『ウイラード』:1971、アメリカ

鉄工所の営業部で働くウイラード・スタイルズは注文書を持って帰るのを忘れ、社長のマーティンに嫌味を言われた。月曜の9時までにやっておけと命じられたウイラードは、バスに乗り遅れた。彼の実家は豪邸だが、庭は手入れされずに荒れ放題となっている。ウイラードが屋敷に入ると、27歳の誕生日を祝うために親戚のシャロルットたちが集まっていた。母のヘンリエッタがマーティンも招待したと知り、ウイラードは困惑した。
ヘンリエッタと親族は、「もっと自分を売り込むんだ」「お前は重役にもなれる」「近頃では珍しく真面目だ」「もっと誇りを持て」などと口々に言う。元々、鉄工所はウイラードの父が設立していた。しかし彼が死去した後、まだウイラードが若かったのでヘンリエッタはマーティンに任せたのだ。しかし親族の中には、「マーティンが乗っ取った」と言う者もいた。ウイラードは親族の勝手な助言に不快感を覚え、庭に出た。彼はネズミを目撃し、パンくずを投げ与えた。
足腰の悪い母はヘンリエッタは、昇降機を使って2階に上がった。彼女は鈴を鳴らしてウイラードを寝室に呼び、客への態度を叱責した。ヘンリエッタはマーティンを味方にするよう促し、「そうしないと副社長になれない」と告げる。「この家もガタが来てる。昨日なんか庭にネズミがいた。何とかして」と、彼女はウイラードに頼んだ。またウイラードが庭に行くと、今度は子供たちを連れていた。ウイラードは笑顔を浮かべ、パンくずを与えた。
ウイラードは遅刻して出勤し、またマーティンに注意された。まだ注文書が出来上がっていないことをウイラードが話すと、マーティンは「君のせいで頼まれた品物が完成しなかったら会社は破産だ。これか最後の通告だ。溜まっている仕事を片付けろ」と命じる。ウイラードが言い訳しようとすると、彼は「聞きたくない。特別に女性を雇った。少しははかどるだろ。それでもダメなら会社を辞めてもらう」と冷たく通告した。手伝いとして雇われた新入社員のジョアンは、ウイラードに自己紹介した。
帰宅したウイラードは裏庭の人工池に餌を置いてネズミを溺死させようとするが、途中で思い留まって救助した。母から「ちゃんとネズミを殺してくれた?」と問われた彼は、「ああ、やったよ」と嘘をつく。会社でジョアンと仕事している時。ウイラードは「こんなに出来るわけない」と愚痴をこぼした。ジョアンが「貴方をパーティーに招待するべきよ」と言うと、彼は「取引先と営業の連中だけさ」と語る。ジョアンは「貴方のお父様が会社を成立したんでしょ」と告げ、「昔の話さ」という言葉に「酷い話ね」と同情した。
ウイラードが帰宅すると、台所にシャロルットがいた。彼女は「ヘンリエッタから電話があった。発作が起きたので貴方が帰るまで残っていた」と話し、貴方たちの面倒を見てあげたいと告げる。ウイラードは迷惑そうな表情を浮かべ、母が休んでいる寝室へ赴いた。彼が「僕に電話すれば良かったのに」と言うと、ヘンリエッタは「仕事中に呼び出したら悪いもの」と告げる。「迷惑ばかり掛けて済まないね」と母に言われたウイラードは、「心配しないで」と優しく返した。
「お前は私の宝物なんだよ」という母の言葉に、ウイラードは「出来が悪くて御免よ」と告げた。ヘンリエッタは彼に、「お前はいい子だ。でも二人暮らしは心細い。面倒見がいいお嫁さんを貰いなさい」と語った。「アンテナを修理して。テレビが映らないと退屈なの」と頼まれたウイラードは、「明日、直すよ」と約束した。彼はネズミに名前を付けて、話し掛けるようになった。彼は「人間の言葉を教えてあげよう。これから練習するんだ」と言い、餌の入った箱と空っぽの箱を認識できるように特訓を開始した。
ウイラードは真っ白のネズミにはソクラテスと名付け、特に可愛がって屋敷に持ち込んだ。母に鈴で呼び出された時も、彼はソクラテスをズボンのポケットに入れて連れて行く。「ポケットに何を入れてるの」と指摘された彼は、「入れてないよ」と嘘をついて部屋を去った。ウイラードは物置でネズミを飼い始め、ダンボール箱で子供を産ませて数を増やした。大きなドブネズミがベルを鳴らしているのを見た彼は、ベンと名付けた。
ある日、ウイラードは社長室の前を通り掛かり、マーティンが秘書のアリスと楽しそうに抱き合う様子を目撃した。自分のデスクに戻った彼は、ジョアンに「マトモなのは君だけだ」と言う。マーティンに呼ばれた彼は社長室へ赴き、「さっきのは何でもない。ちょっとアリスをからかっていただけだ」と弁明された。「この会社に満足してるか」と訊かれたウイラードは、「もう少し給料が良ければ」と答える。「君は仕事をしていない。もっと頑張ってもらわないと」とマーティンが話すと、彼は強い不満を態度で示した。
マーティンが「呆れた奴だ」と口にすると、ウイラードは「父が死んでから一度も昇給が無い。残業もしてるし、週末も働いてる」と抗議する。マーティンが「金か?家を売ればいい。俺が買ってやる。あんな大きな家は不要だろ」と告げると、彼は「残業してるんですよ」と訴える。マーティンは「君は人の3倍も時間が掛かるからな」と冷たく言い、「給料を上げてください」と要求するウイラードに「仕事があるだけありがたいと思え」と述べた。
