『おやゆび姫 サンベリーナ』:1994、アメリカ&アイルランド

ずっと昔、パリの街。ツバメのジャキーモが飛んで来て、我々に語り掛ける。彼は様々な恋の物語の中でも、一番大きな恋のお話として『おやゆび姫』を紹介する。昔々、ある所に一人ぼっちで暮らす寂しい婦人がいた。子供が欲しいと思っていた彼女は、心優しい魔法使いから小さな大麦の粒を1つ貰った。魔法使いは婦人に、それを鉢に植えるよう促した。婦人が言われた通りにすると、鉢から芽が生えて、見る見る内に大きくなった。やがて花が咲くと、その中には親指ほどの大きさの美しい少女が眠っていた。
婦人は少女をサンベリーナと名付け、娘として育て始めた。サンベリーナも婦人をママと呼び、飼い犬のヒーローや動物たちと楽しく過ごした。ある夜、サンベリーナはママに、自分と同じぐらい小さい人が登場する物語を読んでほしいとせがんだ。そこでママは、妖精の王子が描かれた絵本をサンベリーナに見せる。サンベリーナは世界中で体が小さいのは自分だけだと思っており、妖精の王子とお姫様が幸せに暮らす物語を羨ましく思った。
ベッドに寝かされたサンベリーナは、絵本の王子様を眺めながら「いつかきっと誰かが迎えに来る」と憧れを抱く。その頃、蝶の馬車に乗って空を飛びながら木の葉を黄金色に染めていた妖精のコルバート王とタビサ王妃は、息子のコーネリアスがいなくなっていることに気付いた。タビサは息子の勝手な行動に苛立つが、コルバートは「大目に見てやれ。あの子は16歳、遊び盛りだ」と軽く告げた。
ハチに乗って空を飛んでいたコーネリアスはサンベリーナを目撃して興味を抱き、声を掛けた。自分と同じ大きさのコーネリアスを見て、サンベリーナは嬉しくなった。サンベリーナとコーネリアスは、互いに好意を抱いた。コーネリアスはサンベリーナを誘い、空の散歩に出掛けた。サンベリーナを目にしたヒキガエルのグランデルは、母のミセス・トードに「あの子に惚れちまったよ」と告げた。
散歩を終えたサンベリーナはコーネリアスにネックレスを贈り、コーネリアスはサンベリーナに指輪を贈った。捜している母の声を聞いたコーネリアスは狼狽し、「明日、また会えるかな?」とサンベリーナに問い掛ける。そこで初めてサンベリーナは、彼が妖精の王子様だと知った。「両親に会ってくれる?」と言われた彼女は、喜んで承知した。コーネリアスは「明日の朝、迎えに来る」と告げて去った。サンベリーナは就寝するが、侵入して来たミセス・トードに拉致されてしまった。
翌朝、サンベリーナを迎えに来たコーネリアスは、ヒーローから昨夜の出来事を知らされる。すぐさまコーネリアスは、サンベリーナを奪還するために飛び出した。一方、サンベリーナが目を覚ますと、ミセス・トードと長男のモーゾ、次男のグリンゴ、三男のグランデルの住まいにいた。家族で結成している「エスパーニャ・シンガーズ」の歌手であるミセス・トードは、サンベリーナに「アンタをアタシみたいなスターにしようと思って連れて来たの」と告げる。サンベリーナは一緒に歌い踊り、観客の喝采を浴びる。グランデルの嫁として拉致されたことを知り、サンベリーナは困惑するが、ヒキガエル一家は神父を呼びに行ってしまった。
スイレンの葉に置き去りにされたサンベリーナは、飛んで来たジャキーモに事情を説明して助けを求めた。ジャキーモはスイレンの葉を川に流してくれたが、滝が迫って来た。サンベリーナの悲鳴を聞き付け、魚や昆虫たちが駆け付けて助けてくれた。サンベリーナは王子様と結婚の約束を交わしたことを嬉しそうに語るが、帰り道が分からないので表情が沈む。しかしコーネリアスが妖精の谷に住んでいることを彼女が話すと、ジャキーモは「王子様を見つけ出して、君の家へ連れて行こう」と力強く告げた。
コーネリアスは妖精の谷に戻り、サンベリーナが拉致されたことを両親に話す。そして父に「出来るだけ冬が来るのを遅らせて下さい。サンベリーナを捜し出す時間が要るんです」と頼んで飛び出した。しかし冬の到来を遅らせることは出来ないので、両親は困った表情を浮かべた。グランデルは2人の兄から嘲笑され、「サンベリーナは妖精の王子様と結婚するらしいぜ」と聞かされ、「サンベリーナを必ず連れ戻してやる」と告げて家を出た。
森の昆虫たちに励まされたサンベリーナは、家へ帰ろうと歩いていた。そこへコガネ虫のミスター・ビートルが現れ、彼女を拉致してショーに出演させた。しかし虫じゃないサンベリーナを見た観客の不評を耳にしたミスター・ビートルは、「お前は醜い」と告げてショーから追い出した。一方、助けを呼びに行こうとした森の昆虫たちはグランデルと遭遇し、サンベリーナがコガネ虫にさらわれたことを話してしまった。醜いと言われて落ち込んでいたサンベリーナは、ジャキーモの言葉に励まされた。
翌朝、ジャキーモはウサギやキツネに妖精の谷の場所を尋ねるが、手掛かりは得られなかった。コーネリアスは森の昆虫たちと出会い、サンベリーナがコガネ虫に拉致されたこと、ヒキガエルに狙われていることを知った。ミスター・ビートルはグランデルから詰め寄られ、「妖精の王子を捕まえて、囮にして罠を仕掛け、サンベリーナをおびき寄せればいい」と提案した。グランデルは彼の羽根を奪い取り、妖精の王子を捕まえて来るよう命じた。
コーネリアスがサンベリーナを見つけ出せない内に、とうとう冬が来てしまった。コーネリアスは吹雪に襲われて池に転落し、氷漬けになってしまった。ミスター・ビートルはコーネリアスを発見し、氷漬けのまま運び出した。寒さに震えていたサンベリーナは、野ネズミのミス・フィールドマウスに助けられた。サンベリーナはコーネリアスが凍死したと聞かされ、ショックを受ける。さらにサンベリーナは、トンネルでジャキーモが力尽きて倒れているのを見つける。ミス・フィールドマウスはモグラのミスター・モールから、サンベリーナと結婚したいと聞かされる。多額の礼金を渡された彼女は、大金持ちであるミスター・モールとの結婚をサンベリーナに勧めた…。

