『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』:2021、アメリカ

1996年、カリフォルニア州の聖エステス矯正施設。クレタス・キャサディーは隣の独房に収監されているフランシス・バリソンと恋愛関係にあり、手作りの指輪を通風孔から渡した。フランシスが「変異が進行してる。もう抑え切れない。私みたいな人が収容されている施設に移送される」と不安を漏らすと、彼は「俺たちは引き離せない」と言う。しかしフランシスが連れ出される時、彼は何も出来なかった。護送車に乗せられたフランシスは口から強烈な音波を発し、警官のパトリック・マリガンを攻撃して拳銃を奪おうとする。マリガンが抵抗して発砲すると、フランシスは車から転落した。フランシスが意識を取り戻すと左目に包帯を巻かれ、施設に収容されていた。
現在、レイヴンクロフト。フランシスは施設でガラス張りの部屋に収容され、厳重に隔離されていた。主治医のカミール・パッゾは彼女に「クレタスに死刑執行か?」と書かれた新聞記事を見せ、「これで世界は安全な場所になる」と述べた。サンフランシスコ市警の刑事になったマリガンは、クレタスが会いたがっていることをエディーに教えた。エディーは「未発見の遺体の場所を言うかもしれない。たまには記者らしい仕事をしろ」と言われ、クレタスと会うことにした。
エディーがサン・クエンティン刑務所へ面会に行くと、クレタスは「私のファンにメッセージを伝えてくれ」と告げる。彼は語った詩を、エディーは新聞に掲載した。彼は知らなかったが、それはフランシスへのメッセージだった。ヴェノムは独房の壁に描かれた落書きを全て記憶しており、エディーが帰宅してから正確に再現した。エディーはロデオビーチを特定し、実際に多くの遺体が掘り起こされた。厳しい世論に押された州知事は、クレタスの死刑執行を決断した。
ヴェノムは人間を食べたいと要求するが、エディーは却下した。ヴェノムがチェンまで食べたいと言い出したので、エディーは養鶏場の襲撃を許可した。アンからの電話で「話があるから会いたい」と言われたエディーは、彼女がダンと別れたと思って喜んだ。しかし会いに行くとダンとの結婚を告げられ、エディーはショックを受けた。エディーの元にはクレタスからの手紙が届き、死刑執行を見届けるよう求められた。ヴェノムは反対するが、エディーは面会に赴いた。
クレタスがエディーを侮辱する挑発的な言葉を浴びせると、ヴェノムが怒って掴み掛かった。クレタスはエディーの腕を噛み、手に付いた血を舐めた。帰宅したヴェノムは軽率な行動を謝罪するが、エディーは「俺の生活を壊すな」と激高した。彼が激しく罵ると、ヴェノムは腹を立てて家を出て行った。クレタスの死刑が執行される際、体内でシンビオート・カーネイジが覚醒した。カーネイジは所長や看守たちを殺害し、刑務所から脱獄した。
ヴェノムは様々な人間に憑依しようとするが、適合する相手は見つからなかった。クラブの仮装イベントに迷い込んだ彼は、コスプレだと誤解されて歓迎された。彼はステージに立ってスピーチし、観客の喝采を浴びた。テレビのニュースでクレタスの脱獄をしったエディーの元へ、マリガンが訪ねて来た。彼は「死刑に追い込んだ男を捜しに来るかと思った。当てが外れた」と言い、その場を去った。エディーは聖エステス矯正施設の廃墟に忍び込み、木に刻まれたハートマークと「CK」「FB」というイニシャルを見つけた。
エディーはマリガンに電話を掛け、クレタスはFBを捜しているはずだと教える。すぐにマリガンはフランシスだと告げ、「彼女は死んだ。俺が撃った」と述べた。町に出たクレタスはマスタングを手に入れ、パソコンを使ってフランシスの居場所を突き止めた。彼は施設へ乗り込み、カーネイジがパッゾや看守たちを殺害した。クレタスはフランシスを連れ出し、マスタングで逃走した。フランシスが警察のヘリコプターを音波で攻撃すると、音に弱いカーネイジは怒って「二度と使うな」と命じた。
ヴェノムは空腹に耐えられず、チェンの店に辿り着いて倒れ込んだ。マリガンはフランシスが生きていてクレタスが脱獄させたと知り、エディーを警察署に呼んで事情聴取した。「化け物が目撃されてる」と聞いたエディーは刑務所でクレタスと会った時の出来事を思い出し、弁護士を呼ぶよう要求した。アンが面会に来ると、彼は「エイリアンがクレタスにに寄生した。ヴェノムは出て行った」と話す。アンはエディーから、ヴェノムを見つけ出す仕事を頼まれた。
アンはダンと共にチェンの店へ行き、ヴェノムが彼女に寄生していることを知った。ヴェノムは協力を拒むが、アンが褒めて持ち上げると承諾した。クレタスとフランシスは丘の大聖堂で結婚式を挙げることに決め、カーネイジも含めた3人で1人ずつ招待することにした。クレタスはエディー、フランシスはマリガン、カーネイジはヴェノムだ。アンはヴェノムを寄生させて警察署へ行き、エディーに会わせた。エディーはヴェノムとアンの協力で、警察署から脱走した。フランシスはエディーの部屋に侵入し、アンが弱点だと悟った…。

