『悪魔の植物人間』:1974、イギリス

大学教授のノルター教授は学生たちに食虫植物の映像を見せて解説した後、「我々の先祖は全て変種だった。偶発的な変異だけでなく、理論的には人間の形を自由に変えることも可能だ。死滅した生命の再生も出来る」と語る。いずれは恐竜が歩き回る世界が訪れるというノルターの話を、生徒のトニーは本気にしなかった。トニーは恋人のローレンと友人のヘディー&ブリジェットに、翌日にアメリカからの奨学生を空港まで迎えに行くことを話す。
トニーたちと別れて帰路に就いたブリジェットは、見世物小屋のチラシを貼っていた小人のバーンズに尾行される。気付いたブリジェットは慌てて逃げ出すが、醜い容貌の男に拉致された。男の正体は、見世物小屋のオーナーを務めるリンチだった。リンチはブリジェットを捕まえたことをノルターに報告し、「治せると言ったはずです。いつですか。約束は守っています」と告げた。見世物小屋のトレーラーに戻ったリンチは、ワゴン車にいたバーンズを見つけて「俺のワゴンに近付くなと言ったはずだ」と激怒した。
リンチはバーンズ「奴らの番をしてろ。さもないと施設へ送り返す」と告げた後、他のフリークスたちに「誰もワゴンには近付くなよ」と命じた。ワゴン車の中では、ブリジェットが薬で眠らされていた。その夜、リンチはブリジェットをノルターの屋敷へ運び込む。ノルターの研究室では、植物を使った実験が繰り返されていた。ブリジットは手術台に乗せられたところで目覚めるが、リンチに押さえ付けられて身動きが取れなくなった。ノルターは彼女の腕に注射器を突き立てた。
次の日、トニー、ヘディー、ローレンは空港へ行き、アメリカから来たブライアン・レッドフォードを出迎えた。ブライアンは生化学研究のために陸軍を辞め、ノルターの教えを受けることにしたのだった。講義に出席したノルターは、腐敗した果実に強力な光線を当てて再生させる実験を披露した。ノルターは学生たちに、「植物と動物の性質を兼ね備えた生物を誕生させれば、飢えとは無縁になる」と語る。トニーは馬鹿げた話だと感じるが、ブライアンは興味を示した。
ブライアンはノルターに、実現の可能性を尋ねる。するとノルターは「DNAが鍵を握っている」と言い、自分の家へ来るよう誘った。ノルターはブライアンを研究室へ招き入れ、実験によって生み出した多くの植物を見せた。ブライアンが感銘を受けていると、ノルターは10年前に完成させたという植物と動物の融合体を見せた。それから彼は「本意ではないが、これも必要なことだ」と言い、巨大な食虫植物にウサギを食べさせた。ノルターはブライアンに、「植物の性質を持つ人間の創造に生涯を捧げている」と語り、そのためには奇形の利用も必要だと語った。
見世物小屋では、小人のトニーやキャシーたちがリンチのことを話題にしていた。リンチはバーンズの金を使って見世物小屋を経営し、共同座長になっていた。バーンズがリンチに協力するのは、きっと弱みを握られているからだろうと彼らは推測していた。トニーたちは、見世物小屋に新しく入ったトカゲ女というフリークスことを話題にした。1年ほど前にも新顔が2人入ったが、数週間で姿を消していた。リンチがトカゲ女だけを監禁していることにトニーたちは納得していなかったが、バーンズに話しても無駄だろうと考えていた。
トニー、ヘディー、ローレン、ブライアンはカーニバルへ出掛け、見世物小屋に入ってみた。司会のバーンズは、次々にフリークスを舞台へ呼び込んだ。一座の目玉としてバーンズはチベットのトカゲ女の存在を語り、特別料金を支払う必要があることを説明した。ローレンが見たがったので、トニーたちは特別室へ行こうとする。しかし彼らは、バーンズがブリジェットと同じメダリオンを首から下げていることに気付いた。近くにいたリンチと目を合わせたバーンズは、もう満席だと嘘をついて4人を追い払った。
ノルターはリンチの元へ行って「実験台がもう1つ必要だ。まだ契約は続いている」と告げ、今度は健康な男が欲しいと要求した。トニーはバーンズのメダリオンが気になり、閉演したカーニバル会場へ潜り込んで見世物小屋を調べようとする。しかしリンチに見つかり、捕獲されて眠らされた。ノルターは新たな実験台にトニーを使い、彼と植物の細胞を融合させた。早く自分の顔を直すよう求めるリンチに、ノルターは病気を治療するためのウイルスを見せた。
バーンズとフリークスたちがキャシーの誕生パーティーを開いていると、リンチが苛立った様子で現れた。彼はパーティーに加わるよう誘われると、「フリークスと一緒に座るのか?」と差別的な視線を向ける。仲間扱いされることに激昂した彼は、会場をメチャクチャに荒らした。街に出たリンチは、売春婦の元を訪れた。顔を見て驚いた売春婦だが、すぐに「この商売にはいろんな人が来るわ」と告げる。「余計に払えば特別サービスもあるわ」と彼女が告げると、リンチは「愛していると言ってくれ」と頼んだ。
ノルターはリンチを呼び寄せ、トカゲ女の死体を見せた。リンチが袋に詰めた死体を車に積んで運び出す様子を、トニーが目撃していた。リンチは死体を公園へ運び、川に捨てた。ローレンが失踪して連絡の取れないトニーを心配していると、彼から「話がある。会いたい」という電話が掛かって来た。一方、ノルターはリンチから死体を捨てたという電話連絡を受け、「実験に成功したが、格闘して逃げられた。彼を捜すのだ」と命じた。しばらくしてローレンの家にトニーがやって来るが、その姿を見た彼女は悲鳴を上げた…。

