『インベージョン』:2007、アメリカ&オーストラリア

予定外の着陸を試みたスペースシャトルが爆発し、ダラスからワシントンに掛けて破片が落下した。有害物質が付着している可能性がある ということで、NASAの責任者は破片に触れたり持ち帰ったりしないよう警告する。一部地域が隔離され、CDC(疾病対策センター)の タッカー・カウフマンが指揮官として現場入りする。タッカーが現場入りした時点で、非常に生命力の強く、内生胞子を持つ地球外物質に よる汚染が確認されていた。
隔離地域を去ろうとしたタッカーは、少女から「ウチの屋根に、これが」と破片を渡される。それを手に取ったタッカーは、指先に小さな 傷を負った。帰宅すると、妻のジーンは些細なことで不機嫌になった。深夜、タッカーの肉体は変貌を遂げようとしていた。同じ頃、 ワシントンで精神科医をしているキャロル・ベネルは、悪夢を見た一人息子オリヴァーの泣き叫ぶ声で目を覚ます。慌てて息子の寝室へ 赴いた彼女は、優しく話し掛けて落ち着かせた。
翌後、キャロルが仕事の準備をしていると、別れた夫であるタッカーから電話が入った。「昔の家に戻った。オリヴァーに会いたい。僕 には息子に会う法的な権利がある」とタッカーが言うので、キャロルは「ダメよ」と電話を切った。オリヴァーを学校へ送り届けた後、 彼女は友人である科学者のベンに車で診療所の近くまで送ってもらう。タッカーは4年前にアトランタへ移り住んでから、オリヴァーには クリスマスと誕生日に電話するだけだった。そのタッカーが面会を求めて来たことを、キャロルはベンに話す。
キャロルが診療所へ行くと、患者のウェンディーが既に来ていた。彼女はDV夫のリチャードに悩んで4年前から診療所に通っていたが、 その日は「主人が私の主人じゃない。仕草や目付きで分かる」と口にした。リチャードは変な飲み物を持って来て、コップを投げ付けても 怒らないという。さらに、おとなしかった飼い犬がリチャードに吠えかかったり、その飼い犬を彼が殺したり、無表情で死骸をゴミ箱に 捨てたりしたという。キャロルは妄想だと考え、薬の処方箋を出した。
ハロウィンの夜、仮装をしたオリヴァーは、友人のアンディーたちと共に外へ繰り出した。キャロルとアンディーの母パムは、子供たちに 付き添った。ある家に行くと、飼い犬が激しく吠えた。家から出て来た主人は、「なぜか分からないが、おかしくなってるんだ。他に家に 行ってもらえないか」と頼む。子供たちが去った直後、その犬が家から飛び出してアンディーに襲い掛かった。しかしアンディーは全く 怯えず、無表情で犬の口を押さえ付けた。
お菓子を集めて帰宅した後、オリヴァーが「これ取って」と叫ぶ。キャロルが見ると、オリヴァーの手の指に奇妙な物質が付着していた。 それは透明のゴムのような物質だったが、細胞の線のようなものが見えた。翌日、彼女はその物質をベンに渡し、調査を依頼する。ベンは 「ハロウィンのおもちゃか何かだろう」と軽く言う。ベンの同僚であるスティーヴン・ガレアーノは、それがネットで騒ぎになっている 物質だと教える。他の街でも、奇妙なサンプルが見つかっているらしい。
新型インフルエンザにより、大勢の人々が死んでいた。タッカーは記者会見で、「新型ウイルスは通常のインフルエンザウイルスより強い 。感染拡大のための対策としては、ワクチン注射が一番だ」と述べた。キャロルが診療所へ行くと、リチャードが待っていた。「妻が今日 、ここへ来ると言っていた。連れて帰る」と、彼は落ち着いた様子で言う。キャロルはオフィスに入ってウェンディーに電話を掛け、夫が 来ていることを知らせた。ビルの近くまで来ていたウェンディーは、「家に戻って荷物をまとめて、妹の家に行くわ。貴方をどこまで信用 できるか分からないけど、引き留めておいて」と言ってタクシーに乗り込んだ。
