『アップタウン・ガールズ』:2003、アメリカ

今は亡き伝説的ロック歌手トミー・ガンの娘であるモリーは、父の遺産で裕福に暮らしている。彼女はニューヨークの高級アパートで生活 し、パーティーに明け暮れている。その自堕落で気ままな生活ぶりはアパートの住人マッコンキーたちに迷惑を掛けているが、モリーは お構い無しだ。誕生日パーティーの夜なのに寝坊したモリーは、急いで友人たちが待つ会場のクラブへ向かった。
パーティー会場に行くと、親友のイングリッドとヒューイが大勢の客を呼び集めていた。トイレに入ったモリーは、生意気な8歳の少女 レイと遭遇した。そこへヒューイが現れ、レイを連れて行った。レイはヒューイの上司であるシュレイン・レコードの女社長ローマの娘 だった。新人歌手ニールがステージに上がり、ギター片手に歌い始めた。ヒューイがスカウトし、ローマに見せるために連れて来たのだ。 ヒューイは「ニールは禁欲主義で女を寄せ付けない」と言うが、モリーは構わずに狙いを付けた。
パーティーが終わった後、モリーはニールに声を掛けて部屋に連れ帰った。電気が付かないので、モリーは何本ものロウソクに火を付けて ニールを招き入れた。ニールはトミーが使っていたギターのコレクションを見て、感嘆の声を漏らした。ニールはトミーの持ち歌である 『Molly Smiles』を歌い出そうとするが、モリーは「やめて」と告げた。それを歌った直後、両親が死んだからだ。
ニールは「1年間は酒と女を絶つ」という誓いを口にしたが、モリーは彼を落として関係を持った。しかし数日が過ぎると、モリーは 一日中ずっと家にいて歌っているニールに辟易してきた。イングリッドから電話が掛かると、モリーは愚痴をこぼし、「どうやったら彼を 傷付けずに追い出せるかしら」と相談する。だが、ニールは服を着て「家に帰る」と言い出した。散らかり放題の部屋での生活に彼は ウンザリしており、「ここは異常だ。僕は人間の生活に戻る」と告げた。
慌ててニールを引き止めようとするモリーだが、彼の気持ちは変わらなかった。「彼無しでは生きて行けない」と落ち込むモリーの元に、 イングリッドが訪ねてきた。イングリッドは「最終通知」と書かれた封筒を見つけ、部屋のガスと電気が止められていることを知った。 財産を管理していた会計士ボブが金を持ち逃げしたのだ。モリーは「大丈夫よ。お金はすぐに戻るわ」と能天気に言うが、ボブはトミーの 印税も前倒しで持ち去っており、弁護士は「取り戻せるのはずっと先になる」と告げた。
「お金が戻るまで、どうやって生活すればいいの」と言うモリーに、弁護士は「働くのです」と冷静に告げた。モリーはイングリッドの 紹介で、高級生地の店アニキーミで働くことになった。しかしモリーは無一文になったという現実が理解できておらず、すぐに店で買い物 をする。モリーはニールのアパートに押し掛け、エジプト製の布を彼にプレゼントした。ニールは困惑した表情で「ちゃんとした大人の 付き合いをしよう」と言うが、モリーに誘われると、また関係を持った。
モリーはニールと一晩中セックスに励み、仕事に来た途端に眠り込んだ。当然のことながら、彼女はクビを通告された。イングリッドから 「せっかく私が紹介してあげたのに」と怒られても、モリーは反省の色が薄い。そんなモリーに、今度はヒューイが仕事を紹介した。それ はレイのベビーシッターだ。レイは1ヶ月で3人のベビーシッターを「気に要らない」とクビにしていた。
レイは潔癖症で健康オタクで、3歳の頃から精神科医の元に通っていた。家には寝たきりの父がおり、母は滅多に戻らなかった。モリーは ローマに雇われたが、実質的にはレイが家の全てを取り仕切っていた。神経質に暮らす彼女は、がさつすぎるモリーの行動を厳しく注意 した。いちいち細かく文句を言われたモリーは激しく反発し、雇われた初日に「辞めるわ」と言い放って飛び出した。彼女がマンションに 戻ると、廊下にペットのミニブタが繋がれていた。部屋は差し押さえを受け、モリーは追い出されたのだ。
モリーはニールのアパートへ赴いてインターホンを鳴らすが、応答は無かった。彼は部屋にいたが、居留守を使ったのだ。モリーは イングリッドのマンションで同居させてもらうことになった。しかしイングリッドは「私物があまりにも多すぎる」「ミニブタは部屋に 置けない」と言う。また、モリーは単なる居候のつもりだったが、イングリッドは家賃の半分を支払うよう求めた。
モリーはバレエ教室に通っているレイの元へ行き、詫びを入れた。レイは「試験期間よ」と言い、改めてモリーを雇うことにした。レイは レッスンのリースタイルの時間には付き合わず、教室を出た。イングリッドに促され、モリーは私物をフリーマーケットに出した。品物が 売れそうになるとモリーは「それは私の物」と止めようとするが、その度にイングリッドが諭した。
モリーは私物を処分していくが、父のギターだけは売らなかった。そのギターを見たレイに、モリーは寝たきりの父親のことを尋ねた。 するとレイは「いつか死んじゃうのよ」とクールに告げた。父親の面倒は看護師が見ており、レイは部屋に入ろうともしなかった。モリー は久々にニールから電話を貰い、コーヒーショップで会った。ニールはシュレイン・レコードと契約したことを告げた。モリーはニールの ジャケットを勝手にリフォームして渡した。
ニールはモリーに、「もう君とは会えない」と告げた。ショックを受けたモリーは、その後のニールの言葉には耳を塞いだ。沈んでいる モリーを見て、レイは「他人に期待しちゃダメ。自分のために何かやったら」と冷静に告げた。モリーはイングリッドと1ヶ月前から約束 していたお茶会をドタキャンし、それを批判されると文句を並べ立てた。そのせいでモリーはイングリッドにマンションを追い出されて いまい、ヒューイの部屋に転がり込んだ。
モリーはヒューイに連れられ、クラブに繰り出した。同じ頃、レイはバレエ発表会のリハーサルに臨んでいた。客席には子供たちの保護者 が集まっていた。レイは客席を見回すが、ローマの姿は無かった。モリーはクラブでローマを目撃し、「今日はお休みを貰ってるんです けど、レイのシッターは誰が?」と尋ねた。するとローマは「彼女はバレエ発表会のリハーサルに行ってるでしょ。車を迎えにやったから 大丈夫よ」と軽く言い、仕事相手との商談に戻った。
翌日、モリーはレイを強引に引っ張り出し、コニーアイランドへ連れて行く。遊園地は初めてだというレイに、モリーは「コーヒーカップ に乗って思い切り回ろう」と告げた。だが、シーズン1週間前だったため、まだ遊具は何も動いていなかった。レイを家まで送り届けた モリーは、自分が独りぼっちになった時にコーヒーカップに乗ったことを語り、泣き出した。モリーはレイに抱き締められ、彼女のベッド で眠りに就いた。翌朝、モリーがレイを捜して台所へ行くと、上半身裸のニールがいた。彼はローマの男になっていたのだ…。

