『アベンジャーズ』:2012、アメリカ

四次元キューブの変動が感知されたため、ニック・フューリーはマリア・ヒル捜査官を伴ってシールドの基地へ赴いた。出迎えたフィル・コールソン捜査官は、エリック・セルヴィグ博士が不在であり、勝手に起動したことを告げる。既にコールソンは避難指示を出していたが、フューリーは急ぐよう指示した。セルヴィグはフューリーに、四次元キューブが制御どころか分析も不可能な状態にあることを話す。フューリーはクリント・バートンを呼び寄せ、四次元キューブの向こう側に原因があるのだろうと聞かされる。
その時、四次元キューブからロキが出現した。ロキは兵士たちを攻撃し、セルヴィグとバートンを洗脳して手下に引き入れた。フューリーは四次元キューブをスーツケースに入れて持ち去ろうとするが、ロキは「そいつに用がある」と告げる。ロキはバートンにフューリーを撃たせ、スーツケースを持ち去った。すぐにフューリーやヒルたちが追跡するが逃げられてしまい、基地は四次元キューブのパワーによって爆発した。
ナターシャ・ロマノフはコールソンから連絡を受け、バートンが危険だと告げられる。彼女は自分を拘束していた連中を軽く叩きのめし、コールソンから大物に会うよう指示される。ナターシャはトニー・スタークに信用されていないことを話すが、コールソンは「スタークには私が会う。君は別の大物と会え」と言う。ナターシャはブルース・バナーと接触し、協力を要請した。「地球に大惨事が起きようとしている」と彼女は四次元キューブのことを明かし、弱いガンマ線を辿って捜索してほしいと依頼した。
評議会の面々はヒューリーのアベンジャー計画に対し、「コントロールできない連中を使うとは」と反対する。ヒューリーは地球が危機的状況にあることを説明し、対策チームを作る必要性を訴えた。ヒューリーはスティーヴ・ロジャーズと会い、「世界を救ってほしい」と告げて事情を説明した。トニーはコールソンから連絡を受けるが、無視してペッパー・ポッツと会話を交わす。コールソンが現れたので、彼は「アベンジャーズ計画は無くなったんだろ」と言う。しかしトニーはコールソンから資料を渡され、目を通すことにした。
ロキは宇宙人種族であるチタウリのリーダーから、「我が軍は痺れを切らしている」と告げられる。ロキが軍隊を馬鹿にするような言葉を吐いたのでリーダーは憤慨し、「王の杖を与えてやったのは誰だ。戦いに敗れて追放されたお前に、新たな力を与えてやったのは誰だ」と言う。ロキが「脅しても無駄だ。異空間の扉が開き、お前の軍隊が私の元へ集うまで、お前は何も出来ない」と冷静に告げると、リーダーは「約束を破ってキューブが手に入らなければ、どこへ逃げても必ず貴様を捜し出してやる」と述べた。
スティーヴ、ブルース、ナターシャは空飛ぶ戦艦で合流し、挨拶を交わした。セルヴィグはバートンに、イリジウムが欲しいと告げる。バートンはロキに、かく乱作戦と目玉が必要だと告げる。シールドはドイツに堂々と現れたロキを探知し、スティーヴたちを差し向けた。スティーヴはパーティー会場で大企業の重役を捕まえ、虹彩認証のためのデータをバートンに送る。会社に乗り込んでいたバートンは扉のロックを解除し、イリジウムを盗み出した。
スティーヴがロキに戦いを挑んで劣勢に陥ると、トニーがアーマーに身を包んで駆け付けた。するとロキは降伏し、あっさりと捕まった。しかし基地へ連行しようとするとソーが現れ、ロキを連れ去る。ソーはロキを説教し、「地球は俺が守る。キューブなど捨てて国へ帰れ」と言う。ロキは馬鹿にしたような口調で、「あれは預けた。どこにあるか知らない」と言う。そこへトニーが駆け付け、ロキを連れ去ったソーに「獲物を横取りするな」と告げた。
ソーは「邪魔するな。ロキはアスガルドで裁きを受けさせる」と言い、トニーを攻撃する。トニーが反撃して戦っていると、スティーヴも駆け付ける。ソーはスティーヴにも襲い掛かるが、盾に弾き返される。ロキは戦艦で特殊な檻に収監されるが、全て狙い通りだった。ソーはスティーヴたちに、ロキがチタウリの軍隊を呼ぶための時間稼ぎをしているのだと話した。トニーはロキがイリジウムを狙った理由について、通路を安定させて持続時間を伸ばすために必要なのだと説明した。
トニーの不真面目な態度を見て、スティーヴは不快感を示した。トニーはスティーヴとブルースに、シールドは何かを企んでいて隠していると言う。ジャーヴィスに探らせていることをトニーが明かすと、スティーヴは「だからシールドは君を敬遠するのか」と渋い顔をする。スティーヴは「ロキは我々を煽ってる。戦争を前にこちらが仲間割れをすれば、思う壷だぞ。我々は使命を全うすべきだ」と話すが、トニーの軽薄な態度は変わらなかった。しかし「君は気にならないのか」と質問されたスティーヴは、密かに艦内を捜索した。
ナターシャはロキの前で芝居を打ち、彼の目的がハルクを目覚めさせることにあると見抜いた。一方、スティーヴは艦内でキューブの力を利用した大量破壊兵器を発見し、ヒューリーを糾弾した。ヒューリーは「彼のせいだ」とソーを指差し、宇宙の脅威に対する無力さを痛感させられたので大量破壊兵器を開発したのだと話す。ソーとヒューリーが言い争いになり、トニーやスティーヴたちも口論に加わった。そこにバートンたちが攻撃を仕掛け、ブルースはハルクに変身して暴れ出した。
トニーはアーマーを装着し、スティーヴと協力して損傷したエンジンの修理に取り掛かった。ナターシャはハルクに追い詰められるが、そこへソーが駆け付けた。ソーはハルクを落ち着かせようとするが、耳を貸さないので戦いを挑む。ヒルの指示を受けた戦闘機が砲撃するが、ハルクは全くダメージを受けなかった。ハルクは怒りの矛先を変え、戦闘機を破壊した。バートンは戦艦のエンジンを停止させ、ソーはロキの脱出した檻に閉じ込められる。ナターシャはバートンと戦ってノックアウトし、落下させられたソーは脱出する。ロキの攻撃を受けたコールソンは、駆け付けたフューリーに「彼らがまとまるには、これぐらいのことが無いと」と言い残して息を引き取った…。