監督はアンディー・サーキス、原案はトム・ハーディー&ケリー・マーセル、脚本はケリー・マーセル、製作はアヴィ・アラッド&マット・トルマック&エイミー・パスカル&ケリー・マーセル&トム・ハーディー&ハッチ・パーカー、製作総指揮はバリー・ウォルドマン&ジョナサン・カヴェンディッシュ&ルーベン・フライシャー、共同製作はバリー・ヘンズリー&アンガス・ゴードン&K・C・ホーデンフィールド、撮影はロバート・リチャードソン、美術はオリヴァー・ショール、編集はメリーアン・ブランドン&スタン・サルファス、衣装はジョアンナ・イートウェル、視覚効果監修はシーナ・ダッガル、視覚効果プロデューサーはバリー・ヘンズリー、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はトム・ハーディー、ウディー・ハレルソン、ミシェル・ウィリアムズ、ナオミ・ハリス、リード・スコット、スティーヴン・グレアム、ペギー・ルー、シアン・ウェバー、ミシェル・グリーニッジ、ロブ・ボーエン、ローレンス・スペルマン、リトル・シムズ、ジャック・バンデイラ、オルミデ・オロランフェミ、スクルービアス・ピップ、アムロー・アル=カーディー、ボー・サージェント、ブライアン・コープランド、スチュワート・アレクサンダー、ショーン・ディレイニー他。


2018年の映画『ヴェノム』の続編で、「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」(SSU)の2作目。
監督は『ブレス しあわせの呼吸』『モーグリ:ジャングルの伝説』のアンディー・サーキス。
脚本は前作に引き続いてケリー・マーセルが担当。
エディー役のトム・ハーディー、クレタス役のウディー・ハレルソン、アン役のミシェル・ウィリアムズ、ダン役のリード・スコット、チェン役のペギー・ルーは、前作からの続投。
他にフランシスをナオミ・ハリス、パトリックをスティーヴン・グレアムが演じている。

前作で製作サイドはヴェノムを凶悪なヴィランとして描かず、最初からダークヒーローとして扱っていた。しかもダークヒーローとしても、かなりヌルいことになっていた。
なので当然の流れとして、第2作でワルっぷりがアップすることは全く無い。
ヴェノムは少しヤンチャが過ぎるだけで、口は悪いが性根は優しい、エディーの良き相棒だ。
極端に言ってしまうと、今回はそんなヴェノムとエディーの痴話喧嘩とイチャイチャぶりを鑑賞するための映画になっている。
エディーが主役で、ヴェノムはヒロインなのだ。

