『ヴェノム』:2018、アメリカ&中国

ライフ財団のロケットは大気圏へ突入する際にトラブルが発生し、マレーシアの東部に墜落した。シャトルは墜落前に救難信号を発したが、ライフ財団本部では何が起きたか全く把握できていなかった。乗組員は宇宙で4つの生命体をサンプルとして採取したが、その内の1つは容器から漏れて姿を消していた。乗組員のジェイミソンが生きていたため、現場を調べていた支部の職員たちは彼を救急車で搬送する。宇宙生命体に寄生されたジェイミソンは救急車の中で怪物に変身し、職員2名に襲い掛かった。救急車が横転すると、宇宙生命体は女性職員に寄生して歩き出した。
サンフランシスコでテレビ局の記者として働くエディー・ブロックは、ライフ財団の創始者であるカールトン・ドレイクのインタビューを局長から命じられる。ロケットの安全性をアピールするための取材だと聞いたエディーは難色を示すが、局長は「行き場の無かった君を拾ってやっただろ」と言ってカールトンの機嫌を取るよう要求した。夜、恋人でのアン・ウェイングとデートに出掛けたエディーは、愚痴をこぼした。アンは弁護士で、彼女が所属する法律事務所はライフ財団を担当していた。エディーは局長の命令に背き、自分の仕事を遂行しようと考えていた。かつて彼はニューヨークでトラブルを起こしており、アンは同じことを繰り返さないよう釘を刺した。エディーはアンに内緒で彼女のパソコンを使い、ライフ財団の極秘資料を見た。
翌日、ドレイクは見学に来た子供たちに「いつか宇宙に住めるかもしれない」と言い、少女のアリーにワッペンをプレゼントした。そこへドーラ・スカース博士が呼びに来たので、ドレイクはエディーの取材に赴いた。エディーはプロデューサーの制止を無視し、ライフ財団がホームレスを実験台にして薬を開発している疑惑に切り込んだ。資料に書かれていた訴訟問題に彼が触れると、ドレイクは警備員を呼んで追い出した。エディーは局長に呼び出され、解雇を通告された。アンは情報漏洩で事務所を解雇され、エディーに「いつも自分中心なのね。愛していたから一緒にやっていこうと思ったのに。私を利用した」と別れを告げて去った。寄生された女性は市場で男たちを殺し、近くで商売をしていた老女に移動した。
6ヶ月後、ライフ財団は回収した宇宙生命体を分析し、実験を繰り返していた。生命体とウサギの結合に成功すると、ドーラはドレイクに「受け手の適合が必要」と説明した。ドレイクは「共生が成功すれば、彼らが地球で生きられるだけでなく、我々も向こうで生きられる」と言う。彼は人間での実験を始めるよう指示し、ドーラがリスクを指摘すると「子供たちは元気か」と脅しを掛けた。エディーは新しい仕事か見つからず、ジャックが営む馴染みのバーで酒ばかり飲む日々を送っていた。ホームレスのマリアと話したエディーは、チェンのコンビニに立ち寄った。拳銃強盗がチェンから金を脅し取っている間、エディーは隠れているだけで何もしなかった。
次の日、ドレイクはホームレスのアイザックを実験室に閉じ込め、宇宙生命体に寄生させた。しかし体が適合しなかったため、アイザックは死亡した。すぐにドレイクは、次のボランティアを呼ぶよう命じた。エディーがコンビニへ行くと、いつもの場所にマリアがいなかった。コンビニに入ったエディーは、ドーラが自分を観察していると気付いて声を掛けた。ドーラがライフ財団の名刺を渡すと、エディーは早々に去ろうとする。ドーラは彼を追い、ラボのモルモットにされた貧しい人々が死んでいることを教える。エディーが「警察に行け」と言うと、ドーラは「家族がどうなるか心配で」と不安を口にする。エディーは協力を拒否し、その場を去った。
エディーがアンの家を眺めていると、彼女は恋人のダン・ルイス医師が運転する車で帰宅した。ダンはエディーに笑顔で挨拶し、「積もる話もあるよな。先に入ってる」とアンに告げて家に入った。エディーが「君に会いたかったんだ。やり直せないか」と告げると、アンは「出来ない。カールトン・ドレイクでもテレビ局でもない。貴方がやったことよ」と突き放した。エディーはドーラに連絡を入れて、協力することにした。
ドーラはエディーを車に隠れさせてライフ財団のラボに赴き、詳しい経緯を説明する。ライフ財団は宇宙船を探査任務で打ち上げ、帰還の途中で彗星を発見した。何百万もの生命体の存在を船内コンピュータが示したため、サンプルを持ち帰った。財団が「シンビオート」と名付けた生命体は、地球の環境では単独で生きられない。ドレイクはシンビオートとの融合が宇宙で生き残る鍵だと確信し、人間を宿主にしようと考えていた。
警備員が通り掛かると、ドーラは何も触らないよう指示してエディーを先に行かせた。ドーラが警備員の相手をしている間に、エディーはラボの奥へ進む。写真を撮っていた彼は閉じ込められているマリアを見つけ、「ここから出して」と助けを求められる。エディーがボタンを押すと、侵入者を知らせる警報がラボに鳴り響いた。エディーが監禁部屋の扉を破壊すると、寄生されて正気を失っているマリアが襲い掛かった。マリアがエディーの首を絞めていると、シンビオートが外へ這い出した。シンビオートはエディーの体内に入り込み、マリアは絶命した。エディーは大勢の警備員に追われるが、人間離れした身体能力を発揮して逃げ延びた。
