『ウォンテッド』:2008、アメリカ&ドイツ

一千年前、機織り職人の一族が暗殺組織を作った。彼らは乱れた世の中に秩序をもたらすため、密かに刑を執行した。一族は自分たちの組織を「フラタニティー」と呼んだ。現在。会計事務所で働くウェスリー・ギブソンは、上司であるジャニスの誕生パーティーで同僚たちと同じように媚を売ることを嫌ってウンザリしている。顧客管理の仕事にも退屈を感じ、やはりウンザリしている。ウェスリーの父親は、息子の生後7日目に家族を捨てて失踪している。
ミスターXは高層ビルの廊下を歩き、電話番をしている女性のいる部屋へ入った。Xは緊張する女性に、「落ち着け、暗殺リストに君の名は入っていない」と告げる。彼は弾丸を取り出し、「最近、次々と仲間が殺されている。奴がこれをどこで手に入れたか教えて欲しい」と依頼する。女性は弾丸を調べ、「痕跡無し、追跡調査は不可能です」と述べた。向かいのビルの屋上から狙撃があり、女性が死んだ。Xは窓を突き破って向かいの屋上へ飛び移り、そこにいた3人の殺し屋たちを始末した。
殺し屋の1人が持っていた携帯電話が鳴ったので、ミスターXは掛けて来たクロスと話すことにした。Xが「フラタニティーから逃れることは出来ないぞ。千年続いた組織を壊すことは出来ない」と言うと、クロスは「既に壊れている。奴は掟を破った。許してはおけない」と口にした。「では、なぜ自分でやらない?」とXが尋ねると、クロスは「そいつらは囮だ」と告げた。直後、遠く離れた場所で銃を構えていたクロスの放った銃弾が、ミスターXの頭部に命中した。
ウェスリーは高架の隣にある部屋で、恋人のキャシーと同棲していた。電車が通るたびに騒音がするのでキャシーは別の部屋を探すよう望んでいるが、ウェスリーは気の無い様子で「ここが気に入ってるんだ」と言う。出勤したウェスリーは、指示されたレポートを提出していなかったことでジャニスに叱られた。歯医者に行くという名目で仕事を抜け出した同僚のバリーは、ウェスリーの部屋でキャシーとセックスしていた。
ウェスリーはストレスに悩まされており、薬を服用している。彼がドラッグストアで薬を処方してもらおうとしていると、フォックスという女性が現れて「アンタのパパを知ってる。昨日、メトロポリタン・ビルの屋上で亡くなった」と告げた。ウェスリーが頭のおかしい女だと考えて軽く受け流していると、フォックスは「アンタのパパは凄腕の殺し屋だった。彼を殺した奴が、そこにいる」と告げて拳銃を構えた。フォックスが店内に潜んでいたクロスと撃ち合いを開始し、ウェスリーは慌てて逃げ出した。
クロスは駐車場のトラックに乗り込み、ウェスリーを追って来た。フォックスが車で駆け付け、ウェスリーを強引に引っ張り込んで逃走する。ウェスリーは自分が狙われていることが分からず、「僕は無関係だ、降ろしてくれ」とフォックスに頼む。フォックスは彼に運転を任せ、車から乗り出してクロスに発砲する。パトカーに行く手を塞がれると、フォックス再び運転を交代した。フォックスが荒っぽい運転でパトカーの壁を突破すると、ウェスリーは失神してしまった。
ウェスリーが意識を取り戻すと見知らぬ部屋にいて、複数の男たちの姿があった。そこへフォックス、さらにスローンという男が現れた。スローンはウェスリーに拳銃を渡し、ゴミ箱にたかっているハエの羽根を撃つよう促した。背後から拳銃を突き付けられたウェスリーは極度の緊張状態に陥るが、ハエの動きが超スローモーションに見えた。ウェスリーが拳銃を乱射した後、スローンはハエの羽根だけが見事に撃ち落とされていることを彼に確認させた。
スローンはウェスリーに、「君の身に起きたことは、パニック障害ではない。心臓の鼓動が上昇して大量のアドレナリンが血管に流れ、身体能力を通常の数十倍に高めた。出来るのは世界でも稀だ。君の父親は出来た。訓練して肉体の制御を学ぶといい」と話す。さらに彼は、ウェスリーの父親がフラタニティーの仲間であったこと、父親が殺しの仕事で稼いだ大金が口座に振り込まれていることを語り、「君が我々の仲間に加わるのは運命だった」と口にした。
ウェスリーは拳銃を構え、自分を立ち去らせるよう要求した。スローンたちは引き留めようとせず、おとなしく立ち去らせた。銀行口座を確認したウェスリーは、大金が振り込まれているのを知って驚いた。出勤したウェスリーは、バリーが声を掛けると余裕の表情を浮かべて対応した。ジャニスが嫌味な態度を見せると、ウェスリーは「うるさいぞ」と怒鳴り付けた。ウェスリーは動揺するジャニスに辛辣な言葉を浴びせ、「くたばれ、クソ女」と罵った。ウェスリーはパソコンのキーボードでバリーを殴り倒し、事務所を後にした。
新聞記事を目にしたウェスリーは、ドラッグストアの事件で自分がフォックスと共に御尋ね者となっていることを知った。フォックスが車で近付くと、ウェスリーはドアを開けて乗り込んだ。フォックスがウェスリーを紡績工場へ連れて行くと、大勢の人々が働いていた。スローンを見つけたウェスリーは、「これは秘密組織の隠れ蓑なんだろ?みんな殺し屋なんだろ?」と言う。スローンから「全て聞く覚悟はあるのか」と問われたウェスリーは、「ああ、もう惨めな暮らしには引き返せない」と告げた。
スローンはフォックスに視線を送り、「君に任せた」と告げた。フォックスは“修理工”を呼び、ウェスリーの両腕を椅子に拘束させた。ウェスリーは修理工から顔面に何発ものパンチを浴び、意識を失った。水を浴びたウェスリーが目を覚ますと、今度は“精肉屋”の訓練が待ち受けていた。精肉屋からナイフで突き刺すよう促され、ウェスリーは困惑する。精肉屋に挑発されたウェスリーはナイフを突き出すが簡単に反撃を食らい、逆にナイフで体を傷付けられた。