監督はジョス・ウェドン、原案はザック・ペン&ジョス・ウェドン、脚本はジョス・ウェドン、製作はケヴィン・フェイグ、製作総指揮はルイス・デスポジート&パトリシア・ウィッチャー&ヴィクトリア・アロンソ&ジェレミー・レイチャム&アラン・ファイン&ジョン・ファヴロー&スタン・リー、撮影はシーマス・マッガーヴェイ、美術はジェームズ・チンランド、編集はジェフリー・フォード&リサ・ラセック、衣装はアレクサンドラ・バーン、視覚効果監修はジャネク・サーズ、視覚効果プロデューサーはスーザン・ピケット、音楽はアラン・シルヴェストリ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン。 出演はロバート・ダウニーJr.、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ステラン・スカルスガルド、クラーク・グレッグ、コビー・スマルダーズ、ジェニー・アガター、イエジー・スコリモフスキ、グウィネス・パルトロウ、アレクシス・デニソフ、ティナ・ベンコ、キリル・ニキフォロフ、ジェフ・ウルフ他。
声の出演はポール・ベタニー。


マーベル・スタジオズのアメコミ映画(マーベル・シネマティック・ユニバース)に登場するヒーローたちが集結して戦うシリーズ第1作。
監督&脚本は『セレニティー』のジョス・ウェドン。
『アイアンマン』シリーズからはトニー役のロバート・ダウニーJr.&ペッパー役のグウィネス・パルトロウ&ジャーヴィスの声のポール・ベタニー、『マイティ・ソー』シリーズからはソー役のクリス・ヘムズワース&ロキ役のトム・ヒドルストン&セルヴィグ役のステラン・スカルスガルド、『キャプテン・アメリカ』シリーズからはスティーヴ役のクリス・エヴァンスが参加。
ナターシャ役のスカーレット・ヨハンソンは『アイアンマン2』、バートン役のジェレミー・レナーは『マイティ・ソー』に続いての出演(レナーは前作ではアンクレジット)。

ヒーローの内、ハルク役だけは『インクレディブル・ハルク』のエドワード・ノートンを起用せず、マーク・ラファロに交代している。
アンクレジットだが、『インクレディブル・ハルク』でハルクの声を担当したルー・フェリグノは続投している。
他に、フューリーをサミュエル・L・ジャクソン、コールソンをクラーク・グレッグ、ヒルをコビー・スマルダーズ、ルチコフをイエジー・スコリモフスキが演じており、評議員としてジェニー・アガターやパワーズ・ブースが出演している。
地上へ落下したブルースが出会う警備員役で、ハリー・ディーン・スタントンが1シーンだけ登場する。
トニーが装着する磁気健康ギア「コラントッテ」を製造しているアーク・クエスト代表取締役社長の小松克巳氏が、家族と共に1シーンだけカメオ出演している。

