『アイランド』:2005、アメリカ

リンカーン・6・エコーは、ボートで“アイランド”へ向かっていた。その途中で海に引き擦り込まれ、そこでリンカーンは目を覚ました。 彼はベッドから起き上がり、部屋を出た。彼は他の住人たちと共に、管理の行き届いたコミュニティーで暮らしている。外の世界は大気が 汚染されているため、その施設にいるのだ。コミュニティーでの生活は、もう3年になる。
リンカーンがエレベーターに乗ると、小型テレビに抽選発表の様子が映し出された。コミュニティーでは、汚染の無い自然が残る最後の 楽園“アイランド”行きの抽選が毎日のように行われているのだ。今回、当選したのはスタークウェザー・2・デルタという黒人の男だ。 7年も抽選に外れ続けているガンドゥー・3・エコーは、苛立って壁を殴った。エレベーターが開くと、監察官が待ち受けていた。秩序を 乱したとして尋問されたガンドゥーは、慌てて釈明した。
リンカーンは食堂へ行き、朝食の配給を受けた。施設では皆が同じ服を着て、同じ時間に食事を取るのが決まりだ。リンカーンは朝食に ベーコンを食べたいが、それは許されない。するとジョーダン・3・エコーが現れ、配給係をおだててベーコンを手に入れる方法を教えた。 リンカーンは、ジョーダンと親しく付き合っていた。ただし施設では、接触することを禁じられている。
リンカーンはコミュニティーの責任者であるメリック博士に呼び出され、彼の部屋に赴いた。メリックはリンカーンがジョーダンと親密な 関係にあることを知っており、接触しないよう釘を刺した。メリックは、リンカーンが見るようになった悪夢について尋ねた。リンカーン は内容を説明し、求められてボートの絵を描いた。リンカーンはメリックに、自由に食事やオシャレが出来ないことへの不満を訴えた。 ボートの絵を見たメリックは、リンカーンの体内にマイクロセンサーを投入し、脳を調べることにした。
リンカーンは自分が暮らすセクター5の作業場に行き、仲間のジョーンズたちと共に仕事をする。しかしリンカーンは、それが何の仕事 なのか良く分かっていない。ジョーンズはリンカーンに、「もし抽選がランダムでなく決められているとしたら?」と話し掛けた。彼は 今までの当選者から分析した説を語るが、それはデタラメだった。妊娠中のリマ・1・アルファが陣痛を起こし、運び出された。出産は アイランド行きを意味しているため、仲間たちは拍手を送った。
リンカーンはコンピュータのメンテナンスだと監察官に嘘をつき、セクター6に赴いた。そこにいるエンジニアのマッコードと会い、酒を 飲んで会話を交わすことがリンカーンの息抜きなのだ。マッコードが仕事で呼び出された後、リンカーンはマッチが落ちているのを 見つけた。リンカーンは換気口から入って来た一匹の蛾に気付き、それを追い掛けて捕まえた。
マッコードが赴いたのは、セクター5の一つ上の階にあるメディカル・センターだ。そこでは、医師が大きな袋を破り、クローンを誕生 させていた。リンカーンはバーへ行き、ジョーダンに虫を捕まえたことを告げた。「虫は汚染で絶滅したはず。ちょくちょく生存者も 運ばれて来るが、どこから来たんだろう」と、リンカーンは疑問を呈した。その時、抽選発表が行われ、ジョーダンがアイランド行きに 当選した。リンカーンは複雑な表情を浮かべたが、ジョーダンを祝福した。
またボートの悪夢を見たリンカーンは、メディカル・センターに潜入し、看護師の服で変装した。リンカーンは、リマの出産シーンを目撃 した。しかし直後、リマは薬を打たれて殺害された。医師は赤ん坊を、別の部屋へと運んだ。そこには、リマそっくりの女性と夫が待って いた。医師は赤ん坊を、その夫婦の子供として渡した。その様子は、リンカーンは見ていない。
肝臓摘出手術を受けていたスタークウェザーは、暴れて逃亡を図った。監察官が追跡し、スターウェザーを連れ戻した。その様子を目撃 したリンカーンは、愕然とした。アイランドに行ったはずのリマもスタークウェザーも、そんな場所にいたのだ。メリックは監視ビデオに 写る看護師姿の男に目を留め、腕輪に気付いた。それは、セクターにいる人物だという証拠だ。メリックは腕輪の認識番号を調べるよう、 監察官に指示を出した。すぐに、それがリンカーンだと判明した。
