『アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』:2016、アメリカ

セリーンは娘のイヴを隠れさせ、安全のために居場所さえ知らない状態でライカンとの戦いを続けていた。そんな中、彼女はデヴィッドから、ライカン族にマリウスという新しいリーダーが誕生したことを聞かされる。デヴィッドはセリーンに、「ライカンがイヴを見つけて血を使ったら、マリウスのパワーは無限になる」と語る。セリーンは襲って来たライカンを殺さず、「娘の居場所は知らない」とマリウスに伝えるよう指示して解放した。デヴィッドが傷付いたため、セリーンは手当てすることにした。
トーマスは数十年ぶりにコルヴィヌスの屋敷へ戻り、新たに議員となったセミラと再会する。セミラは彼に、「多くの仲間が犠牲になった。このままだと5年以内に我々は絶滅する」と懸念を吐露する。セミラはライカンが大規模な攻撃を仕掛けてくると考えており、セリーンを呼び戻してデス・ディーラーを養成してもらう案をトーマスに明かす。しかしリーダーのカシウスは賛同しておらず、あくまでもセミラ個人の考えだった。
セリーンが解放したライカンはマリウスの側近であるグレゴールの元へ戻り、彼女のメッセージを伝えた。セリーンはデヴィッドの体を調べ、ライカンが追跡装置を埋め込んだと知った。彼女は腹部を開き、追跡装置を取り出した。長老たちの会合で、トーマスはセリーンを呼び戻す計画を話す。カシウスは激しく反対するがセミラが説得し、自分が責任を持つ約束で了承を得た。セリーンとデヴィッドの元にアレクシアという女が現れ、長老たちが呼んでいることを伝えた。
セリーンは訓練係の要請だと知っても拒否しようとするが、トーマスからの手紙を受け取ったデヴィッドは「イヴのためだ」と説き伏せた。セミラは屋敷でセリーンを出迎え、恋人のヴァルガを訓練の助手に付けた。デヴィッドはトーマスに、セリーンを守るよう頼んだ。ヴァルガはセリーンに、自分をライカンに見立てて若い連中に戦い方を教えるよう頼む。ヴァルガはセリーンを騙してナイトシェードで麻痺させ、そこに現れたセミラが「ヴィクター殺しを本当に私が許すとでも思ったのか」と冷たく告げた。
セミラはヴァルガに命令し、その場にいた戦士たちを全滅させる。彼女は警報装置を鳴らすようヴァルガに指示し、戦士の惨殺をセリーンの仕業に見せ掛けた。デヴィッドとトーマスはセミラの策略を見抜き、血を抜く装置に拘束されているセリーンを見つけた。カシウスはセミラに、セリーンを生け捕りにするよう命じた。トーマスはセミラと戦い、デヴィッドにセリーンを連れて逃げるよう告げる。トーマスはセミラに殺され、デヴィッドはセリーンを抱えて窓から脱出した。
日光の中でも平気で走り去るデヴィッドを見て、セミラは驚いた。彼女はセリーンを捕まえるため、アレクシアたちを派遣した。セリーンが北のヴァルドーへ向かったことを突き止めたアレクシアは、一人で行くようセミラから指示された。アレクシアはマリウスの恋人であり、密かにライカン族と通じていた。セリーンとデヴィッドは極寒のヴォルドーに辿り着き、切り立つ崖を登っての屋敷に入った。2人はヴァンパイア族のレナと会い、彼女の父であるヴィダーを紹介された。
デヴィッドはヴィダーから、アメリアが母親だと知らされた。トーマスは何も話さなかったが、デヴィッドは一族の正当な後継者だった。マリウスがライカン族を率いて屋敷へ乗り込んで来たため、セリーンたちは戦う。アレクシアはセリーンの血を舐め、本当にイヴの居場所を知らないことを読み取った。マリウスはアレクシアの報告を受け、用の無くなったセリーンを抹殺して屋敷を後にした。レナはセリーンを蘇生させる儀式を執り行い、デヴィッドはリーダーとしてヴァンパイア族を守るためコルヴィヌスの屋敷へ向かう…。

