、この世と地獄の狭間に追いやられた。ジンを蘇らせた者は、3つの願い事が出来る。そして3つ目の願いが叶った時、ジンの邪悪な軍団がこの世に解き放たれる。
1127年、ペルシャ王は蘇らせたジンに2つ目の願いを言うよう促され、奇跡を見せて自分を驚かせるよう要求した。すると宮殿では呪いによる災いが発生し、人々が石化したり怪物に変貌したりする。魔道士は王の元へ行き、これ以上の願い事を言わないよう進言する。「だが民は苦しんでおる。願わねば」と王が言うと、魔道士は「3つ目の願いが叶うと、この世と地獄を隔てる扉が開くのです」と訴える。邪悪な支配者が生まれることをジンは認め、時空を歪めた。魔道士は呪文を唱え、宝石にジンを封印した。
現在、アメリカ。古美術収集家のレイモンド・ボーモントは波止場へ出向き、10年間も待ち続けた石像の積み下ろし作業を見守った。それはイスラム教で禁じられた古代神の石像で、コンテナに入っていた。酒を飲みながら作業をしていたクレーン作業員のミッキー・トレリが操作を誤り、コンテナを落下させる。ボーモントの助手のエド・フィニーは、石像の下敷きになって死亡した。作業員のエチソンは石像の宝石に気付き、密かに盗み出した。
宝石を買った質屋のダグ・クレッグはリーガル・オークション社を訪れ、受付係のシャノン・アンバーソンに鑑定を依頼する。シャノンは社長のニック・メリットを呼び、姉のアレックスに鑑定を頼むよう告げた。友人のジョシュ・エイクマンとテニスをしていたアレックスは、短期間で恋人と別れたばかりだった。彼女はジョシュからデートに誘われるが、親友としての関係が壊れることを嫌がった。会社で宝石を見たアレックスは、すぐに希少価値があると感じた。
詳しく調べようとしたアレックスが宝石に息を吹き掛けると、「私を蘇らせた」というジンの声がした。不気味に感じた彼女は、科学者であるジョシュを訪ねて検査を依頼した。アレックスは研究室を去り、女子バスケットチームのコーチに赴いた。ジョシュがレーザー解析に取り掛かると、宝石が大爆発を起こした。重傷を負ったジョシュにジンが近付き、「私がお前の痛みを無くしてやる。痛みを終わらせたいと願え」と話し掛ける。ジョシュが願うと、ジンは彼を殺害した。
ジョシュに電話を掛けていたアレックスは、彼が死ぬビジョンを見た。彼女が急いで研究室へ戻ると、ネイサンソン刑事たちが現場検証を始めていた。ネイサンソンはアレックスに、「実験中に機械が爆発する事故が起きたらしい」と話した。研究室を出たアレックスは、「金を恵んでくれ」と声を掛けるホームレスを相手にせず薬局に入る。ホームレスは追い払おうとする薬剤師と口論になり、捨て台詞を吐いて立ち去った。そこへジンが現れて「もし全てが叶うなら何をくれる?」と問い掛けると、ホームレスは「煙草と握手ぐらいだな」と軽く笑う。ジンは「いや、お前には魂がある」と言い、憎む相手と交換してやると持ち掛けた。
ホームレスが「薬剤師を癌で殺してくれ」と冗談めかして言うと、薬剤師は直後に苦悶して倒れた。それを見たホームレスは、怖くなって逃げ出した。研究室に戻っていたアレックスは、薬剤師が死ぬビジョンを見て激しく狼狽した。アレックスが自宅で深く考え込んでいると、心配したシャノンが声を掛ける。アレックスがジョシュの死に責任を感じていると、シャノンは「昔みたいに妄想に取り憑かれてる」と指摘する。かつて自宅で火事が起きた時、アレックスはシャノンを助けたが、両親を救えなかったことに罪悪感を抱いていた。その夜、アレックスはジンの悪夢で目を覚まし、「お前は恐怖に打ちのめされる」という声を耳にした。
翌朝、アレックスは波止場へ赴いてエチソンと会い、宝石の出所を知った。彼女はボーモントを訪ねるが、「アフラ・マズダの石像に宝石は付いていない」と告げられた。ボーモントはアフラ・マズダがゾロアスター教の唯一神だと教え、民俗学者のウェンディー・ダーレス教授を紹介した。ジンは医科大学の遺体置場に侵入し、遺体に触れる。そこへ男子医学生が来ると、ジンは「きっとお前は、こんなことを見たくないと願っているな」と口にする。医学生が「ああ」と漏らすと、ジンは彼の両目を塞いだ。ジンは遺体の顔の皮を剥ぎ、自分の顔に装着した。またビジョンを見たアレックスは絶叫し、ボーモントが慌てて落ち着かせた。
アレックスはウェンディーの元へ行き、宝石について質問する。ウェンディーは宝石を「炎の石」と呼び、「かつて魔道士が悪の精霊であるジンを封じ込めた」と説明した。ジンはナサニエル・デメレストという紳士に化けて洋品店へ赴き、店員のアリエラに「私は変わらぬ美が好きだ。君は自分の美貌が衰えるのが怖くないか?」と問い掛ける。アリエラが「仕方ないわ、自然の法則よ」と困惑しながら答えると、ジンは「それは違う。永遠の美貌が欲しいと願えば変わる」と告げる。アリエラが「永遠の美貌が欲しい」と願うと、ジンは彼女をマネキンに変貌させた。
またビジョンを見て固まっていたアレックスは、改めてウェンディーから話を聞く。ウェンディーは彼女に、「ジンは邪悪や種族の名前よ。願いは叶えてくれるけど、この世を支配するのが目的」と教えた。ジンは警察署へ出向いてネイソンサンと会い、アレックスの住所を教えてほしいと告げる。ネイサンソンは別の刑事から尋問されている男に何度も視線を向け、ジンに問われて「奴は7回も捕まっては釈放されてる。殺しでもやってくれたら一生ブチ込めるのに」とと憤りを示した。ジンは男に発砲させて刑事を射殺させ、ネイサンソンたちが取り押さえている間に資料を開いてアレックスの名刺を見つけた。ジンは男に怪力で暴れさせ、ネイサンソンが何発も弾丸を撃ち込んでいる間に警察署を去った。
アレックスは自宅で専門書を読み、「ジンは願いを1つ叶えた者たちの魂で石を満たし、続いて自分を蘇らせた者の願い事を3つ叶え、石の力で地獄の扉を開く」という情報を得た。ジンは閉店後のリーガル・オークション社へ行き、応対に出た守衛に「店員と会いたい」と告げる。守衛は「今は社長しかいない」と言い、ジンが社長との面会を求めると「約束が無ければ面会は出来ない」と述べた。ジンはドアを開けて退けるよう要求し、追い払おうとする守衛に願いを尋ねる。守衛が「とっとと帰ってくれ」と言うと、ジンの体が勝手に動いて立ち去ろうとする。しかし調子に乗った守衛が挑発的に「俺を通り抜けるか?やれるものなら見てみたい」と口にしたため、ジンは彼を始末して中に入った。
ジンはニックと会い、「アレックスは私に会いたがっている。住所を教えてくれ」と言う。ニックが拒否すると、ジンは机に置いてあった小さな像を持ち上げた。「やめろ、高価な物なんだぞ」とニックが慌てると、ジンは「願いさえすれば、もっと高価に出来るぞ」と口にする。ニックが笑って「出来るなら、お願いしよう」と言うと、ジンは像を金に変えて中からダイヤモンドを出した。ジンがアレックスの住所を改めて訊くと、ニックがは引き換えに百万ドルを要求した。すると保険金の受取人を息子に指定して契約書にサインしたニックの母が、飛行機事故で死亡した。
アレックスはウェンディーに何度も連絡しようとするが、ずっと留守電になっていた。ジンはシャノンを騙して携帯電話を借り、その場を去った。ネイサンソンはアレックスに電話を掛けて「ある男が捜しています」と警告するが、ジンに妨害された。ジンは関係者が苦悶するビジョンを見たアレックスに電話を掛け、「彼らの苦痛を止められるのはお前だけだ」と告げた。アレックスはウェンディーの家へ押し掛け、「炎の石が魂で満たされました。ジンは私を追っている。どうすれば?」と相談する。ウェンディーは「そんな話、信じられると思う?」と軽く笑い、「今は科学万能の時代よ。ジンが存在するとしても遠い昔よ」と告げた。
アレックスが「1人で戦うわ」と言うと、ウェンディーは「貴方の貧弱な頭脳で?」と鼻で笑う。「気を悪くしたかしら?お詫びしないと。何をしてほしい?」とウェンディーが訊くと、アレックスは「帰ります」と背中を向ける。するとウェンディーに化けていたジンは正体を現し、座るよう要求した。ジンはウェンディーを寝室で殺害しており、アレックスに「お前は関わる者全てに災いを招く。妹はどうしているだろうな」と脅しを掛けた。ジンが「願いを言え、叶えてやる」と告げると、アレックスは「貴方の死を願うわ」と即答した。しかしジンは永遠の存在であり、死ぬことは無いと言う。
まず敵を知ろうと考えたアレックスは、「貴方の正体を知りたい」と述べた。ジンは彼女を宝石の中に呼び込み、魂を奪われた人間に苦痛を与える様子を見せ付けた。妹のことで再び脅されたアレックスは、家に帰らせてほしいとジンに願った。テーブルの置手紙を見た彼女は、シャノンがボーモント邸のパーティーに向かったと知る。直後に電話が鳴り、ジンの「これで願いを2つ叶えた。我々は離れられない。どこへ逃げても捜し出す」という声が聞こえた。アレックスは猛スピードで車を走らせ、シャノンを助けに向かう…。

