『踊るマハラジャ★NYへ行く』:2002、イギリス&フランス&アメリカ

インド。ラムー・グプタは幼い頃、映画館でインド映画を見ていたが、すぐに退屈した。彼は映画館を抜け出し、別の劇場で上映されて いるアメリカ映画『グリース』に夢中になった。成長したラムーは、婦人たちにマカレナを教えるダンス講師になった。だが、彼は渡米 した親友ヴィジェイから成功しているという手紙を貰い、スターになる夢を叶えるためアメリカへ行くことにした。
渡米したラムーはヴィジェイと会うが、手紙に書いてあったことは全くの嘘だった。ベンツに乗ってペントハウスに住んでいると書いて あったが、乗っているのはオンボロ車で、安アパートの最上階に仲間のサンジェイ&アミットと共同で生活していた。ラムーはスターに なる夢を諦めず、ヴィジェイと同じインド料理店で働きながらオーディション募集の記事を探すことにした。
高慢な客に料理を浴びせてインド料理店をクビになった日、ラムーはロムロッド・プロダクションという会社の映画オーディションに足を 運んだ。それはポルノ映画のオーディションだったが、ラムーは全く気付かない。監督のドウェインにマラの強さを問われ、マカレナを 踊り出す。「ズボンを脱いで」と言われると、「分かった、『卒業白書』のトム・クルーズですね」と口にして、映画のダンス・シーンを 真似た。するとドウェインは面白がって、ラムーを合格にした。
ヴィジェイたちから「どうせチョイ役だろう」と言われたラムーは、「映画の主役だ」と言い返した。撮影現場でメイク係のピーチーズに メイクをしてもらっている時、ようやく彼はポルノ映画の撮影だと知った。相手の女優シャローナも現場に現れた。戸惑いながらも、彼は ドウェインの指示に従って芝居をする。だが、肝心のナニが勃起しないので、撮影はストップした。
「勃起しないとお払い箱」と言われ、ラムーは焦った。シャローナはラムーに、「裸は自分自身になるための衣装なの。私はセックスの ために神に作られた。神が人類に与えてくれた一番の性器は想像力よ」と告げる。撮影が再開されるが、今度は神のことが頭から離れず、 やはり勃起しなかった。シャローナは恋人ラスティーとの約束があるため、急いで現場を去った。ラスティーは敬虔なカトリック信者の 消防士で、シャローナの職業を知らない。シャローナは、小学校の代理教師だと嘘を言っている。
金持ち夫妻エドウィンとシャンタルの豪邸では、娘レキシーのパーティーが催されていた。精神世界に没頭しているレキシーは、ゲストと してチベット密教の導師を呼んでほしかったが、シャンタルはヒンズー教の導師スワニー・ブーを呼んだ。だが、そのスワニー・ブーは、 厨房で酔い潰れてしまった。そのパーティーで料理を担当していたのは、ラムーがクビになった料理店だった。また雇ってもらおうと邸宅 を訪れたラムーを見て、ヴィジェイたちはスワニー・ブーに仕立て上げることにした。
導師の格好に着替えたラムーは、招待客の前に現れた。教えを求める面々の前で、ラムーはシャローナから聞いた「裸は自分自身になる ための衣装。神が人類に与えてくれた一番の性器は想像力」という言葉を説いた。さらに彼は「踊ってください」と言い、インド音楽に 音楽に合わせてマカレナを踊り始めた。レキシーは「修行のダンスよ」と魅了され、皆も一緒に踊った。レキシーはラムーを誘って関係を 持ち、「あなたはセックスのグル(導師)よ」と崇拝の気持ちを示した。
「僕は映画スターになりたいんだ」と言うラムーに、ヴィジェイは「同じような精神的指導者で大金持ちになった人物もいる。セックスの グルを演じろ」と促した。レキシーはジャーナリストの友人エイミーを連れて来て取材させるが、ラムーの口からはオーラのある言葉が 全く出て来ない。そこへレキシーの友人キティーが現れ、自分にもセラピーをやってほしいと持ち掛けた。
ラムーはシャローナの元へ行き、演技指導をしてほしいと頼んだ。シャローナは断るが、ラムーは結婚式のケーキを買いに行く彼女にも 同行して粘った。ラムーは「演技指導してくれたら、報酬代わりに豪華なケーキをプレゼントする」と持ち掛けた。シャローナは、自分を 口説かない、そこで教えたことは口外しないという条件を付けて、演技指導を承諾した。
ラムーはシャローナからセックスに関する教えを授かり、その言葉をキティーに説いた。するとキティーは、すっかりラムーに魅入られた。 レキシーはラムーに、「不幸な人は大勢いる。2人で一緒に救ってあげましょう」と告げた。キティーから2千ドルのギャラを受け取った ラムーは、本格的にグルとして活動していくことを決めた。彼はシャローナに教わった言葉を使い、グルとして大勢の人々にセックス・ セラピーを施していく。シャローナの言葉は絶大な効果を発揮し、崇拝者はどんどん増えていった。
レキシーの邸宅で会食に参加した時、ラムーは列席者の前で彼女と熱いキスをした。シャンタルはレキシーを台所へ呼び出し、その行為を 注意した。テーブルに戻ると、ラムーの言葉を受けた列席者全員が裸になっていた。ラムーはシャローナの家を訪れ、また指導を受けた。 その日は、音楽に合わせて腰を動かすことをシャローナが教えた。レッスンの最中、2人は気持ちが盛り上がってキスしようとするが、 ラスティーがやって来た。ラムーはトイレの配管工を装って誤魔化し、シャローナの部屋を去った。
ラムーのアパートに、シャローナから電話が掛かってきた。ドウェインが映画のエキストラで使ってくれるという。ポルノ俳優の仕事の ために指導を受けているとは言えず、ラムーは翌日、撮影現場に赴いた。だが、その日はレキシーの仲介で、ニューヨークで一番という 優秀なエージェント、ゴールドスタインと面会する約束が入っていた。現場を抜け出し、ラムーはオフィスに到着した。ゴールドスタイン は、「支持者を拡大するため、ブロードウェイで大規模なショーをやりましょう」と告げた。
ラムーはヴィジェイたちと共に高級な服に身を包み、高級車を購入して遊んだ。演技指導の日、ラムーはシャローナを散歩へ連れ出した。 シャローナは「貴方はポルノに向いていない。その道に進むべきではない」と告げた後、「私はラスティーを騙している」と泣き出した。 ラムーが結婚を申し込むと、シャローナはキスをしたものの、断って立ち去った。
シャローナがラスティーの両親やフラニガン神父と食堂で会食していると、2人組の男性客が「作品を見たことがある」と話し掛けてきた。 もちろんシャローナは「人違いよ」と否定したが、居辛くなって店を出た。彼女はラムーのアパートに電話するが、彼は外出中だった。 居場所を聞いたシャローナは、ブロードウェイの小屋へと足を向ける。すると、そこではラムーが大勢の崇拝者を前に、シャローナの言葉 を自分の教えとして説いていた…。