監督はアンナ・フォースター、キャラクター創作はケヴィン・グレイヴォー&レン・ワイズマン&ダニー・マクブライド、原案はカイル・ウォード&コリー・グッドマン、脚本はコリー・グッドマン、製作はトム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&レン・ワイズマン&リチャード・ライト&デヴィッド・カーン、製作総指揮はジェームズ・マクウェイド&エリック・リード&スキップ・ウィリアムソン&ヘンリー・ウィンタースターン&ベン・ウェイスブレン、共同製作はマシュー・スティルマン&デヴィッド・ミンコウスキー&ジャッキー・シェヌー、撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ、美術はオンドレイ・ネクヴァシール、編集はピーター・アムンドソン、衣装はボヤナ・ニキトヴィッチ、音楽はマイケル・ワンドマッチャー。
出演はケイト・ベッキンセイル、テオ・ジェームズ、チャールズ・ダンス、ララ・パルヴァー、トビアス・メンジーズ、ブラッドリー・ジェームズ、ペーター・アンデション、ジェームズ・フォークナー、クレメンタイン・ニコルソン、デイジー・ヘッド、オリヴァー・スターク、ズザナ・スティヴィノヴァ、ブライアン・カスペ、ヤン・ネメヨフスキー、ドリガ・スヴェータ、ダン・ブラッドフォード、デヴィッド・ボウルズ、トマス・フィッシャー、ロティスラフ・ノヴァク他。


レン・ワイズマンが構想したシリーズの第5作。
監督はTVドラマ『クリミナル・マインド FBI行動分析課』や『アウトランダー』のアンナ・フォースターで、映画は初めて。
脚本は『プリースト』『ラスト・ウィッチ・ハンター』のコリー・グッドマン。
セリーン役のケイト・ベッキンセイルは3作目以外に出演。デヴィッド役のテオ・ジェームズとトーマス役のチャールズ・ダンスは、前作からの続投。
セミラをララ・パルヴァー、マリウスをトビアス・メンジーズ、ヴァルガをブラッドリー・ジェームズ、ヴィダーをペーター・アンデション、カシウスをジェームズ・フォークナー、レナをクレメンタイン・ニコルソン、アレクシアをデイジー・ヘッド、グレゴールをオリヴァー・スタークが演じている。

内容の批評に入る前に、ゴシップ雑誌的なネタを。
1作目の当時、ケイト・ベッキンセイルはルシアンを演じたマイケル・シーンの妻だった。しかしレン・ワイズマン監督と撮影を通じて親密になり、離婚して彼の奥さんになった。
そこからは夫婦で作るシリーズになり、『バイオハザード』シリーズと似たような状況になった。
ただし、ミラ・ジョヴォヴィッチはポール・W・S・アンダーソン監督と撮影を通じて親しくなるより前に離婚していた。それとケイト・ベッキンセイルの方は、2016年にワイズマンと離婚している。

さて、映画の中身に入ろう。
このシリーズはセリーンが登場しない番外編的な3作目を経て、4作目から仕切り直しという形になっている。
そもそもレン・ワイズマンが構想していた物語は2作目で完結しているので、3作目ではセリーンが登場しない物語を作った。しかし、その評価が芳しくなかったため、4作目ではケイト・ベッキンセイルが主演として復帰したわけだ。
しかしレン・ワイズマンは、もう最初の頃のような気持ちは無くなったのか、脚本と製作だけを務めて監督としては復帰しなかった。

「セリーンは娘のイヴと離れて行動しており、その居場所さえ安全のために知らない」という設定にしてあり、前作で登場したイヴが今回は出て来ない。
イヴの存在には触れており、一応は彼女が物語の鍵になるという形を取っている。
重要な存在にも関わらず登場させずに済ませるのは、「セリーンさえいれば成立するシリーズ」ってことの表れでもある。
でも、セリーンの娘というポジションにあるキャラなのに、それを上手く活用できていないってのが正直な感想だけどね。

序盤、セリーンはライカンを解放し、マリウスにメッセージを伝えるよう指示する。そのライカンは、デヴィッドを襲った時に追跡装置を埋め込んでいる。
しかしセリーンはラボで追跡装置に気付き、すぐに取り出す。一応はライカンがラボへ来ているが、もうセリーンたちは逃げ出した後だ。
そこでの戦闘シーンさえ用意されていないため、「ライカンが追跡装置をデヴィッドに埋め込んだ」という展開は全くの無意味になっている。
その程度の簡単な計算さえ出来ていないのが、この映画の脚本である。
「発見したライカンと戦う羽目に」というシーンぐらい用意しておけば、ちゃんと意味のある要素になったはずなのに。

4作目では人類を敵として配置し、それまでは「ヴァンパイア族vsライカン族」だった構図を三つ巴の戦いに広げるのかと思われた。
しかし実際のところは、相変わらずの「ヴァンパイア族vsライカン族」になっていた。そのくせ、「人間の軍隊によってヴァンパイア族とライカン族が一気に片付けらた世界」という設定を用意し、「人間が本気になったらヴァンパイア族もライカン族も歯が立たない」という、誰も歓迎しないようなパワーパランスにしていた。
この5作目では人間を登場させず、最初から三つ巴の戦いは完全に放棄している。
どうせ前作でも成立させることが出来ていなかった構図なので、割り切って「ヴァンパイア族vsライカン族」の図式に戻すのは分からなくもない。
ただ、今さら人間の介入を捨てたところで、前作でやらかした致命的なミスを取り戻すことは出来ないんだよね。幾らァンパイア族とライカン族の戦いだけを描いても、「人間よりも遥かに弱い種族同士の争い」という印象を払拭することは出来ないんだよね。