キャロルはオリヴァーをタッカーに預けるため、車で送って行く。トンネルに入った時、引きつった表情の女が急に飛び出してきた。 慌ててキャロルがブレーキを掛けると、彼女は「奴らが来る。警告しないと。私たちの中に紛れてるのよ」と叫んだ。彼女は別の車を 止めようとするが、はねられて死亡した。はねた男は全く動じず、無表情のままだった。キャロルが女に駆け寄ろうとすると、パトカー から降りて来た警官が「車に戻って下さい。貴方の車の番号を控えました。話を聞く時は連絡します」と無表情で告げた。
キャロルはオリヴァータッカーに預け、ベンから誘われていたパーティーに出掛けた。ベンは友人でパーティーの主催者であるチェコの ヘンリク・ベリチェク大使と彼の妻リュドミラをキャロルに紹介する。同じ頃、オリヴァーは親友のジーンとゲームで遊びながら、「パパ は少しおかしい」と口にしていた。するとジーンは、「ウチのパパもだ」と言う。ベリチェク夫妻の屋敷では会食になり、キャロルの隣 にはロシア大使のヨリッシュが座った。ヨリッシュがヘンリクを皮肉るようなことばかり話すので、場は白けてしまった。
ヨリッシュはキャロルに、「然るべき状況では、人は誰でも恐ろしい犯罪が出来る。そうではない世界を想像してみるといい。争いが新た な暴力を生まない世界を。新聞に戦争や犯罪の記事が載らない世界を。それは人間が人間であることをやめた世界になるだろう」と語る。 キャロルは巧みな弁舌で、その場の雰囲気を変えてみせた。彼女はベンに家まで送ってもらい、車内でキスを交わす。だが、すぐに彼女は 「今の関係のままでいたいの。親友のままで」と告げ、それ以上踏み込むことは避けた。
キャロルが家にいると、真夜中だというのに国税調査員の男がやって来た。男はドアチェーンを外し、強引に押し入ろうとする。キャロル がドアを閉めて施錠すると、男は立ち去った。翌日、キャロルは出勤する途中で見掛けた人々に異様な雰囲気を感じる。彼女が診療室へ 行くと、助手のカーリーが患者のキャンセルを伝える。ウェンディーのことを尋ねると、連絡は無いという。キャロルがウェンディーの 携帯電話に連絡すると、リチャードが出た。ウェンディーのことを訊くと、彼は「妻は眠っている」と述べた。
キャロルの部屋に、カーリーが「新しい紅茶です」とカップを運んで来た。それをキャロルが飲もうとした時、ベンから電話が入った。 サンプルの検査結果が出たのだ。キャロルが研究施設へ出向くと、ガレアーノは「君が持って来たサンプルは、ウイルス感染後の汗が凝固 した物だ。睡眠時のホルモンがウイルスと反応し、老廃物が放出されたんじゃないかな。ウイルスを殺そうとしたが、370度の高熱を 当てても生き延びた」と説明した。
ガレアーノはキャロルとベンに、知人の研究者が「ウイルスの正体は、人間のDNAを一夜にして書き換えてしまう知性を持った生命体で ある」という仮説を立てたことを話す。ガレアーノは「世界中で同じ現象が起きており、ヨーロッパや日本では対策が講じられようとして いる。しかしアメリカではインフルエンザとして処理されている」と話す。ベンにリュドミラから電話が入った。彼女は「ヨリッシュの 様子がおかしくなったの」と言う。キャロルはオリヴァーと話すため、タッカーの携帯に電話を掛けるが、留守電になっていた。
