『アンロック/陰謀のコード』:2017、イギリス&アメリカ&チェコ&スイス
アリス・ラシーンは東ロンドンにある地区センターの就職斡旋係として働き、様々な案件に応対している。移民青年のアムジャドはアリスに、従兄の家の隣の公営住宅にエジプト人が9人も住んでいることを教えた。アリスはMI5のエミリー・ノウルズにメールで情報を伝え、後で密会する。エミリーはアリスに、1時間前に踏み込んだが既に無人となっていたことを話す。テロリストの隠れ家であることを疑っているアリスに、エミリーは「見つける当てはある」と告げた。
アリスがアパートに戻るとエミリーから電話があり、住人のエジプト人は3年前からロンドン大学に通っている青年で潔白が証明されたことを知らせた。電話を切ったアリスは、2012年にパリで起きた爆破テロ事件を思い出した。イスラム教の指導者であるハリルは、手下が連れて来たラティーフという青年とモロッコ料理店で会った。ハリルはラティーフに、使者としての仕事を指示した。バイクを走らせたラティーフは、バンの男たちに拉致された。
邸宅の清掃をしていた女性は、プールに浮かぶ男性の遺体を発見した。バージニア州ラングレーにあるCIA本部では、ヨーロッパ部門長を務めるボブ・ハンターが部下のエド・ロムリーたちから報告を受けていた。ドイツから呼んだ尋問官のジム・マカリスターが殺されたこと、尋問予定だった相手はハリルの伝達者であること、英国での対米テロ計画をスポンサーのデヴィッド・マーサーに伝える役目であることを、ハンターは聞かされた。
アリスは元上官のフランク・サッターと会い、現場復帰を勧められる。アリスが「無理よ。勘が鈍ってる」と断ると、サッターは「CIAが前線に君を欲しがってる」と告げた。「24人も死なせた私を?」とアリスが言うと、彼は「パリを引きずるな」と説く。アリスが「24人が死んだの事実よ。尋問が間に合わなかったせい」と話すと、サッターは過去を手放すよう諭した。モスクワのドモジェドヴォ空港では、変装した男がロンドン行きの飛行機に搭乗した。
ハンターはロムリーたちから、マールブルグ・ウイルスがエボラを凌ぐ脅威であること、出所がロシアであることを聞く。CIAが拘束したラティーフは、マーサーと面識が無かった。そこでCIAは使者を摩り替えて指示を変更するつもりだったが、尋問官の死で事情が変わった。代わりの尋問官について、ロムリーはロンドン支局のアリスしか残っていないことをハンターに話す。ハンターがアリスを呼ぶよう指示すると、ロムリーは「この2年ほどは難しい状況です」と告げた。
アリスはヨーロッパ出身で、12歳で母と渡米した。翌年には路上生活を始め、里親を転々とした。15歳で暴力事件を起こした彼女は警察のスポーツクラブに勧誘され、3年後にはスポーツ奨学金で大学に進学した。そして尋問官の才能を認められ、CIAに入った。2012年にテロ首謀者を自供させたが、テロ事件は阻止できなかった。ラッシュの説得を受けて辞職を思い留まり、現在は囮捜査の仕事に就いていた。2年も尋問していないことを聞いたハンターだが、「他に選択肢があるのか」と述べた。
アリスがバスに乗っていると、ロンドン支局のフランク・サッターと名乗る男が接触した。彼は暗号の書かれた新聞を渡し、バスを降りた。アリスは暗号を解読し、ブリッジタワーへ出向いたサッターと会う。サッターはアリスに、ラティーフを尋問してマーサーと会う時の認証手順を聞き出す仕事を命じた。彼はラティーフがフランクフルトでテロ訓練を受けていること、部族語の通訳を付けることを説明する。アリスは難色を示すが、サッターは「これはヨーロッパ部門長の決定だ」と断ることを認めなかった。
アリスはサッターと共にホテルへ出向き、彼の部下であるバズ・カットたちと会う。奥の尋問室を見たアリスは、ラティーフの信頼を得るために監視カメラを止めるよう要求した。アリスはラティーフの尋問を開始し、ハリルが逮捕されたと嘘をついた。精神的に追い込まれたラティーフは、認証手順を白状した。リビングに戻ったアリスはサッターに認証手順を伝えようとするが、電話が入ったのでトイレへ行く。すると相手はロムリーで、アリスは尋問の仕事を命じられた。アリスは彼と話し、サッターがCIA局員ではないと悟った。