4作目には、「ヴァンパイア族とライカン族のいずれにも長老クラスのキャラクターがいない」という問題もあった。
何しろ2作目までの内容しか考えていなかったせいで、そこで長老キャラクターが全滅しているのだ。
巨大な組織や強大な敵が消えてしまったせいで、4作目では「所詮は小さなグループと小さなグループの戦い」という状況に陥っていた。
この問題は、5作目に入っても全く解消されていない。

今回は新たな長老やリーダーたちを登場させているのだが、「形ばかりの長老」という小粒感が否めないのよね。
何しろ、最初の2作で「大物」として登場した長老たちが全滅し、最初の不死者であるコルヴィナスさえ簡単に殺されている。これにより、双方の組織は壊滅的なダメージを負っている。
しかも前作において、「人間の一掃作戦でヴァンパイア族とライカン族の両方が絶滅寸前に陥っている」という設定を持ち込んだため、すっかり組織が弱体化していることも判明している。
そんな中で新たなリーダーたちが登場したところで、所詮は弱小グループのボスに過ぎないわけで。

そんな風にヴァンパイア族とライカン族が1作目の頃より遥かに弱体化している一方で、セリーンは圧倒的な強さを誇る存在と化している。週刊少年ジャンプのような、パワーのインフレ化現象が起きている。
だったら敵もヒロインに合わせてパワーアップさせなきゃバランスが取れないのに、そういう作業を怠っているのだ。
とは言え、今さらヴァンパイア族とライカン族を普通に登場させても、絶対にセリーンには勝てないと分かり切っている。
なので、インフレ化の中でシリーズを続けるのなら、「ヴァンパイア族を超えるヴァンパイア族」とか、あるいは「新たなデミヒューマンの種族」を登場させるとか、それなりの工夫が必要だったんじゃないかな。

途中で「セリーンがヴァルガの騙し討ちで麻痺させられる」というシーンがあるけど、それが上手くパワーパランスを調整してヒロインの強さを抑制しているとは全く感じないからね。
そこだけセリーンが弱体化しているのは、ただの下手な御都合主義にしか見えないからね。
実際、後半に入ると、セリーンは圧倒的な強さを見せ付けるわけで。
それは訓練を積んでパワーアップしたわけでもないし、何か特殊な薬か何かを飲んで変化したわけでもないからね。最初から、無敵と言ってもいい強さを持っているヒロインだからね。

とにかくセリーンはハンパなく強いヴァンパイアなんだから、いっそのことヴァンパイア族とライカン族が結託して潰そうとするぐらい大胆な筋書きでもいいぐらいなのだ。
ところが本作品の考え方は真逆で、ヴァンパイア族の中にセミラという裏切り者がいるわ、スパイがいるわと、まるで結束力が無い。
で、セミラはアレクシアがスパイだと見抜いたいたので用済みになると始末し、そんな彼女もライカン族の襲撃の中でデヴィッドに始末される。つまり単なる内輪揉めとして、セリーンが全く関与しないトコで2人とも勝手に片付けられるのだ。
そういう展開が訪れた時、「セミラやアレクシアの裏切り設定って要らなくねえか?」と思っちゃうのよね。そんなのはザックリと排除して、ライカン族との戦いに集中した方が良かったんじゃないかと。

そういう内輪のゴタゴタを描いているせいで、今回のラスボスであるマリウスの存在感が弱くなっちゃってんのよね。アレクシアは彼と通じているけど、「密かに会う」というシーンがある程度だし、そこの関係を使うことでマリウスの存在感が増しているわけではないのよ。
そんなマリウスは強さを感じさせるようなシーンが一切出て来ないまま、セリーンとのバトルに突入してしまう。
そこではセリーンが殺されるけど、それでも「マリウスが強い」とか、「セリーンも無敵じゃない」とは全く感じない。「その場限りのパワーバランス」としか感じない。
ラストでヴァンパイア族とライカン族の抗争は終結を迎えているが、これも続編が作られたら「その場限り」に終わるだろう。
まだセリーンがイヴを見つけ出さなきゃいけないし、第6作が製作される可能性もあるだろう。そこでは、またヴァンパイア族とライカン族の戦いが描かれることだろう。

(観賞日:2018年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会