『アンダーワールド:ビギンズ』:2009、アメリカ&ニュージーランド

2つの因縁の種族が誕生してから20年後、戦いが始まった。ヴィクターの率いるヴァンパイア族の宿敵は、狼男族の原初の種だ。彼らは狂暴で伝染力が強く、変身すると二度と人間に戻れなかった。だが、ルシアンだけは違った。本能的に抹殺しようとしたヴィクターだが、その手を止めた。時を経て成長したルシアンは、それまでの狼男には無い強さと知性を持っていた。ヴィクターはルシアンが血の渇きに苦しむと、人間を与えて噛ませた。ルシアンの血を感染させて新たな不死の種族、ライカンを作ったのだ。
ヴィクターがライカンを作ったのは、狼男と違って手懐けやすいため、光のある日中に主人を守る門番として使えると考えたからだ。そのヴィクターは、「ウィリアムの血を引く狂暴な狼男に奴隷が殺されていると、貴族たちが怯えている」と議員のコロマンから聞かされる。「奴隷が減ると貢物が減ります」とコロマンが言うと、ヴィクターは苛立って「マーカスとアメリアが眠りに就いてから兵力を十倍に増強した。恐れるに足らん」と告げた。
ヴィクターの娘であるソーニャは馬で城へ戻る途中、狼男の群れに追われる。ルシアンは衛兵に混じって矢を放ち、狼男を仕留めて彼女を助けた。しかしソーニャは礼も言わず、生意気な態度をルシアンに示した。ルシアンは首輪を付けられ、城で鍛冶屋の仕事をしている。ソーニャはヴィクターから議会を無断欠席したことを批判されるが、「他にやることがあるの」と悪びれない。「城壁の外には出るなと言ったはずだ・狼男は処刑人に任せろ」と説教されても、ソーニャは激しく反発する。ヴィクターは「議会で評価されているが、欠席が続けば信用を失いかねない。何よりも大事なのは一族と私への忠誠だ」と彼女を諭した。
ライカンたちは奴隷として、厳しい労役を強いられていた。ヴィクターの部下であるコスタは、ライカンのサバスを鞭で激しく叩いた。ルシアンが止めに入ると、「よくも手を出したな。主の犬がそんなに偉いか。犬はいずれ捨てられる。その時は私が葬ってやる」と彼は声を荒らげた。一方、ウィリアムの種族の狼男が城壁まで迫る出来事が何度も発生しているため、コロマンはヴィクターに対策を取るよう進言する。しかしヴィクターは、「我々は不死の軍団に守られている」と相手にしなかった。
コロマンは「しかし貴族は無防備です」と反論し、議員のオルソワは「人間を守れないと我々は見下される」と補足した。コロマンは夜のパトロールをデス・ウィーラーに、昼のパトロールをライカンに任せてはどうかと提案した。ヴィクターは「いくら手懐けやすくても残忍な獣の血を引く連中だぞ」と反対するが、コロマンは「ライカンを恐れるより、特権階級を作ってはどうでしょうか。信頼できる者を厚遇するのです。例えばルシアンに」と提言した。
ルシアンは兵士の目を盗んで地下道へ入り、ソーニャと密会する。2人は愛し合う関係だが、もちろん周囲には内緒だ。ルシアンは城を出るために、首輪の鍵を作っていた。一緒に外へ出るよう誘うルシアンに、ソーニャは「鍵を使わないと約束して」と懇願する。奴隷扱いが耐えられないルシアンだが、ソーニャとは離れたくなかった。地下道から戻って来た2人の様子を、ヴィクターの側近であるタニスが目撃していた。しかし彼はは、そのことをヴィクターには報告せず、ルシアンに「気を付けろ。秘密がバレるぞ」と囁いた。
貴族が奴隷を連れて城へ近付く中、ソーニャは数名の兵士を引き連れて護衛に赴いた。狼男の大群が来ることを匂いで察知したルシアンは、馬に乗って城を飛び出した。ソーニャたちが敵と戦っているところへ、ルシアンが駆け付けた。ルシアンはソーニャを助けるため、首輪を外して狼男に変身した。彼の咆哮によって、敵の一団は退却した。ヴィクターがやって来たので、ソーニャは「我々は私を助けるためにやった」とルシアンを擁護する。しかしヴィクターは掟破りを許さず、「特別待遇は終わりだ」と通告した。
ルシアンはコスタに鞭で打たれ、牢屋に入れられた。貴族が連れて来た奴隷も牢屋に入れられており、その中の一人、レイズという男が傷付いたルシアンに近付いた。人間であるレイズは狼男を怖がっていたが、ルシアンは「俺は噛まない。奴らとは種類も違う」と告げる。ソーニャはヴィクターの目を盗み、牢屋へ現れた。ルシアンは「俺は城を脱出する。タニスは俺たちのことを知っているのにヴィクターに言っていない。何か企んでる。奴を探れ」と彼女に告げた。
ソーニャが珍しく議会に出席する中、貴族たちが貢物を持って城へやって来た。ハンガリー貴族のヤノシュは銀山の所有者だが、労働者が次々と狼男に襲われて命を落としていた。それでもヴィクターが大量の貢物を要求したため、ヤノシュは激しく抗議した。ヴィクターは激怒し、彼を始末した。その頃、ルシアンは牢屋にいる大勢の奴隷たちに対し、「俺たちにも選ぶ権利はあるべきだ。奴隷のままでいるか、ライカンとして立ち上がるかだ」と訴えた。
ヴィクターはソーニャに「お前にも判断を仰ぎたい」と告げ、反乱を煽りかねないルシアンを始末して後任を据える考えがあることを話す。ソーニャは動揺を隠し、後任候補の名を挙げた。彼女はタニスに詰め寄り、父に密告しなかった理由を尋ねた。するとタニスは、「密告しても怒りを買うだけだ。それに、まだ秘密を利用できる立場に無い」と答えた。ソーニャは議席を譲ることを持ち掛け、タニスに協力を要請した。ソーニャはタニスの手引きでルシアンと会い、彼を脱出させて3日後に会う計画を説明した。
タニスはルシアンの元へ行き、首輪の鍵を渡した。ヴィクターは奴隷たちを牢屋から連れ出し、狼男に噛ませてライカンへと変貌させた。牢屋へ戻って来たレイズに、ルシアンは「一緒に脱出しよう」と持ち掛けた。彼は様子を見に来たコスタを噛み殺し、レイズたちを牢屋から出した。ルシアンは衛兵を始末して鍵を奪い、仲間のサバスとクリストに牢屋を開けるよう指示した。兵隊が駆け付けたため、大半の奴隷は脱獄を阻止された。しかしルシアン、サバス、クリスト、レイズを含む数名が城から脱出した。
ヴィクターはタニスが裏切ったと確信し、処刑しようとする。しかしタニスは「鍵は武器庫に保管しました」と言い、ヴィクターを武器庫へ導いて鍵を見せた。ルシアンは城に残された仲間たちを救い出すため、人員を集めることにした。彼はレイズが仕えていた貴族の領地へ向かい、奴隷たちの首輪を外した。彼の熱い演説を受け、奴隷たちは仲間になることを決めた。他にも領地があることを知ったルシアンは、レイズと別れて向かうことにした。
ルシアンは狼男の群れが暮らす場所を訪れ、協力を要請した。ヴィクターはソーニャの裏切りを悟り、彼女を幽閉した。ルシアンは指定された合流地点でソーニャを待つが、もちろん彼女は現れない。侍女のルカが合流地点へ行き、ソーニャの幽閉をルシアンに知らせた。それはソーニャをエサにしてルシアンをおびき寄せようとするヴィクターの狙い通りだった。ルシアンはレイズたちに反対されるが、罠だと知りつつも城へ向かう。彼は城に潜入してソーニャと再会するが、すぐに2人とも捕まってしまった…。