監督はジャック・カーディフ、脚本はロバート・D・ワインバック&エドワード・マン、製作はロバート・D・ワインバック、製作協力はハーバート・G・ラフト&ブラッド・ハリス、製作総指揮はJ・ロナルド・ゲティー、撮影はポール・ビーソン、美術はハーバート・スミス、特殊メイクアップはチャールズ・E・パーカー、音楽はベイジル・カーチン。
出演はドナルド・プレザンス、トム・ベイカー、ブラッド・ハリス、ジュリー・エーゲ、マイケル・ダン、スコット・アントニー、ジル・ハワース、オルガ・アンソニー、リサ・コリンズ、トビー・レノン、アイシン・ダン、レスリー・ルース、トニー・メイン、ボブ・ブーラ、キャシー・キッチン、フラン・フレンワイダー、リチャード・デイヴィス、ジョン・ワイアフォード、O・T、フェイ・ブーラ、マッジ・ガーネット、モリー・トゥイードライ、ジョーン・スコット他。


製作と共同脚本を手掛けたロバート・D・ワインバックが、大好きなトッド・ブラウニング監督のカルト映画『怪物團』(『フリークス』などの別タイトルもある)にオマージュを捧げた作品。
撮影監督として『黒水仙』でアカデミー賞の撮影賞(カラー)を受賞し、監督としては『息子と恋人』や『あの胸にもういちど』などを手掛けたジャック・カーディフがメガホンを執っている。一部でカルト映画として人気がある映画だ。
ノルターをドナルド・プレザンス、リンチをトム・ベイカー、ブライアンをブラッド・ハリス、ヘディーをジュリー・エーゲ、バーンズをマイケル・ダン、トニーをスコット・アントニー、ローレンをジル・ハワース、ブリジェットをオルガ・アンソニー、売春婦をリサ・コリンズが演じている。
一時期は『ザ・フリークメーカー』という邦題でDVD発売されていたこともあった。

ブリジットたちと別れる前にトニーが「明日は空港へ奨学生を迎えに行く」と語っているが、そんなことを喋る必要性は全く無い。
翌日、いきなり空港へブライアンを迎えるシーンが描かれても、特に支障はない。
っていうか、そもそもブライアンが途中から物語に参加する必要性が薄い。最初に登場する生徒たちだけで充分だ。
そこでブライアンに該当するようなキャラ、つまり遺伝子学に強い興味があって深い知識を持つ学生を配置しておけばいい。

ブリジェットが失踪した後、トニーたちは全く心配する様子を見せない。
そりゃあ、まだ失踪してからたぶん2日しか経過していないから、「ただ講義をサボっただけだと軽く考えている」と解釈することも出来る。
だけど親友なんだから、誰か一人ぐらい「何の連絡もせずに2日も休むのは変だ」と考えたり、連絡を取ろうとして取れないので不審を抱いたりするという奴を用意しておいてもいいでしょ。その上で、見世物小屋のシーンに移った方がいいわ。
トニーが失踪した時は、すぐに「連絡が取れない」と心配しているのに。

普通に考えれば、「実験台にされたブリジェットの変貌した姿」をトニーたちの誰かが見て驚愕するというシーンを用意し、観客にもショックを与えるべきだろう。
それが話の流れとしては王道というか、誰がどう考えたって踏むべき手順だ。
ところが、この映画では、「ブリジェットがトカゲ女にされたことは確実」というところまでは示すものの、トカゲ女の姿を見せずに済ませてしまう。
それは普通に考えれば、明らかに手落ちということになる。

あえてジャック・カーディフと製作陣を擁護するならば、「他に本物のフリークスが何人も登場しているので、そちらのインパクトを重視するために作り物のミュータントを登場させなかった」という言い訳が出来ないこともない。
しかし、その言い訳も通用しなくなる展開が、その後に待ち受けている。トニーが変貌させられた姿は、平然と見せてしまうのだ。
そうなると、「じゃあトカゲ女を見せない理由は何も無いだろうに」ってことになってしまう。
後でトカゲ女の死体の顔らしき部分だけは写し出されるが、そんなのじゃ何の意味も無いし。そもそもリンチの顔だって特殊メイクなんだから、トカゲ女を登場させない意味は無いだろ。