監督はドン・ブルース&ゲイリー・ゴールドマン、脚本はドン・ブルース、製作はドン・ブルース&ゲイリー・ゴールドマン&ジョン・ポメロイ、製作協力はラッセル・ボランド、プロダクション・デザインはローランド・ウィルソン、アート・ディレクターはバリー・アトキンソン、編集監修はトーマス・V・モス、オリジナル歌曲はバリー・マニロウ&ジャック・フェルドマン&ブルース・サスマン、作曲監修はバリー・マニロウ、オリジナル伴奏曲はウィリアム・ロス&バリー・マニロウ。
声の出演はジョディー・ベンソン、バーバラ・コック、キャロル・チャニング、ギルバート・ゴットフリード、キャロ、ジョン・ハート、ジーノ・コンフォルティー、ゲイリー・イムホフ、ジョー・リンチ、ケンドール・カニンガム、ケネス・マース、ジューン・フォレイ、タウニー・サンシャイン・グローヴァー、マイケル・ヌーネス、ダニー・マン、ローレン・レスター、パット・ムシック、ニール・ロス、ウィル・ライアン他。


アンデルセン童話の『おやゆび姫』を基にした長編アニメ映画。
監督は1989年に『All Dogs Go to Heaven』、1991年に『Rock-A-Doodle』という作品を手掛けているドン・ブルース&ゲイリー・ゴールドマン。
サンベリーナの声をジョディー・ベンソン、ママをバーバラ・コック、フィールドマウスをキャロル・チャニング、ビートルをギルバート・ゴットフリード、トードをキャロ、モールをジョン・ハート、ジャキーモをジーノ・コンフォルティー、コーネリアスをゲイリー・イムホフ、グランデルをジョー・リンチが担当している。

ミュージカル形式になっていること、童話を映画化していること、その絵柄など様々な点から、どことなくディズニー映画を連想させる作品である。
表面的な部分だけでなく、とても健全な子供向け映画に仕上げている精神も、ディスニー映画を感じさせる。
何から何までディズニー映画を真似するのなら、「だったらディズニー映画を見ればいんじゃねえか」ってことになるんじゃないかと思った人がいるかもしれない。
その意見、否定しない。

映画の内容は、原作の童話と大まかな流れは一緒だが、細かい部分では色々と異なっている。
原作に関しては、「可愛い子供が欲しいと願い、サンベリーナの養母になった女性の存在が放り出されたままで話が終わっている」とか、「最後の最後になって急に現れた王子様にサンベリーナが一目惚れして、王子も彼女に惚れて、すぐに結婚が決まるという話の畳み方の慌ただしさ」とか、幾つか引っ掛かる点があった。
そういった点が改善されているのであれば、原作通りじゃなくても一向に構わない。

原作の童話は、特にテーマやメッセージ性があるわけではない。
サンベリーナは幾つかの場所を移動し、様々な動物と出会うが、自分が能動的に行動したわけではなく連れ去られた結果の出来事が続くので、冒険物語という印象も無い。
サンベリーナには辛いことばかりが重なり、それに耐える日々が続くので、ひたすら哀れな女の子という印象を受ける。
最終的には王子様と結婚して幸せになるのだが、全体の印象としては、あまり楽しいとは言えない作品だ。