マーティンが「パーティーの招待状は送ったか」と尋ねると、ウイラードは「確か2週間前に」と答える。マーティンは「確かだと?まだ返事が半分しか届いていない。どうせ半分は机の中だろう。パーティーは今夜だぞ。お前は能無しだ」と激怒し、ウイラードを社長室から追い出した。その夜、ウイラードはマーティンがホームパーティーを開いている屋敷の庭に侵入し、「餌だぞ」と命令してネズミたちを放つ。招待客は慌てて逃げ惑い、マーティンと使用人たちはネズミを退治しようとする。ウイラードは残ったネズミたちを呼び戻し、勝利の笑みを浮かべて立ち去った。
翌日、パーティーに参加していた社員のブラントは、昨晩の出来事を同僚たちに話して笑う。そこへマーティンが現れ、プラントに「お前は縮み上がってたな」と冷たく告げる。マーティンはウイラードの家からに電話が入ったとアリスに知らされ、受話器を取る。彼は電話を終えるとウイラードの元へ行き、「母親の具合が悪いらしい。早く帰ってやれ」と指示した。ウイラードが帰宅するとシャルロットがいて、激しく驚いた。ウイラードが「母の具合は?」と尋ねると、彼女は答えなかった。
ウイラードが寝室に行くと、母の姿は無かった。彼が改めてシャルロットに訊くと、「貴方を頼むと言い残して息を引き取った。連れて行かれた」と告げられる。「なせ僕のいない間に出て行かせた?」とウイラードが怒ると、彼女は「会社に電話したけど、貴方はいないと言われた」と釈明する。ウイラードは「君の指図は受けない」と言い、シャルロットを追い払った。彼は弁護士のカールソンから、「君のお母さんは君に家を残したが、年金暮らしだった。家を売って借金を返せば、残った金で小さな家ぐらいは買える」と聞かされた。母が家を抵当に入れて金を借りていたことを初めて知ったウイラードは、「引っ越しなんかしません。家も売りません」と述べた。
マーティンと親族は大量の食料を買い込み、ウイラードの元を訪問した。しかし彼らがウイラードを慰めたのは最初だけで、その後は勝手に会食を始めた。ウイラードはネズミを物置から家の地下室へ移し、庭と行き来するための通路を用意した。地下室にベンが現れたので、彼は「みんなと仲良くするんだぞ」と告げる。シャルロットが勝手に家へ上がり込んで「貴方の面倒を見るってお母さんと約束したの」と言うので、ウイラードは怒鳴り付けて追い出した。
ウイラードは地下室から出ようとするネズミたちに戻るよう命じ、ソクラテスだけを寝室で飼うことにした。ベンが部屋に入って来ると彼は軽く注意するが、そのまま部屋にいても黙認する。ウイラードはソクラテスに「1人で残業していると寂しいんだ。お前を会社に連れて行く。土曜だから午後からは誰もいない」と言い、ベンも連れて行くことにした。彼は中古車を買って出勤し、ベンとソクラテスを資料室に隠した。彼はジョアンに「車を買ったんだ。中古だけど悪くない」と話し、1人で残業した。
ウイラードはベンとソクラテスを机に乗せて遊ばせるが、ジョアンが戻って来たので慌てて引き出しに隠す。ジョアンは「いい物を持って来た。車の中よ」と語り、ウイラードを外に連れ出した。車の中に猫がいたので、ウイラードは困惑する。ジョアンは「名前はクロエよ。1人じゃ寂しいだろうと思って」と言い、飼うよう勧める。「貴方の家に行ってもいい?」と問われたウイラードは、「別にいいけど、中は散らかってるから見せられない」と述べた。
ウイラードはジョアンを車に乗せ、自宅に戻った。すると玄関の扉に税金未払いで家の差し押さえを通告する税務署の書類が貼ってあり、彼は「家まで送るよ」とジョアンに告げた。「どうするの?」と訊かれた彼は、「2500ドルなんて、とても払えない」と漏らす。ジョアンは彼を励まし、頬にキスをした。ウイラードは「可愛がってあげて」と言われ、猫を引き取った。しかしジョアンが去ると駐車場の係員に「少し預かって」と猫を抱かせて、そのまま逃げた。
地下室ではネズミが増え続けており、ウイラードは「借金と言い、お前たちのことと言い、もうウンザリだ」と苛立った。シャルロットを訪ねた彼は事情を説明して借金を頼むが、無言で断られた。葬儀屋のファレイにも借金を申し入れるが、「君のためだ。家を売りなさい」と告げられた。翌日、ジョアンが心配すると、ウイラードは「君に迷惑は掛けられない。何とかなるさ」と告げる。マーティンは取引相手のスペンサーと話し、アリスに「彼はヨーロッパ旅行に行く。8000ドルの小切手を切って銀行に行くんだ」と告げる。スペンサーはアリスに、「半分は現金で頼む」と頼んだ。ウイラードはアリスに頼まれ、スペンサーの住所を調べた。
その夜、ウイラードはネズミたちを連れてスペンサー邸に忍び込み、夫妻の寝室のドアを齧らせた。夫人が不審な音に気付いて目を覚まし、スペンサーを起こした。ドアを開けた夫妻は、ネズミたちを目撃する。夫妻は慌てて外へ逃げ出し、ウイラードは金を盗み出した。翌朝、マーティンはブラントを伴ってウイラードの家を訪れ、ドアをノックする。応答が無いので、彼は家を手に入れてアパートを建てる計画をブラントにに話す。マーティンは「クビにすれば売らざるを得ないだろう」と言い、その場を後にした。居留守を使っていたウイラードは、そんなマーティンの様子を密かに見ていた。
ウイラードはソクラテスだけを寝室で可愛がっていたが、ベンが勝手に入って来るので追い出した。すぐにベンが戻って来たので、彼は棒で突いて追い払う。ベンが鞄に入り込むと、ウイラードは「おとなしくするなら連れて行ってやる。だが、絶対に音を立てるな」と言い聞かせた。ジョアンはマーティンに呼び出され、「ウイラードと親しいようだが、私に家を売るよう説得してほしい」と持ち掛けられた。ジョアンが「出来ません」と断ると、マーティンはアリスを通じて解雇通知を渡した…。