ノルターの研究室が写った時、彼は植物の種子に液体を垂らして発芽させたり、枝に切り目を入れて葉を差し込んだりしている。つまり植物に何らかの作業を施しているわけだ。
ところが、彼はブリジットに液体を注射する。
それは奇妙な行動だ。ノルターは植物を変異させる実験に没頭しているはずであり、動物に植物の遺伝子を組み込む実験をやっていたわけではないのだ。
「人間をモルモットにする」という段階に進行していることを描きたいのなら、その前に「動物に植物の遺伝子を組み込む」という作業をやっているのを見せる必要性があるはずだ。

とは言え、「動物に植物の遺伝子を組み込む」という作業を描かない理由は分からないでもない。それを描くってことは、すなわち「実験によって出来上がった新種の動物」を見せる必要があるからだ。
だが、奇形の動物を特殊メイクなどで作り出すには、それなりに手間も金も要る。また、そこで「奇形の動物」を見せてしまったら、「奇形の人間」を登場させた時のインパクトも薄まるだろう。
そういう裏事情は分からんでもない。
ただ、それを理解してもなお、やはり「植物で実験を繰り返していたノルターが、人間を実験台にする」というのは不自然と言わざるを得ない。
それなら思い切って、植物に注射するシーンも削り落としてしまった方がいい。

ブライアンはノルターの研究室で様々な新種の植物を見ると、「これは凄い」と感嘆している。
でも、何がどのように凄いのかはサッパリ分からない。
続いてノルターは「10年前に完成させた」と言い、カプセルに入っている生物の死体を見せる。
どうやら植物と動物の融合体のようだが、何がどうなっているのかは良く分からないから、それに対して「凄い」とも思えないし、「恐ろしい」とも感じない。

終盤、植物人間となったトニーがローレンの元を訪れる。
大勢のフリークスを見せた後で作り物の植物人間を登場させると余計に陳腐さが増すという問題は置いておくとして、そこからの展開がヘロヘロ。ローレンはショックを受けて生気を失い、トニーは姿を見せないままヘディーにノルターの生体実験を伝える。
そのヘディーがリンチに拉致されてノルターの実験台にされ、ブライアンが助けに駆け付ける。リンチはフリークスたちに殺され、トニーはノルターを殺して屋敷と共に炎に包まれる。最後はヘディーがブライアンと抱き合い、彼女が植物人間になっていることを示唆して終わる。
ようするに、最後に来てトニーとローレンの恋人関係が無視されているのだ。
なんで拉致されるのがヘディーで、ローレンは消えたままで終わるのかと。最後の最後でブライアンとヘディーのカップルが主役の座に滑り込むって、どういう構成だよ。

フリークスから仲間扱いされたリンチが喚いて暴れ、売春婦に「愛してくれと言ってくれ」と頼む辺りは、フランケンシュタインの怪物チックな「フリークスの悲哀」を感じさせる。
いっそのこと植物人間なんて登場させず、「フリークスの悲哀を感じさせるリンチが治療を期待してノルターに協力していたが、都合良く利用されているだけと気付いて激昂し、彼を始末する」という話にまとめても良かったんじゃないか。
その場合、フリークスを侮蔑していたリンチのキャラを少し変えるか、もしくは「反省して和解する」というドラマを用意する必要はあるだろう。
だけど、そっちの方が植物人間を出すよりは上質な内容になりそうな気がするぞ。

この映画は『怪物團』にオマージュを捧げただけあって、まさに「フリークスの見世物小屋」が最大にして唯一の売りだ。
前述したようにリンチの容貌は特殊メイクであり、演じているトム・ベイカーは後にTVドラマでドクター・フーやシャーロック・ホームズを演じる俳優だ。
だが、マイケル・ダンやトニー役のトニー・メインたちは本物の小人だ。
ただし確証があるわけではないが、たぶんヒゲの生えた女やサルの顔をした女は付けヒゲや特殊メイクではないかと思われる。

バーンズ&リンチの一座は架空の見世物小屋だが、1974年当時、フリークスを出し物にした見世物小屋は実際に存在していた。
その内の1つ、ウォルター・L・ワナウス一家がやっていた見世物小屋の出演者たちが、この映画にも登場している。
眼球が飛び出すウィリー・イングラム、全身がワニ肌のエスター・ブラックマン、手足の骨が異様に変形して曲がっているプレッツェル男 のヒュー・ベイリー、カルシウム不足で両脚が退化しているカエル男のフェリックス・デュアルテという4名だ。
結局、この4人を見せたいってのが本作品の目的じゃないかな。小人はそんなに珍しくないけど、その4人は見世物としてのインパクトが強いし。
ようするに劇中の見世物小屋と同様、「フリークスを見世物にしよう」という映画だってことよ。

(観賞日:2014年9月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会