『オーメン』:2006、アメリカ

2001年6月6日、イタリアのバチカン天文台で天体望遠鏡を覗いていた神父は、彗星を発見して顔色を変えた。彼から報告を受けた枢機卿は、深刻な表情を浮かべた。同じ日、イタリアのアメリカ外交官ロバート・ソーンは、妻キャサリンが産気付いたと連絡を受け、病院へ急行した。待ち受けていたスピレット神父は、流産したこと、そのことを眠っているキャサリンは知らないことを告げた。スピレットはロバートに、キャサリンの子宮が傷付いたため、二度と子供は産めないだろうと話した。
スピレットはロバートに、自分の知っている女が産んだ子供を引き取るよう持ち掛けた。その母親は、キャサリンの子供が亡くなったのと同時刻に死亡しており、家族もいないという。スピレットは、その男児を本当の子供として育てるよう勧めたのだ。ロバートは男児を貰い受け、キャサリンに見せた。キャサリンには、彼女が出産した実の息子だと嘘をついた。
ダミアンと名付けられた息子が2歳になった頃、イタリア大使ヘインズが英国大使に就任することが決まり、ロバートは副大使として同行することになった。ロンドン行きをロバートから聞かされ、キャサリンは喜んだ。ヘインズは車で移動中、渋滞に巻き込まれた。突然、横からトラックが突っ込んでガソリンが漏れ、ヘインズは車ごと炎上して死亡した。ロバートは34歳の若さで、英国大使への就任が決定した。大統領が彼の名付け親だったこともあり、そのことは大きく報道された。
2年後、キャサリンが公園でダミアンを遊ばせていると、無言電話が掛かった。電話を切ると、ダミアンの姿が無い。慌てて捜すが、それはダミアンの悪戯だった。ダミアンが5歳を迎え、盛大な誕生日パーティーが催された。記者のキース・ジェニングスは、取材で会場に来ている。ダミアンの乳母は犬を目撃し、魅入られたように視線を止めた。しばらくして、彼女は屋敷の屋上からダミアンに呼び掛けた。乳母は「私を見て。貴方のためにやる」と言って飛び降り、ロープで首を吊って死んだ。ロバートに抱かれたダミアンは犬と目を合わせ、手を振った。
ロバートが大使館で仕事をしていると、ローマからブレナン神父が訪れた。ブレナンはロバートに、「貴方には悪魔の子を引き取った責任がある。あの子は、また人を殺す」と告げた。ロバートが相手にせず立ち去ろうとすると、ブレナンは「息子さんが産まれた夜、私は病院にいた。あの子の出産に立ち会った。あれの母親はジャッカルだ」と話した。ロバートは全く耳を貸さず、警備員に指示してブレナンを追い払わせた。
新しい乳母として、ベイロック夫人がやって来た。彼女はダミアンに会い、「私は貴方の味方よ」と口にした。ある日、キャサリンがダミアンを教会へ連れて行こうとすると、ベイロックは「風邪をひいたかもしれない」と言い、彼を留まらせようとする。それでもキャサリンは、ダミアンを車に乗せた。しかし車内から教会を見たダミアンは、急に暴れてキャサリンに掴み掛かった。慌ててロバートが取り押さえ、教会行きは中止となった。
帰宅したキャサリンは、ダミアンを医者に診せた方がいいと主張するが、ロバートは賛成しない。その夜、ロバートは犬の唸り声を聞いて驚いた。寝室に犬が入り込んでいたのだ。そこにベイロックが現れ、外にいたので室内に入れたことを平然と告げた。「ダミアンに懐いているし、番犬にピッタリ」とベイロックは言うが、ロバートは動物愛護教会に引き取ってもらうよう指示した。 キャサリンはダミアンを連れて、他の母親達と共に動物園へ出掛けた。それまでおとなしかった猿の群れが、ダミアンを見て急に暴れた。キャサリンは情緒不安定になり、「カウンセリングを受ける」とロバートに告げた。数日後、ブレナンがロバートの前に現れ、「奥様に危険が迫っています。ビショップス・パークの橋の下で明日1時に待っています」と告げた。
翌日、土砂降りの中で、ロバートは指定された場所へ赴いた。ブレナンは彼に、メギドの町へ行ってブーゲンハーゲンという男に会うよう告げた。その男が、悪魔の子であるダミアンの殺し方を知っているのだという。さらにブレナンは、「奥様は身篭っています。不妊ではありません。しかし、奴は奥様も赤ん坊も殺し、やがて貴方も殺すでしょう」と語った。ロバートは腹を立て、「私の家族に近付くな」と告げて去った。ブレナンは教会へ戻ろうとするが、雷を受けて落下した避雷針に突き刺されて死んだ。
帰宅したロバートは、キャサリンから妊娠の報告を受けた。しかしキャサリンは、「もう子供は欲しくない。中絶する」と言った。ロバートは大使館員トムからのメールで、ブレナンの怪死を伝える記事を知った。ロバートはキャサリンのセラピストに呼ばれ、会いに行った。彼の説明によれば、キャサリンはダミアンを悪魔だと思っているのだという。
キャサリンは2階で椅子に乗り、吊り鉢の花に水をやっていた。その時、キックボードで遊んでいたダミアンが椅子に激突し、キャサリンは椅子から転げ落ちた。キャサリンは手すりに捕まり、引き上げるようダミアンに頼んだ。だが、ダミアンは無表情で見ているだけだった。キャサリンは1階に転落し、病院に運ばれた。病院に駆け付けたロバートは、医師からキャサリンの流産を聞かされた。重傷を負ったキャサリンは、ダミアンが殺そうとしたのだと、弱々しい声でロバートに告げた。
ロバートはキースから電話を受け、彼に会った。キースはロバートに、撮影したブレナンの写真を見せた。そこにはブレナンの死を予兆するかのような、不可思議な線が入っていた。死ぬ間際の写真では、彼に突き刺さった避雷針のような状態で写っていた。キースは、ブレナンが末期がんで死が近かったこと、太股に666の文字があったことを話した。
キースはロバートを連れて、ブレナンの家に入った。ブレナンの日記には、ロバートのことばかり書かれていた。室内には、5年前の6月6日に彗星が出現したことを伝える記事の切り抜きがあった。同じ日の6時に、ダミアンは産まれている。ロバートはキースに、ダミアンが実の子ではないことを明かした。ダミアンの親について調べようかとキースが持ち掛けると、ロバートは「私の問題だ」と遠慮した。キースは「僕の問題でもある」と告げ、自分を撮った写真にもブレナンと同様の線があることを明かした。
ロバートはキースと共に、ローマへ向かった。だが、ダミアンが産まれた病院は、5年前に火事で失われていた。2人はスピレットがいる修道院のことを聞き、そこへ向かった。スピレットは顔に大火傷を負い、口が不自由になっていた。ロバートが問い詰めると、スピレットはダミアンの母の墓がある場所を紙に書いた。母親の墓を掘り起こすと、犬の骨があった。
ロバートが隣にある墓を掘り起こすと、赤ん坊の骨があった。それはロバートの実子の骨だ。スピレットは5年前にロバートの子を殺し、ダミアンを与えたのだ。ロバートとキースは犬の群れに襲われるが、何とか逃げ出した。ロバートは病院に電話を掛け、キャサリンに危機を伝えようとする。だが、ダミアンを連れて訪問したベイロックが、キャサリンを殺害した。
トムからの電話で、ロバートはキャサリンの死を知った。ロバートはキースと共にブーゲンハーゲンという男の元を訪れ、数本の短剣を渡される。だが、そこにきてロバートは「ダミアンは悪魔の子ではないかもしれない」と、殺害を躊躇する態度を示した。悪魔の子である証拠として、ブーゲンハーゲンは「体のどこかに悪魔の印である666の文字が隠されている」と告げた。それでもロバートは、殺害をやめようとする。キースは「自分が殺す」と言い出すが、落下した看板で首を切断されて死亡した…。