アパートに戻ったエディーは、ドーラの留守電に「君は正しかった。これは暴露して正解だ。写真も撮った。知り合いに公表してもらう。君も来てくれ」とメッセージを残した。エディーは体の異変を感じ、片っ端から周りにある食べ物を貪って嘔吐した。彼は動揺しながら歯を磨くが、シンビオートに体を弾き飛ばされて失神した。翌朝、ドレイクは被害状況の報告を受け、ドーラは何も知らないフリをした。実験台の血圧が正常に戻ったことを聞いたドレイクは喜び、コリンズ博士とエマーソン博士に「適応するのに時間が掛かったんだ。テンポを上げろ」と命じた。
意識を取り戻したエディーは、スマホで撮影した写真を確認した。寄生されたマレーシアの老女は空港へ行き、金髪の少女を追ってトイレへ向かった。エディーはレストランでダンと食事を取っているアンの元へ行き、「ライフ財団に忍び込んだ。話せるのは君しかいない」と言う。彼は他のテーブルにある食べ物を次々に食い散らかし、アンが制止しても無視する。エディーが水槽に飛び込むと従業員が警察に連絡しようとするが、ダンが慌てて「救急車を。私は医者で、彼は私の患者です」と告げた。
ダンはエディーに鎮静剤を投与して病院に運び、検査しようとする。しかしエディーが絶叫したので、ダンは検査を中止した。ライフ財団の警備主任を務めるローランド・トリースはドーラの裏切りを突き止め、彼女を尋問した。夜、家に戻ったエディーが電話でアン&ダンと話していると、シンビオートが割り込んだ。ドレイクはドーラに「ここにいた人間は命の危険がある。君の助けがあれば生きられる。これからは状況を改善すると約束する」と説き、侵入者がエディーだと聞き出した。必要な情報を得たドレイクは、用済みとなったドーラにシンビオートを寄生させた。
トリースは手下たちを率いてエディーの部屋へ乗り込み、「盗んだ物を返してもらう」と言う。ティーザー銃を向けられたエディーが両手を挙げると、シンビオートが「やめろ」と命じる。シンビオートは「俺が片付ける」と告げ、触手を使って一味を蹴散らした。ドレイクはトリースから送られて来たエディーの映像を見て興奮し、「共生を達成したんだ。私の成果を回収しろ」と述べた。エディーは窓を突き破って部屋から脱出し、車の窓に映るシンビオートの姿を目にした。敵に追われたエディーは、バイクを盗んで逃亡した。シンビオートが手を貸すが、エディーは余所見をしたせいで車に激突してバイクから投げ出された。
そこにトリースが駆け付けると、シンビオートがエディーの体を覆い尽くした。シンビオートは一味を蹴散らし、海に飛び込んで逃げ切る。エディーの折れた足は一瞬にして回復しており、シンビオートは「俺はヴェノムだ。お前は俺の物」と告げた。彼はエディーに、「お前のことは何でも知ってるぞ。カールトン・ドレイクのロケットを使う」と協力するよう要求した。同じ頃、寄生された金髪少女は飛行機でサンフランシスコに到着していた。
ダンはアンに連絡し、「エディーの検査結果が思ったより悪い。すぐに彼を連れて来てくれ」と告げた。ドーラはシンビオートに殺され、ドレイクはトリースに「状況が変わった。次の適した宿主が見つかるまで、ブロックを殺してはならない」と話した。エディーはアンから電話を受けるが、「俺には近付かない方がいい」と告げて切った。彼は解雇されたテレビ局へ行くが、守衛のリチャードが「アンタは友達だが、通すことは出来ない」と止める。エディーは局長に自分のスマホを渡すよう頼むが、リチャードは「クビになりたくない」と困った顔で断る。ヴェノムが「奴の脳味噌を食おう」と言うと、エディーは「俺の友達に手を出すな」と叫んでテレビ局を出た。
ヴェノムはテレビ局の壁を一気に登り、局長室に飛び込んだ。エディーはスマホとメモを残し、エレベーターでテレビ局を去ろうとする。1階では特殊部隊が待ち受けていたが、エディーはヴェノムを呼び出して全員を蹴散らした。ヴェノムが1人を捕まえて食べようとすると、エディーが「やめろ」と制止する。テレビ局に来ていたアンは、その様子を見て悲鳴を上げる。エディーは元の姿に戻り、「今のは俺じゃない。俺は感染してるんだ」と慌てて釈明した。
エディーが簡単に事情を説明して助けを求めると、アンは「病院へ行くわよ」と車に乗るよう促す。エディーはアンから「またダンがMRI検査をするって」と聞き、「ダメだ。あいつにはMRI検査の音が危険なんだ」と言う。彼はヴェノムに勧められ、アンに「君にしたことはホントに悪かった」と謝罪した。金髪少女はライフ財団のラボに入り、ドレイクに襲い掛かった。病院に到着したエディーは、ダンから「心臓が極度に衰弱してる」と告げられた。ヴェノムは「俺が治してやる」と言うが、エディーは無視してダンに「アンタは治せるのか」と尋ねる。ダンは「こんな症状は見たことが無い。この寄生虫が君を蝕んでる」と語り、ICUに入るよう指示した。
アンはヴェノムの正体が良く分からないまま、「彼を殺す気なのね?」と口にする。ヴェノムは「アンタらは何も分かってない」と否定し、エディーに「ここから引き上げるぞ」と告げる。アンは病室の装置を作動させ、超音波でヴェノムをエディーから引き離して閉じ込めた。エディーは病院を出ようとするが、待ち受けていたトリースたちに捕まった。ヴェノムは排気口から抜け出して犬に寄生し、そのことにアンは気付いた。シンビオートのライオットに寄生されたドレイクは、エディーを尋問してヴェノムの居場所を聞き出そうとする。しかしエディーが何も白状しないので、彼はトリースたちに始末するよう命じた…。