監督はダニエル・マン、脚本はギルバート・A・ラルストン、製作はモート・ブリスキン、製作総指揮はチャールズ・A・プラット、撮影はロバート・B・ハウザー、編集監修はウォーレン・ロウ、美術はハワード・ホランダー、衣装はエリック・シーリグ&ドロシー・バークレー、音楽はアレックス・ノース。
出演はブルース・デイヴィソン、ソンドラ・ロック、エルザ・ランチェスター、アーネスト・ボーグナイン、マイケル・ダンテ、ジョディー・ギルバート、ウィリアム・ハンセン、ジョン・マイハーズ、J・パット・オマリー、ジョーン・ショーリー、アイミラ・セッションズ、ポーリーン・ドレイク、ヘレン・スプリング、アラン・バクスター、シェリー・プレスネル他。


スティーヴン・ギルバートの小説を基にした作品。
監督は『栄光の丘』『愛は心に深く』のダニエル・マン。
脚本は『さらば荒野』のギルバート・ラルストン。
ウイラードをブルース・デイヴィソン、ジョアンをソンドラ・ロック、ヘンリエッタをエルザ・ランチェスター、マーティンをアーネスト・ボーグナイン、ブラントをマイケル・ダンテ、シャーロットをジョディー・ギルバート、カールソンをジョン・マイハーズ、ファーレイをJ・パット・オマリー、アリスをジョーン・ショーリーが演じている。