監督はロバート・カーツマン、脚本はピーター・アトキンス、製作はピエール・デヴィッド&クラーク・ピーターソン&ノエル・A・ザニッシュ、製作総指揮はウェス・クレイヴン、共同製作はデヴィッド・トリペット、製作協力はエリック・サルツゲイバー、撮影はジャック・ヘイトキン、美術はデボラ・レイモンド&ドリアン・ヴァーナッチオ、編集はデヴィッド・ハンドマン、衣装はカリン・ワグナー、特殊メイクアップ効果はロバーツ・カーツマン&グレッグ・ニコテロ&ハワード・バーガー、視覚効果監修はトーマス・C・レインワン、音楽はハリー・マンフレディーニ。
出演はタミー・ローレン、アンドリュー・ディヴォフ、クリス・レモン、ロバート・イングランド、トニー・トッド、ウェンディー・ベンソン、トニー・クレイン、ジェニー・オハラ、ケイン・ホッダー、リッコ・ロス、ジョン・バイナー、バック・フラワー、グレッチェン・パーマー、レジー・バニスター、ジョセフ・ピラトー、トム・ケンドール、テッド・ライミ、ブライアン・クルッグマン、ダニー・ヒックス、アシュリー・パワー、アリ・バラク、リチャード・アサード、ベッツィー・マグワイア、レニー・ファイア他。
ナレーターはアンガス・スクリム。


