『アオラレ』:2020、アメリカ&イギリス

ルイジアナ州ニューオーリンズ。早朝4時、トム・クーパーは路肩に車を停めて考え込んでいた。彼は結婚指輪を外して投げ捨て、鎮痛剤を飲んだ。クーパーは車に積んでおいた斧と油を手に取り、車を降りて標的の家へ向かった。彼は玄関の扉を斧で破壊し、妻子を殺害する。彼は油を撒いて火を放ち、車に乗って走り去った。日が昇った後、美容師のレイチェル・フリンは弁護士で親友のアンディーから電話を受けて目を覚ました。アンディーは彼女に、離婚調停中の夫が家を渡すよう要求して来たことを知らされた。
レイチェルは15歳になる息子のカイルを養い、彼女の弟のフレディー&恋人のメアリーと一緒に暮らしている。テレビのニュース番組では、クーパーの事件が報じられている。クーパーは職場での負傷から薬物依存になって暴力的になったこと、接近禁止命令が出ていたことをアンカーマンは伝えた。レイチェルの母は介護コミュニティーに入っているが、フレッドに不満を訴える。レイチェルは介護の費用を工面するため、母の家を売りに出している。フレディーは家賃も払っていないが、「ビジネスを始めて母と一緒に暮らす」と能天気なことを言い出したのでレイチェルは呆れた。
カイルを車で学校へ送り届けるために家を出たレイチェルは、隣人のロージーと遭遇して挨拶を交わした。裕福なロージーは新車を買ったが、レイチェルには生活の余裕が全く無い。寝坊した彼女は学校へ急ぐが、渋滞にぶつかった。レイチェルがフリーウェイに入った直後、夫から電話が入った。カイルは喜ぶが、それは予定のキャンセルを伝える連絡だった。レイチェルは苛立ちを覚えて、夫に嫌味を浴びせた。フリーウェイでも渋滞が発生し、レイチェルの苛立ちは強くなった。
レイチェルは顧客のデボラから電話を受け、予定より少し遅れることを伝えた。彼女は渋滞が起きていることを伝えて弁明するが、デボラは腹を立てて「もう頼まない」と電話を切った。一番の顧客を失い、レイチェルは落胆した。彼女はカイルの助言を受け、路肩部分を走行して出口から下道に移った。するとクーパーが運転するグレーのトラックが前に停まり、信号が青に変わっても動き出そうとしなかった。レイチェルはクラクションを乱暴に鳴らし、横を走ってトラックを追い抜いた。
次の信号が赤になってレイチェルが停止を余儀なくされると、隣にクーパーのトラックがやって来た。クーパーは窓を開けるよう要求し、カイルはレイチェルの制止を聞かずに応じてしまった。クーパーが礼儀を欠いたクラクションの鳴らし方を注意すると、レイチェルは「青なのに動かなかった」と怒りをぶつけた。クーパーは「考え事をしていた。不幸なことが続いて」と釈明し、素直に謝罪した。彼が「君も謝罪すれば、おあいこだ」と言うと、レイチェルは「謝るようなことはしていない」と謝罪を拒否した。
クーパーは「本当の不幸を知らない。じきに思い知る」と予告し、信号が青になったのでレイチェルは車を発進させる。するとクーパーは前に割り込み、レイチェルの行く手を塞いだ。レイチェルは別の道に入り、カイルを学校まで送り届けた。彼女はアンディーと電話で話し、ダイナーで一緒に朝食を取る約束をした。レイチェルはガソリンスタンドに立ち寄り、売店で買い物をする。防犯カメラに視線を向けた彼女は、クーパーのトラックが来ていることに気付いた。
レイチェルは店員の女性と客のレオに、事情を説明した。するとレオは、「付いて行って車のナンバーを覚える。何かあれば通報する」と助け舟を出した。彼は店の外に出てトラックのナンバーを暗記し、レイチェルの車を出発させる。レオはクーパーにナンバーを覚えたことを伝え、レイチェルを追い回さないよう警告した。するとクーパーは激怒し、レオをトラックではねて殺害した。レイチェルはクーパーに追い掛けられ、必死で逃げ出した。
レイチェルは携帯電話を探すが、どこにも見当たらない。彼女が渋滞に捕まると、クーパーは後ろから何度もトラックを衝突させた。渋滞を抜けるとクーパーはトラックを横付けし、レイチェルの車から盗んだ携帯電話を見せた。レイチェルは一方通行の道路に侵入してしまうが、クーパーのトラックが見えなくなったので安堵する。クーパーはダイナーへ赴いてアンディーに声を掛け、レイチェルに電話を掛けた。彼はレイチェルの車に、自分の携帯電話を残しておいたのだ。
クーパーはアンディーを殺害し、それをレイチェルに伝えてダイナーを去った。彼は携帯電話でレイチェルの個人情報を入手し、母親やカイルのことを知った。クーパーはレイチェルに、次の標的を指名するよう要求した。レイチェルはデボラの名を挙げ、息子や母には手を出さないよう頼む。彼女は警察に電話を掛け、デボラの警護を要請した。警官2名はデボラの元へ行くが、クーパーはレイチェルの自宅に向かっていた。
クーパーはメアリーを捕まえて暴行し、不審な物音を聞いたフレディーは警戒してナイフを手に取った。クーパーはメアリーを押し付け、フレディーに彼女を殺させた。クーパーはフレッドを捕まえ、レイチェルに電話で伝えた。彼はレイチェルがカイルの学校に向かったことを知っており、3分以内に連れ帰らなければ弟を殺すと脅しを掛けた。クーパーはフレディーを拘束し、ライターオイルを床に撒いて火を放つ準備をしていた。レイチェルは教師のエアーズに事情を説明し、急いでカイルを学校から連れ出した。警官がフリン家に乗り込んで拳銃を構えると、クーパーはフレディーに火を放って逃走した…。