マーティンが女性を雇ったことを話した後、ウイラードが自分のデスクに戻るとジョアンが挨拶する。そこから何かやり取りがあるのかと思いきや、すぐにシーンが切り替わる。だからジョアンの初登場シーンは、名前を告げただけで終わる。
いや、それだけで終わらせるなよ。そのままウイラードと一緒に仕事をするシーンへ繋げればいいでしょ。
なぜか他のシーンを挟んでから、仕事をする様子を描くのよね。そこを分割しても、何のメリットも無いでしょうに。
これはウイラードがヘンリエッタからネズミ退治を頼まれる手順も同じことが言える。頼まれた時点で「やろうとするけど無理だった」というトコまで進めてしまってもいいのよ。
だけど実際には、そこ分割しているのよね。そして分割しているメリットなんて、何も無いのよね。

ウイラードはダンボール箱でネズミの子供を産ませて数を増やすのだが、ここの展開が拙速だ。何の兆しも準備も無かったのに、いつの間にかネズミが増殖しているんだよね。物置のシーンが写ると、もう大量に増えてるのよ。
それは描写として雑だわ。「ウイラードがネズミだけを友達と感じ、後先考えずに数を増やすようになる」ってのは作品の肝に通じる部分なのに、そこの丁寧さが皆無。
あと、ウイラードにとってネズミが唯一の友達だったはずなのに、パーティーの事件で何匹か死んでも全く気にしないのはダメだろ。
そこは悲しみや嘆きを見せろよ。そして逆恨みでもいいから、復讐心を燃やせよ。

ルッキズム批判を浴びることを承知で書くが、アリスはお世辞にも美女とは言えない女性だ。それは外見的な要素だけじゃなくて、内面的にも美しさを感じない。
なので、そんな女性とマーティンが会社でイチャイチャしていても、「別にアリスが相手からいいんじゃないか」と思ってしまう。
そこは「社長が会社で秘書とイチャイチャする公私混同っぷりを見てウイラードが苛立つ」というトコに観客も同調する形になるべきだと思うのよ。
でも相手がアリスだと、ちっとも羨ましくないし。

マーティンは決して立派な人間ではないし、ウイラードが嫌うのは理解できる。それに、卑怯な方法でウイラードの家を奪おうと目論んでいることが判明すると、完全に悪役化するしね。
ただ、そもそも彼は頼まれて会社を継いだのであり、経営には何の問題も無さそうだ。
それに、マーティンがウイラードを説教するのは遅刻やミスを繰り返しているからであり、それは当然だ。
ウイラードは給料のことで文句を言うが、それも仕事ぶりに問題があるからだ。遅刻を繰り返しているのにクビにならないだけでも、ありがたいと思うべきだろう。
彼の反発は、ただの逆恨みにしか思えないのだ。

これはウイラードの親族に対する態度も、同じようなことが言える。
そりゃあ、いつまでも子供扱いされて、腹が立つこともあるだろう。だけど実際、ウイラードは全く成長していないのだ。中身が子供じみている人間なのだ。
それに親族は、ウイラードへの敵意や憎しみで動いているわけではない。ちゃんと愛しているし、親身になって助言しているのだ。
シャルロットにしても、裏の目的があるわけではない。ホントにお節介が過ぎるだけで、決して悪意があるわけではないのだ。
だから、ここでウイラードが強い憎しみを抱くのも、彼に大きな問題があるようにしか感じない。

ウイラードがマーティンから「パーティーは今夜だぞ。お前は能無しだ」と罵られて腹を立てる時も、「そもそも自分が命じられた仕事をやっていなかったからでしょ」と言いたくなる。批判されても仕方がないぐらい、ウイラードは全く仕事が出来ない奴なのだ。
しかし彼は自分が出来ない奴だと認めず、要求ばかりを主張する。そんな奴なので、ちっとも応援したくならないのだ。
あと、前半でジョアンが彼を気に掛けるようになるので、「孤独なウイラードにとってネズミだけが唯一の友達」ってのが成立しなくなるんだよねえ。
だからって、ウイラードとネズミの関係を描く上でジョアンを上手く使いこなせているわけでもないし。