まず「ツラいなあ」と感じたのは、マーベル・シネマティック・ユニバースに属する過去の映画を観賞し、なおかつ内容を覚えていないと話を把握するのが難しいってことだ。
何しろ登場人物の紹介は無いし、これまでの経緯も説明してくれない。「全て知っている」ということを前提にして、物語が作られているのだ。
まだ『アイアンマン』と『インクレディブル・ハルク』に関しては「何となくキャラや話を知っている」という程度でも何とかなるが、『マイティ・ソー』と『キャプテン・アメリカ』はストーリー展開と密接に絡んで来るので、ちゃんと見ておかないとダメなのだ。
アメコミ映画って、あまり頭を使わなくても楽しめるようにすべきじゃないかと思っているので、そういう厳しいハードルを用意しているってのは、ちょっと乗れないんだよなあ。

しかも、この映画だけの問題じゃなくて、今後もマーベル・シネマティック・ユニバースの作品群って、「それまでの作品を見ていないと分かりにくい」という方向性で進めていく様子なんだよね。
「過去の作品を見ている人だけが楽しめるネタ」ってのが、サービスとして盛り込まれているのは別にいいし、っていうか歓迎できるのよ。
でも、物語の根幹に関わる部分を「過去の映画を見ている必要がある」という条件で構築するのは、観客に対して不親切だなあと感じるのよね。

あまりにもパワー・バランスが悪すぎるってのは、この映画にとって大きなマイナスだ。
まずヒーロー側の顔触れだけで考えても、パワー・バランスが取れていない。
例えば、神であるソーと、血清で強化されただけのキャプテン・アメリカを比較した時に、どう考えたって釣り合いは取れていない。
それなのに、まるで「同じぐらいの力を持つ仲間」みたいに並べているので、「いやいや、そりゃ違うでしょ」と言いたくなる。

っていうかさ、ソーとロキは神様なんだから、本来ならトニーたちが全員で束になっても神である敵わないはずなのよ。
ところが劇中の描写を見る限り、ソーやロキよりハルクの方が強いんだよね。アイアンマンがソーと同等ぐらいの力かな。
ブラック・ウィドウなんて普通の人なのに、むしろキャプテン・アメリカより活躍してるんだよね。
場面によって、パワー・バランスが変化しているようにも感じるし。
圧倒的に強いはずのソーをアベンジャーズに組み込んだせいで、全てのバランスが狂っているのよ。

ロキは「私は王だ」「私は無敵だ」とタカビーな態度を取り続け、常に余裕の笑みで振る舞おうとする。
それに見合うほどの強さや狡猾さを披露してくれれば問題は無いのだが、マヌケでチンケな悪党でしかないってのが困りもの。わざと捕まったのにナターシャの芝居で簡単に騙されちゃうし、バートンの矢を得意げに受け止めたら爆発するし。
途中までは「まだ本気を出してないだけ」と強引に受け止めるにしても、終盤になって「私は王だ」と言い放った途端、ハルクに捕まってフルボッコにされるという情けなさを露呈するので、「やっぱり口だけ番長じゃねえか」ってことになるのよ。
ロキはラスボスというより、ただの喜劇キャラになっているぞ。

バートンが手下になったり、チタウリの軍隊が後から加わったりするものの、基本的にはロキが1人だけでアベンジャーズを相手にするぐらいの強敵であるべきでしょ、構図としては。
ところが困ったことに、前述したようなヘタレっぷりなのよね。
そもそも『マイティ・ソー』の時点で、ソーに負けてるわけだし。
だから、そのソーだけでなく他のヒーローたちも加わった面々の敵としては、明らかに力不足なのよ。そのことは、劇中で描かれる前から露呈しちゃってるのよ。
なんでロキをラスボスにしちゃったのかなあ。

ロキだけじゃなくてチタウリ軍も加わることを考えても、まあアイアンマンとハルクとソーがいれば何とかなりそうなんだよね。
だけど、それだとアベンジャーズにならないので、他の連中もそれなりに活躍させなきゃいけない。
その結果、クライマックスに入るとチタウリの軍隊が満を持して登場するのに、ナターシャの銃やバートンの矢で簡単に始末されるという困ったことになっている。
まだバートンの矢はともかく、ナターシャの拳銃なんて普通の武器だぜ。ってことは、チタウリ軍って警官隊でも倒せるってことだぜ。
完全に「質より量」という状態になっているけど、地球に危機をもたらす軍隊にしては弱すぎるだろ。