キャロル、ベン、ガレアーノがベリチェク邸へ行くと、リュドミラはヨリッシュが「妻と一緒に居たくない、ヘンリクのことも心配だ」と 言って急に訪れたことを語った。キャロルたちが寝室へ行くと、ベッドで眠っているヨリッシュは、肉体の細胞が凝固して膜になっていた 。ガレアーノは「急に起こしたらまずい」と言う。ヨリッシュは急に起き上がって階段まで這いずり、そこで動きを止めた。ガレアーノは 「レム睡眠が中断されて、心臓が停止したんだ」と説明した。
オリヴァーが心配になったキャロルは、急いでタッカーの家に向かう。だが、そこにオリヴァーの姿は無く、タッカーは4人の仲間と一緒 にいた。キャロルがオリヴァーの荷物をまとめて去ろうとすると、タッカーたちは彼女を包囲した。タッカーは「目が覚めても、君は 変わらない。抵抗するな。無駄だ」と言ってキャロルを押さえ付け、謎の液体を口から吐いて彼女に浴びせる。タッカーは「もう手遅れだ 。終わった」と言う。キャロルは車に乗って逃走した。
キャロルが街に出ると、外を歩いている人々もタッカーと同様に表情が無かった。キャロルが車を捨てて地下鉄に乗ると、乗客も無表情の 連中ばかりだった。携帯を確認すると「どこか分からないけどパパに連れて来られた。助けに来て」というオリヴァーからのメッセージが 入っていた。彼女が泣きそうになると、ジョンという乗客が「落ち着くんだ。落ち着いていないと、奴らに気付かれる。感情を表に出さず 、無表情でいれば大丈夫だ」と告げた。
隣の車両から無表情の感染者たちが来ると、ジョンの隣にいた女が立ち上がって彼らに突っ掛かった。まだ感染していなかった数名の乗客 は避難してドアを閉めるが、感染者たちは列車を停止させる。彼らはドアを突き破り、ジョンたちに液体を吐いた。キャロルは電車から 飛び降り、トンネルを走って逃亡する。施設内で拳銃を発見した直後、職員が近付いて来た。職員が拳銃を奪おうとしたので、キャロルは 思わず発砲して殺してしまう。
地上に出たキャロルは感染者を装って歩き回り、オリヴァーを見つけ出そうとする。しかし見つけることが出来ず、ベンたちの元へ戻った 。ガレアーノは「アメリカだけで数千万人が感染しており、感染しているかどうかを知る方法は無い。眠らないようにする以外、対策は 無い」と述べた。感染したヘンリクが仲間を引き連れて戻ったので、キャロル、ベン、ガレアーノ、ベリチェク邸の家政婦は逃げ出した。 キャロルはウェンディーが警官に捕まるのを目撃した。ウェンディーは「もう眠ったのよ」と喚いていた。
キャロルとベンはガレアーノたちと別れ、別行動を取ることにした。キャロルはウェンディーのことをベンに話し、「もし眠っても感染 しなかったのなら、免疫があるってことよ」と言う。彼女のカルテを見るため、2人は診療所へ向かう。ウェンディーのカルテを調べた 2人は、彼女が幼少時にADEM(急性散在性脳脊髄炎)を患っていたことを知る。ベンは「その病気が原因で、彼女は免疫が出来たん じゃないか」と意見を述べた。
キャロルは、オリヴァーもADEMになったことがあると思い出す。オリヴァーにも免疫がある可能性が出て来たが、それが感染者に 知られたら危険だ。一方、ガレアーノは対策を講じている施設へ行き、研究者たちと共にワクチン開発を始めていた。ベンは彼に電話を 掛けてウェンディーのケースについて説明し、オリヴァーも同じ免疫を持っていることを話した。オリヴァーからのメールで、彼が ボルティモアにあるタッカーの母ジョーンの家にいることが判明した。キャロルはベンに、自分が感染していることを打ち明けた。ベンは 自分が囮となって警官たちを引き付け、その間にキャロルを逃がした…。

