『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』:2012、アメリカ

2012年の下院議員選挙。ノースカロライナ第14区の民主党下院議員であるカム・ブレイディーは、ライバル不在で5期目の当選も確実視されていた。彼は様々な場所で聴衆に受けのいい言葉を発し、「良く分からないが言えば聴衆が盛り上がる」という理由で「アメリカ、ジーザス、フリーダム」の言葉を口にして拍手喝采を浴びた。ところが3週間後、カムは選挙参謀のミッチから支持率の急落を告げられる。シェイナという人妻との不倫が間違い電話のせいで発覚してしまい、好感度がガタ落ちになったのだ。カムは記者団の糾弾を浴びると、「人生で掛けた電話の内、不適切なのは1パーセントに過ぎない」と主張した。
同じ頃、モッチ・グローバル社を経営するグレンとウェイドのモッチ兄弟は、中国製品を国産として売れる法案を通そうと目論んでいた。ワシントンで話を持ち掛けた議員に協力を拒まれた兄弟は、「共産主義者で女を買い漁っているという噂を地元で広めてやる」と脅しを掛けた。彼らはカムの再戦が難しいと判断し、もっと自分たちの利益になる人物を立てようと考えた。兄弟はハギンズ家のボンクラな次男であるマーティーに目を付け、連絡を取ることにした。
マーティーはトラヴィスという青年を雇って小さな観光会社を経営しているが、成功とは言い難い状況だった。父のレイモンドに呼ばれて実家へ戻ったマーティーは、モッチ兄弟がカムの対立候補に出馬する話を持って来たことを聞かされた。マーティーは喜ぶが、レイモンドは冷静に「勝つ可能性はゼロだろう」と言う。長男のトリップは優秀だが、マーティーは負け犬だと知っていたからだ。しかしマーティーは意欲満々で、「次々にアイデアが浮かんでくる」と口にした。
モッチ兄弟は中国のメラカイにある人形工場を視察し、工場長から「時給は安く、安全規制も無い。ますます利益は増えるでしょう」と聞かされる。兄弟はハモンド市でダミー会社を使って土地を買っていることを話し、「中国と同じ労働基準を保ち、輸送費はカットだ」と言う。選挙まで8週間。支持率が急落したとは言え、まだカムの当選は確実な状況だった。しかし候補者登録にマーティーが現れたので、カムは困惑した。それでもカムは妻のローズや子供たちの前で、当選への自信を見せた。
ローズはマーティーの父親がジェシー・ヘルムズの元選挙対策委員長だったことに触れ、「凄い強みだわ。でもアンタには子持ちの愛人だけ」と指摘した。一方、マーティーは妻のミッツィーから、「貴方の才能に、お義父さまもやっと気付いてくれた」と告げられる。選挙まで7週間。マーティーはカムに誘われ、カントリー・クラブの食事会に赴いた。マーティーは得意げにスピーチするが、まるで受けない。カムはマーティーを紹介するスライドショーを用意しており、彼を馬鹿にして笑いを取った。
カムの意図を知ったマーティーが落ち込んで車に戻ると、モッチ兄弟に雇われた選挙対策担当のワトリーが待ち受けていた。既にワトリーは行動を開始しており、マーティーの家から荷物を運び出していた。ワトリーはイメージ戦略のため、飼い犬や調度品を全て入れ替えた。戸惑っていたマーティーだが、「本気で地元を救いたいなら勝つしかない」と言われて前向きな態度を示した。ワトリーは市民に力強い印象を与えるため、マーティーに喋り方や立ち振る舞いを指導した。
選挙まで5週間。マーティーは討論会に参加し、ワトリーの助言に従って汚い言葉でカムを挑発しようとする。しかしカムには何の効果も無く、逆に徴発を受けてペースを握られた。司会者の質問を受けたカムは流暢な喋りで聴衆の拍手を浴びるが、ワトリーと練習を積んだマーティーも負けていなかった。彼は自信に満ちた態度で力強い言葉を発し、さらに大きな喝采を浴びた。討論会の後、カムとマーティーは母親に抱かれる赤ん坊を発見し、自分が先にキスしようと争いになる。カムはマーティーに向かってパンチを繰り出すが、誤って赤ん坊を殴ってしまった。
この事件はマスコミに取り上げられ、マーティーの支持率は大きく上昇した。カムはCMを流したり、便宜を図る条件で実業家の資金援助を取り付けたりして、挽回を図った。選挙まで4週間。討論会でカムはマーティーをテロリストの仲間呼ばわりし、マーティーはカムの信仰心の無さを指摘した。カムは信仰心をアピールするため、記者団を引き連れて教会を訪ねる。毒蛇に腕を噛まれて病院送りとなったカムだが、そのおかげで支持率が2%上昇した。
マーティーはミッツィーから「最近の貴方は政治の話ばかり」と指摘され、以前のように家族水入らずの時間を楽しむことにした。しかしワトリーが現れてマーティーを怒鳴り付け、「勝ちたいのなら一瞬も気を抜くな」と説教した。あっさりと丸め込まれたマーティーを見たミッツィーは幻滅し、「今夜は子供たちを連れて母の家に泊まる。貴方は家族より勝利を優先した」と告げた。カムはマーティーの家を訪れ、「もっと品位のある戦い方をしないか」と提案する。マーティーは賛同し、「互いを貶めるような真似はやめよう」と言う。しかし酒を飲んだカムが車で去ると、マーティーは警察に飲酒運転を通報した。警官に見つかったカムはパトカーを奪って逃亡を図るが、事故を起こして拘束された。
選挙まで14日。マーティーは討論会でカムが小学2年生の頃に書いた童話を持ち出し、共産主義者だと激しく非難した。マーティーの挑発を受けたカムは殴り掛かるが、誤ってスター犬にパンチを浴びせてしまった。カムがマーティーにリードを許すとローズは彼を見限り、「負け犬は嫌いよ。DCでロビー活動の仕事に就く」と子供たちを連れてワシントンへ去った。マーティーは密かにカム・ジュニアの相談に乗っており、その隠し撮り映像をCMに利用した。
腹を立てたカムは対抗策としてミッツィーに接触し、隠し撮り映像をCMで使おうと企む。カムの狙いが当たってミッツィーは誘惑に乗り、2人は激しいセックスに及んだ。この映像をCMに使おうとカムは言い出すと、ミッチは「常軌を逸してる」と反対する。カムは「俺は何としても勝ちたいだけだ」と感情を爆発させ、自分の意見を通そうとする。ミッチは「8年間、君を支え続けて来た。君は変わったよ。失望した」と告げ、カムの選挙参謀を降りた…。

