『アンダーワールド』:2003、アメリカ&ドイツ&ハンガリー&イギリス

ライカン族のリーダーであるルシオンが死亡し、生き残ったライカン族は街に散った。ヴァンパイア族は勝利を収めた形となったが、 それから6世紀が経過した現在でも戦いは続いていた。ヴァンパイア族の処刑人デス・ディーラーであるセリーンたちの行動によって、確実 にライカン族は減っていた。その夜も、彼女は仲間2人と共に地下鉄へとライカン族のレイズたちを追い詰めた。地下道を移動したセリーン は、大勢のライカンの声を耳にした。地下道では死んだはずのルシアンが、仲間達を率いていた。
セリーンはヴァンパイア族の館へ戻り、リーダーのクレイヴンや兵器開発担当者カーンに入手した弾丸を見せた。それはヴァンパイア族 だけに効果を持つ紫外線弾だ。セリーンは地下道での出来事を報告するが、クレイヴンは「大したことではない」と耳を貸さない。彼は 長老の1人マーカスの復活祭が近いことから、余計なことに煩わされたくないという。セリーンは、長老の1人ヴィクターが、なぜ戦士 ではないクレイヴンをリーダーに指名したのかと疑問を抱いていた。
セリーンは地下鉄の映像を分析し、ライカン族が人間の男を追っていたと気付いた。そのことをクレイヴンに告げるが、「奴らは食う以外 に人間を追わない」とにべもない。セリーンは男がマイケル・コーヴィンという医師だと突き止め、勝手に行動を開始した。マイケルの 部屋に侵入したセリーンは、「なぜ奴らに追われていた?」と詰め寄った。そこへライカン族が現れたため、セリーンは銃で応戦する。 マイケルの前にルシアンが現れ、彼に噛み付いた。セリーンはルシアンを撃ち、マイケルを連れて逃亡した。
重傷を負っていたセリーンは出血多量で失神し、マイケルは彼女を手当てした。ルシアンはアジトへ戻り、医師ジンギに「マイケルは 2日後の満月の夜になれば、俺たちに会いに来る」と告げる。ルシアンが持ち帰ったマイケルの血をジンギに調べさせると、陽性であること が分かった。セリーンはマイケルを館に連れ帰るが、クレイヴンの怒りを買った。ヴァンパイア族の女エリカは、マイケルがライカン族に 噛まれた跡を発見し、動揺した。マイケルは窓を乗り越え、館から逃亡した。
クレイヴンはルシアンを殺したとされていたが、それもセリーンは疑っていた。実は、クレイヴンは密かにルシアンと結託していた。彼は ルシアンと密会して派手な行動を非難するが、「黙って役目を果たせ」と言われてしまう。セリーンはエリカから話を聞き、マイケルが ルシアンに噛まれたことを知った。マイケルは友人の医師アダムの元へ行き、「人間に噛まれてから幻覚を見る」と相談する。だが、 アダムが警備員を呼んだため、マイケルは逃げ出した。
セリーンは導きが必要だと考え、掟に反してヴィクターを復活させた。マイケルが館へ来たため、セリーンはクレイヴンに逆らい、彼を車 に乗せて去った。蘇ったヴィクターは、なぜセリーンが自分を復活させたのか聞きたいので連れて来いとクレイヴンに命じた。クレイヴン の話を聞いたヴィクターは、翌日がマーカスの復活祭であり、自分は予定より1世紀早く起こされたと知った。
セリーンはマイケルを連れて、捕まえたライカンの尋問部屋があるビルへ赴いた。セリーンは、ライカンに家族を殺されたこと、気付くと 最強のヴァンパイアであるヴィクターの腕に抱かれていたこと、彼に噛まれて自らもヴァンパイアになったことをマイケルに語る。 セリーンは翌日の夜にはライカンに変身するマイケルを手錠で部屋に繋ぎ、「戻ってくる」と告げて去った。
館に戻ったセリーンはヴィクターに面会し、ルシアンが生きていると語る。だが、ヴィクターは「憶測だけだ」と信用せず、セリーンが 証拠を集めると主張すると「それはクレイヴンにやらせる」と告げた。そしてヴィクターは、「復活祭でアメリア卿と元老院が訪れたら 裁きを受けてもらう」と宣告し、クレイヴンたちに命じてセリーンを監禁させた。クレイヴンは、「自分の妻になる女をマイケルと一緒に させてたまるか。絶対に逃がすな」と部下に命じた。その言葉を、クレイヴンに惚れているエリカが聞いていた。
クレイヴンはアメリア卿と元老院の面々が乗る列車を出迎えに行くことになっていたが、それを部下のソーンに委ねた。列車が駅に到着 すると、ライカン族がアメリア卿の一行を襲撃した。だが、ソーンは何もせずに傍観し、その場を去った。一方、セリーンが邪魔なエリカ は、彼女に武器を与えて館から脱出させた。ビルへ赴くセリーンだが、ジンギたちが襲ってきた。セリーンが戦っている間に、マイケルは ライカン族のパトカーによって連れ去られてしまった。
ジンギを捕まえたセリーンは、ヴィクターの前に連行して証言させた。ジンギは、ライカン族がヴァンパイア族との交配を研究していた こと、それには不死身の血を持った伝説の男アレクサンドル・コルヴィナスの血が必要だと判明したことを語った。ヴァンパイア族も ライカン族も、同じ不死身の血から生み出された種族である。そして、コルヴィナスの末裔がマイケルだったのだ。
さらにジンギは、ルシアンがアメリアやヴィクターの純潔で強力な血を求めていることも語った。そこへカーンが現れ、元老院の面々が 全滅し、アメリアが血液を抜き取られていたことを報告した。ヴィクターがジンギの話を聞いてある間に、クレイヴンは館から逃亡して いた。同じ頃、ルシアンはマイケルを拘束し、彼の血をアメリアの血と融合させて強力な交配種を誕生させようとしていた…。

