『おもちゃがくれた愛』:1982、アメリカ

黒人のジャック・ブラウンは近所の人々と共に、屋外でポーカーを楽しんでいた。そこへ妻のアンジェラが現れ、「今日、アンタの友達が事務所に来たわ。家を競売に出すそうよ」と話す。「あれは俺が親から貰った家だ」とジャックは言うが、家は抵当に入っており、半年も賃料を払っていなかった。無職のジャックは「本が出版されれば払える。俺は作家だ」と主張するが、アンジェラは「本の話はやめて」と呆れた様子で告げた。
ジャックは友人であるスタンレーと会い、「なぜ家を売るなんて言った?」と尋ねる。スタンレーは彼に、「1万ドルを払わないと、あの家は銀行の物になる。少しは待ってくれるが、お前に定職が無いとダメだ。すぐに仕事を探せ」と述べた。ジャックはハーレーの自動車洗車場へ赴くが、大勢の黒人が職を求めて列を作っていた。ベイツ産業の求人広告を見た彼は、清掃員の仕事を貰おうと考えて自転車を停める。ベイツ社長の3番目の妻であるファンシーが出て来たので、彼は車のドアを受けて待ち受けた。ファンシーはジャックに礼を言い、25セントを渡した。
ジャックは面接を受けるが、履歴書を見た幹部のモアハウスは「こんなに立派なキャリアがあるのに。君がやる仕事じゃないよ。求人はパートの清掃員だ。ジャーナリストじゃない」と言う。新聞社へ行くよう勧められたジャックは、「黒人は雇わない」と返す。彼は「女に出来るなら俺にも出来る」と訴えるが、モアハウスは「無理だね」と却下した。ジャックは食い下がり、「恋人は黒人差別反対同盟の委員をしていて、訴訟好きだ」と脅すような言葉を口にした。するとモアハウスは、火曜と金曜に開かれる幹部の昼食会での給仕と、毎晩の展示場のガラス磨きの仕事を提案した。
ジャックは給仕長のルビー・シンプソンと会い、女性用の服に着替えて仕事を始める。ベイツは旅を終えて戻った幼い息子のエリックから電話を受け、デパートにある物なら何でもプレゼントすると約束した。ベイツが長テーブルを引き寄せて幹部たちに迷惑を掛けたので、ジャックは元に戻す。腹を立てたベイツに呼ばれたジャックは、料理をこぼしてしまった。深夜、ジャックが無人のデパートで遊んでいると、ベイツの幼い息子であるエリックがモアハウスやオブライエンたちを引き連れて現れた。エリックは独り言をベラベラと喋りながら遊ぶジャックを見て、「あれにする」と口にした。
モアハウスたちは「人間は買えません」などと説明するが、エリックは考えを曲げなかった。モアハウスとオブライエンはジャックに歩み寄り、「あれはボスの息子だ。君を連れ帰ると言ってる。引き受けてくれ」と頼む。ジャックは激しく拒絶するが、モアハウスたちが金を渡すと快諾した。ジャックが笑顔で挨拶すると、エリックは無表情で「包装して」とモアハウスたちに命じた。ジャックが木箱で送られてくると、すぐにエリックは爆竹を投げた。
ベイツは息子から話を聞き、ジャックに「時給で支払おう」と持ち掛けた。ジャックが渋ると、彼は「どんな待遇なら支払う気がある?」と尋ねる。ジャックは「アンタの新聞社で働きたくて1年半も待ったが、黒人には雑役の仕事しかくれなかった。それが気に入らない」と語り、屋敷を去ろうとする。エリックから「捕まえて」と頼まれたベイツは後を追い、息子は1年に1週間しか家に戻らない。一緒にいてほしい」と頼む。ジャックは拒絶するが、「記者と同じ週給400ドルを払ってもいい」と言われて態度を変えた。
ベイツはジャックをオフィスへ連れて行き、「エリックに教えたいのは金の有り難さだ」と言う。ジャックが「アンタが俺に押し付けようとしているのは仕事じゃなく侮辱だ」と去ろうとすると、ベイツは「幾ら欲しい」と問い掛ける。ジャックは彼と交渉し、週給2500ドルで仕事を受けた。ベイツはファンシーにエリックが黒人を買ったことを明かし、「私への嫌がらせに買ったんだ。黒人が家を歩き回っても驚かないでくれ」と告げた。
エリックはジャックをオモチャの車の助手席に乗せ、邸内を走り回った。階段を滑り降りて食器の乗ったテーブルに車が激突したので、ジャックは焦った。彼が腹を立てると、執事のバークレーが子供には手を出さないよう釘を刺した。エリックはジャックに、警官役としてバークレーの違反切符を切るよう命じた。テーブルに乗っていた自分の夕食が台無しになったことを知ったジャックは、「監獄行きだ」と言ってエリックをクローゼットに閉じ込めた。
ジャックはクビになることを覚悟していたが、ベイツにクローゼットから出してもらったエリックは「遊んでただけだ。面白かったよ」と説明した。「なぜ庇った?」とジャックが訊くと、彼は「いてほしいから」と答えた。エリックは「勝てたら2500ドルを持っていってもいい」とホッケーゲームでの勝負を持ち掛け、「僕が得点する度に契約は1年延長だ」と自信満々に告げる。しかし失点すると途端に彼は拗ねてしまい、「やりたくない」と言い出した。