エディーがアンの結婚を知ってショックを受けると、ヴェノムは「破れた心は治せない。傷は深く心を抉り、痛みはずっと消えない。大人になって受け入れるしかない」と慰める。
しかしエディーは受け入れず、「良く言うぜ。俺は生身の人間、お前はただのアメーバだ」と悪態をつく。
それでもヴェノムは怒らず、「心配するな、俺が何とかする」と優しく寄り添う。
仮装イベントでスピーチして会場が盛り上がると、「エディー、お前にも見せたかった」と寂しそうに呟く。
可愛い奴なのだ。

ヴェノムはクレタスがエディーを侮辱すると激怒し、「おれの友になんてことを」と掴み掛かる。それぐらいエディーのことを思っている。
彼はエディーから要求された「人を食うな」という命令にずっと従い、我慢を続けている。
エディーはヴェノムのおかげでスクープをモノに出来て花形記者に返り咲いたのに、感謝することは全く無い。自分だけでは完全に役立たずなのに、一丁前に文句ばかり言う。
終盤には謝罪のシーンもあるけど、口先だけにしか見えない。
あと、とにかくエディーがバカで身勝手なだけで何の魅力も見出せないので、彼とヴェノムの関係だけで引っ張って行く上では、そこが大きなネックになっている。

クレタスに憑依するシンビオートはカーネイジ(大量虐殺)という名前で、サブタイトルにも「カーネイジ」と付いている。劇中でも、カーネイジが「大量虐殺だ」と言うシーンがある。
しかし実際のところ、「カーネイジ」を明確に感じさせる描写は皆無だ。破壊の描写は多く用意されているが、殺戮の描写は足りていない。そのため、今回のヴィランは完全に名前負けしている。
アメリカでのレーティングがPG13(視聴制限は無いが、13歳未満の子供の観賞は保護者の厳重な注意が必要)という時点で、まあヌルいのは確定事項だよね。
そもそもクレタスの目的がフランシスの救出とエディーへの復讐だけなので、大量虐殺の必要が全く無いという事情はあるのよ。
でも、「だから仕方ないよね」とはならんぞ。

ヴェノムとカーネイジは、コインの表と裏のような関係性にある。エディー&ヴェノムとクレタス&カーネイジは、「絆で結ばれているコンビ」と「絆で結ばれていないコンビ」という関係性にある。
ここの2組を比較してドラマを作っていくことも出来そうだが、そっち方面のアプローチも弱い。
コンビの比較としての掘り下げも、単体としてのクレタスやカーネイジの掘り下げも弱い。
一応は最終決戦でエディーに「あっちは共生していない。こっちは共生してる」と言わせ、ヴェノムが戦う気持ちを取り戻す展開もあるが、そんなに上手く使えていない。

クレタスとカーネイジが仲間割れを起こす原因は、フランシスの存在だ。
クレタスはフランシスを愛しているが、カーネイジにとって彼女の特殊能力「シュリーク」は疎ましいだけだ。だからカーネイジがフランシスを排除しようとして、クレタスとの関係が悪化するわけだ。
そのため、今回のヴィランはクレタス&カーネイジとフランシスなのだが、ここの共闘がほとんど成立していないのだ。
挙句の果てには、フランシスが特殊能力を使ったせいで自分たちの状況が悪化し、自滅する始末だし。

終盤、事件が終わり、エディーとヴェノムはホテルで体を休める。ヴェノムがシンビオートの歴史を見せると告げると、急に部屋の様子が変化する。
そしてアンクレジットだが、ピーター・パーカー役のトム・ホランド、J・ジョナ・ジェイムソン役のJ・K・シモンズが登場する。
ジェイムソンはテレビのニュース番組に登場し、スパイダーマンの正体を暴くと話す。
このシーンを盛り込むことによって、本作品が「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」であることを明確にしているわけだ。

(観賞日:2023年11月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会