監督はレン・ワイズマン、原案はケヴィン・グレイヴォー&レン・ワイズマン&ダニー・マクブライド、脚本はダニー・マクブライド、 製作はゲイリー・ルチェッシ&トム・ローゼンバーグ&リチャード・ライト、製作総指揮はロバート・ベルナッキ&テリー・A・マッケイ &ジェームズ・マクウェイド&スキップ・ウィリアムソン&ヘンリー・ウィンタースターン、撮影はトニー・ピアース=ロバーツ、編集は マーティン・ハンター、美術はブルトン・ジョーンズ、衣装はウェンディー・パートリッジ、音楽はポール・ハスリンジャー& ビリー・ハウワーデル。
出演はケイト・ベッキンセイル、スコット・スピードマン、マイケル・シーン、シェーン・ブローリー、ビル・ナイ、アーウィン・レダー、 ソフィア・マイルズ、ロビー・ギー、ウェントワース・ミラー、ケヴィン・グレイヴォー、ジータ・ゴログ、デニス・コジェルフ、 スコット・マッケルロイ、サンドル・ボラ、ハンク・アモス、ジュジャ・バーシ、リッチ・セトロン、マイク・ムカティス他。


映画の美術部門での仕事を経てコマーシャルやミュージック・フィルムの世界で活躍していたレン・ワイズマンの映画監督デビュー作。
同名の映画が1985年(ジョージ・パヴロウ監督)と1996年(ロジャー・クリスチャン監督)に公開されているが、全くの無関係。
セリーンをケイト・ベッキンセイル、マイケルをスコット・スピードマン、ルシアンをマイケル・シーン、クレイヴンをシェーン・ ブローリー、ヴィクターをビル・ナイ、ジンゲをアーウィン・レダー、エリカをソフィア・マイルズ、カーンをロビー・ギー、アダムを ウェントワース・ミラー、レイズをケヴィン・グレイヴォー、アメリアをジータ・ゴログが演じている。
ちなみにケイト・ベッキンセイルは、撮影当時はマイケル・シーンの妻だったが後に離婚し、レン・ワイズマンと再婚した。