監督はオリヴァー・ヒルシュビーゲル、原作はジャック・フィニイ、脚本はデヴィッド・カイガニック、製作はジョエル・シルヴァー、 製作協力はデヴィッド・ガンビーノ&ジェシカ・アラン、製作総指揮はロイ・リー&ダグ・デイヴィソン&スーザン・ダウニー& スティーヴ・リチャーズ&ロナルド・G・スミス&ブルース・バーマン、撮影はライナー・クラウスマン、編集はジョエル・ネグロン& ハンス・フンク、美術はジャック・フィスク、衣装はジャクリーン・ウェスト、視覚効果監修はボイド・シャーミス、音楽はジョン・ オットマン。
出演はニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ、ジェレミー・ノーサム、ジャクソン・ボンド、ジェフリー・ライト、ステファニー・ ベリー、ヴェロニカ・カートライト、スーザン・フロイド、アダム・レファーヴ、ジョアンナ・マーリン、ロジャー・リース、ジョセフ・ ソマー、セリア・ウェストン、エリック・ベンジャミン、アレクシス・レイベン、フィールド・ブローヴェルト、レイド・サッサー、 ブランドン・J・プライス、ミア・アーニース・チェンバース、アヴァ・レネット、マイケル・A・ケリー他。


ジャック・フィニイのSF小説『盗まれた街』を基にした作品。
キャロルをニコール・キッドマン、ベンをダニエル・クレイグ、タッカーをジェレミー・ノーサム、オリヴァーをジャクソン・ボンド、 ガレアーノをジェフリー・ライト、カーリーをステファニー・ベリー、パムをスーザン・フロイド、リチャードほアダム・レファーヴ、 ジョーンをジョアンナ・マーリン、ヨリシュをロジャー・リース、ヘンリクをジョセフ・ソマー、リュドミラをセリア・ウェストンが 演じている。
『SF/ボディ・スナッチャー』で主人公の友人の妻ナンシーを演じていたヴェロニカ・カートライトが、ウェンディー役で 出演している。
アンクレジットだが、オータム役でマリン・アッカーマンが出演している。

原作は1956年の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(ドン・シーゲル監督)、1978年の『SF/ボディ・スナッチャー』(フィリップ・ カウフマン監督)、1993年の『ボディ・スナッチャーズ』(アベル・フェラーラ監督)と3度の映画化があり、これが4度目になる。
今回の監督は、『es [エス]』『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。ハリウッドに招聘され、英語作品 を初めて手掛けている。
ただしプロデューサーのジョエル・シルヴァーは出来上がりに納得せず、アンディー・ウォシウスキーとラナ・ウォシャウスキーに 追加撮影を依頼した。2人は追加部分の脚本を執筆したが、多忙だったため、監督はジェームズ・マクディーグが担当している。
「小説や今までの映画版は有名だし、この映画を見る人の大半は、たぶんネタを知ってるでしょ」ということなのか、この作品は話の肝に なってくるような部分を序盤から平然と明かしている。
それを隠しておくことによってミステリーやサスペンスの盛り上がりが期待できるはずだが、「どうせ映画が始まる前から大半の観客には ネタバレしてるんだから、隠しても無駄だろう」とでも考えたのだろうか。

冒頭で胞子を持つ物質による汚染があることが示され、指先を負傷したタッカーの肉体が変貌しようとする様子が描かれている。これに より、キャロルの元へ電話を掛ける彼は、もう以前とは別人になっていることがハッキリしてしまう。
キャロルは以前と同じだと思っているし、だからこそ「何か変だ」と不審を抱いたり、不安を覚えたりして、そこに緊張感や恐怖が生じる はずだ。
ところが、どれだけキャロルが不安になろうとも、こっちは彼女よりも随分と早い段階で、タッカーがおかしくなっているのを知って いる。
一応、そこがネタバレしていようとも、サスペンスとして伝わるモノがゼロになるというわけではないが、しかしネタバレさせずに進めた 時と比較すると、かなり下がっていることは確かだ。
ベタで古めかしい表現だが、月とすっぽんぐらいの差がある。

感染した人間は完全に感情が失われるのかと思ったら、そうでもないんだよな。
少なくともタッカーを見ている限り、微笑を浮かべたり、ジョークっぽいことを口にしたりしている。
そういうのは、無感情だったら有り得ないことだ。
「感情が失われる」ということに対する恐怖感を醸し出さなきゃいけないはずなんだけど、微妙にズレてるんだよね。
感情が失われるんじゃなくて、「残虐な行為(特に殺人)に対して、何も感じなくなる」という部分しか見えないんだよな。