監督はパトリック・タトポロス、キャラクター創作はケヴィン・グレイヴォー&レン・ワイズマン&ダニー・マクブライド、原案はレン・ワイズマン&ロバート・オー&ダニー・マクブライド、脚本はダニー・マクブライド&ダーク・ブラックマン&ハワード・マッケイン、製作はトム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&レン・ワイズマン&リチャード・ライト、共同製作はデヴィッド・カーン&ケヴィン・グレイヴォー、製作総指揮はスキップ・ウィリアムソン&ヘンリー・ウィンタースターン&ジェームズ・マクウェイド&エリック・リード&ベス・デパティー、撮影はロス・エメリー、編集はピーター・アムンドソン&エリック・ポッター、美術はダン・ヘナー、衣装はジェーン・ホランド、ソーニャ衣装デザインはウェンディー・パートリッジ、クリーチャー・デザイン&監修はパトリック・タトポロス、音楽はポール・ハスリンジャー。
出演はマイケル・シーン、ビル・ナイ、ローナ・ミトラ、スティーヴン・マッキントッシュ、ケヴィン・グレイヴォー、デヴィッド・アシュトン、エリザベス・ホーソーン、ラリー・リュー、クレイグ・パーカー、ジャレッド・ターナー、ティム・ラビー、タニア・ノーラン、ブライアン・スティール、ジェラルディン・ブロフィー、リートン・カードノー、アレクサンダー・キャロル、ジェイソン・フッド、マーク・ミッチンソン、ピーター・タイト、オリヴィア・タイルフォース、エレノア・ウィリアムズ、エドウィン・ライト、ケイト・ベッキンセイル、シェーン・ブローリー他。