監督はデイジー・フォン・シャーラー・メイヤー、脚本はトレイシー・ジャクソン、製作はティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー、 共同製作はデヴィッド・クロケット、製作総指揮はシェカール・カプール&ライザ・チェイシン&デブラ・ヘイワード、撮影はジョン・デ ・ボーマン、編集はカーラ・シルヴァーマン&ブルース・グリーン、美術はロビン・スタンドファー&スティーヴン・アレシュ、衣装は マイケル・クランシー、音楽はデヴィッド・カルボナーラ。
出演はヘザー・グレアム、マリサ・トメイ、ジミ・ミストリー、マイケル・マッキーン、ダッシュ・ミホク、クリスティン・バランスキー 、エミル・マルヴァ、ロナルド・ガットマン、マラチー・マッコート、アジェイ・ナイドゥー、アニタ・ジレット、ドワイト・イーウェル、 ラーフル・シン、ボビー・カナヴェイル、サリー・ジェシー・ラファエル、ティナ・スローン、ロブ・モロー、アマンダ・ホール・ ロジャース、アジェイ・メータ、ジェネヴァ・タルウォー、シニア・ジェーン、アヌープ・プーリー、カルマ・セシー、パラル・シャー、 オマー・ラヒム、ダミアン・ヤング他。