国税調査員なんかは、無表情ではなくて、明らかにキャロルを睨み付けている。つまり「怖い形相」になっているのだ。
そうじゃなくて、ホントならドアを閉められても無表情で何事も無かったかのように立ち去らなきゃダメでしょ。
カーリーにしても、キャロルに紅茶(明確になっているわけじゃないが、たぶん感染する液体が入っている)を飲まそうとする時には、 微笑を浮かべている。
芝居の付け方が、本来の設定と合致していないんじゃないか。

侵略者が人々を感染させる方法が「液体を口から吐いて浴びせる」というのは、すげえアナクロなやり方だ。
人々が表情を出さないだけで、侵略者は相手が感染しているかどうか見抜けなくなるってのは、すげえマヌケに見える。
あと、「無表情かどうか」ってのも、どこに基準があるのか良く分からないしね。
そもそも前述のように、侵略者も「表情が全く変化しない」というわけではないのよね。
そうなると、基準がブレブレになっちゃうでしょ。

これまでの映画化作品では、「侵略者は人間の複製を作り、それと同時にオリジナルだった人間が死ぬ」という設定になっていた。
だが、今回の映画版では、侵略者は複製を作るのではなく、その人間の遺伝子を組み替えて別人に変貌させる。
遺伝子という要素を使うことで現代的にしよう、あるいはリアリティーを持たせようとしたのかもしれない。
ただ、これによって「死への恐怖」は無くなった。

「侵略者はDNAを変化させて別人にする」ということなので、「自分が自分でなくなることへの恐怖」というところでサスペンスを 盛り上げていかなきゃいけないはずだ。
しかし、そういうのも、あまり感じられない。
あと、感染した奴は、明らかに感染していることが露骨に分かってしまうのよね。
だから、「周囲の人間が敵か味方か分からない」というところで不安を煽ることも出来なくなっている。

今回は「誰が敵か味方か分からない」というところで不安を煽るのではなく、「キャロルが眠りそうになる」というところでサスペンスを 盛り上げようとしているのかもしれんけど、それってポイントがズレてるような気がするぞ。
あと、すげえ簡単に眠りそうになっちゃうし。
で、その後は「感染者の芝居をしてタッカーたちの元へ行く」という展開があるので、「バレないように頑張って芝居を続ける」という ところでサスペンスを作ろうとしているのかと思ったら、すぐにキャロルはオリヴァーを発見して一緒に逃げ出す。
なんだかなあ。
で、また「眠ったら感染する」というところへ戻るが、ぶっちゃけ、そこに何のサスペンスも感じさせないんだよな。

終盤、感染したベンが「我々が何を持たらしたか分かるだろう。貧困も殺人もレイプも無く、苦しみの無い世界。我々の世界では互いに 傷付けあったり破壊し合ったりしない」と言う。そしてラスト、感染が収束し、みんなが元に戻ると、それに伴って戦争や犯罪が増大する といシニカルなオチを用意している。
ただ、そういうブラックなところへ着地させるには、侵略者の設定が中途半端ではないか。というのも、感染した人間は、表情は乏しく なるが、感情が消えるわけではないのだ。
だって、感染していない人間を捕まえたり感染させようとしたりという、「強い攻撃性」を見せているでしょ。
ようするに、彼らはロボトミー手術を受けたように穏やかな性格へと変貌するわけじゃなくて、「表情の変化を乏しくすることで、強い 攻撃性を見せないようにしている」というだけなのだ。
だから、「感染によって感情が無くなり、それによって世界は平和になる」というところへ着地させようとしても、筋が通らないのよね。

劇中、車で人をはねて殺した男が無反応でいるけど、そういうのを見る限り、「感染すれば平和になる」とは思えない。
その事故死以外で、侵略者が人を殺すシーンは無いけど、「何の感情も持たずに平気で人殺しが出来るようになる」という風にも見える のよね。
身内が殺されても憎しみを抱くことは無くなり、だから暴力の連鎖による戦争や大量殺戮は発生しないかもしれんが、仮に殺人行為が 行われても、あの警官の様子を見る限り、全く取り締まらない状況になるわけだし。
それを「平和な世界」とは呼べないんじゃないかと。

(観賞日:2013年2月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会