ホラー・アクションではなく、完全にアクション映画として作られている。
分かりやすく言うと、『ブレイド』の亜流である。
最初にレン・ワイズマンや出演者でもあるケヴィン・タヴィオーらが構想した際は、続編『アンダーワールド: エボリューション』の内容 も含めて1つの作品となっていた。しかし話が長くなりすぎたため、本作品で扱われている部分までで作品を仕上げた。
これがヒットして続編製作が決定したため、残っていた物語も無事に2作目で消化することが出来ることになった次第。

主人公サイドがモンスターで、戦う相手もモンスター。
人間はマイケルしか関わらない。
しかも厳密に言うと、マイケルは普通の人間ではない。
ヴァンパイア族とライカン族の戦いによって人間に影響が及ぶようなことは、全く見られない。
人間に何の関係も無いところで、モンスター同士が勝手に揉めているだけだ。
なので、「人間の関わりが薄いと話に入り込めない」という御仁は、初期設定の段階で完全にアウトということになる。

個人的には、人間の関わりが薄いモンスター同士の戦いであっても、それは特に気にならない。
いや、普通の映画だったら、もちろん人間が関わらないと受け付けないだろうとは思うよ。ただ、これはコミック色のかなり強い映画で あり、ファンタジーであり、この手の映画ではノープロブレム。
主人公に魅力があれば、そこの問題はクリアされる。
ただ、残念ながら、あまりヒロインに魅力を感じないけどね。
後述するが、話が進むにつれて、だんだん単なる身勝手な女に見えてきちゃうし。

ともかく、「勝手にモンスター同士が戦っているだけで人間社会との関わりが薄い」ということは、あまり重要な問題ではない。
それよりも問題は、「実はモンスター・バトルになっていない」ということにある。
設定としては、セリーンたちはヴァンパイアの一族だ。だが、昔ながらのヴァンパイアのようにニンニクや十字架に弱いわけではない。
太陽に弱いという弱点は残されているが、そもそも夜しか戦わないために、それを使った展開は無い。また、血を欲して渇きを訴えるとか 、人間に噛み付いて血を吸うといったことも無い。
それって、もはやヴァンパイアでも何でもないでしょ。

クラシカルなイメージに留まらず、新たなヴァンパイア像を作り出そうとする作業を否定はしない。
だが、アレンジというのは、まず基本がキッチリとあった上で成立するものだ。
この映画の場合、土台が無い上に建物を建てているようなものだ。
それどころか、戦う時は武器を使うし、特殊能力を披露するわけでもない。非人間ならではの身体能力を見せるのも、せいぜい冒頭で高い ビルから飛び降りる程度。
ヴァンパイアでないどころか、もはやモンスターですらないのだ。
ただの「武装したタフな人間」だ。

一方のライカンにしても、狼の姿に変身するシーンはそれほど多くない。
クレイヴンは「ライカン族は食う以外に人間を追わない」と言うが、そもそもライカン族が食べるために人間を追っている場面は一度も無い。
基本的にはヴァンパイア族と同様に人間の姿であり、こちらも普通に銃を使って戦っている。
冒頭の地下鉄のシーンでも、どちらも人間の格好で銃撃戦を展開するのだから、そんなのは単なるギャング同士の抗争だ。
レイズが狼に変身して、ようやくモンスターの戦いらしくなる。
見た目の差が全く無いので、脇役に関しては、ヴァンパイアなのかライカンなのか、場面によっては分からなくなってしまう可能性もある。

セリーンがヴィクターを復活させる時、「長老以外の人間が復活させるのは初めてのことだ」とモノローグが入るが、そもそも基本形が 良く分からない内にルール違反を見せられてもピンと来ない。
初めてのルール違反をやっても、それで副作用や悪い影響が出ることも無い。
掟破りでセリーンがマズい立場に置かれることも無い。まあ一応は監禁されるが、すぐに無罪釈放になるし。
「クレイヴンは悪い奴だったけど、それはそれとして掟破りに関しての罰は与える」ということは無い。