『パーティーガール』のデイジー・フォン・シャーラー・メイヤーが監督した作品。
脚本のトレイシー・ジャクソンは、これがデビュー作。
主人公のラムーを演じるのはインド人とアイリッシュのハーフであるジミ・ミストリーだが、クレジットは3番目。トップはシャローナ役の ヘザー・グレアムで、2番目はレキシー役のマリサ・トメイ。
他に、ドウェインをマイケル・マッキーン、ラスティーをダッシュ・ミホク、シャンタルをクリスティン・バランスキー、ヴィジェイを エミル・マルヴァが演じている。

この邦題だと、ラジニカーント主演のボリウッド映画の続編だと勘違いする人もいるかもしれない。
っていうか、それを狙って邦題を付けたんだろうな。
でも、それって良かったのか。かなり狙う客層が狭くなっちゃってる気がするけど。
「ヘザー・グレアムがポルノ女優を演じたコメディー映画」という部分を押し出した方が良かったかもしれない、と思ったり。
まあ今回の彼女はポルノ女優役にも関わらず、全く脱がないんだけど。

ドウェインの映画がポルノだと判明した時、ラムーが戸惑いを覚えつつも指示通りに芝居を始めるのが解せない。
もっとポルノに対して拒もうとしたり、腰が引けたりしてもいいんじゃないか。
そうでなければ、どうしても芝居をやらなきゃいけない流れになってしまうとか、あるいは早急に金が必要な状況にあるとか、もしくは シャローナに惚れたということでもいいけど。
ともかく、もっとラムーが撮影を続けざるを得なくなるようなところへ追い込むための仕掛けを用意しておいた方がいい。

シャローナがポルノ女優だということが、ラスティーに全くバレていないというのは無理のある設定だ。
普段のシャローナが映画とは別人のような姿ならともかく、そのまんまなんだし。
ラスティーを敬虔なカトリックに設定しており、「ポルノなんて全く見ない奴だから正体を知らない」ということにしてあるが、それでも 周囲の人間から情報ぐらい入ってくるはずだ。
実際、後半の会食シーンで「シャローナが何度もポルノ女優に間違えられる」と両親に言っている。
だったら、そこで疑いを持つんじゃないか。

ラムーがスワニー・ブーに成り済ますよう言われるのは、無理がありすぎる。
ラムーでは若すぎるし、そこにいるメンツの中でラムーが最もグルに向いているというわけでもない。
招待客の前に現れたラムーは「オペラは分かりません。踊れないから」と言っておきながら、その後でマカレナを踊り出す。
で、インド音楽に合わせて、みんなも踊り出す。
そのミュージカル・シーンは、楽しいことは楽しいが、入り方が強引でギクシャクした感じになっている。

ラムーは冒頭でインド映画のミュージカル・シーンを見て退屈し、『グリース』を見に行っているのに、そこでのミュージカル・シーンは ボリウッド風なんだよね。
それは整合性が取れてないでしょ。
『グリース』が好きなのも、マカレナを教えるのもいいけど、ボリウッド映画のダンスに退屈するシーンを見せちゃダメだよ。それはそれ で好きだという設定にしておくか、もしくはボリウッド映画に対する彼の評価は全く描かないか、どっちかにしておくべきだ。
それと、その前に1つぐらいミュージカル・シーンを入れておくべき。
アパートか撮影現場で踊っておいて、「これはミュージカル映画ですよ」と示しておけば、パーティーの場面で踊り出すのも、そんなに 違和感を覚えなかっただろう。
ただ、そこからミュージカル映画になっていくのかと思ったら、なかなか踊るシーンが出てこないんだよね。だったら、むしろ、その パーティーの場面でのミュージカル演出も無い方がマシだよ。

ラムーはシャローナに演技指導を頼むが、これはおかしい。
ラムーが欲しがっているのは、セックス・セラピーに使える言葉のはず。
だが、演技指導というのは、そういう言葉だけとは限らない。
なぜかシャローナは精神論ばかり語っているが、本来の演技指導って、そういうモンじゃないはずでしょ。
「精神的な部分のアドバイスが欲しい」ということを、何らかの形で伝えるべきではないのか。

ラムーは『グリース』のジョン・トラヴォルタに憧れ、映画スターになりたいと思っていたはずなのに、いつの間にか「金持ちになりたい」 というところに目的が摩り替わっている。
でも、グルになった後も「スターになりたい」と口にすることはある。
どっちなんだよ。
あと、最初にラムーが苦労する様子は少ないのね。ダイジェスト処理でもいいから、もう少し苦労しても良かったかも。

