『ヴァイラス』:1999、アメリカ

南太平洋を航海中のロシアの衛星探査船ウラディスラフ・ヴォルコフ号は、宇宙ステーション“ミール”からのデータを受信しようとしていた。その時、電磁波で形成された未知の生命体がミールを襲い、ヴォルコフ号のコンピュータに侵入する。
それから7日後、タグボートのシースター号は南太平洋で台風に苦しめられていた。乗組員のキット・フォスターは進路の変更を、スティーヴ・ベイカーは荷物船の切り離しを進言するが、仕事の代金に執着するロバート・エヴァートン船長は聞き入れない。
だが、高波で荷物船が沈んだため、シースター号はフォスターの指示した進路を取ることにした。やがてフォスター達は、近くで停船中のヴォルコフ号を発見する。だが、呼び掛けに全く反応が無かったため、フォスター達はヴォルコフ号に移動する。
シースター号の面々は船内を調べるが、中は荒れ放題で電源は切られており、乗組員の姿は無かった。生存者がいない場合、ヴォルコフ号を持ち帰ってロシアに引き渡せば多額の謝礼金が手に入るため、エヴァートン船長は大喜びする。
だが、ヴォルコフ号の錨が勝手に落下して、シースター号を沈めてしまう。やがてフォスター達は姿を潜めていたヴォルコフ号の乗組員ナディアと出会うが、彼女は他のクルーは全員がミールから来た敵によって殺されたと語る。
ミールを襲ってヴォルコフ号のコンピュータに侵入した知的生命体は、地球について学習し、人類を抹殺すべき敵だと認識した。生命体は幾つもの戦闘用機械を作り、さらにナディアの夫アレクセイを機械と融合させ、人間を襲うマシーンを生み出していた。そして生命体は、シースター号の乗組員達も抹殺しようと動き始めていた…。

監督はジョン・ブルーノ、原作はチャック・ファラー、脚本はチャック・ファラー&デニス・フェルドマン、製作はゲイル・アン・ハード、製作総指揮はマイク・リチャードソン&チャック・ファラー&ゲイリー・レヴィンソン&マーク・ゴードン、撮影はデヴィッド・エグビー、編集はスコット・スミス、美術はメイリン・チェン、衣装はデボラ・エヴァートン、ロボティクス効果デザイナーはスティーブ・ジョンソン&エリック・アラード、音楽はジョエル・マクニーリー。
出演はジェイミー・リー・カーチス、ウィリアム・ボールドウィン、ドナルド・サザーランド、ジョアンナ・パクラ、マーシャル・ベル、シャーマン・オーガスタス、クリフ・カーティス、フリオ・オルカル・メチョーソ、ユーリ・チェルヴォキン、キース・フリッペン、オルガ・ゼペツカヤ=レッチン、リヴァーニ、デヴィッド・エグビー他。


『アビス』でアカデミー賞を受賞している特殊効果マンのジョン・ブルーノが、初めて監督を務めた作品。1993年にカレン・アレン主演の同名映画があるが、無関係。
フォスターをジェイミー・リー・カーチス、スティーヴをウィリアム・ボールドウィン、エヴァートンをドナルド・サザーランド、ナディアをジョアンナ・パクラが演じている。

この作品は、最初からB級のテイストを狙って作られているに違いない。
知的なはずなのにバカな敵、適当な科学考証、薄っぺらい人間ドラマなど、どれを取ってもB級だ。
A級の特撮スタッフが集まっているわけだから、普通に作ればA級の作品が出来上がるはずであり、だから狙って安っぽい作品に仕上げたとしか考えられないのだ。

生命体と全く無関係な台風の襲撃で余計なスリルを生み出したり、襲ってくる敵を小さなロボット&大きなロボット&改造人間と種類を豊富にしたり、そういったことの全てが逆効果になって話を散漫な印象にしているのも、ワザとなのである。

内容が『エイリアン』の模倣にしか見えないという意見も、確かにあるだろう。
しかし、ここで示されている展開は、SFホラー映画の黄金パターンであり、別に『エイリアン』だけが似ているわけではない。
そもそもB級なので、模倣は大いにやるべきなのだ。

ジョン・ブルーノの初監督というのはもちろんセールスポイントだが、それよりもジェイミー・リー・カーティスの主演の方が売りだと言えるだろう。
『ハロウィン』でスクリーミング・クイーンの称号を得た彼女が、再びスクリーミングの世界に戻って来たのだ。
「ジェイミー・リー・カーティスが若い頃はスクリーミング・クイーンだった」という予備知識の無いままに今作品を見た観客は、「どうして強くもないオバサンを主役にするのか?」と思ってしまうかもしれない。
だが、そこには前述した意味合いがあるのだ。

同じオバサンでも、シガニー・ウィーヴァーならば勇気を持って敵に立ち向かう。
しかし、ジェイミー・リー・カーティスはあまり戦わず、やたらと叫んでいる。
なぜなら、この映画での彼女の役割はバトル・クイーンではなく、スクリーミング・クイーンだからだ。

もう1人、B級映画のスピリットを感じさせてくれるのがドナルド・サザーランドだ。
最初からトチ狂っている船長を演じた彼は、終盤にはマシーンに改造されて特殊メイクで襲ってくる。
大物なのにゲテモノ役もキッチリとこなす辺り、B級魂を感じさせてくれる。

ただ、どうやらフィル・ティペットだけは製作サイドの意図が充分に把握できていなかったようで、彼のスタジオが担当したクライマックスのCGだけは妙に頑張っている。
ただし、朱に交われば赤くなるということで、それで全体の色が変わることは無い。

 

*ポンコツ映画愛護協会