ジャックが「俺に負けるのが嫌だからか」と訊くと、エリックは「やりたくないだけさ」と否定した。ジャックが「親父に話すぞ。息子が意気地なしだと言われても平気か?」と話すと、彼は「邪魔さえしなければ何も言わないよ」と述べた。そこへ使用人のフラウレインが来て、エリックに入浴するよう指示した。エリックが「ジャックと入る」と主張すると、フラウレインは「とんでもない。お父様に言い付けます」と注意する。ジャックは「ここの連中は、すぐにそれだ。気に入らん」と言い、エリックと浴室へ移動した。
フラウレインが「大人の男の人と裸になってはいけません」とエリックに告げると、ジャックは「裸じゃなきゃいいらしい」と服のまま浴槽に飛び込んだ。エリックも続くと、フラウレインは慌ててベイツを呼びに行った。風呂を出たジャックはエリックの悪戯で頭を汚され、「殺してやる」と憤慨した。ベイツが友人たちを招いて会食を開いている時、ジャックはスパイダーマンのパジャマでエリックの相手をしていた。
エリックの悪戯で全身ずぶ濡れになったジャックが服を探しに行くと、ファンシーが現れて「私が案内するわ」と言う。彼は食堂へジャックを連れて行き、「パパが坊やに買ったオモチャを見て。電池は要らないのよ」と招待客に語る。ベイツは2人を連れ出し、「オツムが直ったと思ったが間違いだった。コロラドの病院に入っていろ」とファンシーを叱り付けた。ジャックが「恥をかかされた俺はどうなる?」と抗議すると、ベイツは「そのための高給だ」と告げた。
エリックはジャックから「俺は出て行く」と言われると、「そっちから出た方がいい」と裏口へ案内する。ジャックが外に出ると、彼は大音量でサイレンを鳴らした。ジャックは駐車場で待機していた面々に見つかり、慌てて逃げ出した。エリックは食堂のスプリンクラーを作動させ、自室に戻ってテレビゲームで遊び始めた。ベイツが来て「今度の計画は?」と尋ねると、エリックは「学校に帰る。今夜だ」と答える。「何が気に入らない?」と問われた彼は、「ジャックは幾ら金を積んでも戻らない。遊び相手のいない場所なんて大嫌いだ」と声を荒らげた。彼が「ジャックを連れて来て」と泣き出すと、ベイツは強く抱き締めた。
ジャックはモアハウスの訪問を受けても、「絶対に戻らない」と拒絶する。しかし1万ドルの小切手を渡されると大喜びし、すぐに屋敷へ戻った。すると部屋で待ち受けていたエリックは、すぐに悪戯を仕掛けた。食事を台無しにされたジャックは憤慨し、エリックを捕まえて尻を叩こうとする。エリックが「お尻は叩かないで」と懇願すると、ジャックは「なぜ俺を呼び戻した?」と尋ねる。「笑わせてくれる友達が欲しいから」とエリックが答えると、彼は「友達は金じゃ買えない。愛と信頼で得るものだ。悪ふざけはやめろ」と説教する。彼は「命令するな。友達には頼め」と注意し、素直に従ったエリックを抱き締めた。
ジャックは遊びの1つとして新聞を作ろうと持ち掛け、「記者になるんだ。俺が編集する。特ダネを出せ」と告げる。しかしエリックは「つまんない」と乗らず、ジャックを魚釣りに誘って一緒に川へ出掛けた。彼は「パパがピラニアを放した」と言うが、ジャックは信じずに川へ入った。彼はピラニアに襲われ、慌てて川から脱出した。2人は川岸で酒を飲んでいるモアハウスに気付き、歩み寄って声を掛けた。するとモアハウスは、経理部長のゲフリンを解雇したことを明かす。エリックが理由を尋ねると、彼は「彼は君のお父さんに握手を無理強いした。彼は手に酷い汗をかく。君のお父さんは、それが大嫌いなんだ」と説明した。
エリックはジャックに、「新聞に書こう。ファンシーや爺やの話を載せるんだ」と持ち掛ける。ジャックが「連中はパパのことを話さん」と言うと、彼は「言わせるんだ。ジャックは記者だろ?今日から始めようよ。僕が編集する」と語る。ジャックは「掲載する写真を撮る」とエリックに言い、悪戯を仕掛けた。エリックが「ベッドでやるアレは、どうやるのか教えてよ」と質問すると、ジャックは「ただの興味か、彼女がいるからか?」と返す。エリックが好意を寄せている同級生の存在を明かすと、ジャックは仲良くなるための方法を助言した。ジャックは「明日からエリックと新聞を出します」とベイツに報告し、了承を得た。彼はベイツとファンシーに2人の出会いを取材し、バークレーたちから話を聞く。2人はベイツの悪評ばかりを取り上げた新聞を印刷し、ベイツ社の関係者に配布した…。