“アンダーワールド”シリーズの第3作で、前2作の前日譚に当たる。
前2作の監督を務めたレン・ワイズマンは、今回は原案と製作のみに携わっている。
代わりにメガホンを執ったのは、プロダクション・デザインやクリーチャー・デザインの分野でシリーズに関わって来たパトリック・タトポロス。これが長編初監督となる。
ルシアンをマイケル・シーン、ヴィクターをビル・ナイ、ソーニャをローナ・ミトラ、タニスをスティーヴン・マッキントッシュ、レイズをケヴィン・グレイヴォー、コロマンをデヴィッド・アシュトン、オルソワをエリザベス・ホーソーン、コスタをラリー・リュー、サバスをクレイグ・パーカー、クリストをジャレッド・ターナー、ヤノシュをティム・ラビー、ルカをタニア・ノーランが演じている。

前2作のプリクエルであるからには、「セリーンがデス・ディーラー(ライカンの処刑人)になるまでの物語」を描くのかと思いきや、そうではない。原題に「Rise of the Lycans」とある通り、ライカンの誕生を描いている。
つまり、前2作ではヒロインであるセリーンが属しているヴァンパイア側からの物語だったわけだが、今回はライカン側から捉えているわけだ。そして、ライカンとヴァンパイアが抗争を繰り広げるきっかけとなった出来事が描かれる。
で、その時点で「シリーズのファンが求めているのって、そういうことなのかな」という疑問が沸く。
多くのファンがプリクエルとして見たいのは、やはりセリーンの過去じゃないかと思うんだけど。

まず本作品で大きくマイナス査定しなければいけない点は、「ケイト・ベッキンセイルが出演していない」ということだ。
これは良くも悪くも「ケイト・ベッキンセイルありき」のシリーズであり、彼女が出演しなければ意味が無い。
それはミラ・ジョヴォヴィッチが出演しない『バイオハザード』シリーズのようなものだ。
スピン・オフならともかく、一応はシリーズ3作目として作られている以上、ケイト・ベッキンセイルの出演は必須条件だ。

このシリーズは1作目から「こいつらがヴァンパイアやライカンである意味が無い」という問題を抱えている。
ヴァンパイアはニンニクや十字架に弱いわけじゃないし、基本的に夜しか戦わないので「太陽に弱いという弱点」もあまり使われない。
人間に噛み付いて血を吸うこともしない。
ライカンの方も、ほとんど変身しないし、人間を捕食することも無い。
どっちも人間の姿で普通の武器を使って戦うので、武装したタフな人間同士の戦いにしか見えないのだ。

その欠点は、今回もあまり修正されていない。っていうか、たぶん欠点だと思っていないから全く改善されないんだろう。
ヴァンパイアの連中は兜や鎧を装着し、馬を走らせ、剣やクロスボウを使って戦う。
ルシアンたちが城から脱出した時には「もう太陽が出ているので追い掛けられない」という風に弱点が使われているが、ヴァンパイアらしさがあるのは、そこぐらいだろう。
今回も基本的には夜か城内でしか戦わないので、その弱点もあまり使われない。