また失神したウェスリーが目を覚ますと、そこは回復室と呼ばれる場所だった。ウェスリーは特殊な浴槽に入れられており、“駆除業者”が「この浴槽は白血球の働きを高め、あらゆる傷を数時間で元通りにしてくれる」と説明した。ウェスリーが回復すると、フォックスは彼を“鉄砲鍛冶”に会わせた。鉄砲鍛冶は銃の使い方をウェスリーに教え、本物の死体を使った射撃訓練を指示した。さらにフォックスは、弾丸を曲げて標的を撃つよう促した。「どうやって?」とウェスリーが尋ねると、スローンが来て「弾が真っ直ぐにしか飛ばないと、誰が言った?本能に従えばいい」と言い、実際に発射した弾丸を曲げてみせた。
フォックスはウェスリーを屋上へ連れて行き、走っている電車の屋根に突き落とした。フォックスは付いて来るよう促して屋根を走り、電車がトンネルに入る直前で体勢を低くして巧みに滑り込ませた。ウェスリーはトンネルに激突し、意識を失って回復室へ送られた。また仲間に犠牲者が出る中で、スローンはフォックスと鉄砲鍛冶に「奴に近付けるのはウェスリーだけだ。その時が迫っている」と語る。彼はフォックスに、訓練を急ぐよう指示した。
ウェスリーは過酷な訓練の連続に嫌気が差し、不満を漏らした。フォックスはウェスリーに激しい暴力を加え、「何しに来たんだ?」と問い詰めた。ウェスリーが「自分が誰か分からない」と口にすると、スローンは彼の父親が使っていた部屋へ案内した。スローンは「組織の男が裏切り、まず自分より腕の立つ仲間を始末した。屋上で君の父親を騙し討ちにしたのだ。この部屋の全ては、君の父親の物だった。今は君の物だ。ここで父親との絆を見つけるといい。君が何者か、その答えが出るだろう」とウェスリーに述べた。
その部屋で父親の使っていた数々の物に触れたウェスリーは、気持ちを入れ替えて訓練に取り組むようになった。スローンは彼を、過去の殺しが全て記録されている資料室へ案内した。ウェスリーはクロスを倒すため、彼の殺しの記録を頭へ叩き込んだ。自分をコントロールする方法を学んだウェスリーは、弾丸を曲げる技術も会得した。スローンはウェスリーを、運命の機織り機がある部屋へ連れて行く。彼はウェスリーに、今後は二度と機織り機の部屋に入らないよう釘を刺した。
スローンはウェスリーに、機織り機には二進法による暗号で標的の名前が隠されていることを教える。スローンは「ロバート・ディーン・ダーデン」という名前を読み取り、「これは指令だ。世界の秩序を守るには、その人を消す必要がある」と言う。「僕はクロスを殺すために呼ばれたんじゃないの?」とウェスリーが尋ねると、スローンは「そうだ。しかし、その前に、初仕事だ。運命の機織り機が、君に実行を命じているのだ」と述べた。
ウェスリーはフォックスに作戦の説明を受け、ダーデンを狙撃しようとするが、拳銃の引き金を引くことが出来なかった。ウェスリーはフォックスに、「彼を殺す理由も知らないし、いい奴かどうかも知らない。僕には出来そうも無い」と弱音を吐く。するとフォックスは、「20年前、ある少女の父親は連邦判事だった。担当した恐喝事件の被告から、買収を持ち掛けられて拒否した。すると殺し屋が家に来て、家族の前で彼を殺害した。成長した少女はフラタニティーに入り、父が死ぬ1週間前のリストに殺し屋の名前があったことを知った。メンバーが引き金を引き損ねていた」と語った。
フォックスはウェスリーに、「躊躇する心が、大きな悲劇を生む。1人を殺すことで、千人を救える。それがフラタニティーの掟よ」と述べた。ウェスリーはダーデンの狙撃を遂行した。スローンから新たな任務を命じられたウェスリーは、黒いリムジンに乗った男を始末した。彼はフォックスを共に自宅へ行き、そこにいたキャシーとバリーを無視してトイレに入る。ウェスリーが隠しておいた拳銃を回収すると、何も知らないキャシーは彼を扱き下ろした。そこへフォックスが来て、ウェスリーに熱烈なキスを交わした。
アパートを出たウェスリーは、フォックスが車を取りに行っている間に、クロスの発砲を受けた。反撃したウェスリーは、逃げるクロスを追った。背後に気配を察知したウェスリーは発砲するが、そこにいたのは駆除業者だった。修理工たちが現場に駆け付けるが、駆除業者を撃ったのがウェスリーではなくクロスだと思い込んだ。駆除業者を射殺したことにウェスリーが動揺していると、クロスの弾丸が迫って来た。腕を撃たれたウェスリーは、回復室で傷を治療した。
ウェスリーは弾丸を摘出し、それが銃弾職人のペクワースキーによって作られた物だと突き止めた。彼の仕事場は、フラタニティーが創設された修道院だった。彼はスローンの承諾を得て、修道院へ向かう。独りへ行かせることに反対するフォックスは、スローンから次の任務としてウェスリー殺害を命じられた。修道院に入ったウェスリーは、ペクワースキーに拳銃を突き付けられた。しかしフォックスが現れ、ペクワースキーに拳銃を突き付けた。
ウェスリーからクロスの居場所を吐くよう言われた彼は、「会う手引きなら出来る」と述べた。ウェスリーとフォックスは列車の駅で身を隠し、ペクワースキーの行動を観察した。しかし目を離した隙にペクワースキーが逃げ出したので、2人は慌てて追い掛けた。その途中、ウェスリーは停まっている列車の中にクロスの姿を発見した。ウェスリーが乗り込んだ直後、列車は走り出した。気付いたフォックスは駅を飛び出し、車を奪って後を追った。ウェスリーはクロスを見つけ、激しい撃ち合いを繰り広げる…。