アリスはリビングへ戻り、サッターから認証手順を教えるよう求められる。サッターの手下が背後で拳銃を構えているのに気付いたアリスは、まだ尋問が終わっていないと嘘をつく。彼女は尋問室へ戻り、ラティーフに話し掛けながら「殺される」とメモで知らせる。アリスはラティーフに協力させて芝居を打ち、サッターの手下たちに発砲する。サッターとバズ・カット以外の面々を始末した彼女は、ラティーフを連れて部屋を脱出する。ラティーフがバズ・カットに撃たれて死んだため、アリスは一人でホテルから逃げ出した。
ロシアから来た男はラボでマーサーと科学者のバレットに会い、持ち出したウイルスと金を交換して去った。アリスはラッシュの家へ行き、事情を説明した。CIAロンドン支部の面々はバンを発見し、護衛が皆殺しにされているのを知った。内通者がいると確信するアリスに、ラッシュは逃げるよう促した。そこへ外から発砲があり、ラッシュは大怪我を負う。彼はアリスにマンションの住所を教え、そこへ逃げるよう指示した。アリスは武装した連中にラッシュが射殺されるのを見て、彼の家から逃走した。
バレットはウイルスを使った時限式の噴霧器を作成し、マーサーの部下に渡した。彼が防護服を来て後片付けをしていると、外で遊んでいた子供たちのボールが飛び込んで来た。ボールはバレットに当たり、彼はウイルスの入ったビーカーを落として割ってしまった。そこへ少年が来てボールを拾い、その場を去った。マンションに着いたアリスは泥棒のジャックを見つけ、拳銃を突き付けた。彼女はジャック縛り上げ、荷物を調べた。アリスは配電盤室へ行き、電話回線を細工した。
アリスは自分が向かいの棟にいるように偽装してから、CIA本部に電話を掛ける。彼女はハンターとロムリーに報告を入れ、内通者がいると伝えた。向かいの棟に武装した連中が乗り込むのを見た彼女は、自分を捕まえようとしていることを知った。アリスはジャックの近くにナイフを置き、「足を洗いなさい」と告げて部屋を出た。アリスはロンドン警視庁特殊部隊の2人に見つかり、スタンガンで拘束されそうになる。そこへジャックが駆け付け、隊員を倒してアリスを救出した。
エミリーはハンターからの連絡で「なぜアリスを逃がした?」と責められ、助っ人がいたことを説明した。意識を取り戻したアリスに、ジャックは元海兵隊員だと語った。彼が協力を申し出ると、アリスは銃を突き付けて拒絶する。しかしジャックの説得を受け、彼を連れて行くことにした。アリスはハリルのモスクに友達がいるアムジャドを訪ね、協力を要請した。アムジャドは友達に電話を掛け、ハリルがモロッコ料理店で昼食を取る情報を得た。
アリスはタクシーで店へ向かう途中、エミリーに電話を入れて「使者はメールを待ってた。彼の電話を探して」と頼む。アリスとジャックは店に着くと、アムジャドに車で待機するよう指示した。先にジャックが客として店へ入り、後から無関係を装ってアリスが赴く。彼女は店主に地区センターの人間だと自己紹介し、ラティーフを捜していると告げた。店主が慌てた様子で外へ出ると、アリスはエミリーに連絡して「始まった」と伝える。店主がラティーフの携帯に電話を掛け、エミリーは場所をレッカー場に絞り込んだ。
ジャックが店の奥にいた手下たちを倒し、アリスはハリルと会う。彼女はハリルを尋問し、ラティーフに託したのがテロ中止のメッセージだったことを知る。標的や密会場所を尋ねると、ハリルは「そこまでは知らない。準備が整えばマーサーが使者に連絡する」と口にした。アリスがジャックと共に店を出ると、アムジャドの姿が無かった。アリスか電話を掛けると、アムジャドは店主を追って公園の反対側にあるビルへ来ていることを話した。
エミリーはレッカー場にあるバイクを調べ、ラティーフの携帯を発見した。彼女はアリスに連絡し、ラティーフが「6時にブレントクロスの船小屋」というメールを受け取っていたことを教えた。店主の元へ行こうとしていたアリスは、その必要が無くなったのでビルを去ろうとする。彼女はジャックの些細な言葉で、話していた経歴が虚偽だと見抜いた。ジャックは取り繕うが、アリスは拳銃を向ける。ジャックは隙を見て襲い掛かり、サッターにラティーフの受け取ったメールの内容を伝えた。