監督はリチャード・ドナー、原作はフランシス・ヴェベール、脚本はキャロル・ソビエスキー、製作はフィル・フェルドマン、製作協力はマーガレット・ブース、撮影はラズロ・コヴァックス、美術はチャールズ・ローゼン、編集はリチャード・ハリス&マイケル・A・スティーヴンソン、衣装はモス・マブリー、音楽はパトリック・ウィリアムズ。
出演はリチャード・プライアー、ジャッキー・グリーソン、スコット・シュワルツ、ネッド・ビーティー、ウィルフリッド・ハイド=ホワイト、アナゼット・チェイス、トニー・キング、テレサ・ガンゼル、カレン・レスリー=リトル、ヴァージニア・ケイパーズ、ドン・フッド、B・J・ホッパー、リンダ・マッキャン、レイ・スプルエル、ストッカー・フォンテリエ、スチュアート・ベイカー=バージェン、ロバート・アダムス、マーク・ベネット、ジョン・R・ウィルソン、ロバート・コストリー、ロバート・アール、ポーリーン・バルセロナ、フアン・コールマン、ヴァレリアン・スミス他。


1976年のフランス映画『Le Jouet』をハリウッドでリメイクした作品。
監督は『オーメン』『スーパーマン』のリチャード・ドナー。脚本は『すばらしき仲間たち』『忍冬の花のように』のキャロル・ソビエスキー。
ジャックをリチャード・プライアー、ベイツをジャッキー・グリーソン、エリックをスコット・シュワルツ、モアハウスをネッド・ビーティー、バークレーをウィルフリッド・ハイド=ホワイト、アンジェラをアナゼット・チェイス、クリフォードをトニー・キング、ファンシーをテレサ・ガンゼルが演じている。
アンクレジットだが、スタンレーを演じているのは『ジョン・カーペンターの要塞警察』のウェルズ役や『ロッキー』でアポロのトレーナー役だったトニー・バートン。