監督はデリック・ボルテ、脚本はカール・エルスワース、製作はリサ・エルジー&マーク・ギル&アンドリュー・ガン、製作総指揮はガイ・ボッサム&クリスタル・ブルボー&メアリー・C・ラッセル&クリストファー・ミルバーン&ギャレス・ウェスト&ピーター・タッチ&アンダース・エアデン、共同製作はジェームズ・ポートルース&ベス・ブルックナー・オブライエン、撮影はブレンダン・ガルヴィン、美術はフレディー・ワフ、編集はマイク・マカスカー&スティーヴン・ミルコヴィッチ&ティム・ミルコヴィッチ、衣装はデニース・ウィンゲイト、音楽はデヴィッド・バックリー、音楽監修はセリーナ・アリザノヴィッチ。
出演はラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・ベイトマン、ジミ・シンプソン、オースティン・P・マッケンジー、ジュリエンヌ・ジョイナー、スティーヴン・ルイス・グラッシュ、アン・レイトン、デヴィン・タイラー、シルヴィア・グレース・クリム、ヴィヴィアン・フレミング=アルヴァレス、サマンサ・ボーリュー、ルーシー・ファウスト、シェリル・W・ブラウン、マイケル・パパジョン、スコット・ウォーカー、クリス・フォーチュネイト、リッチー・バーデン、デヴェン・マクネアー他。


『幸せがおカネで買えるワケ』のデリック・ボルテが監督を務めた作品。
脚本は『ディスタービア』『レッド・ドーン』のカール・エルスワース。
クーパーをラッセル・クロウ、レイチェルをカレン・ピストリアス、カイルをガブリエル・ベイトマン、アンディーをジミ・シンプソン、フレッドをオースティン・P・マッケンジー、メアリーをジュリエンヌ・ジョイナー、レオをスティーヴン・ルイス・グラッシュ、デボラをアン・レイトン、エアーズをデヴィン・タイラーが演じている。