監督はルーベン・フライシャー、映画原案はジェフ・ピンクナー&スコット・ローゼンバーグ、脚本はジェフ・ピンクナー&スコット・ローゼンバーグジェフ・ピンクナー&スコット・ローゼンバーグ&ケリー・マーセル、製作はアヴィ・アラッド&マット・トルマック&エイミー・パスカル、製作総指揮はデヴィッド・ハウスホルター&スタン・リー&ケリー・マーセル&トム・ハーディー&エドワード・チェン&ハワード・チェン、撮影はマシュー・リバティーク、美術はオリヴァー・ショール、編集はメリアン・ブランドン&アラン・ボームガーテン、視覚効果監修はポール・フランクリン&シーナ・ダッガル、衣装はケリー・ジョーンズ、音楽はルドウィグ・ゴランソン、音楽監修はゲイブ・ヒルファー。
出演はトム・ハーディー、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、リード・スコット、ジェニー・スレイト、メローラ・ウォルターズ、ウディー・ハレルソン、ペギー・ルー、マルコム・C・マーレイ、ソープ・アルコ、ウェイン・ペレ、ミシェル・リー、カート・ユエ、クリス・オハラ、エミリオ・リヴェラ、アメリア・ヤング、アリアドネ・ジョセフ、ディーン・ブルックシャー、デヴィッド・ジョーンズ、ロジャー・ユアン、パク・ウンヤン、パトリック・チュンダー・チュー、ヴィッキー・エン、マック・ブラント、ニック・スーン、マイケル・デニス・ヒル、サム・メディーナ、スコット・デッカート他。


マーベル・コミックの同名キャラクターを主人公にした作品。
監督は『ゾンビランド』『L.A. ギャング ストーリー 』のルーベン・フライシャー。
エディーをトム・ハーディー、アンをミシェル・ウィリアムズ、ドレイクをリズ・アーメッド、トリースをスコット・ヘイズ、ダンをリード・スコット、ドーラをジェニー・スレイト、マリアをメローラ・ウォルターズが演じている。
エンドロール後に登場する連続殺人鬼のクレタス・キャサディー役で、ウディー・ハレルソンが出演している。