監督はジェイ・ローチ、原案はアダム・マッケイ&クリス・ヘンチー&ショーン・ハーウェル、脚本はクリス・ヘンチー&ショーン・ハーウェル、製作はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&ジェイ・ローチ&ザック・ガリフィナーキス、製作総指揮はエイミー・セイヤーズ&ジョン・ポール&クリス・ヘンチー、製作協力はジェフリー・ハーラッカー、撮影はジム・デノールト、美術はマイケル・コーレンブリス、編集はクレイグ・アルパート&ジョン・ポール、衣装はダニエル・オーランディー、音楽はセオドア・シャピロ。
出演はウィル・フェレル、ザック・ガリフィナーキス、ブライアン・コックス、ジョン・リスゴー、ダン・エイクロイド、ジェイソン・サダイキス、キャサリン・ラ・ナサ、ディラン・マクダーモット、ジョシュ・ローソン、トーマス・ミドルディッチ、サラ・ベイカー、カレン・マルヤマ、グラント・グッドマン、カイア・ヘイウッド、ランドール・カニンガム、マディソン・ウルフ、ヘザー・ローレス、ジャック・マクブライヤー、エリザベス・ウェルズ・バークス、ビリー・スローター、アーロン・ジェイ・ローム、ケイト・ラング・ジョンソン他。


