『ウインズ』:1992、アメリカ

ウィル・パーカーは、幼い頃から夢見ていた世界最大・最速のヨットレース“アメリカズ・カップ”に、恋人ケイト・ベス達と共に出場することになった。しかしケイトがチームから外され、ウィルが昇格したことで、ウィルとケイトの間に大きな溝が出来てしまう。
いよいよレース本番の日がやって来た。場所はロードアイランド。これまでアメリカ艇は、132年間に渡って無敗を誇ってきた。今回もクルーは優勝を確信していたが、ウィルがミスを犯してしまい、オーストラリア艇に優勝をさらわれてしまう。
恋人だったケイトを失い、夢も破れてしまったウィル。ショックを受けたウィルに、ケイトの現在の恋人ジョーが再挑戦を勧める。しかし、アメリカズ・カップで勝つためには巨額の資金や優秀なクルーが必要だ。ウィルはケイトやジョーの協力を得て、再びヨットへの情熱を燃え上がらせる…。

監督はキャロル・バラード、原案はジェフ・ベンジャミン&ロジャー・ヴォーガン&キンボール・リヴィングストン、脚本はルディ・ワーリッツァー&マック・ガジョン、製作はマタ・ヤマモト(山本又一郎)&トム・ラディー、製作協力はベッツィ・ポロック、製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラ&フレッド・フックス、撮影はジョン・トール、編集はマイケル・チャンドラー、美術はローレンス・イーストウッド、衣装はマリット・アレン、音楽はベイジル・ポールドゥリス。
主演はマシュー・モディン、共演はジェニファー・グレイ、クリフ・ロバートソン、ジャック・トンプソン、ステラン・スカースガード、レベッカ・ミラー、ネッド・ヴォーン、ピーター・モンゴメリー、エルマー・アールワート、セイラー・クレスウェル、ジェームズ・レブホーン、マイケル・ヒギンス、ロン・コルビン他。


ヨットレースの最高峰“アメリカズ・カップ”に挑む若者の姿を描く大作映画。
実際のアメリカズ・カップで、1983年にオーストラリア艇がアメリカ艇を破り、1987年にアメリカ艇がカップを奪還したという経歴がある。
この事実を元にしているが、内容は全てフィクション。

スタッフの中に山本又一郎という日本人がいる。
この人、『ベルサイユのばら』実写版やセイント・フォーの売り出し映画『ザ・オーディション』という日本映画界が誇る名作に携わり、さらに高橋名人と毛利名人がゲーム対決をする映画などを作った大プロデューサーだ。もちろん皮肉だ。

基本的には青春映画である。
恋と夢、挫折と希望。
それらを青春という枠の中に収め、お手軽感覚で調理している。
青い海や白い波の力を借りて、それを最大限に生かし、予定調和のハッピーエンドまで、基本に忠実なストーリー展開を守り通す。
何とか平均点を取ろうと心掛ける、お利口さんな作品である。

軽薄な恋愛ドラマを重視することで、今作品はシリアスな人間ドラマになることを上手く回避している。キャラクターにもドラマ自体にも深みを持たせていないことには、海の深さを浮き彫りにするための比較対象にしようとする意図が隠されているのだろう。

本質を隠すかのようなスローテンポは、観賞する者の心の躍動を抑え付ける効果を持っている。疾走感を抑えた、どこか淡白にも思える演出は、登場人物の持っている情熱と観客との間に厚い壁を作り上げることに成功している。

この題材を例えばドキュメンタリータッチで描いたならば、熱い情熱を秘めた人々の大いなる挑戦として映っただろう。しかし、完全にドラマとして作り込まれた今作品は、あえて観客にヨットレースに関わる人々の熱を伝えることを控えようとしている。

どれほど切迫した場面になろうとも、どれほど登場人物が必死になろうとも、観客はハラハラすることなく、安穏として作品を見続けることができる。
興奮して心臓に負担を掛けることを避けた、とても体に優しい作品だ。

 

*ポンコツ映画愛護協会