これはソニー・ピクチャーズがスタートさせた「ソニー・ピクチャーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクター」シリーズの第1作に当たる。
そもそもヴェノムは『スパイダーマン』シリーズのヴィランであり、2007年の映画『スパイダーマン3』にも登場していた。なので当初は、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのスピンオフ映画として企画されていた。
しかしスパイダーマンが「マーベル・シネマティック・ユニバース」に参加することになり、それに伴ってスピンオフの企画は中止となった。
しかしヴェノムを主役に据えた映画は作りたいと考えたソニー・ピクチャーズが、新たなシリーズを立ち上げたのだ。

エディーはドレイクのインタビューを局長に命じられた時、「あいつはイカれてます」と言う。でも具体的に、ドレイクのどこがイカれているのかは全く教えてくれない。エディーの台詞だけでなく、他の形でも全くドレイクに関する情報は提示されていない。
そんな中で、エディーがアンのパソコンを勝手に使って極秘資料を見る展開になる。それはライフ財団の疑惑についてエディーが調べており、証拠を手に入れるための行動だ。
だけど、「ライフ財団がホームレスを実験台にして薬を開発している」という疑惑は、翌日の取材シーンで初めて観客に明かされる事実なんだよね。
そういう噂が世間に広まっているのなら、取材シーンの前に提示しておくべきじゃないのか。
そこに限らず、ライフ財団に関する導入部での情報提示が極端に少ないのは大きなマイナスだ。

エディーがコンビニに入り、ドーラに気付いて声を掛けるシーンがある。ドーラが自分を観察していると察知し、話し掛けたという設定だ。
でも、なぜドーラはエディーがそこにいると知ったのか、なぜエディーに助けを求めようとしたのか、その辺りはサッパリ分からない。
エディーが取材でドレイクに追い出された時、ドーラは同席していない。なので「エディーなら力になってくれる」と彼女が信じるだけの根拠は、どこにも見当たらない。
エディーが力になってくれると信じたとしても、「その時間、その場所に行けばエディーに会える」というのは調査しなきゃ分からないだろう。でもドーラはライフ財団の人間として忙しく働いているので、そんな暇は無いはずだ。
探偵でも雇って調べたのか。それとも、ずっと尾行していたのか。
でも、それよりはアパートへ行った方が早くないか。

エディーはドーラから相談された時、「俺はカールトン・ドレイクのせいでクビになった。キャリアを無くし、恋人を無くし、住む所を無くした。大事な物を全て無くした」と怒りを吐露する。
だけど、彼が全て無くしたのは、完全に自業自得なんだよね。
局長の言うことを聞いていれば、仕事は無くさなかった。アンのパソコンを内緒で見なければ、恋人は無くさなかった。
自分勝手な行動のせいで仕事と恋人を無くしておいて、「全てドレイクのせい」ってのは責任転嫁でしかないぞ。
もちろんドレイクが悪党なのは事実だけど、エディーが全て無くしたのは、それとは別の問題だ。彼が自己中心的で傲慢だったことが原因だ。

それはヨリを戻そうとエディーが持ち掛けた時、アンもハッキリと指摘している。なので反省して言動を改めるのかというと、そんなことは全く無い。
「それはしょうがないだろ」と思うかもしれないけど、ドーラから何も触らないよう注意されたのにラボで勝手に行動しているのも「何も変わっちゃいない」ってことになるでしょ。
そんなエディーのことを、ヴェノムは「お前は負け犬だ」と指摘する。
仕事も恋人も失ってすさんだ生活をしていたんだから、確かに負け犬と言っていいだろう。ただ、じゃあ「負け犬がヴェノムと組んで変化して」というトコの面白さがあるのかというと、そういうのは皆無なんだよね。
そもそもエディーの「負け犬」としての色が薄いし、彼が負け犬じゃなくても大して話に変化は無さそうに思えるし。

ヴェノムは最初からエディーと適合するが、「なぜエディーは適合できたのか」という明確な理由は示されていない。
アメコミ映画ってことを考えると、そこの適当っぷりは別に気にならない。デタラメでいいから何か科学的な根拠でも用意しておいた方が望ましいのは確かだけど、無くても構わない。
ただ、体の適合だけじゃなく、「バディー」としても最初からエディーとヴェノムが上手くやっているのは、あまりにも安易だ。いや安易っていうか、話を面白くする手順を飛ばして損しているように感じる。
あと、ヴェノムは終盤になってアンにも一時的に寄生し、シー・ヴェノムとして敵と戦うんだよね。それも都合が良すぎるだろ。
しかも、そのせいで「相手がエディーだから適合した」「エディーとヴェノムは特別なコンビだ」ってことが成立しなくなるし。

