『悪霊喰』:2003、アメリカ&ドイツ

ローマ。カロリーヌ修道会の司祭ドミニクが教会に戻ると、孤児の少年少女が座っていた。中に入ると、一人の男が待っていた。その男 ウィリアム・イーデンはドミニクに、「カトリックの秘儀に精通し、今では忘れられた古い教会を信じている。聖痕、悪魔祓い、聖人」と 言う。ドミニクが「他にも色々と信じている」と告げると、イーデンは「私もそうだ。だが、そろそろ時間かな。告白を始めよう」と 述べた。するとドミニクは「済まないアレックス、君には悪いと思っている」と口にした。
ニューヨークのセント・アンドリュース教会の司祭アレックスはラテン語を使い、古い方法でミサを行った。そこへドリスコル枢機卿が 現れ、アレックスの師であったドミニクの死を伝えた。アレックスの母が自殺した時、ドミニクは親身になってくれた。ドリスコルは、 ドミニクの死んだ状況が奇妙だったと述べた。アレックスはローマへ行くことを決めた。
パリの司祭シーマスは、教会への侵入者に向かって十字架を掲げた。男が逃げ出したため、トーマス悪魔祓いの言葉を唱えながら後を 追った。道路に飛び出した男は、走ってきた車にはねられた。男は「貴様らの教会は滅び、闇の教皇が現われる」と不敵に告げて息絶えた 。そこへ親友アレックスから電話が入った。アレックスはトーマスに、ローマへ行くことを告げた。
アレックスが電話を切った直後、マーラという女が教会に現れた。アレックスが「いつ退院した?」と訊くと、マーラは「今日出たばかり」 と言う。マーラを昔の司祭の寄宿舎に案内した後、刑事が教会を訪ねてきた。「裁判所が入院を命じていたマーラが精神病院から逃げた」 と彼は告げる。1年前、アレックスが悪魔祓いを行った時、マーラは彼を撃ち殺そうとした。それで精神病院に収容されていたのだ。 アレックスはマーラがいることを隠し、刑事たちを帰らせた。
「なぜ来たんだ?」とアレックスが訊くと、マーラは「一緒にいなきゃと思ったから。貴方には私が必要よ」と答えた。彼女はローマへ 付いて行くと言い出した。アレックスは、自分の命を狙わないと約束させ、同行を承諾した。ローマに飛んだ2人がドミニクの教会へ行く と、孤児の少年少女が座っていた。中に入ると、机の上にアラム語で「血よ中へ 血よ外へ」と書かれていた。アレックスは、そこに ドミニクの死体があったこと、何か儀式が行われたことを悟った。
アレックスがドミニクを調べると、左胸に奇妙な傷が残っていた。ドミニクは睡眠薬による服毒自殺だったため、遺体は教会に移されず、 手続きが終わると公共墓地に埋葬されることが決まっていた。ドミニクが通っていた書店を訪れたアレックスは、店主から異端の知識に 関する書物を読ませてもらった。カロリーヌ修道会は、異端の知識と研究についてはイエズス会にも勝ると言われている。
アレックスは一冊の本を開き、そこに描かれている儀式がドミニクの教会で行われたことを知った。それはシン・イーター(罪食い)の 儀式だ。しかし店主によると、シン・イーターがいたのは200年以上も前のことだという。店主によると、ドミニクが最後に購入したのは、 アラム語で書かれた羊皮紙の古文書だという。アレックスはシスター2人に手伝ってもらい、ドミニクを教会の墓地へ埋葬した。直後、 墓地に孤児の少年少女が現れた。アレックスが十字架を掲げて悪魔祓いの言葉を唱えると、彼らは消滅した。
アレックスはトーマスと合流し、マーラと3人でシン・イーターに関する書物を調べた。赦しの儀式によって罪が救われ、シン・イーター の心に刻まれる。シン・イーターは全ての罪を知り、重荷を背負う。シン・イーターの儀式を始めたのは、アレックスとトーマスも所属 するカロリーヌ修道会を破門されたメンバーだった。アレックスはドミニクが最後に購入したという古文書を読み、そこにシン・イーター を倒す手順が記されていると睨んだ。
アレックスたちの元を、ドリスコルが訪れた。アレックスは、ドミニクがシン・イーターに殺されたのではないかと告げた。ドリスコルは 「シン・イーターは教会の外にあって天国への道を示す背教者だ。悔い改めぬ者にも救いの道を与える異端者だ」と口にする。彼は、 ドミニクが「シン・イーターはローマにいる」と信じていたことを述べた。ドリスコルは「残念ながら、教会にはもはや解決に動く意思は 無いが、シン・イーターを倒す武器は残っている」と語る。彼は持参した短剣をアレックスに渡し、緊急の用だと言って立ち去った。教皇 の余命が長くないと言われており、ドリスコルは後継候補だった。