監督はボアズ・イェーキン、原案はアリソン・ジェイコブス、脚本はジュリア・ダール&モー・オグロドニック&リザ・デヴィドウィッツ 、製作はジョン・ペノッティー&フィッシャー・スティーヴンス&アリソン・ジェイコブス、製作総指揮はジョー・M・カラッシオロJr. &ティム・ウィリアムズ&ボアズ・イェーキン、共同製作総指揮はゲイリー・ウィニック&ヴィッキー・チャーカス、撮影はミヒャエル・ バルハウス、編集はデヴィッド・レイ、美術はカリーナ・イワノフ、衣装はサラ・エドワーズ、音楽はジョエル・マクニーリー、 音楽監修はモーリーン・クロウ。
出演はブリタニー・マーフィー、ダコタ・ファニング、ヘザー・ロックリア、マーリー・シェルトン、ドナルド・フェイソン、ジェシー・ スペンサー、オースティン・ペンドルトン、 ウィル・トール、マーセリン・ヒューゴット、ペル・ジェームズ、ベンジャミン・キューダス・フィリップ、ラッセル・スタインバーグ、 フィッシャー・スティーヴンス、スザンナ・フレイザー、ウィンター・カルマン、エイミー・コーブ、ジェラルディン・バートレット、 マーク・マッグラス、デイヴ・ナヴァロ他。


『しあわせ色のルビー』『タイタンズを忘れない』のボアズ・イェーキンが監督を務めた作品。
モリーをブリタニー・マーフィー、レイを ダコタ・ファニング、ローマをヘザー・ロックリア、イングリッドをマーリー・シェルトン、ヒューイをドナルド・フェイソン、ニールを ジェシー・スペンサー、マッコンキーをオースティン・ペンドルトンが演じている。
他に、本作品のプロデューサーで映画監督でもあるフィッシャー・スティーヴンス、シュガー・レイのヴォーカリストであるマック・ マッグラス、ギタリストのデイヴ・ナヴァロ、振付師ブライアン・フリードマン、ヒップホップMCのナズ、モデルで女優のカルメン・ エレクトラ、シンガー・ソングライターのダンカン・シークが、それぞれ本人役で出演している。