『エルム街の悪夢』や『スクリーム』のウェス・クレイヴンが製作総指揮を務めた作品。
特殊メイク会社「KNB EFX」のメンバーとして数多くのホラー映画に携わって来たロバート・カーツマンが、監督を務めている。
脚本は『北斗の拳』『ヘルレイザー4』のピーター・アトキンス。
アレックスをタミー・ローレン、ジンをアンドリュー・ディヴォフ、シャノンをウェンディー・ベンソン、ジョシュをトニー・クレイン、ウェンディーをジェニー・オハラ、ネイサンソンをリッコ・ロス、ダグをジョン・バイナー、アリエラをグレッチェン・パーマーが演じている。

ホラー映画のファンがニヤリとするような面々が多く配役されている。
ジンを演じるのは、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディー役であるロバート・イングランド。ニック役は『序曲・13日の金曜日』のクリス・レモン、ボーモント邸の警備員のジョニー・ヴァレンタイン役は『キャンディマン』のトニー・トッド。
守衛は『13日の金曜日』シリーズのジェイソンを演じたケイン・ホッダー。ホームレス役は『狼男バサーカー』のバック・フラワー、ミッキー役は『ゾンビ』『死霊のえじき』のジョセフ・ピラトー。
ナレーターを担当したのは『ファンタズム』のアンガス・スクリムで、薬剤師役は同じく『ファンタズム』のレジー・バニスターだ。

ジン(ジニー)は『アラジンと魔法のランプ』に出て来るランプの精が有名で、1992年のディズニー映画『アラジン』にも登場する。ただ、そういった広く知られているジンのイメージとは違い、この映画では邪悪な精霊として描かれている。
これはウェス・クレイヴンたちが勝手に設定したわけではなく、そもそもジンは「善も悪もいる」という存在なのだ。
ただ、「願いを叶えて云々」という部分はランプの精として知られる設定を踏襲しており、そこの組み合わせが上手く行っていない。
ジンが「人間の願いを叶えて世界を支配して」という手順を踏むのが、「なんか無駄に面倒でバカバカしい」と感じてしまう。

冒頭、ペルシャ王が2つ目の願いを言うと、宮殿で様々な現象が起きる。
ある物は壁に飛ばされて埋め込まれ、ある者は腹が避けて怪物が出現し、ある者は本人が怪物に変身する。
それを「1つの願いによって起きる現象」として描いているのだが、いきなり手を広げすぎじゃないかね。もっと現象を絞り込んでおいた方が良くないか。
のっけから派手な映像表現で観客を引き付けたかったのかもしれないが、「王を驚かせる奇跡」としては、バリエーションに富みすぎだわ。