リンカーンはジョーダンの元へ行き、「リマとスタークウェザーが殺された。アイランドなんて無いんだ」と告げた。リンカーンは彼女を 連れ出し、セクター5の地下へ向かう。すぐに監察官が追って来るが、2人は必死に逃げた。やがて2人はドアを開き、地上に出た。 つまり、外の世界だ。同じ頃、メリックは集まった顧客に対し、遺伝子操作法に引っ掛からないクローン技術のことを説明していた。 彼は「臓器は12ヶ月で使えるようになる」などと説明し、クローン人間を作っていることは明かさなかった。
警備会社のロレントと彼のチームが、国防総省に派遣されてメリックの元にやって来た。国防総省は、メリックが取り仕切るメディック・ バイオテック社に多額の投資をしている。メリックはロレントに、脱走した製品2体の確保を依頼した。メリックはロレントに、顧客の 一人サラ・ジョーダンは複数の臓器を必要としていること、この施設に疑問を抱いたのはリンカーンが初めてだということ、彼らの知識は 15歳程度にしてあることを語った。
リンカーンはマッチに書かれていた名前のバーを見つけ、ジョーダンと共に入った。店主にマッコードのことを尋ねると、奥のトイレに いると言う。リンカーンはマッコードを見つけ、どういうことなのか問い詰めた。マッコードは車にリンカーンとジョーダンを乗せ、自宅 に連れて行く。彼はリンカーンたちに、「お前たちは俺とは違う。本物の人間じゃない」と告げた。
マッコードは、詳しい説明を始めた。リンカーンやジョーダンは、この世界に暮らす人間のコピーだ。臓器移植が必要な場合、彼らから 摘出する。リンカーンたちの持っている過去の記憶は刷り込まれたもので、基本パターンは4つしか無い。汚染前の生活も、現実ではない。 リンカーンがクローン人間として誕生したのは3年前、ジョーダンは4年前だ。
金持ちの顧客がDNAを提供し、アグネイトと呼ばれるクローンが作られる。ただし注文したオーナーは、自分のクローン人間が普通に 生きていることを知らされていない。メリックは幾つもの法律を破ってアグネイトを作っており、それを知られたらビジネスは破綻する。 リンカーンとジョーダンは、自分たちの存在をオーナーに知らせようと考え、マッコードに協力を要請した。リンカーンのオーナーである トムはロサンゼルス、ジョーダンのオーナーのサラはニューヨークに住んでいた。
マッコードはリンカーンたちにクレジットカードを渡し、使い方を説明した。彼は2人を駅に連れて行き、ロサンゼルス行きの列車に 乗せようとする。だが、そこにロレントの部隊が現れ、マッコードは射殺された。リンカーンとジョーダンは逃亡し、何とか列車に乗った。 同じ頃、メリックは広報部長のホイットマンに、リンカーンが描いたボートの「レノバティオ」という文字について語っていた。その言葉 はラテン語であり、リンカーンの脳には刷り込まれていないはずの知識だった。
ロサンゼルスに到着したリンカーンとジョーダンは、クレジットカードを使ってサラの自宅にテレビ電話を掛けた。その情報をロレントの 部隊がキャッチし、身柄の確保に向かおうとする。だが、カードの不正使用でロサンゼルス市警が動いた。電話に出たのはサラの息子 だった。サラは病院にいるという。息子はジョーダンを見て、母親だと勘違いした。
パトカーが公衆電話に現れ、リンカーンとジョーダンは逮捕された。ひとまず捕獲を諦めたロレントは、パトカーを追跡する。ロレントは メリックに連絡を入れ、「警察は2人のDNA検査をする。それを知られるとマズいことになる」と告げた。ロレントは、DNA検査を 阻止するよう命じた。ロレントは車をパトカーに突撃させ、警官隊と激しい銃撃戦を開始した。
リンカーンはバイクを奪い、ジョーダンを乗せて逃亡を図る。ロレントの部隊が追跡して来るが、リンカーンたちはトレーラーに乗り移って 逃げ切ろうとする。何とか逃げ切った2人は、トムのマンションに乗り込んだ。リンカーンは、驚きに包まれたトムに事情を説明する。 トムはデザイナーで肝硬変を患っており、あと2年しか持たないと宣告されていた。リンカーンは、皆にクローンのことを知らせるため、 一緒にテレビ出演してほしいとトムに要求する。トムは承諾したと見せ掛け、メリックに密告した…。