「中年男性が不満を溜め込み、怒りを爆発させて暴走する」というのが、この映画のプロットである。
そこからは、マイケル・ダグラスが主演した1993年の『フォーリング・ダウン』やチャーリー・シーンが主演した1997年の『プレッシャー 壊れた男』などを連想させる。
序盤には些細なことでキレる人々の増加や煽り運転の続発を伝えるニュースが、短いカットで積み重ねられている。
だが、「都会での生き辛さ」とか「アメリカの病巣」のような社会問題に切り込む方向性は全く無い。

シンプルに「ヤバい男にヒロインが付け狙われるサイコ・スリラー」として作られているのだが、それが悪いわけではない。
それはそれで、スティーヴン・スピルバーグ監督の『激突!』のように高い評価を受けた作品もあるしね。
ただ、単純な善悪の二元論で描かれた映画として味わうためには、ヒロインに落ち度があるのは大きな問題だ。
ここは「何の罪も無い善良な市民」でないと、そこの図式がちゃんと成立しないのだ。

レイチェルは様々なことが重なって苛立ちを募らせるが、気持ちは分かる。
しかしカイルが指摘するように、本人が寝坊したことも大きな原因だ。2度の渋滞にハマッったのも、顧客のデボラを失ったのも、寝坊が無ければ起きなかった問題だ。
また、クーパーは最初から攻撃を仕掛けるわけではなく、怒りをぶつけられると素直に謝罪している。彼はレイチェルにも謝罪を要求し、穏便に済まそうとしている。
そのチャンスを、レイチェルが逃しているのだ。

レイチェルのクラクションの鳴らし方は、確かに荒っぽい部分があった。クーパーが青信号で動かなかったことに関しては素直に謝罪しているんだし、そこはレイチェルも形だけでも謝罪しておけば問題は解決したのだ。
何しろクーパーは、明らかに根に持ちそうなヤバそうな奴なんだし、そこは穏便に済ませる方法を選んだ方が利口だろう。
ところがレイチェルは、お構い無しで怒りをぶつけている。その対応は、あまりにもアホすぎるでしょ。
まあカイルがレイチェルの制止を聞かずに窓を開けた時点で、これもバカなんだけどさ。

しかも、それ以降のレイチェルの行動も、お粗末すぎるのだ。
序盤で「携帯電話にロックを掛けていない」という設定が明らかになった時点で不用意だとは思っていたけど、レイチェルの行動がボンクラすぎて萎えるのだ。まるでピンチを招きたくて、わざとボンクラな行動を繰り返しているかのようだ。
いやシナリオとしては、もちろん「ピンチの連続」という展開を作ろうとしていることは確かなのよ。
ただ、そのせいでヒロインへの同情心を削ぐような結果になったら本末転倒だろ。

レイチェルは一方通行の道路に入ってクーパーがいなくなった途端、安堵して一休みする。
でも、とりあえず近くの住人に助けを求めるなり、近くの警察署を探すなりした方が良くないか。
しばらくして彼女はデボラの警護を頼むために警察へ電話するけど、それだけで安心しているのもボンクラでしかない。なぜ自宅やカイルが標的になる可能性を全く考えないのか。
怒りに任せて携帯電話ほ叩き壊すし、自分とカイルだけでクーパーを撃退しようとするし、呆れてしまう。

なぜかレイチェルの家に駆け付ける警官は1人だけで、クーパーにはあっさりと逃げられる。
クーパーは道路での事件を連発しているのに、パトカーもヘリコプターも全く追って来ない。
レストランでの殺人犯として手配されているのに、完全に野放しの状態になっている。
この手の映画では良くあることだが、ホントに警察は無能で役立たずだ。そのバカバカしさが強すぎて、「ヒロインが追い詰められる」という緊迫感を見事に削いでいる。

(観賞日:2022年8月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会