今の時代なら絶対に企画が通らないような作品だが、1982年でも「良くゴーサインが出たな」と思ってしまう内容だ。
何しろ、「白人の金持ちのボンボンが黒人を買ってオモチャにする」という話だからね。それって白人が黒人を奴隷にして弄ぶってことだからね。
もちろん「奴隷制度よ、もう一度」と訴えたいわけじゃなくて、「ジャックのおかげでエリックの態度は改まり、ベイツとの親子の愛は深まった」という結末になっている。
でも、「だから白人が黒人をオモチャにしてもOK」という感覚は、なかなかのモンでしょ。

劇中ではジャックが「奴隷の売買はとっくに禁止されている」「奴隷は御免だ」など、何度も奴隷制を連想させるような台詞を口にする。つまり製作サイドだって極度に無知な連中じゃないので、さすがに「これは奴隷制度を連想させる話」ってことぐらい分かっているわけだ。そして分かった上で、あえて喜劇のネタとして使っているわけだ。
また、ジャックは黒人差別を逆手に取って脅しを掛けるような言葉を吐くなど、黙って白人に服従しているわけではない。
ただ、それで「白人が黒人をオモチャにする」という仕掛けに含まれる差別的な匂いが完全に消臭されているかと言うと、そんなことは無い。
ただ、それよりも本作品の根本的な問題は、コメディー映画として全く面白いと思えないってことだけどね。

冒頭、ジャックは近所の面々とポーカーに興じている。そこへアンジェラが来て「家が競売に掛けられる」と聞くと、「本が出版されれば払える。俺は作家だ」と言う。
アンジェラが呆れた様子を見せるので、作家としての仕事をロクにしていないことは分かる。だが、じゃあジャックが売れない作家なのか、かつてヒット作を出したが今は書いていない男なのか、そもそも本なんて1冊も書いていないような奴で口先だけなのか、その辺りは全く分からない。
面接シーンでは履歴書を見た「こんなに立派なキャリアがあるのに」とモアハウスが言っているが、具体的な経歴は全く教えてもらえない。
ジャーナリストとして仕事をしていた経験があるのか、それとも履歴書の内容は嘘ばかりなのか、そういうことも全く分からない。

「家が競売に掛けられる」と言っているが、その家を全く観客に見せないまま話を進めている。それもあって、ジャックの家に対する強い思い入れは全く伝わらない。本来なら、「彼は家を手放したくないので必死になる」という流れになるはずだが、そこが弱い。
もちろん、彼はスタンレーから「1万ドルを払わないと家が銀行の物になる」「定職が無いと待ってもらえない」と聞かされ、すぐに仕事を探している。そして給仕とガラス磨きの仕事を貰っている。
ただ、それ以降の展開に「どうしても家を売りたくない」という強い気持ちが見えるようなシーンって、全く無いのよね。
金を貰って喜ぶシーンは何度かあるけど、それは単純に「金のため」であって、「大事な家を守るため」という意識は見えないのよ。

ジャックはベイツ作業で自転車で向かう際、ヘッドホンを装着している。音が聞こえないせいで、列車の接近に気付かず線路を横断したり、道路に飛び出すのでバスが慌ててブレーキを踏んだり、自転車を停めて野良犬を渡させたせいで背後で衝突事故が起きたりする。
だけど、列車やバスに関しては「見えてるだろ」と言いたくなる。
やりたいことは分かるが、ギャグの作り方に無理がある。
それと、ここでは「ジャックは無意識にトラブルを起こし、周りが見えていないので平然としている」という笑いの作り方をしているけど、そういう方向性で統一しているわけじゃないのよね。