『オースティン・パワーズ』『ミート・ザ・ペアレンツ』のジェイ・ローチが監督を務めた作品。
脚本は『マーシャル博士の恐竜ランド』『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』のクリス・ヘンチーと、これが映画デビューのショーン・ハーウェル。
カムをウィル・フェレル、マーティーをザック・ガリフィナーキス、レイモンドをブライアン・コックス、グレンをジョン・リスゴー、ウェイドをダン・エイクロイド、ミッチをジェイソン・サダイキス、ローズをキャサリン・ラ・ナサ、ティムをディラン・マクダーモット、トリップをジョシュ・ローソン、トラヴィスをトーマス・ミドルディッチ、ミッツィーをサラ・ベイカーが演じている。
アンクレジットだが、ジョン・グッドマンが終盤に1シーンだけ下院議員のスコット・タリー役で出演している。

モッチ兄弟はワシントンのパーティーに出席している時、テレビでカムの会見映像を見て「再戦は難しい」と言い出す。
ここまでに、兄弟がカムを支援していたことを示すためのシーンが用意されていないのは完全なる手落ちだ。
最初に「カムが調子のいいことばかり喋って聴衆の指示を得ている」ってのを描くシーンがあるが、その流れでモッチ兄弟も登場させればいい。
兄弟から協力を求められたカムが深く考えずに快諾するとか、あるいは今までも協力していたことを示すとか、そういう手順を踏んでおけばいい。

「それを言ったら元も子もない」ってことになるのだが、そもそも「カムが主役でマーティーが準主役」という形を取っていること自体、どうなのかなと感じる。
それよりも、完全にマーティーを「ピンの主役」に据えた方がいいんじゃないかと。
つまり、「モッチ兄弟の支援していた議員は再戦の可能性が低くなり、ボンクラ男のマーティーに白羽の矢が立った」という導入部にして、カムの扱いはもっと薄くしてもいいんじゃないかと。
で、マーティーのポジションでウィル・フェレルを起用すればいいんじゃないかと。

っていうか、もはや「カムがスキャンダルを起こして支持率を下げて」という要素さえ要らないんだよね。
モッチ兄弟は自分たちの利益になる議員を求めているのだが、それにカムが該当していると感じさせる描写は「バカ」という部分だけだ。
だったら、例えば「モッチ兄弟の意向に何らかの理由でカムが従わなかった」という設定にして、だからマーティーが対抗馬に担ぎ出されるという形にすればいいのだ。
もちろん、これはあくまでも「マーティーが主役」という形を取ることが前提の話だけどね。

カムとマーティーをライバルとして配置し、この2人の争いを滑稽に描こうとしているのは良く分かる。
ただ、これが成功しているとは言い難いのだ。
そういう内容にするのなら「対照的な両者」にするのが定番だが、この2人は両方ともボンクラだ。性格では「カムが下劣でマーティーが純朴」という大きな違いがあるものの、そこも上手く対比させられているとは言えない。
また、両者を同じぐらい勃てる必要があるのだが、互いの出番を削り合い、薄め合っているだけにしか感じない。

カムは下ネタまみれのキャラだが、マーティーはそういうタイプじゃない。しかし全体のトーンに合わせるためなのか、マーティーの子供たちを下ネタに使っている。
でも無理を感じるし、マーティーのキャラにも悪影響を及ぼしてしまう。だからと言ってカムのパートだけ下ネタみまれにしておくと、それはそれでバランスが悪い。
諸々を考えると、実は下ネタが邪魔なんじゃないかという気さえしてしまう。
この問題も、マーティーが主役の話にすれば解決できる。そうすれば、最初から下ネタを持ち込まずに済むわけで。
あるいは、マーティーを下品なキャラにしてもいい。彼が主役の話なら、対抗馬に真面目なバカを配置する必要も無くなるんだから。

