『悪魔の呼ぶ海へ』:2000、アメリカ&フランス&カナダ

1873年、ニューハンプシャー州ポーツマス。裁判に掛けられたルイス・ワグナーは、必死に無実を訴えた。証人のエヴァンは、島に戻って 家に入ると妻アネットが死体となって床に倒れていたと証言した。2000年、雑誌カメラマンのジーンは、殺人事件の取材を引き受けた。 彼女は娘を姑に預け、詩人の夫トーマスと共に車で埠頭へ向かった。2人はトーマスの弟リッチの船に乗り、事件のあったスマッティー ノーズ島へ向かうことにしているのだ。
リッチは、恋人のアデリーンを連れて来ていた。トーマスとアデリーンは、作家の朗読会で面識がある様子だった。ジーンは半ばバカンス 気分で、島に到着した。当時の記録を読むと、被害者アネットとカレンの死体はキッチンにあった。アネットの遺体は裸で、布が掛けて あった。その脇で、犯人が紅茶を飲んだ形跡があった。ジーンは、現場の状況に強い疑問を抱いた。
トーマスは凶器が斧だったことに着目し、犯人は親しい人間だったのではないかと口にした。ジーンは、犯人が被害者のいずれか一方を 愛していたのではないかと推理した。エヴァンの妹マレンの目撃証言によって、ルイスは逮捕されていた。ジーンが船のキッチンで食事の 用意をしていると、甲板でトーマスがアデリーンと話す声が聞こえてきた。「娘が肺炎で入院した時、ピューリッツァー賞の知らせが来た」 と話すのを聞いて、ジーンは苛立ちを覚えた。2人のただならぬ雰囲気に、ジーンは気付いていた。
マレンが漁師の夫ジョンと共にノルウェーから島に渡ってきたのは、事件の5年前だった。彼女は働くことで憂鬱を紛らわせたが、次第に 孤独になり、夫婦の会話も無くなった。ジーンは、マレンが犯人だと推理した。ある時、マレンの元に姉カレンから手紙が届いた。父が 亡くなり自分も島に渡るという内容だった。マレンは疎ましさを感じるが、どうしようもなかった。
家にやって来たカレンに、マレンはエヴァンのことを尋ねた。「きっと来るわよね」と期待を込めて言うマレンだが、カレンは「向こうで 成功しているのに、来るはずがない」と冷たく返した。カレンは他の島のホテルでメイドをすることになり、マレンは顔を合わさずに済む と喜んだ。ジョンがポーツマスから来た仲間ルイスを家に連れ帰り、リウマチを患っているので面倒を見ると告げた。
ジーンは、マレンが記した1875年4月15日付の手紙に目を留めた。それはプレイステッド検事に宛てられた手紙で、会う段取りを付けて 欲しいという内容だった。ジーンは、裁判の2年後になってマレンが検事に会おうとした理由を考える。その3週間後、ルイスは絞首刑に されている。ジーンは、マレンが無実のルイスを死に追いやった罪の意識に耐えかねて告白したのではないかと推察した。
マレンはジョンの言い付けに従い、ルイスの面倒を見た。しかしルイスは、いやらしい態度を露骨に示し、言い寄ってきた。やがて エヴァンが島にやって来たことで、マレンは喜びを感じた。だが、結婚相手のアネットが一緒だと知り、ショックを受けた。マレンは裁判 で、アネットとカレンがルイスに襲われた時、自分は窓から必死で逃げて岩場に隠れていたと証言した。ジーンは裁判所を訪れ、当時の 記録を詳しく調べようとする。資料室でトーマスからセックスを求められたジーンは拒絶し、詫びの言葉を口にした。
エヴァンと一緒に暮らし始めたマレンは、兄とアネットの幸せそうな様子に寂しさを覚えた。ノルウェーにいた頃、マレンはエヴァンの ベッドに潜り込み、淫らな関係を持ったことが一度だけあった。アネットは優しい女性だったが、家事は何も出来なかった。彼女が何か役 に立ちたいと申し出たので、マレンはルイスに本を朗読するよう頼んだ。戸惑いながらもルイスの部屋に赴いたアネットだが、彼が手を 出そうとしたので慌てて逃げ出した。この出来事を受けて、ジョンはルイスを追い出した。
トーマスはリッチと2人で会話を交わし、「もう詩は書かない」と口にした。ジーンはアデリーンに、「夫は人を殺している」と告げた。 若い頃、トーマスは車で事故を起こし、同乗していた17歳のガールフレンドが死んだ。トーマスは、死んだ彼女のことを詩に綴っていた のだとジーンは語った。そして「自分は彼のことを何も分かっていなかった」と、ジーンは話した。
1873年3月5日、ジョンと仲間のエミールと共に、船で漁に出た。エヴァンも不在だった。アネットはマレンとカレンに、妊娠したことを 明かした。マレンは2人に、風が強いので今夜はジョンとエヴァンが帰って来ないだろうと告げた。夜、アネットは不安を訴え、マレンに 一緒のベッドで眠るよう求めた。マレンは承諾し、自分のベッドに彼女を迎え入れた。
アネットはマレンに服の背中をはだけるよう求め、マッサージをした。アネットが眠り込んだ後、部屋に現れたカレンはマレンの姿を見て、 アネットに手を出したと思い込む。彼女は声を荒げ、目覚めたアネットに「マレンはエヴァンとも寝たことがある。まだ病気が治って いなかった」と言い放つ。エヴァンに報告しようとするカレンを、マレンは斧で殴り殺した…。

