『WISH 夢がかなう時』:1995、アメリカ

戦没兵の日、事業に失敗したトム・ホルマンは家を手放すことになった。妻と子供を車に乗せて我が家を離れたトムは、前を横切ろうとした男をひきそうになってしまう。急ブレーキをかけて事故を免れたトムは、近くにいた犬を見て昔のことを思い出す。
それはまだ、トムが少年だった時代。彼は父は朝鮮戦争で亡くし、母ジーンと弟ガニーの3人で暮らしていた。ある日、トムとガニーを乗せて車を走らせていた母ジーンは、交差点で歩いていた男と衝突事故を起こしてしまう。
男は足を負傷していたが、駆け付けた警官は放浪者だった彼に冷たく接し、ジーン達も現場から退散させられる。しかし、男の連れていた飼い犬ベティ・ジェーンが家に迷い込んできたことから、ジーン達は彼に再会することになった。
負傷させた償いとして、ジーンはジャック・マクラウドというその男を町外れまで車で送っていった。その場から立ち去ろうとしたジーンだが、ヒッチハイクを始めた彼の姿を見て引き返し、ケガが治るまで家に住まわせることにした。
野球がヘタなトムが独りで練習しているのを見たジャックは、彼の練習相手を買って出る。トムが試合で活躍したことから、ジャックはトムの所属する少年野球チームのコーチを引き受けることになった。
トムのチームは3年連続で最下位という弱小チームだったが、ジャックの教えを受けて試合に勝利する。トムはジャックに強い親しみを覚え、ジーンも彼に惹かれていく。しかし、やがて傷が治ってジャックが家を出て行く日がやって来た…。

監督はマーサ・クーリッジ、原案はクリフォード・グリーン&エレン・グリーン、脚本はエリザベス・アンダーソン、製作はクリフォード・グリーン&エレン・グリーン&ゲイリー・ルチェッシ、製作総指揮はキース・サンプルズ&ラリー・Y・アルバッカー、撮影はジョニー・E・ジェンセン、編集はスティーヴン・コーエン、美術はジョン・ヴァローン、衣装はシェリー・コマロフ、視覚効果監修はフィル・ティペット、音楽はシンシア・ミラー。
主演はパトリック・スウェイジ、共演はメアリー・エリザベス・マストラントニオ、ジョセフ・マゼロ、セス・マミー、デヴィッド・マーシャル・グラント、ダイアン・ヴェノーラ、ジェイ・O・サンダース、ジョン・ディール、マイケル・オキーフ、デヴィッド・ザホースキー、ブライアン・フランネリー、ブロック・ピアース、デヴィン・ジェイコブ・ケアリー他。


ハートウォーミングな感動ドラマとして作られている作品。
ジャックをパトリック・スウェイジ、ジーンをメアリー・エリザベス・マストラントニオ、トムをジョセフ・マゼロ、大人になったトムをマイケル・オキーフが演じている。
ビデオタイトルは『ウィッシュ/夢がかなう時』。

「ジャックが小さな奇跡を幾つも起こしていく」ということを描きたいのは分かる。
だが、そのパターンがバラエティー豊かなことが、一貫性が無いと見えてしまう。
その割に、演出そのものは凡庸だし。
終盤の展開も唐突すぎて、全く感動できないし。

ジーンがジャックを家に泊める気になるまでの心情の動きとか、犬を怖がっていたガニーがベティ・ジェーンと仲良くなるまでの様子とか、何かが変化する際の描写が弱い。
せめてジーンがジャックを家に泊めようと考えるシーンぐらいは、それらしい演出が欲しかったところだ。

キャラクターの心情は断片が示されるだけで、それが上手く繋がらない。
だから、シーンの1つ1つがバラバラになっている。
ジーンに惚れてるフィルや姉のジョイスが中盤では完全に消えてしまうなど、脇役キャラクターの扱いも、あまり上手くない。

映画が始まって40分ぐらいは、ジャックは何もせずにボーッとしているだけだ。
中盤辺りになって、ようやくトムの野球り練習に付き合うという動きを見せる。
しかし、2人が練習をしているシーンは非常に短い。
それまでヘタクソだった少年が、そんなに急に上手くなるはずはないのだから、もっとジャックがトムに野球を教えるシーンに時間を割くべきだろう。
そのことで、ジャックの人物像や、トムとの心の交流も見えてくるはずだし。

ジャックと少年野球チームとの関わりも、中途半端な形になっている。
もっと野球チームとの関係を大きく扱うか、もしくは最初から野球を全く持ち込まないか、どちらかにしてしまった方が良かったと思う。

後半に入ると、ガニーの部屋が急にジャングルになって優しい怪獣が出現するなど、幻想的なシーンが何度か登場する。
しかし、かなり唐突で、その場面だけが浮いている。
わざわざフィル・ティペットを起用してまで、描く必要があるとも思えない。
ガニーが空を飛ぶシーンなんて、バカバカしくて気持ちが冷めてしまう。

ジャックが、あまりに普通すぎる。
もうちょっと浮き世離れしたような雰囲気を見せてくれないと、周囲の反応との間に不自然な差が生まれてしまう。
これはキャラクター設定と演者、どちらにも問題があると思われる。
そして「地味な奇跡を起こしていく不思議な存在であるはずのジャックが、あまりに普通すぎる」という部分のマイナスは、映画の評価を下げる大きな要因になる。
大黒柱が弱いのだから、映画がしっかり成り立たないわけだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会