っていうか、この「3長老が交代制で眠りに就く」というシステムも良く分からないんだよな。
このシステムに基づくと、ヴィクターとマーカスか眠っているんだから、残りの長老がいるはずだよな。
それは誰なの?
アメリアじゃないよね。別の場所にいて客分の扱いになっているし、そもそも「長老」って感じでもないし。
で、その長老がいるとすれば、そいつがクレイヴンより上にいて統制しているはずじゃないの?
なんでクレイヴンは好き勝手にやれてるの?
っていうかヴィクターがクレイヴンをリーダーに指名した意味も無いでしょ。
だって自分が眠っている間は、他の長老が仕切っているはずなんだから。

そんな風に作りの甘い映画なんだが、しかしまあアメコミ映画なんて大体がそんなモンだよな。
ってアメコミ映画じゃなかったっけ。
ただし原作は無いけど、似ている、もしくは参考にしたかもしれない小説がある。
TRPG「The World of Darkness」の世界観を借りてナンシー・A・コリンズが執筆した“ソーニャ・ブルー”シリーズが、それだ。
そして本作品は、ナンシー・A・コリンズから「盗作だ」として訴えられている(後に和解している)。

後半に入って「実はヴィクターが自分の娘ソーニャを恋仲になったルシアンの目の前で太陽光にさらして殺害した」と明かされるが、 分かりにくい上にタイミングが遅い。
っていうか、「ヴァンパイア族のライカン族の民族闘争じゃなくて、ただの個人的な怨恨で始まった戦いだったのかよ」と思っちゃうよな。
あと、終盤になって「実はヴィクターはセリーンの家族を殺していた、無法者で暴れていた彼の後始末をいつもクレイヴンがやっていた」 という、ややこしい設定を持ち出すのも、要らないなあと。

ヴァンパイア族とライカン族のパワーバランスがおかしなことになっている。
アメリアは長老に匹敵する存在のはずなのに、しかも元老院の面々が警護していたはずなのに、ライカンの下っ端にあっさりと殺される。
その一方、セリーンたちがライカン族のアジトに殴り込む時は、圧倒的にヴァンパイア族の力が勝っている。
セリーンは孤独ではなくヴァンパイア族の全てが仲間だし(裏切り者はクレイヴンとソーンぐらい)、クレイヴンはヘタレだし、ルシアン はクレイヴンの裏切りで倒れている。
っていうか、そんな状況だから、終盤に「いよいよ全面対決か」と思いきや、セリーンはマトモに強い敵と戦うことも無いんだよな。
それどころか、ルシアンにそそのかされてマイケルを噛む始末。
アホかと。
なんでテメエが強力な交配種を生み出す手伝いをしてるのかと。
その辺りに来ると、セリーンは身勝手な女にしか見えないし、なんかクレイヴンが不憫に思えてくる。

そんでクライマックスはヴィクターとマイケルのバトル(まあ大して盛り上がらないんだが)で、セリーンは完全に脇役。
途中でマイケルを助ける形で参加するんだが、それまで圧倒的な力を見せ付け、強力な交配種となったマイケルとも互角の戦いを見せて いたヴィクターを、セリーンはあっさりと倒してしまう。
だったら交配種なんて要らないじゃん。
っていうか、セリーンがヴィクターを殺すことに、どうも賛同しかねる。
もちろん家族の仇討ちということもあるのかもしれんが、厄介なモンスターとなったマイケルを野に放つことを選ぶってのがさ。ヴァンパイア族 として、どうなのかと。そこに何の逡巡も無いし。
一応は「惚れた相手だから」という理由もあるんだろうが、ロマンスも薄っぺらいしなあ。

(観賞日:2008年1月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会