給仕のシーンでは、雑な仕事でチキンを皿に投げたり、スープをベイツにこぼすミスをやらかしたりする。だが、前者では何食わぬ顔で雑な仕事を続け、後者ではミスを理解してアタフタしている。
その辺りにも、統一感の無さを感じてしまう。
それと、ベイツが長テーブルを引っ張って他の幹部たちが迷惑を被るシーンでは、それをリカバリーしようとする立場にジャックが回るんだよね、つまり、ここでは彼がギャグの受け手を担当している形なのだ。
そりゃあ基本的にはジャックだけを笑いの発信源にして話を作ろうとしているので、色んな方法でギャグを任せるのも分からんではない。ただ、そのせいでキャラ造形がブレているように思えるのよね。
日本のようにボケとツッコミの文化が無いので、そうなっちゃうのも仕方がない部分はあるのかもしれないけどさ。

ジャックは仕事を貰った後、モアハウスから「ベイツ家に髭の人間はいない」と髭を剃るよう言われても心配ない」と拒否する。絶対に仕事が欲しいんだから髭ぐらい剃っても良さそうなモノだが、そこだけは譲らない。
でも、そのことがギャグになっているわけではない。
で、そこで髭を剃ることを拒否しているんだからベイツの前でも強気な態度を取るのかと思ったら、モアハウスから「髭を隠せ」と指示されると慌てて手で髭を隠す。
いやビビッてんじゃねえか。何が「心配ない」なのかと。
髭を生やしていても大丈夫な対策でも練ったのかと思ったら、何も無いし。

ベイツは会食でジャックに腹を立て、まず「髭を剃れ」と命じる。だが、すぐに「髭を剃ったらクビだ」と言い直す。やや分かりにくいが、ようするにクビを通告しているんだろう。
しかしジャックはモアハウスに「素敵なボスだ。セクシーな俺とチキンが好きだとさ」と笑い、その場を去る。夜、デパートでジャックを見たモアハウスは、経理担当に「クビにしなかったのか」と尋ねる。
ってことは、モアハウスも「ジャックはクビ」と理解していたってことなのか。だとしたら、なんでジャックはクビになってないんだよ。ワケが分からん。
そこは「給仕とガラス磨きはクビになったけど、エリックが目を付けて買う」という流れで良かったんじゃないのか。

ジャックはモアハウスとオブライエンから「エリックが連れ帰るらしい」と聞かされ、激しく拒絶している。しかし彼らが次々に紙幣を渡すと、喜んで引き受けている。ところがベイツ邸に届けられると、すぐに去ろうとしている。ベイツが時給を提案しても、断っている。
喜んで引き受けたのに、どういうことなのかと。「木箱に包装されたので気が変わった」ってことなのか。
その後で週給を提案されるとオフィスへ行くが、前向きになっているのかと思ったら「アンタが俺に押し付けようとしているのは仕事じゃなく侮辱だ」と去ろうとする。この辺りの話の進め方が下手で、無駄にゴチャゴチャしている。
もっとシンプルに出来るし、そうすべきだよ。ジャックの行動理念を「全ては金のため」ってことで明確にして、芯を通してしまえばいいでしょ。

去ろうとしたジャックはベイツから「幾ら欲しい」と問われ、「差し当たって1万ドル」と答える。「悪党だ」と言われて「では千ドルから始めよう」と告げ、「まるで追いはぎだな」に「だったら週給400ドルの記者でいい」と返し、「新聞社の仕事は無い」に「だったら1500ドル」と交渉する。
最初から受ける気はあって、ギャラを吊り上げるために批判して帰るフリをしたのかもしれない。ただ、そういう狙いがあったとしても、無駄に分かりにくいのよ。
だから、ギャグシーンとしての力も弱くなっちゃってるのよ。
もっと「帰る気は皆無で、ギャラ吊り上げのための芝居です」ってのを分かりやすく見せちゃった方がいいのよ。