監督はティムール・ベクマンベトフ、原作はマーク・ミラー&J・G・ジョーンズ、原案はマイケル・ブラント&デレク・ハース、脚本はマイケル・ブラント&デレク・ハース&クリス・モーガン、製作はマーク・プラット&ジム・レムリー&ジェイソン・ネッター&イアイン・スミス、共同製作はマーク・ミラー&J・G・ジョーンズ&クリス・カーライル&サリー・フレンチ&ジャレッド・ルボフ、製作総指揮はアダム・シーゲル&マーク・シルヴェストリ&ロジャー・バーンバウム&ゲイリー・バーバー、撮影はミッチェル・アムンドセン、編集はデヴィッド・ブレナー、美術はジョン・マイヤー、衣装はヴァルヴァーラ・アヴジューシコ、音楽はダニー・エルフマン、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はジェームズ・マカヴォイ、アンジェリーナ・ジョリー、モーガン・フリーマン、テレンス・スタンプ、トーマス・クレッチマン、コモン、クリステン・ヘイガー、マーク・ウォーレン、デヴィッド・パトリック・オハラ、ダト・バフタゼ、コンスタンチン・ハベンスキー、クリス・プラット、ローナ・スコット、ソフィヤ・ハケ、ブライアン・カスペ、マーク・オニール、ブリジェット・マクマナス他。