監督はマイケル・ベイ、原案はカスピアン・トレッドウェル=オーウェン、脚本はカスピアン・トレッドウェル=オーウェン&アレックス ・カーツマン&ロベルト・オーチー、製作はマイケル・ベイ&イアン・ブライス&ウォルター・F・パークス、製作総指揮はローリー・ マクドナルド、撮影はマウロ・フィオーレ、編集はポール・ルベル&クリスチャン・ワグナー、美術はナイジェル・フェルプス、衣装は デボラ・リン・スコット、視覚効果監修はエリック・ブレヴィグ、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン、スティーヴ・ブシェミ、ジャイモン・フンスー、ショーン・ビーン、 マイケル・クラーク・ダンカン、イーサン・フィリップス、マックス・ベイカー、 ブライアン・ステパネク、ノア・ティシュビー、シオバン・フリン、トロイ・ブレンデル、ジェイミー・マクブライド、ケヴィン・ マッコークル、ゲイリー・ニッケンズ、キャスリーン・ローズ・パーキンス、リチャード・ウィッテン他。


『パール・ハーバー』『アルマゲドン』のマイケル・ベイ監督が、初めて大物プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーと袂を分かって 手掛けた作品。
で、見事にコケた。1億2千万ドルの製作費を投入して、アメリカ国内の興行成績は約3500万ドルに終わった。
ジェリー・ブラッカイマーと言えば悪名高き人物だが、マイケル・ベイにとっては「ダメな映画でもヒットに導いてくれる素晴らしき パートナー」だったことが、この作品によって証明されたわけだ。
リンカーンをユアン・マクレガー、ジョーダンをスカーレット・ヨハンソン、マッコードをスティーヴ・ブシェミ、ロレントをジャイモン ・フンスー、メリックをショーン・ビーン、スタークウェザーをマイケル・クラーク・ダンカン、ジョーンズをイーサン・フィリップス、 マックス・ベイカーが演じている。
製作総指揮のローリー・マクドナルドは本作品がコケたことに関して主演2名、特にスカーレット・ヨハンソンを批判したが、それは違う と思うぞ。

この映画、1979年の『クローン・シティ/悪夢の無性生殖』(日本未公開)に内容が酷似しているとして、訴訟を起こされている。
『クローン・シティ/悪夢の無性生殖』は未見だが、内容について調べた限りでは、主人公が臓器移植のために作られたクローンで、それ を知って逃げ出すなど、かなり似ている。
そこにM・ナイト・シャマラン的な感覚があるように思えてしまう。
もちろん『アイランド』を製作したドリームワークスとワーナー・ブラザースは、「全くのオリジナルである」と主張したが。

アメリカで劇場公開された時の予告編では、アイランドの正体は謎のままにされていた。しかし日本公開時の予告編では、その辺りは バラしている。
一見、それは愚かな行為のようにも思えるが、実は本作品の核心を理解したものだ。
何しろ監督はマイケル・ベイ。
彼にとってはミステリーなんてどうでもいいことで、派手なアクションシーンこそが全てなのだ。
マイケル・ベイ監督は「深く考えずに楽しむ映画」じゃなくて「深く考え出したら粗が多すぎてキツい」という映画を作る人だ。

クローンを作った目的から考えると、その管理体制にクローンが疑問や不満を抱くようなことがあっては困るはず。
しかしリンカーンは登場した段階で、不満や疑問だらけだ。映画の途中、何かのきっかけで不審や疑問を抱くようになるのではない。
メリックはロレントに「ここに疑問を持ったのはリンカーンが初めてだ」と言うが、リンカーンだけがイレギュラーな存在なのではない。
ガンドゥーは抽選会に不満を覚え、ジョーンズは抽選がランダムではないと考える。管理体制ではなく抽選に対するものだが、それでも 不満であることに違いは無い。
そういうトラブルの種は、避けるべきでしょ。だったら、洗脳するなりロボトミー手術をするなり、何か手を打つべきじゃないのか。管理 された施設に見えているが、もっと中身も管理しておかないと。どうせ臓器を取り出したら殺すんだから、人間らしい生活や感情なんて 不必要なんだし。

メディカル・センターから逃げ出したリンカーンを追った監察官は、いきなり暴行を働く。
でも、リンカーンは大事な製品なんだから、なるべく傷付けたらマズいんじゃないのか。そのためにスタンガンなり麻酔銃を用意しておく べきじゃないのか。っていうか、簡単にメディカル・センターに潜入されるわ、簡単に外の世界に出られるわと、警備体制はユルユル なんだな。
メリックはリンカーンとジョーダンについて「外の知識はわずかで、15歳の子供と同じぐらい」と説明する。だからリンカーンはバイク を見て驚いているが、でも初めて外の世界を見た時に、そんなに驚いていなかったような気が。外の世界が大気汚染されていないことにも、 そんなに驚きは無かったような気が。
その後、街に出ても、驚いたり理解していなかったりする部分もあるが、普通に順応している部分もある。車に乗るのも一軒家に行くのも 初めてのはずだが、これといったリアクションは無い。