監督はジョン・ムーア、脚本はデヴィッド・セルツァー、製作はグレン・ウィリアムソン&ジョン・ムーア、製作総指揮はジェフリー・ストット、撮影はジョナサン・セラ、編集はダン・ジマーマン、美術はパトリック・ラム、衣装はジョージ・L・リトル、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はジュリア・スタイルズ、リーヴ・シュレイバー、ミア・ファロー、シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック、デヴィッド・シューリス、ピート・ポスルスウェイト、マイケル・ガンボン、レジー・オースティン、エイミー・ハック、マーシャル・カップ、ジョバンニ・ロンバルド・ラディーチェ、ニッキー・アムカ=バード、ジョー・タウン、リチャード・リース、カルロ・サバティーニ他。


1976年にリチャード・ドナー監督が撮ったオカルト映画の傑作『オーメン』をリメイクした作品。今回の監督は『エネミー・ライン』『フライト・オブ・フェニックス』のジョン・ムーア。千年に一度しか訪れない6が3つ並ぶ日、2006年6月6日に世界同時公開された。
ビデオでは『オーメン666』という別タイトルになっており、そのB級チックな邦題の方が内容に適していると思う。
キャサリンをジュリア・スタイルズ、ロバートをリーヴ・シュレイバー、ベイロックをミア・ファロー、ダミアンをシーマス・デイヴィー=フィッツパトリック、ジェニングスをデヴィッド・シューリス、ブレナンをピート・ポスルスウェイト、マイケル・ガンボンが演じている。
また、オリジナル版でダミアンを演じていたハーヴェイ・スティーヴンスが、ダミアンの誕生日パーティーを取材している記者の一人として出演している。

脚本家として表記されているのは、オリジナル版と同じデヴィッド・セルツァー。
リライトはしているのかもしれないが、見た限り、ほぼオリジナルをなぞっているように思える。
ジェニングスの死に方など、若干の違いはあるものの、それは演出段階で手を加えていけるレヴェルのもの。
ガス・ヴァン・サント監督がヒッチコックの『サイコ』をまんま模倣するというリメイクをやっていたが、そこまで極端ではないものの、かなりオリジナル版に似せて作っていることは確かだ。