ジャックはアリスを暴行し、エレベーターに乗せる。一緒になった男が2頭のドーベルマンを連れており、襲って来たのでジャックは1頭を射殺した。彼はアリスを地下駐車場へ連行し、始末しようとする。そこへアムジャドが駆け付けてアリスを救おうとするが、ジャックは軽く叩きのめす。そこへ激怒したエレベーターのの男が現れ、ドーベルマンにジャックを襲わせた。その間に、アリスはアムジャドと共にビルから逃亡した。
エミリーは公衆衛生庁のアダム・ロイズマンに呼ばれ、マールブルグ熱に冒されて隔離されている少年の姿を目にした。彼女はアリスと合流し、アムジャドを使者として使うことにした。アリスは計画に反対するが、アムジャドは乗り気だった。エミリーはアリスに、2012年の事件についてフランスの国内治安総局が調査したこと、捕虜の自供から警察への報告まで90分も掛かっていたと判明したことを伝える。CIAに内通者がいて、邪魔をしたのだ。
さらにエミリーは、内部告発者が殺された事実をCIAが認めていないこともアリスに教えた。その内部告発者は、民間の死者数を大幅に削減して発表していることを暴露しようとしていた。エミリーは部下のウィルソンたちを配置に就かせ、アムジャドを船小屋へ向かわせる。一方、ハンターたちはバンのあった現場に残されていた弾丸を調べ、襲撃の際に使われた銃がイギリス諜報機関の御用達であることを突き止めた。CIAはロンドンのマクフィーに武器の在庫を確認してもらい、銃を使ったのがウィルソンだと知る…。監督はマイケル・アプテッド、脚本はピーター・オブライエン、製作はロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ&ジョージナ・タウンズリー&エリック・ハウサム&クローディア・ブリュームフーバー、製作総指揮はラリー・クリスフィールド&ゲルト・シェーパース&フロリアン・ダーゲル&イアン・ハッチソン&ゲド・ドハーティー&ケヴァン・ヴァン・トンプソン&ノーマン・メリー、共同製作はコート・クリステンセン、撮影はジョージ・リッチモンド、美術はオンドレイ・ネクヴァシル、編集はアンドリュー・マックリッチー、衣装はボヤナ・ニキトヴィッチ、音楽はスティーヴン・バートン。
出演はノオミ・ラパス、オーランド・ブルーム、トニ・コレット、マイケル・ダグラス、ジョン・マルコヴィッチ、マシュー・マーシュ、マクラム・J・フーリー、ブライアン・キャスプ、フィリップ・ブロディー、トシン・コール、マイケル・エップ、トム・リード、ラファエロ・デグルトッラ、ケヴィン・シェン、アイメン・ハムドーチー、アクシャイ・クマール、ロバート・アレクサンダー・ラッセル、ラミ・ナスル、ローレン・ジェシカ・ブーン、ジム・ハイ、マイケル・ガンサー・ピッタン、オリヴェット・コール=ウィルソン、アデラヨ・アデダヨ、シエナ・シンクレア他。
『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』のマイケル・アプテッドが監督を務めた作品。
脚本のピーター・オブライエンは、これが長編映画デビュー作。
アリスをノオミ・ラパス、ジャックをオーランド・ブルーム、エミリーをトニ・コレット、ラッシュをマイケル・ダグラス、ハンターをジョン・マルコヴィッチ、サッターをマシュー・マーシュ、ハリルをマクラム・フーリーが演じている。まず感じるのは、アリスの初期設定が中途半端ってことだ。
アリスはテロ事件を阻止できなかったという過去があり、だからCIAを辞めて地区センターの仕事に就いたのかと思ったら、囮捜査として就職斡旋係をしている設定だ。
現場復帰をラッシュから勧められたアリスは「勘が鈍ってる」と言うけど、尋問の仕事はやっていないものの、ずっとCIAの仕事を続けているんでしょ。
そういうのは、完全に足を洗った人間に言わせるべき台詞だよ。ハンターは代わりの尋問官について「他に選択肢があるのか」と言い、アリスを呼ぶよう命じる。
だけど、1人が死んだら、次は2年間もブランクがある奴しかいないのかよ。
「他は中東に回っている」と説明しているけどさ、それにしたって2人しか尋問官がいないってのは、どんだけCIAは人材不足なのかと。それは設定として無理がありすぎるんじゃないかと。
アリスを現場復帰させる状況を作るための手順が雑だから、不自然さたっぷりになっちゃってるぞ。ラティーフがバンの連中に捕まった後、シーンが切り替わると「プールに浮いている遺体が発見される」という様子が描かれる。なので、その遺体がラティーフなのかと思ったら、ハンターが「ボブ・マカリスターが殺された」という報告を受けるシーンになる。つまり、その遺体がジムってことだ。