トーマスはアレックスに「闇の権力者シラクの元へ連れて行く」と告げ、ある秘密クラブへ案内した。店の奥から地下道へ入って先へ進む と、そこには邪教の神殿があった。トーマスは邪教の司祭シラクに「お前は俺に借りがある。シン・イーターの居場所を教えろ」と要求 した。すると司祭は一人の男を首吊り状態にして、質問をするようトーマスに促した。アレックスがシン・イーターの居場所を訊くと、 男は「全ての礎となった岩の上、神の国の鍵」という言葉を吐いた。
アレックスたちは、邪教集団によって神殿から追い出された。アレックスは謎の言葉を解読し、サン・ピエトロ寺院にシン・イーターが 現われると推理した。地下道を進んでいると、「トーマス、バカなことをしたな、娼婦を愛するなんて」という声が聞こえて来た。それは 悪霊の声だった。挑発に乗ったトーマスは十字架を掲げ、悪魔祓いの言葉を唱えながら声の方へ向かった。すると女の姿をした悪霊が出現 した。壁から数本の釘が発射され、トーマスの手や体に突き刺さった。
重傷を負ったトーマスは入院し、アレックスは一人でサン・ピエトロ寺院へと赴いた。そこにイーデンが現れ、「血と汗がこの寺院を 築いた。信仰ではない」と述べた。彼は少年時代の出来事を語り始めた。彼の兄は、ミケランジェロから寺院の建設を任された。少年時代 のイーデンは、父と兄に昼食を届けるのが日課となった。イーデンは兄から世界の話を聞くのが楽しみだった。
ある時、建設現場で崩壊事故が起き、兄はイーデンを助けて転落死した。兄は教会を破門されていたため、司祭の救済を受けられなかった 。エルサレムで、死に掛けたアラブ人に水をやったのだ。井戸が無かったために聖水を与えたことから、破門されたのだった。イーデンは 父の指示でシン・イーターを呼んだ。兄を見捨てた教会を憎んだイーデンは、男に教わってシン・イーターとなった。
アレックスは短剣を突き付け、「ドミニクを殺したのか」と詰め寄った。イーデンは落ち着いた態度で「彼は教会に殺された。破門されて 魂は抜け殻だった。生き甲斐を失って自殺したんだ。教会は兄と同じように、彼を見捨てたのだ」と述べた。イーデンはアレックスを車に 乗せ、屋敷へ連れ帰った。アレックスが「真実を知りたい。君は誰だ、人間か?」と尋ねると、イーデンは「笑うし、泣くし、恋もする。 だが、それで人間と言えるのか」と口にした。
イーデンに「君は人間か?」と問われたアレックスは、「司祭だ」と答えた。「司祭と人間は違う。これは真実だ。真実についてキーツの 言葉があった」とイーデンが言うと、アレックスは「美こそ真実、真実こそ美」と告げる。イーデンは「それを頭において質問だ。何が 望みだ?真実、それとも美しいもの?」と訊く。アレックスは「美しいものだ」と答えた。「美しいものの名は?」と問われ、「マーラだ 。マーラが欲しい」と言うと、イーデンは「ならば人間だ。そしてマーラが欲しいなら手に入れるべきだ」と告げた。
アレックスはマーラの元へ戻り、彼女と関係を持った。眠るマーラを見つめるアレックスの前に、イーデンは現れた。彼はアレックスを 飛行機に乗せ、仕事の現場へ同行させた。出向いたのは死の床にあるイギリスの貴族バーナムの屋敷で、報酬は高額の絵画だ。アレックス が「ドミニクは何を渡した?」と質問すると、イーデンは「昔、友情をくれた、そのお返しだ」と告げた。
バーナムの担当医から「お前らに何が出来る」と罵られたイーデンは、「お前たちは大事な命の神秘を奪い去って殺す。全て分かった気で いるが、何も分かっちゃいない」と鋭く言い返した。イーデンはアレックスが見ている中で、ベッドにアラム文字を書き、木片の十字架を バーナムの額に置いた。パンのカケラと一つまみの塩を胸に起き、アラム語の言葉を口にした。
イーデンはパンと塩を手に取り、「貴方を赦す」とバーナムに告げて食べた。するとバーナムの胸から罪の塊が飛び出し、イーデンの口 へと入っていった。苦悶して倒れ込むイーデンの傍らで、バーナムは安らかな表情を浮かべ、「私は自由だ」と言い残して息を引き取った 。イーデンはアレックスに、「シン・イーターも不死身ではない。やがて弱る。私はもう寿命だ。だが、伝統を絶やしたくない」と語り、 自分の後を継ぐよう持ち掛けた。
部屋に戻ったアレックスは、マーラに「イーデンが僕に全てをくれると言った。だが、君がいるだけでいい。いつまでも一緒だ」と告げた 。翌日、彼はイーデンに会い、「元は君のだろ」と短剣を渡した。そして「君の申し出は断る。マーラだけに年を取ってほしくない」と 述べて立ち去った。しかしイーデンは諦めず、アレックスがトーマスの見舞いに行っている間に、マーラの前に現れた。アレックスが部屋 に戻ると、マーラが手首を切って死の寸前となっており、その近くにはシン・イーターの儀式の道具が置いてあった…。