シャローナがラムーをずっと家に招いてレッスンしているのは、ちょっと解せない。
最初から何となく好意を持っていたならともかく、「ケーキを買ってあげるから」ということで頼まれただけだもんな。
あと、なぜ彼女がポルノ女優をやっているのかは教えてくれないのね。
っていうか、もう導入部を過ぎると、ラムーがポルノ映画界に足を踏み入れたことは、何の意味も無くなるのね。

教わったことは口外しないと約束したラムーだが、シャローナの言葉を使って金儲けを始める。そこには何のためらいも罪悪感も無く、 どんどん支持者を増やしていく。そうやって稼いだ金で高級な服を買い、高級車で遊びに行く。
何とも不誠実な男だ。
ラムーはレキシーとは何度も肉体関係を持ってイチャイチャしまくっていながら、シャローナに好意を寄せる。
それも、ものすごく不誠実な奴に見える。
レキシーとは体だけの関係ってことだもんな。

ラムーはシャローナが泣き出したタイミングで求婚するが、それまでレキシーとズブズブの関係でやってきているんだし、そこだけ真面目 になっても、全く締まりが無い。
「最初は金持ちになりたくてシャローナを騙してグルをやるが、本気で惹かれるようになり、騙していることに罪悪感を抱き、グルを 続けることへの迷いも感じ始める」という流れにでもしておいたら良かったのではないか。
この男は素性がバレた時、シャローナに「何度も言い出そうと思った」と釈明しているが、そんなの口から出まかせにしか思えないのよ。
全く迷いや後悔や罪悪感を感じさせる場面は無かったし、ヘラヘラしながら仲間と豪遊していたじゃねえか。
で、おまけに「君のやっていることの方が、もっと罪深い。ラスティーを騙している」などと、逆ギレ気味に言い放つ始末。
最低だよ。
そこは釈明に徹するべきだ。どんなに非難を浴びようとも、ラムーが一方的に悪いんだから、ひたすら低姿勢を貫くべきなんだよ。

ラムーは結婚の準備を進めるシャローナの部屋を訪れて「君は間違っている。結婚すべきじゃない」と言うけど、「結婚すべきじゃない」 という論法が「ラスティーを騙しているから」というところから入っているので、なんか違うなあと。
それと、その2人の恋愛劇って、そんなに盛り上がってないんだよな。
キスの雰囲気になったり、実際にキスしたりという場面はあるが、その時だけという感じで、線にならない。
それに、結婚式直前になって、ラスティーがゲイで相棒ランディーに惚れていることが判明するから丸く収まっているけど、シャローナの 心がラスティーを離れてラムーに傾いているという感じも薄いんだよな。

いざジャックが盗みの作業に入ると、「その様子を誰かに見られるかもしれない」という部分にしかスリルの要素は無い。
機械が予定外のトラブルを起こすとか、セキュリティー・システムに問題が生じるとか、そういった部分のスリルは用意されていない。
で、なんだかんだとあって盗みが終了した後、自宅に戻ったジャックはリーアムを簡単に殺してしまい、そのせいで家族の居場所を 聞き出すチャンスを失ってしまう。
ビルに負けず劣らず、こいつもアホだ。

ようやく終盤、ラムーがテレビを見ながら妄想するシーンで、「インド映画の一場面にラムーとシャローナが入って踊る」という演出が 見られる(レキシーのパーティー以降、そこに至るまでミュージカル・シーンは一度も無い)。
だが、そこでのミュージカルは、1分に満たない短さで終わってしまう。それに、インドの衣装を着ているけど、流れる歌はインド音楽 じゃなくて『グリース』で使われた曲「You're The One That I Want」だし、なんか違うなあと。
エンディングでは、インド風の音楽が流れて、みんなが教会の外に出て踊り出す。
最後の最後、ようやくマトモなミュージカル・シーンが来るのかと思いきや、すぐにラムーとシャローナが車に乗り込んで、すぐにダンス は終わってしまう。
そこはみんなでダンスで大団円にすべきでしょ。
なんでラムーとシャローナの乗り込んだ車が空へと飛んでいって終幕なんだよ。

(観賞日:2009年12月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会