ヴァンパイアは血を求めて人間に噛み付くことも無く、ヴィクターがソーニャの裏切りを調べるために噛み付くだけ。
ヴァンパイアが噛み付くのって、そういうことじゃないはずでしょ。
もちろん、相変わらずニンニクや十字架を恐れることも無い。それどころか、普通に銀の貢物を受け取っている(つまり、銀も弱点ではないのね)。
そりゃあレン・ワイズマンとしては、「新しいヴァンパイア像を作り出そう」という意識があったんだろうとは思うよ。
ただ、それが魅力的な造形かと問われたら、そうじゃないからね。
しかも見せ方に問題が多いせいで、「新しいイメージのヴァンパイア」というよりも「ほぼ人間」になっちゃってるし。

狼男に関しては、序盤でソーニャが襲われるシーンがある。ただ、こいつらは最初から狼の姿だし、四足で走って来るので、「大きな狼」という印象でしかない。
ルシアンが狼男に変身するシーンはあるけど、城から脱出する際には、また人間の姿に戻って兵隊と戦っている。狼男に変身しなくてもヴァンパイアと互角以上に戦えるのなら、もはや狼男に変身する必要性が無い。だから、あまり狼男に変身するシーンは多くない。そして狼男に変身していない時は、「力が強くて剣術に優れた人間」でしかない。
どちらの種族も、ほぼ人間の姿で生活しているし、その時にヴァンパイアや狼男としての特性はほとんど発揮されない。
終盤に用意されているヴィクターとルシアンの戦いも、どちらも人間の姿のまま、剣で普通に戦うだけだ。

この映画では、ヴィクターがライカンを作り出した経緯や理由が序盤で説明されている。彼は「昼間に城を警護させる」という目的で、ライカンを作って数をどんどん増やしたのだ。
だけど、それって危険な行為だよなあ。
本人も「残忍な獣の血を引いている」と言っており、だから城壁の外をパトロールさせる仕事は却下しているぐらいだ。だけど、そんな奴らを奴隷として扱い、門番を任せるというのは、あまり利口には思えないんだけど。
というのも、もしもライカンたちが反乱を起こし、朝が来ると同時に城の壁や天井を破壊して日光が入り込むようにしたら、ヴァンパイアは無抵抗のまま全滅しちゃうでしょ。
ただ、この映画では、ライカンたちは夜の間に牢屋を抜け出し、朝になった時に飛び出すだけなのね。
だけど、その脱獄の際、ルシアンってヴァンパイアと互角以上に戦えているんだよなあ。その力があるのなら、事前に準備を整えて全員で協力すれば、壁や天井を破壊する太陽光作戦も実行できたんじゃないかと思ってしまうぞ。

この映画には、致命的とも言える欠点がある。
それは、「ヒーローが悪人を退治して幸せを掴む」という終幕を用意できないってことだ。しかも、それが最初から分かっているということだ。
この映画だけを単独で捉えれば、許されざる恋に落ちたルシアンは、幽閉されたソーニャを救い出し、仲間を率いて反乱を起こし、ライカンを虐げて来たヴィクターを倒すべきだ。しかし、物語を前2作に繋げるためには、ヴィクターを殺すことは出来ない。
つまり、「悪を退治する」という結末が無いことが、この映画は最初から分かり切っているのだ。
さらに言うと、ソーニャが生き残れないことも、前2作への繋がりを考えれば分かっちゃうんだよな。

それによって、物語を盛り上げるには障害が生じている。
ルシアンが脱出しても、奴隷たちを解放しても、「どうせ全面決着は無いんだよな」と思ってしまう。
ソーニャを救うために城へ戻っても、「どうせ救えないし」と思ってしまう。
ルシアンが反撃を開始しても、「どうせヴィクターは生き延びちゃうし」と思ってしまう。
そのせいで、どれだけ激しいアクションをやっても、何となく高揚感が絶頂に達しない。最後も、やはり消化不良の印象が強いし。

(観賞日:2014年5月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会