監督・脚本・製作はブライアン・ヘルゲランド、製作はクレイグ・ボームガーテン、製作総指揮はマイケル・クーン&トーマス・M・ ハメル、撮影はニコラ・ペコリーニ、編集はケヴィン・スティット、美術はミリヤン・“クレカ”・クリアコヴィッチ、衣装は キャロライン・ハリス、視覚効果監修はネイサン・マクギネス、音楽はデヴィッド・トーン。
出演はヒース・レジャー、シャニン・ソサモン、マーク・アディー、ベンノ・フユルマン、ピーター・ウェラー、 フランチェスコ・カルネルッティー、マッティア・スブラジア、ミルコ・カサブロ、ギウリア・ロンバルディー、リチャード・ブレマー、 クリスティーナ・マッカ、パオラ・エミリア・ヴィラ、ロザリンダ・セレンターノ、アレッサンドラ・コンツンツォ他。


『ペイバック』『ROCK YOU![ロック・ユー!]』のブライアン・ヘルゲランドが監督&脚本&製作を務めた作品。 アレックスを
ヒース・レジャー、マーラをシャニン・ソサモン、トーマスをマーク・アディー、イーデンをベンノ・フユルマン、ドリスコルをピーター ・ウェラー、ドミニクをフランチェスコ・カルネルッティー、書店の店長をリチャード・ブレマーが演じている。
「製作している最中にスタッフが次々に不可解な交通事故に病気に見舞われ、プロデューサーの謎の失踪を遂げ、2年間で5回の公開延期 を余儀なくされた呪われた作品」として宣伝されていたが、もちろん「怖い映画」としての箔を付けるための方便である。
オカルトやホラー系の映画では良くやる手口だ。
実際には、単に特殊効果がショボすぎたせいで撮り直しをしただけのことだ。

タイトルは「あくりょうぐい」と読む。
「罪喰い」ではカトリックに関する知識が無いと理解できないということで、配給会社が「罪」を悪霊にして邦題を付けたようだ。
しかしタイトルと内容は全く合っていない。それに劇中では悪霊は悪霊として別に登場しているので、紛らわしいことになっている。
ただし、では内容に沿うように『罪喰い』と付ければ良かったのかというと、それでも救えなかっただろう。
そもそも、この映画をヒットさせることは不可能に近い作業だったと思われる。

過去にイーデンがマーラの悪魔祓いをやったことも、そこでマーラがアレックスを殺そうとしたことも、まるで意味を持たない設定と なっている。
それが後の展開に繋がることは無い。
終盤、イーデンがマーラを精神的に追い込む際に、それを利用したのかもしれんが、観客からすると意味が無い。
あと、シン・イーターって「人間を超越した存在」のはずなのに、イーデンって「ちょっと不気味だけの、普通のオッサン」 にしか見えないぞ。