ロレント一味は駅でマッコードを射殺するが、そんなに大きな騒ぎを起こしたら警察が動き出して面倒になるだろうに。
ロサンゼルスでも、警官隊と激しい銃撃戦を繰り広げる。いやいや、その直前、アンタたちは「警察が動いているから」という理由で、リンカーンたちの確保を 中止したはずだろうに。そこでパトカーを破壊したり銃撃したりしたら、意味が無いじゃねえか。そこまで大暴れしたら、もはや警察 どころかFBIも動き出すぞ。
さらにロレント一味は、バイクで逃げるリンカーンとジョーダンを追跡して激しいカーアクションを繰り広げる。リンカーンは乗り方も 知らないのに、バイクに乗った瞬間から巧みな運転を披露する。トラックは荷物を落としまくるが、運転手は停止しない。ロレントは 「静かに片付けるつもりだったが」と言うが、既に駅で派手に暴れてるからね。
っていうか、片付けるつもりだったのかよ。製品の回収が任務じゃなかったのか。
まあ超高層ビルのてっぺんから墜落してもリンカーンもジョーダンも無傷なぐらいだから、殺しても死なないかもしれんけどね。

ジョーダンが「あの子のママ(サラのこと)、死に掛けているんでしょ」と気にする場面があるが、そこだけで終わる。それ以降、彼女が 人間のことを気にすることは一度も無い。リンカーンに至っては、「クローンがいなければ助からない人命がある」という問題を、最初 から全く考えていない。自分たちが助かるためには、どれだけの人間が犠牲になろうが平気なのだ。
リンカーンは「自分たちが生きるためなら何をやってもいい」という、生への欲望を剥き出しにしたキャラクターだ。トムを殺してヘラヘラ と笑い、「俺は何をしても生きていたいんだ」と、冷然と言ってのける。
まあ考えてみれば、人間も自分たちが生きるために大勢の動物を殺しているんだから、そういう考え方を全否定するわけにもいかない かもね。
ただし、その利己主義にしか見えない考え方によって、リンカーンが好感の持てるキャラクターにっていないことは確かだけど。

リンカーンの好感度を考えて、トムを殺す際には「メリックに密告した奴だから」という言い訳を用意する。
でも、殺されるほどの悪党だったかね、トムって。
あの状況で、いきなり瓜二つの男が現れて「テレビに出演して協力しろ」と要求されたら、怖くなってメリックに連絡しても仕方が無い ような気がするが。そこでホイホイとリンカーンに協力するほど物分かりのいい人間は、そう多くないだろう。
ジョーダンの方も、「サラは臓器移植をしても助からない可能性が高かった」という言い訳を用意する。

ロレントはリンカーンがトムに装着した腕輪を見ただけで、そっちがリンカーンだと判断して射殺する。
アンポンタンだな、こいつは。
大体さ、もう逃げられない状況になっているんだから、腕や足を撃って動けなくして、捕まえればいいでしょ。殺す必要性が無いし、 殺さないで済むなら、そうすべきだ。殺したら、またクローンを作り直さなきゃいけなくなるんだから。
で、ホイットマンは「また作り直す」と言ってるが、リンカーンは誕生から3年が経過しているんでしょ。ってことは、移植に必要な状態 になるまでに、3年は必要ってことでしょ。でもトムの肝臓は2年しか持たないのよ。今から作り直しても間に合わないぞ。
っていうか、臓器なんて若い方がいいはずだし、オーナーと同年齢に合わせる必要は無いでしょ。まだリンカーンやジョーダンはともかく 、ガンドゥーやジョーンズなんて、もうオッサンだぞ。

リンカーンがボートの絵に記したラテン語は、トムの持っている知識だということが判明する。
でも、どうやってトムの知識がリンカーンにワープしたのかは不明。
そして、そのことが物語において何の意味を持っているのかも不明。
不明っていうか、最初から意味なんて無いと思う。
ロレントの裏切りは唐突で、きっかけも弱い(っていうか、きっかけなんて無いに等しい)。

「オーナーが生きるためにはクローンの死が必要で、クローンが生き残るとオーナーの命は失われる」という難しい問題を抱えているが、 この映画は、そこから逃げている。
逃げているっていうか、そんな問題を持ち込んでおきながら、答えに向かおうとする気は最初から無い。
リンカーンとジョーダンが外の世界に出たら、そこからは完全にアクション映画。
前述したように、かなり粗い作りだが、「ポップコーン・ムーヴィーだから、細かいことは気にするな」ってことなのか。

リンカーンとジョーダンがクローンの仲間たちを解放したラストをハッピーエンドのように描いているが、むしろ新たな悪夢の始まり、 もしくは混沌の始まりになっているんじゃないの。
大量のクローンが溢れ出したら、同じ顔、同じDNAを持つ人間がいるんだから、大混乱に陥るでしょ。
それに、クローンはどうやって生活していくんだよ。
リンカーンみたいに、オーナーを殺してそいつに成り済ますのか。

(観賞日:2008年11月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会