この映画版では、まず最初にツバメのジャキーモが歌いながらとして登場し、観客に向かって「私は激しいロマンスが大好き」と語り掛ける。
彼は「永遠(とわ)に叶わぬ恋。ここにあるのは、そんな哀しい恋に身を焦がした人たちの物語なんです」と言い、傍らに置いてある書物が写し出される。そして「数ある素晴らしい恋の中でも、一番大きな恋のお話は、この一番小さな本、『おやゆび姫』」という言葉で本の表紙が開かれ、本編が開始される。
つまり、この映画は原作を「恋愛劇」として作り変えているのだ。
ただ、引っ掛かるのは、ジャキーモが「永遠に叶わぬ恋。哀しい恋に身を焦がした人たちの物語」の1つとして『おやゆび姫』を紹介することだ。
だけど実際はサンベリーナとコーネリアスが結ばれてハッピーエンドになるわけで、そこのミスリードは反則じゃないかと。

もう1つ導入部で引っ掛かるのは、ママが魔法使いから種を貰って花を咲かせ、サンベリーナが誕生する経緯を、ジャキーモの語りだけで軽く処理していることだ。
ママがどれだけ子供を欲しがっていたか、サンベリーナに恵まれてどれほど嬉しいかってのは、そういう淡白な処理だと、まるで伝わらない。
まあ尺の関係もあって、どこを重視し、どこを削ぎ落とすかってことを考えた時に、サンベリーナとママの関係性を軽視しようという判断になったんだろう。

その結果、この映画版でも原作と同様、ママの存在価値は著しく薄いものとなっている。
拉致されたサンベリーナはコーネリアスのことを気にしているが、ママに会いたがるのは寒さに震えた時に一度だけ。そのシーンまでは、ママの方もずっと消えているし。そこの展開にしても、ミュージカル・シーンを入れるために入れたようなモンだし。
そうなると、最初からママなんて登場しない物語に出来なかったものかと思ってしまうんだよな。
ママってサンベリーナを花から誕生させるための道具として利用されているだけで、そこでほぼ御役御免になっちゃうんだよな。

恋愛劇として描かれていることは明確に分かるのは、開始から15分程度でサンベリーナとコーネリアスが出会い、一目で恋に落ちるという展開だ。
原作だと最後の最後まで登場しない王子様が、この映画版では序盤で登場し、サンベリーナと恋に落ちる。
その後、サンベリーナはヒキガエルに拉致されるが、その前に2人を恋愛関係に落とし込んでいることで、「サンベリーナは離れていてもコーネリアスを想う」という形に出来るし、「コーネリアスがサンベリーナを奪還するための行動を取る」という展開も作れる。

映画版のサンベリーナは、それほど強く「哀れなヒロイン」という印象を感じさせないキャラクター造形になっている。
全体的に軽妙なテイストが漂っており、切なさは全く無い。
サンベリーナは明るい女の子であり、拉致されても「スターにする」と言われるとまんざらでもない様子を見せ、強引に誘われたとは言え、ヒキガエルたちと一緒になって歌い踊り、観客の喝采を浴びて嬉しそうにしている。
ヒキガエルとの結婚を知らされてショックは受けるが、そんなに悲壮感は無い。

サンベリーナはジャキーモと出会い、森の魚や昆虫たちに救われる。「置き去りにされる」「滝に落ちそうになる」というピンチはあるが、すぐに助けが現れるし、そこをアクション&サスペンスのシーンと描いているので、「辛い出来事」という印象は受けない。
ミスター・ビートルに捕まっても、サンベリーナはショーでノリノリに歌い踊る。彼女はショーの後で泣くが、それは拉致されたことが辛いのではなく、コガネ虫に「醜い」と言われたのがショックだったからだ。
だから「苦難の連続」という印象は無い。
何かあるとミュージカル・シーンに突入させて、サンベリーナを可愛そうな女の子に見せない雰囲気を作っているというのも大きい。
ちゃんと楽しく明るい映画になっているのは好印象。っていうか、まあ当然っちゃあ当然の処置だけど。

物語が破綻しているとか、キャラクターに全く魅力が無いとか、そんなことは無くて、それなりのレベルでそつなくまとめている
だけど、じゃあ面白いのかと問われたら、決して面白くはない。
あと、それこそディズニーが製作していた童話を原作とするアニメーション映画、『白雪姫』や『シンデレラ 』なんかと比較した時に、映像の質も含めて、大差が無いように思える。
ようするに、1994年の映画とは思えない古臭さを感じてしまうんだよな。

(観賞日:2014年3月9日)


第15回ゴールデン・ラズベリー賞(1994年)

ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「Marry The Mole!」

 

*ポンコツ映画愛護協会