で、そうなると、「だったらリメイクする意味は何なのか」という疑問が生じる。
同じものを作るのなら、オリジナル版をリマスターして見せればいい。
まあ、大幅に改変したリメイク版を作ったところで、「オリジナル版を見ればいい」という感想になった可能性は高いと思うけどね。
っていうか、どうせリメイクしたのって、「2006年6月6日に6が3つ並ぶぜ、ここはリメイクのチャンスじゃねえの」という安易な理由オンリーだった気がしないでもないが。

ジョン・ムーアは、どうせ頑張ってアレンジしてもオリジナル版には敵わないと踏んだのかどうかは知らないが、とにかくオリジナル版をトレースするように作っているのだが、そのくせ根本的なところで捉え方を間違っている。
まず、あのジェリー・ゴールドスミスがオリジナル版で作曲した「アヴェ・サタニ」を劇中で使わないのが大間違い。
あれを使っておけば、それだけでも「パブロフの犬」状態で、怖い気分になる人もいただろうに。

配役も間違っている。なぜロバートがリーヴ・シュレイバーなのか。
ジョン・ムーアは、オリジナル版でグレゴリー・ペックが父親役を演じていたことの意味が全く分かっていない。ここは「良き父親」の似合う男優がやってこそ、そんな人物が息子を殺そうとする展開が効果的になるのだ。
ただ、何しろ製作サイドは、ロバートの候補としてジム・キャリーを考えていたぐらいなので、そりゃあ全く分かっていないよ。
「子供を殺しても納得できそうな俳優」を選ぶポジションじゃないんだぞ。

っていうか、ロバートって、ちっとも苦悩しないのな。
前半は全く疑いを持たず、疑いを持ったら真相究明のために行動するだけで、その中で「息子は本当に悪魔の子なのか」と悩んだり罪悪感に苦しんだりすることが無い。キャサリンの死を知ると、「ダミアンにも死んでもらわねば」と強い決意を見せている。
で、ブーゲンハーゲンに短剣を渡されるところで、ようやくチラッと苦悩や葛藤を表現しているが、まあ薄いわな。
リーヴ・シュレイバーが表情に乏しいってのも、ネックになっているんだろうな。

ジュリア・スタイルズは、リーヴ・シュレイバーに比べればミスキャスト度合いは低いが、ちよっと庶民的な匂いが強すぎる。ここは、もっと上品でセレブな雰囲気が欲しい。
ダミアン役のシーマス・デイヴィー=フィッツパトリックは、本人の問題より、見せ方に過ちがあるんだろう。早い段階から、「不気味な子、悪魔の子」として見せすぎている。
「ダミアンは全く邪悪を感じさせないのに周囲で悪魔的な出来事が多発するから、ロバートが苦悩する」ってのが効果的なはずでしょ。
でも、もうダミアンが分かりやすく「悪魔の子」としての印象を与えてしまうので、「さっさと殺してしまえよ」としか思えない。

ミア・ファローだけは、オリジナル版と同じく「いかにも怪しいです」オーラを振り撒いて、かなりの存在感。彼女だけが、唯一の見所と言ってもいいぐらいだ。
で、そんなミア・ファローに対してでさえ、ジョン・ムーアは演出を間違っている。
なぜ病院でキャサリンを殺す見せ場を、窓から突き落とすのではなく、注射という地味な形に改変するのか。
なぜ車にひかれて大きく吹っ飛ぶという、淡白で安っぽい退場をさせるのか。

オリジナル版では、殺人シーンがケレン味溢れる演出でショッキングに描かれていた。
そのオリジナル版を見ている人なら、今回の映画では、それが来る前に、どのタイミングで、どんな殺人が行われるのかは分かっている。
でも、そういうハンデがあるにせよ、最初から監督は諦めていたのかもしれないが、えらい淡白だな。
単純に、恐怖描写が下手なだけなのかな。もっと重厚感が欲しいのに、全体的に軽いんだよな。

ブレナンが死ぬシーンは、VFXによる落雷が陳腐で仕方が無い。
墓地のシーンでは急に犬の群れが襲ってくるが、この映画に求められているのはショッカー演出ではないでしょうに。
ロバートが教会へダミアンを連れて行くクライマックスではカーアクションがあるが、この映画に求められているのはスピード感のあるアクションではないでしょうに。
短剣を持って帰宅したロバートに向かって犬が疾走して来た時、地下室の扉を開けて衝突させるのだが、それを真横から撮った映像は、まるでコメディーみたいに見える。

彗星の発見と共に、アメリカ同時多発テロなど実際に起きた出来事のニュース・フィルムを流し、世界の様々な災難や事件とダミアンの誕生を絡めようとしている。
これは、映画をリアルに感じてもらうためにジョン・ムーアが手を加えた演出らしい。
だけど、そうやって最初に話のスケールをデカくすることによって、「世界を恐怖に陥れるような悪魔の子が、人間を一人ずつチマチマと殺していく」ということの馬鹿馬鹿しさが浮き彫りになってしまうというマイナスにしか繋がっていないんじゃないか。

(観賞日:2008年11月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会