マーク・ミラーとJ・G・ジョーンズによる同名グラフィック・ノベルを基にした作品。
監督は『ナイト・ウォッチ』『デイ・ウォッチ』のティムール・ベクマンベトフ。
ウェスリーをジェームズ・マカヴォイ、フォックスをアンジェリーナ・ジョリー、スローンをモーガン・フリーマン、ペクワースキーをテレンス・スタンプ、クロスをトーマス・クレッチマン、鉄砲鍛冶をコモン、キャシーをクリステン・ヘイガー、修理工をマーク・ウォーレン、ミスターXをデヴィッド・パトリック・オハラが演じている。

アンジェリーナ・ジョリーやモーガン・フリーマンといった俳優を起用して質のカサ増しを図っているけど、粗いディティールや雑な筋書きも含めて、やってることは完全にB級バカ映画。
数時間で全ての傷が回復してしまう浴槽があるという御都合主義やら、わざわざ実験するまでも無く現実には不可能であることが分かる弾丸曲げやら、おバカっちな設定や場面のオンパレード。
もっとスゴいことに、たぶん映画の売りとして持ち込んだ弾丸曲げの設定が、まるで必要の無いモノになっているってこと。
そんな能力が無くても、普通に戦えているし、物語は成立しちゃうでしょ。

ただし、やってることがB級だからダメってわけじゃなくて、それよりも「主人公に全く感情移入できないし、魅力的に思えない」という部分が大きな問題だ。
冒頭、いわゆる「冴えない男が今まで知らなかった現実を知り、巻き込まれていく」という話なのだが、「冴えない主人公」という描写に失敗している。
序盤、ウェスリーは「ストレスだらけの毎日にウンザリ」という自分をアピールしているのだが、むしろ、ウェスリーの方がウンザリされるような奴になっている。

ウェスリーは「頑張ってるけど要領が悪くてヘマばかり」とか、「何も悪いことはしてないのにイジメを受ける」とか、そういうことじゃないんだよね。
ストレスの原因は周囲にあるのではなく、むしろウェスリー本人の行動や考え方に大きな問題があると感じる。
ジャニスからイビられても、同情できない。リポートを提出していないのは、完全にウェスリーの落ち度なんだから。そりゃあジャニスの態度は陰険だけど、言ってることはそんなに間違っちゃいないし。
それで「ジャニスのせいでストレスが溜まる」とか言われても、「そんなの知らんがな」って話だわ。