モリーがニールを家に連れ込んだ後に「ずっと帰らないで一日中ウダウダしている」とイングリッドに愚痴をこぼしながら、いざ彼が 帰ろうとすると引き止めようとするのは、ワケが分からない。
「じゃあ帰ってほしいとか言うなよ」と思ってしまう。
そりゃあ、「辟易したけど、失いそうになって大切さが分かる」ということを描きたいんだろうってのは何となく分かるよ。
でも、単純な話を無駄に複雑化させているだけとしか思えないし、そのように短時間でコロコロと変化する感情を描くことに意味を 感じない。
それと、モリーがニールを連れ込んだ夜の時点で電気とガスは止められていたはずなのに、テレビが付いているのは変でしょ。

モリーがレイのベビーシッターになるまでに、やたらと時間を使いすぎている。
この映画、その2人の関係を描くことがメインのはずで、だったら2人を早く再会させないと始まらないでしょうに。
モリーがニールとイチャついたりしてウダウダやってるので、レイの存在を忘れそうになってしまったぞ。
さっさとレイを再登場させるべきで、その前にモリーとニールの関係描写で時間を費やすというのは、構成としてよろしくないでしょ。

それに、その時点では、まだモリーは自堕落で気ままなダメ女だったわけでしょ。
その時に連れ込んで関係を持った男が、本命の恋人として設定されている時点でダメなんじゃないのか。
そうなると、そんなモリーに落とされたニールも、その程度の男ってことになるぞ。そんな奴が本命として適任だとは思えない。
序盤でモリーと出会わせて、彼女が狙いを付けるとしても、そこではニールと恋人関係にならないままに(例えばニールに相手にされない とか)留めておくべきではなかったか。

っていうか、もっと突き詰めれば、この映画にモリーのロマンスなんて不要なんだよね。
何よりもモリーとレイの関係を重視すべき作品であり、ロマンスなんぞに視線をやって脇見運転すべきじゃないよ。
もしも男を絡めるにしても、それはレイと親しいキャラクターにすべきだ。
そして、モリーとレイの交流に深く関わる形で、モリーとのロマンスも進行するようにした方がいい。

モリーがレイのベビーシッターを開始するタイミングが遅くなると、それだけ「気ままで愚かなモリーと、潔癖で生意気なレイが、人間的 に成長していく」という過程を描くための時間も、おのずと少なくなる。
2人が絆を深めるための時間も、もちろん少なくなる。
そこを犠牲にしてまで、ニールとのロマンスなど、それ以外のことで時間を使ったメリットは何も見えない。

ようやくモリーがレイのベビーシッターを始めても、「コインランドリーで機械から泡が吹き出す」「イングリッドが友人を招いてお菓子 を作った時に、オーブンでクッキーを焼こうとして火を出してしまう」とか、モリーの私生活での失敗を描いてしまう。
そうじゃなくて、セレブだった彼女の生活環境が一変してからの失敗は、ベビーシッターとして働く中で見せるべきじゃないのか。
なんでレイが全く関与しないところで、そういうエピソードを描いてしまうかな。

ニールはモリーに久しぶりに連絡し、「もう会えない」と告げるんだが、ずっと会っていなかった女をわざわざ呼び出して、そんなことを 伝える意味がどこにあるのか。
っていうか、モリーとニールの恋愛劇って、すげえ軽薄なものにしか感じないんだよな。
だから、なおさら「そんなことよりモリーとレイの関係を描け」と言いたくなってしまう。
そっちの薄さが気になって仕方が無い。

モリーとニールの関係を描く一方で、最も重視すべき「モリーとレイが反発し合いながらも少しずつ相手を理解して心を開き、互いに影響 し合いながら人間的に成長していく」というドラマは疎かにされている。
後半、ようやくモリーとレイの関係描写に集中し始めたかと思ったら、またニールを登場させたりしている。
もうニールがひたすら邪魔な存在でしかないんだよな。

最後のバレエの発表会にしても、モリーとレイの関係で締め括ればいいものを、なぜかニールをゲストとして呼んでしまう。 いや、ホントに要らないっての。
「テメエ如きが、モリーの大事なパパのギターを演奏してんじゃねえよ。百年早いわ」と言いたくなる。
っていうか、それ以前の問題として、そのギターを小道具に使ってのバレエのシーン、なんかマヌケで締まりが悪いんだよなあ。
本来なら感動すべき場面のはずなのに、なんかバレエの滑稽さが失笑を誘っている気がするぞ。

(観賞日:2010年5月5日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[ダコタ・ファニング]
<*『ハットしてキャット』『アップタウン・ガールズ』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会