あと、クライマックスの戦いが始まると、キャプテン・アメリカが完全に「要らない子」になってしまう。戦闘能力が低いから、こいつがいなくても成立しちゃうんだよね。
それでも活躍させなきゃいけないから、なぜかチタウリの軍隊が銀行で人質を取って立て籠もるという意味不明な行動を取る。
それは「人質を助けに行く」ってことで、キャプテン・アメリカを活躍させるためだけに用意されたシーンだ。
そうでもしないと、単純に「アベンジャーズvsロキ&チタウリ軍」の戦いを描いていたら、キャプテン・アメリカは役立たずっぷりを露呈するだけになるのだ。

他の連中より戦闘能力が遥かに劣っているキャプテン・アメリカが偉そうに指示を出しているのを見ると、「お前がリーダーなのかよ」と言いたくなる。まあ名前にはキャプテンと付いているけどさ。
ただ、「戦闘能力は劣るけど頭脳労働の面では他の連中より上」ってことでリーダーの役割を担当するなら、むしろ戦闘には出来る限り出張らない方がいいんだよね。
「そっちは不得手だから他の連中に任せて、その代わりに指揮を担当するってことなら受け入れやすい。
だけど、まるで同等の戦闘能力があるかのようにバトルに参加して、でも戦闘能力は低くて、そのくせ偉そうに指示だけは出すので、なんか引っ掛かるのよ。

構成にも大いに難があって、「ダラダラしてんじゃねえよ」と言いたくなる。
本格的な戦いを始めるまでに、序盤は会話劇が中心になっているけど、その大半は説明のための台詞でしかないので退屈になってくる。
グダグタと喋っている暇があったら、もっとストーリーを進めるべきだし、もっと戦いを見せるべきでしょ。ぶっちゃけ、142分の上映時間に見合うだけの内容量は無いぞ。
そりゃあ、最初から最後までアクションだけってわけにはいかないだろうど、それにしても会話劇が退屈。

で、その後に待ち受けているのは内輪揉めなのよね。会話劇は退屈なだけで済んだけど、内輪揉めに関しては不快感さえ抱く。
ロキを放置してアイアンマンとソーが戦うとか、どうでもいいわ。ヒーローたちが口論を始めるに至っては、ホントにどうでもいい。
それで物語の盛り上がりを作れるとでも思ったのか。違うぞ。
ヒーローのオールスター映画に、そんなモノを求めているわけではないのよ。
こっちが見たいのは「みんなが協力して悪と戦う」という、派手でケレン味に溢れた爽快感のある戦いだ。

もちろん協力して戦うまでにドラマを構築するのはいいけど、内輪揉めで時間稼ぎは無いわ。途中で艦内のアクションがあるけど、トニーとスティーヴは基本的にエンジン修理だし、ハルクとソーは内輪揉めでしかないし。兵隊が何人か乗り込んで来るけど、そいつらは人間だから完全なる雑魚だし。
まさかヴィランのロキがチンケだからって、それに合わせてヒーローも矮小化しようとしたわけでもあるまい。
でも狙いはともかく、結果としてヒーローたちは、愚かで醜い言い争いのせいで、すっかりチンケになっちゃってるわけでね。
何の得があるんだよ、そこに。

後半、コールソンはロキの攻撃を受け、フューリーに「彼らがまとまるには、これぐらいのことが無いと」と言い残して息を引き取る。
だけど、彼が殺されなきゃ1つにまとまることが出来ないなんて、スーパーヒーローとして失格だ。
まだスーパーヒーローになったばかりの初心者ならともかく、それなりに経験を経ている連中なのに、くだらない揉め事でチンケな敵をのさばらせてるんじゃねえよ。
敵が強いから苦戦するんじゃなくて、テメエたちがバカだから苦戦するって、そんな構図に乗れるわけねえだろ。
「圧倒的な力を持つ強敵が現れて、1人じゃ無理だから力を合わせて戦う」という構図になるからこそ、こっちは燃えられるのよ。

例えば「ヒーローが落ち込んでいたけど、犠牲者が出たことで戦う意欲を取り戻す」とか、「ヒーローが戦うべきかどうか悩んでいたけど、犠牲者が出たことで怒りに燃える」とか、そういう展開のために犠牲が支払われるなら、それは「燃える要素」として成立する。
でも、内輪揉めでゴタゴタしている連中を1つにするために犠牲を支払わなきゃいけないってのは、シナリオとして賛同できないのよ。
ただ単にコールソンが可哀想だと思うだけであって、それによってヒーローたちが団結しても応援する気持ちは沸かず、「お前らのせいで犠牲者が出たんだぞ」と非難したくなるのよ。

(観賞日:2015年9月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会