なぜトーマスが邪教の司祭を知っているのか、「お前は俺に借りがある」とはどういうことなのかは不明。
なぜドミニクが孤児の姿をした悪霊を呼び出したのか、なぜ地下道でトーマスの前に悪霊が現れたのかも不明。
そもそも、悪霊とシン・イーターは何の関係も無いのだ。
いや、ひょっとしたら関係があるのかもしれんけど、だとしても見ている限りは繋がりが分からない。
そもそも、シン・イーターとは全く別のところで物語に抑揚を付けようとしていることが解せない。

イーデンの屋敷で、アレックスは「真実を知りたい。君は誰だ、君は人間か?」と問い掛ける。
で、そこから「笑うし、泣くし、恋もする。だが、それで人間と言えるのか」とか、「司祭と人間は違う。これは真実だ」などという イーデンの言葉、アレックスとの会話があって、最終的にアレックスが「マーラが欲しい」と言い、イーデンに「マーラが欲しいなら手に 入れるべきだ」と告げられる。
なぜ、そんな会話の流れになるのか、サッパリ分からない。

イーデンから後を継ぐよう持ち掛けられた時、なぜアレックスが即答を避けるのか、そこで迷いを抱くのか分からない。
シン・イーターになることに関して、どんな魅力を彼は抱いたのか。
500年も1000年も生きて、多くの知識を得られるという部分に惹かれたのだろうか。
だが、他人の罪を全て背負って苦悶しなきゃいけないわけで、普通に考えると、迷うことなんて何も無さそうなんだが。

イーデンが姿を現した時、マーラは顔見知りのような反応を示す。
イーデンは「闇を覚えてるか、ナイチンゲールを。私の仕業だ。私がお前とアレックスを引き合わせた。2人の愛を作った」と言うが、 何のことだかサッパリ分からない。
マーラに悪魔を憑依させたのは彼なのか。
でも、シン・イーターって、そういう能力の持ち主じゃないよな。
罪を食べる能力を持っているだけの男が、なぜマーラと旧知の中で、悪魔祓いの場所にもいたという設定になっているんだろうか。
そもそもナイチンゲールって何のことなのか。

あと、イーデンは「ドミニクは私に力を貸してアレックスを売った」と言うのだが、具体的にどういうことなのかは良く分からない。
ドミニクの報酬はアレックスだということだろうか。
でも、イーデンはアレックスを罠に掛けて自分の後を継がせるけど、そこにドミニクは全く関わっていないし。
それよりも前にアレックスを売っていたということなんだろうか。
サッパリ分からん。

マーラが手首を切っているのも良く分からない。
イーデンが精神的に追い込んだのだろうが、具体的に何をどうやったのかは分からない。
イーデンが手を下したという可能性も考えられるが、だとしたらシン・イーターの儀式は必要無い。
で、もしも他殺なのに自殺だと誤解して儀式をやったとしたら、それはどうなるんだろう。
それも説明が無いから良く分からない。

あと、アレックスは慌ててマーラに儀式をやっているけど、どうやら死ぬ前に儀式をやらなきゃいけないってことのようだ。
破門された人間が赦されるには、死ぬ前にシン・イーターを呼ばなきゃいけないってことになると、ちょっと大変だぞ。
急死なんかだと、もう無理ってことだもんな。
っていうか、イーデンの兄の儀式って、既に死んだ後じゃなかったっけ。まだ生きてたっけ。
まあ、どっちでもいいけどさ。
それが「どっちでもいいや」と思えるぐらい、グダグダなシナリオだから。

終盤の展開は、なんか手順を幾つもスッ飛ばしているような感じ。
そして意味ありげに触れられた伏線らしきモノの多くは、放り出されたままで終わってしまう。
ドミニクが呼び出したという孤児の悪霊は何だったのか、最後まで分からない。
トーマスの前で車にはねられた男の「貴様らの教会は滅び、闇の教皇が現われる」という言葉は、何だったのか。
ドリスコルが邪教の司祭だったという展開があるが、それで消化したつもりなのか。
だとしたら、しょっぱい伏線回収だなあ。

(観賞日:2010年4月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会