っていうかさ、それが2つ目ってことは、もうペルシャ王は1つ目の願いを叶えてもらっているんでしょ。その段階で、ジンがヤバい奴と気付かなかったのか。
宮殿で大変なことが起きてから「こんなことを願ったのではない」と言うけど、1つ目は満足できる結果だったのか。
それと、魔道士は3つ目を言わないよう警告してジンを封じているけど、放置していたらどうなるのかは最初から分かっていたんでしょ。
だったら最初から蘇らせないようにするとか、もっと早く手を打てば良かったでしょ。

アレックスが息を吹き掛けると、ジンの「私を蘇らせた」という声が聞こえる。そんな簡単な作業で復活しちゃうのかよ。
でも、復活したくせに、すぐに姿を見せることは無い。そしてジョシュがレーザー解析を始めたタイミングで宝石が爆発するんだけど、なぜジンの復活までに時間が掛かるのかは不明。
まさか、レーザー解析装置の力が無かったら宝石から出て来られなかったのかよ。
おまけに、宝石を爆発させて威風堂々と復活するのかと思いきや、思い切りダメージを受けて床に倒れ込んでいるし。なんかバカみたいだぞ。

ホームレスはジンから望みを問われ、「薬剤師が癌で死ねばいい」と冗談めかして言う。すると薬剤師は口から泡を吐き、顔に幾つもの吹き出物が出来て死ぬ。
いやいや、癌って、そういうモンじゃないから。
次にジンは、医科大学で自分を目撃した医学生に「こんなことを見たくないと願っているな」と告げる。医学生は「ああ」と答えるけど、それで両目を塞ぐのは違うだろ。
相手が願いを言っていないのに、勝手に「こんな願いだろ」と決め付けて誘導尋問するなよ。ルールが破綻してるじゃねえか。

「ジンは願いを叶える以外は何の力も発揮できない」という設定なので、誘導尋問で自分の目的を果たそうってことなんだろう。
だけど、別に願いが何であろうと関係ないでしょ。どんな願いであろうと、それに合わせて邪悪な結果を用意すればいいだけなんだから。
アリエラの時も医学生と同様で、ジンが勝手に願いを限定して質問している。
あと、「カットが切り替わるとアリエラがマネキンになっている」という描写だと、まるで怖くないぞ。なんで急に恐怖描写がヌルくなってるんだよ。

警察署を訪れたジンは、ネイサンソンにアレックスの住所を訪ねる。だけど、そんなの簡単に教えてくれるわけがないので、アホな行動にしか思えない。
犯罪者に射殺事件を起こさせて、ネイサンソンが取り押さえている間に資料を見ているけど、最初からそれでいいだろうに。余計な行動を取ったせいで、無駄に怪しまれているじゃねえか。
ただ、ネイサンソンがジンに質問され、男のことをベラベラ喋るのは不自然極まりないけどさ。
あと、ネイサンソンがアレックスに警告しようとした時にジンは妨害しているけど、これに関しては「願いを叶える以外は何も出来ない」というルールを完全に無視しているじゃねえか。

ジンはウェンディーを殺して顔の皮を剥ぎ、彼女に成り済ましてアレックスと会う。
顔の皮を剥いだだけで誰にでも変身できるんだから、それは「願いを叶える以外の能力」と言えるんじゃないのか。
あとさ、ジンはアレックスを騙して願いを言わせたいんだろうに。だったらウェンディーに化けて彼女を馬鹿にしたりジンの存在を否定したりするんじゃなくて、歩み寄るフリをして「協力するわ。何が望み?」とでも問い掛けた方がいいだろうに。
そんな簡単なことも分からないなんて、ボンクラすぎるだろ。

ボーモントが「歴史に残るパーティーにしたい」と言うと、ジンは様々な災いを起こして客を殺していく。ここまではいいとして、妹を捜すアレックスを石像に襲わせるとか、助けに来た警備員たちが石像に殺されるとか、その辺りはルールを逸脱してるだろ。
「それも歴史に残るパーティーとしての一環」ということなんだろうけど、それが有りならルールなんて無いも同然だ。
そこを百万歩譲って許容するにしても、シャノンを絵の中に閉じ込めて燃やすのは完全にアウトだろ。
まあ、それ以前から破綻しているので今更ではあるけど。

(観賞日:2021年12月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会