ジャニスが「勤務態度も、管理能力も、協調性も最低」とネチネチした口調でいびって来た時にウェスリーが「うるさいぞ。ホントは何の力も無いくせに威張り散らしやがって」と怒鳴って嫌味を並べ立て、「くたばれ、クソ女」と罵っっても、ホントならスカッとした気持ちになるべきなんだろうけど、ちっともウェスリーに共感できない。
「ちゃんと仕事をしているのにネチネチといびられる」ってことならともかく、レポートを提出していないからね。ちゃんと仕事をしなけりゃ、叱られるのは当然でしょ。
恋人に浮気されるのも、ウェスリー本人に問題があるように思えるし。
バリーが寝取ったことは確かだけど、恋人も受け入れているわけだから、バリーだけが悪いわけじゃないしね。
ジャニスを罵ったり、バリーをキーボードで殴り付けたりするのは、「金が手に入った途端、周囲の人間に対して偉そうな態度を取るようになる」という風にしか受け取れず、スカッとするどころか、むしろ不愉快だわ。

ウェスリーがフラタニティーへの参加を決めるのは、「惨めな暮らしには戻りたくないから」ということなんだけど、そんな理由で殺し屋稼業を始めるってのも、まるで共感を誘わない。
すんげえ軽い気持ち、軽いノリなんだよな。
そこから始まる厳しい訓練が、一応は「彼のヌルい根性を叩き直す」という作業になっているんだけど、ただ単に荒っぽい部分だけが強調されていて、「精神を鍛え直している」という印象は受けない。
しかも、その訓練は、ウェスリーの精神を全く変化させていない。

で、相変わらずウェスリーが不満たらたらで逃げたがっている状況が続く中、スローンが父親の部屋を見せる。するとウェスリーは途端に「父の部屋で、父の物に触れて、ようやく全てに無関心だった理由が分かった。偽りの人生だったからだ。男になり、本来の自分を取り戻そう。くだらない帳簿付けのように時間を無駄にしていたが、訓練に精を出して父ような男になろう」とモノローグを語り、真剣に訓練を受けるようになる。
いやいや、そんな語りで、こっちの気持ちを掴めると思うなよ。
父親の所持品に触れた途端に気持ちが急変するってのが、まるでスムーズじゃないのよ。こっちが感情移入したり、気持ちを高めたりするためのきっかけや流れってモノを、まるで用意できていない。
大体さ、「今までは本当の自分が何なのか分からなかった。殺し屋としての血筋を知り、本当の自分として生きて行くことを決意する」という流れでウェスリーが殺し屋として本気になる経緯を描き、観客を共感させようとしているけど、それが逃避行動にしか思えないのよね。
「くだらない帳簿付け」って言ってるけど、帳簿付けだって立派な仕事なわけだし。

「運命の機織り機」の設定は、『マイノリティ・リポート』の「予知能力者が予知した犯人を犯罪予防局が逮捕するみたいな設定を少しオカルト風味に味付けしている感じだけど、機織り機の暗号を信じて殺人を遂行しているフラタニティーってのが、もはやカルト教団にしか見えない。「機織り機が真実を示している」という部分に、に何の説得力も裏付けも無いからね。「なぜ暗号で出た人間を殺すのか」という疑問に対する答えが「それが指令だから、運命だから」というだけなんだぜ。
だから「実はスローンが嘘をついていた」ということが明らかになるより遥か以前から、暗号に従って殺しを遂行しているウェスリーの行動に乗れないのよ。それが間違った行動であり、ウェスリーが騙されていることがバレバレなのでね。
あんな機織り機の暗殺指令を「正義のため」と信じるウェスリーが、クルクルパーにしか思えないぞ。
そもそも運命の機織り機って、すんげえ雑なんだよね。
だってさ、名前しか出ないんだぜ。世の中には同姓同名の人間がいるわけで、そういうことを全く考慮していないでしょ。