終盤にヴェノムは「俺の星では、俺も負け犬だ。だが、ここなら俺も変われる」とエディーに話すけど、どこが負け犬なのか、こっちはサッパリ分からない。
だから、「負け犬同士がコンビを組んで強大な敵に立ち向かう」という図式も成立していない。
本編が96分ぐらいなので、最近のアメコミ映画としては短めにまとめている。だから尺を考えて、「反目していたエディーとヴェノムが名コンビになる」という手順に時間を掛けなかったのかもしれない。
でも、もう少し上映時間を増やしても良かったんじゃないかと思うし、96分のままでも「他の部分を削れば良かったでしょ」と言いたくなる。

ヴェノムは物騒なことを言うし、やたらと口は悪いけど、実際の行動は大したことが無い。蹴散らす相手は悪党なので、普通のヒーローと変わらない。
特殊部隊と戦うシーンはあるが、それもエディーの身を守るための行動だ。2度だけ人の頭を食うシーンがあるけど、それも一瞬だし、残虐描写としては超薄味に留めている。
ヴェノムの極悪っぷりをアピールする意識は、ものすごく乏しい。
それどころか、警官を食べようとした時にはエディーが「やめろ」と制止すると、おとなしく従うのだ。ものすごく物分かりがいい奴なのである。
特殊部隊と戦う時も、エディーの命令で動いているしね。

さらにヴェノムは、「彼女に謝ってなかっただろ。二度と謝るチャンスは無いかも」とアンに謝罪するようエディーに勧める。エディーの心臓が弱っていることを知ると、「俺が治してやる」と言う。エディーが敵に捕まると、アンに寄生して助けに駆け付ける。ライオットを倒しに行く時は、「一緒にすると危険だから」ってことでアンは置いていく。
普通に「いい奴」じゃねえか。
ライオットの計画を止めようとするのも、「自分の野望に邪魔だから」とかじゃないからね。ヴェノムはエディーに「お前がそうさせた」と言っているけど、単純に「善意に目覚めたから」ってことにしか思えないし。
ホントなら「私欲や野望のために動くが、結果的に人類や地球を救う」という形にしておいた方がいいんじゃないかと思うんだけどね。

原作コミックでは複数のキャラクターがヴェノムに変身するが、エディー・ブロックは初代だ。
コミックではスパイダーマンに誤報記事を暴かれ、強い憎しみを抱いたエディーに共生体が寄生してヴェノムに変身する。
しかし本作品ではスパイダーマンとの関係性を完全に排除しているので、そこの設定は大幅に変更されている。
そこは仕方がないんだけど、結果的に『寄生獣』の超劣化版みたいな内容になってしまったのは、決して「スパイダーマンを絡ませることが出来なかったから」ってわけでもないだろう。

日本で公開された時、「マーベル史上、最も凶悪なダークヒーロー誕生。」というキャッチコピーが使われた。
その言葉が、この作品の本質と失敗を顕著に表現していると言っていい。
本来ならヴェノムは凶悪な「ヴィラン」であるべきなのに、この映画ではダークヒーローという扱いになっているのだ。
ヴィランとダークヒーローは、全くの別物だ。「似て非なる物」ですらない。
ヴィランってのは悪役であり、ダークヒーローはダークであってもヒーローだからね。

もしかすると「ヴィランを主人公に据えても観客に受けない」と思ったのかもしれないが、だったらヴェノムの映画なんて作らなきゃいいわけで。
「ヴェノムを主人公にした映画を作る」ってのは、「ヴィランを主人公にした映画を作る」ってのとイコールじゃないのか。
その覚悟が持てないのなら、企画そのものを潰してしまえば良かったのよ。
そこを大きく変えてまで、ヴェノムに固執する必要も無いはずだし。
ヴェノムがマーベル・コミックのキャラクターの中で、抜群の人気を誇っているということでもないでしょ。

しかも「ダークヒーローという扱い」と前述したけど、実際のヴェノムはダークヒーローとしてもヌルいんだよね。
本気でダークヒーローとして描こうとするなら、例えば「利害が一致したのでエディーに協力するが、残虐な行為を繰り返す」とか、「止むを得ない事情があるからエディーと手を組むが、隙あらば彼を食おうと目論んでいる」とか、そんな設定を用意するだろう。
でもヴェノムは最初からエディーに心を開き、何の裏も無く全面的に協力しているのだ。最初から友情で結ばれているのだ。
そこだけを取っても、ダークヒーローとしての味付けが弱すぎるわ。

(観賞日:2020年7月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会