監督はキャスリン・ビグロー、原作はアニタ・シュリーヴ、脚本はアリス・アーレン&クリストファー・カイル、製作はジャネット・ヤン &シガージョン・サイヴァッツォン&A・キットマン・ホー、製作総指揮はリサ・ヘンソン&スティーヴン=チャールズ・ジャッフェ、 撮影はエイドリアン・ビドル、編集はハワード・E・スミス、美術はカール・ジュリウソン、衣装はマリット・アレン、音楽はデヴィッド ・ハーシュフェルダー、音楽監修はランディー・ガーストン。
出演はサラ・ポーリー、キャサリン・マコーマック、ショーン・ペン、エリザベス・ハーレイ、ジョシュ・ルーカス、シアラン・ハインズ、 カトリン・カートリッジ、ヴィネッサ・ショウ、アンダース・W・ベアテルセン、ウルリク・トムセン、 リチャード・ドナット、アダム・カリー、カール・ジュリウソン、ジョン・マクラーレン、ジョセフ・ラッテン、ジョン・ウォルフ、 キャサリン・ケルナー、ピーター・コボルド、R・D・コール他。


1873年3月6日にショールズ小島で起きた殺人事件を基にしたアニタ・シュレーヴの全米ベストセラー小説を映画化した作品。
実際に起きた事件では、真犯人が誰なのかは明らかになっていない。
監督は『ハートブルー』『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』のキャスリン・ビグロー。
マレンをサラ・ポーリー、ジーンをキャサリン・マコーマック、トーマスをショーン・ペン、アデリーンをエリザベス・ハーレイ、リッチ をジョシュ・ルーカス、ルイスをシアラン・ハインズ、 カレンをカトリン・カートリッジ、アネットをヴィネッサ・ショウ、エヴァンをアンダース・W・ベアテルセン、ジョンをウルリク・ トムセン、プレイステッドをリチャード・ドナットが演じている。

原作シリーズは出版順と時系列順が異なっているが、映画版は出版順で製作していくようだ。
ちなみに時系列順だと、原作の第6巻『魔術師のおい』が最初に来る。
時系列順に作っていかないと後で面倒になりそうな気もするが、大丈夫なんだろうか。
それと、原作って全巻で主役が共通しているわけではないのよね。今回はペベンシー4兄弟が主役だったが、そうではない作品もあるって ことだ。
映画版でもシリーズなのに主役が変わることになるわけだが、大丈夫なのかね。ちゃんと7作目まで作れるのかね。

ジーンは序盤、モノローグで「半ばバカンス気分で島へ向かった」と言っているのに、島に到着した途端、ものすごく真剣な態度で事件の 調査に入り込んでいる。
おまけに当時の状況の幻覚映像チックなものまで目にする始末。
そこまで没頭する理由がサッパリ分からない。
そんな風になるなら、最初から「バカンス気分」とか余計なことを言わなきゃいいのに。

最初に1873年の事件に関する裁判のシーンがあり、すぐに現在のジーン達の様子に切り替わる。そこからは、過去と現在を行き来しながら 話が進行していく。
しかし「現在」のサイドに、映画を支える力が全く無い。
ハッキリ言えば、全く必要性を感じない。
どうやら、ジーンがトーマスとアデリーンの只ならぬ関係に心をかき乱されるという部分を、マレンの感情に重ね合わせることを狙って いるようた。
しかし見ている限り、そこは全く重なり合わない。シンクロ率ゼロと言ってもいい。

ジーンには、事件の調べを進めていくという探偵の役割も与えられている。
だが、どうしても探偵が必要だと言うのなら、現在ではなく1875年に設定すればいいだけのことだ。
そうすることもデメリットは、何も見当たらないし。
というか、現在の女性が事件を探る設定にしたことの意味を感じないし。
終盤の「いきなり嵐がやって来てボンクラなアデリーンが船から投げ出され、助けようとしたトーマスが死亡」という、間違ったデウス・ エクス・マキナみたいな展開も、だから何なのかと思ってしまうし。

あと現在のシーンに関しては、エリザベス・ハーレイは明らかにミスキャストだろう。
「いかにもスベ公でございます」みたいに下品なフェロモンを撒き散らしているのは、何の悪ふざけなのかと思ってしまう。
そこは、エロさはあってもいいが、それは露骨なアピールじゃなくて、匂立つようなモノであるべきだ。
そして、それはエリザベス・ハーレイでは難しいだろう。

1873年のサイドに関しては、ほぼサラ・ポーリーが一人で支えているような観が強い。
とは言え、現在のサイドと比較すれば、惹き付ける力は月とスッポンだ。
ただし、こちらも問題が無いわけではない。こちらはこちらで、「序盤で犯人はバレバレになっており、中盤辺りになると露骨な形で 明かしてしまう」という問題を抱えている。
これは過去サイドだけで明かしていくわけではなく、現在のサイドでも早々とジーンはマレンが犯人だと言い当ててしまう。

ミステリーではなく、女の情念を描いた話として作っているのかもしれない。
しかし、そうであるならば、「最初に事件が示され、それを探偵役が探っていく」という構成を選ぶべきではなかった。
テーマと映画の作りが合致していない。
女性の心の揺れ動きに重点を置くのであけば、時系列順に描くか、もしくは何が起きたのかを伏せて(ルイスが処刑されたことだけを示し 、罪状についての詳しい説明は描写せずに)回想に入るべきだ。

前半で犯人も犯行動機もほぼ見えているのに、それを調査するという行為に何の意味があるのかと。
それがミスディレクションになっており、「実は意外な真実が」という展開が待ち受けているのならともかく、そうではないの だから。
まあ一応、殺人の理由が嫉妬心ではなく口封じだという部分の違いはあるけれど、「意外な真実」というほどではない。
ミステリーとして終盤まで話を引っ張るのに、それだけで値するものだとは思えない。

(観賞日:2008年3月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会