ウェスリーは生後間もなく父が出て行っているので、何の記憶も残っていないし、顔さえ知らない。
そんな相手なのに、「父の仇討ちのために戦う」ということで気持ちが高まるのは、頭のおかしな奴にしか思えない。
フォックスの思い出話を聞かされたウェスリーが殺しの仕事を遂行する気持ちに変化するのもそうだけど、フラタニティーに洗脳されているような感じだ。
ただし、決して巧妙な洗脳というわけではなく、ただウェスリーがバカなだけにしか感じない。

暗殺の手口はメチャクチャで、まずダーデンのケースでは「走っている電車の屋根に乗り、建物の中にいる彼を狙撃する」という方法を取っている。
いやいや、走っている電車の屋根から狙う必要性はゼロだろ。なんで無理に難しい方法を取るんだよ。
続く任務は、もっと無理がある。
黒いリムジンに乗っている男が標的なんだけど、窓が防弾ガラスだからってことで、ウェスりーの運転する車にフォックスが自分の車をぶつけて回転ジャンプさせ、開いている屋根からウェスリーが男を狙撃するのだ。
もうさ、アホすぎるだろ。

その男を狙撃するのに、なんでリムジンが防弾ガラスで守られていることを自然に調べていないんだよ。準備が杜撰すぎるだろ。
そもそも、なんでリムジンに乗っている時に、自分も運転して近付きながら撃つという困難な方法を取るんだよ。標的が車を降りている時に狙った方が簡単じゃないのか。
ケレン味たっぷりのアクションをやりたいってのは分かるし、それをやるのは悪くないよ。
ただし、それをやるための状況を、もっと上手く整えようぜ。あまりにも無理があり過ぎるわ。
ウェスリーがクロスと戦うシーンにしても、派手にやりたいってのは分かるけど、秘密結社なのに目立ちすぎだろ。

ウェスリーはクロスを殺した後で、彼が父親だと知る。
つまり、スローンはクロスを殺すためにウェスリーを騙して殺し屋の訓練を積ませ、「父を殺した相手」と吹き込んでクロスを 狙わせたのだが、無駄に手間を掛けすぎだろ。「クロスも息子だけは殺せない」ということでウェスリーを殺し屋にしているんだけど、そんなことよりウェスリーを人質に取ってクロスをおびき寄せればいいんじゃないかと。
一方のクロスも、やはり行動がアホすぎる。
ペクワースキーはウェスリーに「彼は君を殺そうとしたんじゃない。救おうとしたんだ。君をフラタニティーから引き離そうとしたんだ」と説明しているけど、だったら会って事情を説明すればいいだろ。
ウェスリーに向かって何度も発砲しておきながら「救おうとしたんだ」と言われても、まるで説得力がねえよ。
そんな意味不明な行動を取らなくても、ウェスリーを救う手立ては幾らだってあったはずだろうに。会うのが無理でも、手紙なり電話なりを使えばいいんだし。

スローンがクロスを始末しようとしたのは、運命の機織り機のリストにフラタニティーのメンバーが入っていたけど、それを無かったことにしようとしたから(クロスの名前はリストに無く、掟を守ろうとした)。
で、メンバーは自分の名前がリストにあったことを知らされ、激しく動揺する。
だけどさ、そういう事態は容易に想像できるはずでしょ。なんで自分は絶対に入らないと信じ込めるんだよ。
千年前から続いている組織なんだから、これまでも同様の事態が起きたことはあったはずで、その時はどうしていたんだよ。

それと、フラタニティーの掟を無視し、自分たちが影の支配者となって世界をコントロールしようと目論んだスローンが悪党扱いされて終わっているけど、それだと全くスッキリしないぞ。
最終的にフォックスが仲間を殺して自害し、ウェスリーが残ったスローンも始末するけど、それは「リストに掲載されていた人間を始末する」という機織り機の指令に従った行動になっているわけで。
だけどホントなら、「運命の機織り機による殺人指令」自体を否定して、物語を着地させるべきなんじゃないのか。
この映画の終わり方だと、スローンは否定されているけど、運命の機織り機による殺人指令は正当化されたままになってるでしょ。そりゃダメだろ。

(観賞日:2014年10月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会