カムとマーティーの両方を扱うだけでも消化し切れていないのに、モッチ兄弟の扱いも無駄にデカくなっている。
この2人が中国の工場を視察するシーンなんか、まるで要らないわ。彼らの策謀なんて、極端に言ってしまえば台詞で触れるだけでも事足りるのよ。
この映画で大事なのは「彼らがどんな陰謀を目論んでいるか」という具体的な部分じゃなくて、「自分たちの利益のために議員を担ごうとしている」という部分であって。
どこを膨らませるのか、どこは削るのかという選択も、失敗していると感じるぞ。

あと、カムって途中まで悪役にしか見えないんだよね。
「勝つためなら卑怯なことも平気でやる」という辺りも含めて、毒のある喜劇として描いていることは分かる。でもマーティーのようなキャラを「ダブル主役の1人」として配置したことで、笑いに繋がりにくくなってしまう。
マーティーが純朴な男として描かれる間は、こっちが完全に主役の座を奪う。ところが厄介なことに、当初は「ワトリーの指示に従っているだけ」だったマーティーも、途中から完全に「勝つためなら何でもやる卑劣な男」へと変貌してしまう。
こうなると今度はカムが可哀想な役回りになり、こっちが主役としての座を取り戻す。

ただ、この交代劇が成功しているのか面白いのかというと、答えはノーだ。どっちのキャラも、「勝つためなら何でもやる」という行動を取る部分が上手く笑いに繋がっていない。
特に問題なのは、マーティーの方だ。
カムの場合は最初から卑怯千万な奴だったので、それを貫いているだけだ。しかしマーティーの場合、最初は「純朴なバカ」というキャラで笑いを取りに来ていたはずで。
それが途中から卑劣さを手に入れると同時に狡猾な奴になっちまうので、こいつの魅力が完全に消えるのだ。

カムは宣伝担当のリックが「不倫スキャンダルを逆手に取ってプラスに転じるんです」と言い、不倫相手であるシェイナのセクシー映像を使って「こんな女性と関係を持ったカムは男の中の男だ」とアピールするCMを用意すると、気に入って放送させる。
これをバカな判断として描いているのかと思ったら、それで支持率が下がったりバッシングを浴びたりすることは無い。
後半にはミッツィーとのセックス映像を使ったCMを流すが、これで支持率が上昇に転じる。ひょっとすると、「そんなバカな方法でも支持するアメリカ国民ってバカ」という皮肉を込めているのかもしれない。
ただ、そういうトコまで幅を広げることで、笑いのポイントがボヤけてしまう。そういうトコを軸にして喜劇を構築したいのなら、カムだけの選挙戦にしちゃった方がスッキリするし。

終盤に入ると、マーティーはカムの脚を撃って怪我を負わせ(誤射だと言い張っている)、それでも「銃の擁護派が喜んだ」ってことで支持率が上昇するというシーンまである。
で、そこまで腐り切った奴に変貌しているのに、モッチ兄弟から「選挙区を中国に売却する」と聞いた途端に腹を立てて彼らと手を切る。
「住民のために尽くしたいから当選に向けて卑劣な真似を繰り返してきたのであって、土地を中国に売るなら話は別」ってのは、理屈としては通っている。
でもキャラの描き方として、急に「アンタたちのやってることは間違いだ」と憤慨してベビーフェイスにターンされても、「どの口が言うのか」と拒絶反応が起きてしまうわ。

その後、「劣勢に陥ったマーティーが真面目な選挙戦を続けて」という展開になっても、ちっとも応援したい気持ちになれない。
何しろ、それまでの選挙戦でやってきた卑劣な行為の数々について全く反省しておらず、最後のCM枠を使ったスピーチで「金持ちな大企業が金を渡して嘘を言わせようとした」と全て周囲の責任にしているし。
当選したカムがマーティーの気持ちに打たれて改心するという展開も、急に中の人が交代したような違和感が強いし、陳腐で無理のある展開にしか感じない。

(観賞日:2019年1月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会