しばらくするとCIAがラティーフを拉致したことが語られるけど、そこはシーンの繋ぎ方が下手だわ。
プールに浮かぶ遺体を見せるだけで済ませるぐらいなら、そこはカットでもいい。
ジムの死を映像として表現するのなら、彼が何者かに殺される時の様子を見せた方がいい。そうじゃないなら、「ジムが殺された」ってのを台詞だけで済ませても大して変わらない。サッターはアリスにバスで接触し、暗号の書かれた新聞を渡して去る。アリスが暗号を解読すると「タワーブリッジ、15分後、南東で」というメッセージが判明する。
アリスがタワーブリッジに行くとサッターが待っていて、任務を説明する。
だけど、そこにいるのがサッターであるなら、バスで暗号だけ渡して去る意味が無くないか。
いや、そりゃあバスの中で任務を詳しく説明するわけにもいかないだろうけど、それならバスでアリスに接触するのは別の奴にしておいた方がいいんじゃないかと。アリスはサッターを知っていて任務を引き受けたのかと思ったら、まるで知らないままで承諾している。
ラッシュに現場復帰を勧められている状況だったとは言え、あまりにも軽率に感じてしまう。
観客に「サッターが本物のCIA局員」と思わせる見せ方としては、変な破綻は起こしていない。そこの狙いだけに絞れば、上手く描けていると言ってもいいだろう。
ただ、サッターが偽者だと判明した時、「アリスは隙がありすぎるだろ」と感じてしまうんだよね。ラティーフが殺されるのも、実はアリスのミスと言ってもいいよね。ホテルの階段を下りている最中、ラティーフが撃たれるんだからさ。
「敵を全滅させたはずなのに、まだ他にもいて、そいつに撃たれた」ってことなら仕方が無い。でも、アリスは敵を2人残したまま逃げているわけで。
だったら、逃げる時に追って来て発砲する可能性は充分に考えられるよね。それなのにアリスは、後ろを全く気にせず走っているのだ。
それは「本気でラティーフを守る気が無い」としか思えないぞ。アリスがラッシュから聞いたマンションへ行くと、たまたまジャックが泥棒に入っている。たまたまジャックは元海兵隊員でアリスの危機を救い、手を貸したいと申し出る。
色々と都合が良すぎるし、ものすごく不自然な形で絡んで来る。
そこまで無理をして、この男を登場させる意味があるんだろうか。
しばらくは「アリスの協力者」として一緒に動くことになるが、アリスを「複数のグループに追われて孤立無援の戦いを強いられる」という状況に置いた方がいいんじゃないかと。完全ネタバレだが、内通者はラッシュだ。
射殺されたってのはアリスを騙すための芝居で、彼は認証手順を聞き出すためにジャックを送り込んでいた。つまりジャックも敵の一味だったわけだ。
だから「アリスにジャックという協力者がいる」という状況は偽りだったわけだが、それでも「ジャックは要らない」という感想は全く揺るがないわ。
むしろスパイだと明らかになったことで、ますます「要らない」と感じてしまう。あと、ジャックが猛犬に襲われている間にアリスは逃亡するけど、何しろオーランド・ブルームだし、後で再登場するだろうと思っていた。ところが、そこでジャックの出番は終了なのだ。
オーランド・ブルームの使い方が、あまりにも雑だわ。
っていうかさ、猛犬に襲われたからといって、そこで死んだわけでもないはずでしょうに。なんで再登場しないんだよ。
「味方と思わせて実はスパイ」という役柄にしては、退場がマヌケすぎるぞ。終盤、スタジアムにウイルス兵器を仕掛けた男は多くの子供が犠牲になると知り、取り外そうとする。それを予期していた黒幕は、バズ・カットを差し向けて男を始末する。そしてバズ・カットは、タイマーの装置を黒幕に渡す。
なんかさ、ほとんど自分たちでやってねえか。
あと、黒幕の目的に対して、起こしている事件が見合っていないように感じる。
パリの一件は裏切り者の抹殺が理由で、今回は「アメリカの防御力をテストする」ってのが狙いだ。「事件を起こすことで政府に危機感を持たせる」という目的で行動する犯人って色んな映画で登場するけど、大抵はボンクラにしか見えないんだよな。(観賞日:2019年12月27日)