ウイラードがパーティーのことでマーティンに罵られた後、鉄工所を出るとシーンが切り替わる。そしてウイラードが両手に鞄を持って、夜の町を歩いている様子が写る。
この後、彼はパーティーにネズミを放ってマーティンに報復するのだ。
だが、その前に大事な手順を省略している。
そのエピソードでは、もっと「ウイラードがマーティンへの怒りを燃やし、復讐のためにネズミを使おうとする」という意識を強く描くべきなのだ。そのためには、ウイラードが帰宅して、ネズミに話し掛けるようなシーンが必須なのよ。

ウイラードがパーティー会場にネズミたちを放つと、招待客が慌てて逃げ出す。だけど会場でパニックが起きても、こんなのサスペンスやホラーとしては全く機能していない。
コメディーなら「タチの悪いイタズラ」として成立するけど、そういう描き方でもない(まあ当然ではあるけどね)。
そのため、ただのヌルい動物パニック映画になっている。
ネズミを恐怖の対象として描きたいのなら、さっさと重傷者が出るような大事故や殺人に関与させるべきなのよ。でも完全ネタバレだけど、ネズミが殺人に加担するのは残り15分を切った辺りが最初で、合計2人しか殺さないのだ。
ハッキリ言って、ヌルいのよ。

シャルロットは死んだヘンリエッタについてウイラードから「なせ僕のいない間に出て行かせた?」と責められると、「会社に電話したけど、貴方はいないって言われた」と釈明する。
でも、これが嘘なのか何なのか良く分からない。
電話を受けたシーンでは、マーティンはそんなことは言っていないけど、この映画は変なトコで省略もあるし。
でも普通に考えるとシャルロットの嘘なのだろうが、そういう嘘を彼女につかせる意味も良く分からない。

ウイラードは税務署の差し押さえ文書を見ても、絶対に家は売らないと断言する。ただ、彼が家を売ろうとしないのは、ネズミを飼いたいからってことでもない。
そうなると「母との思い出が詰まった場所だから」ってことなんだろうけど、そんなに家に対して執着する理由が見えないのよね。
なので、別に売れば良くねえかと思ってしまう。
あと、金が無いのに、すぐ中古車を買う理由も不明。それでジョアンの気を引きたいという目的があるわけでもなさそうだし。

ウイラードはスペンサー夫妻の家に侵入し、ネズミにドアをかじるよう命じる。だけど、かじらせる意味が全く無い。
ようするに、夫婦を起こせば目的は達成されるわけだから、ウイラード本人が大きな音を立ててもいいでしょうに。
あと、夫妻をビビらせればいいのだから、そういう意味でもネズミを使う必要は無いのよね。脅かす方法なんて、他に幾らでもあるでしょ。
むしろネズミだと、夫妻が逃げずに退治しようとする可能性もあるでしょ。

ウイラードはネズミの中で、真っ白なソクラテスだけを気に行って特別扱いする。それはいいとして、なぜ母から鈴で呼び出された時も、ポケットに入れて連れて行くんだよ。むしろ見つからないように隠すべきだろうに。
ベンとソクラテスを会社に連れて行くのも同様で、資料室に放しているけど、箱や袋に入れたりすることはなく、誰でも見える場所に置いてるだけなのよね。
それは隠しているとは言えないでしょ。誰も資料室に入らないように、注意して見ているわけでもないし。どんだけボンクラなのかと。
だからソクラテスが見つかって殺され、ウイラードがネズミたちにマーティンを襲わせるのも、御門違いの逆恨みにしか思えない。

マーティンの死を確認したウイラードがベンを置き去りにして、自宅にいたネズミを皆殺しにするのは「なんでだよ」と言いたくなるぞ。
自分の命令に従って邪魔な人間を始末してくれたのに、なぜ感謝することもなく抹殺するのか。
「ネズミが邪魔になって殺す」という感情に変化するにしても、そのタイミングは違うだろ。何度か殺人を重ねて、その中で気持ちに変化が起きるという流れなら分かるけど。あと、例えばジョアンを好きになって、ネズミが邪魔になるとかね。
ウイラードはマーティンを殺すよう命じているので、「脅すだけで殺すつもりは無かったのに、殺したから怖くなった」という言い訳も成立しないし。

(観賞日:2022年5月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会