ジャックがエリックの子守りを始めると、無自覚で周囲に迷惑を掛けるようなことは無い。ヘマをやらかしてアタフタするようなことも無い。じゃあ何で笑いを取りに行っているかというと、「身勝手なエリックにジャックが翻弄される様子」ってのがが多い。
でも、そんなのは不愉快なだけで、まるで笑えないのよね。
しかも、ずっとジャックがエリックに振り回されてイライラしているわけでもなく、前向きな態度で相手をするシーンとか、彼に同情して味方になるシーンなんかも挟む。
じゃあ「ジャックがエリックに同情して同調して」という流れで行くのかと思ったら、また悪戯に激怒するシーンを入れたりする。なんかブレブレなのよね。

エリックがジャックとの入浴を主張すると、フラウレインは「とんでもない。お父様に言い付けます」と注意する。この時、ジャックは「ここの連中は、すぐにそれだ。どうも気に入らん」と言う。
でも、その直前に彼は、ホッケーゲームを拒否したエリックに対して「親父に話すぞ」と言っているんだよね。なので、「どの口が言うのか」という言葉なのだ。
だが、それを指摘する人間が誰もいないため、そこが笑いにならず、単なる「自分のことを棚に上げた発言」になっている。
あるいは「製作サイドが気付いていないチョンボ」になっている可能性もあるが、どっちにしても処理に失敗していることは確かだ。

エリックを「父親の愛を感じられず、友達のいない寂しい少年」として描き、同情心を集めようとしていることは明らかだ。
それによって、ジャックをオモチャとして購入した行為を正当化しようと目論んでいるのだが、「それはそれ、これはこれ」と断言できるぞ。
「環境のせいで性格がひん曲がってしまった」ってことにして、ジャックをオモチャ扱いするエリックを擁護しているけど、そういう問題じゃないからね。
どんな事情があろうとも、それは厳しく批判されるべき歪んだ行為であって。

ジャックは最初にモアハウスたちからエリックのオモチャ役を頼まれて断るが、紙幣を渡されて承諾する。しかしエリックの悪戯が重なる中で我慢できなくなり、「幾ら金を積まれても断る」と強く拒絶する。
ところがモアハウスが1万ドルの小切手を渡すと大喜びし、すぐに屋敷へ戻る。
だったら「エリックが引き留めても耳を貸さずに去る」という手順は無駄だなと。
そこで「ベイツが来て1万ドルの小切手を差し出すとジャックの態度がコロッと変わる」という流れにでもしておけば、喜劇としてテンポ良く進んだはずで。

ベイツという男の描き方には、大いに問題がある。
話の中身や流れを考えれば、彼は「傲慢なワンマン社長だが息子は愛しており、しかし不器用なので接し方が良く分からない」という設定にでもしておくべきだろう。そして話が進む中で、「ジャックの影響や助言で態度や考えが変化し、エリックとの関係が良好に」という展開になるべきだろう。
ところが彼は理不尽な暴君で、KKKの協力者ということが終盤になって明らかになるのだ。
その設定が出て来ると、もう笑って済ませることは難しいぞ。
ジャックに命を救われて態度を改めるけど、KKKの協力者であることへの反省や改心は全く見えないし。

そんなベイツの悪行を暴く新聞をジャックとエリックが作る展開が、後半に用意されている。でも2人が新聞を作り始めるってのが、唐突で不自然にしか感じられないのよね。
ジャックが新聞記者になりたがっていたので、そこと絡めた展開ってのは理解できる。でも、それを始めると「ジャックはエリックの子守」とか「ジャックがエリックと友達になった」という展開から外れちゃってるのよ。
せっかく2人が友達になったのなら、後は「ジャックの力でベイツとエリックの関係が改善される」というトコに集中しようよ。
結果として新聞を出した後に親子関係は改善されるけど、そのルートを辿るのは効果的じゃないと感じるのよ。

(観賞日:2021年9月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会