『鬼教師ミセス・ティングル』:1999、アメリカ

オハイオ州の小さな町に住む高校生のリー・アン・ワトソンは、これまで多くのトロフィーや賞状を貰っている優等生だ。母のフェイと2人暮らしの彼女は、卒業生総代になって奨学金を貰い、大学に行くことを期待されている。そのためにも、卒業までの1週間がとても重要となる。グランズブロ高校に登校した彼女は、親友のジョー・リンと会話を交わした。嫌味な同級生のトルーディーと遭遇した後、ジョーは以前から好きだったルークの元へ行き、キスをする。リーも友達であるルークのことが好きなのだが、ジョーと違って恋に臆病なので、気持ちを打ち明けられずにいる。
グランズブロ高校には、生徒たちから恐れられている歴史教師のミセス・ティングルが勤務している。彼女はポッター校長の元へ行き、申し入れていた夏期講習の件を尋ねる。予算不足を理由に難色を示すポッターに対し、ティングルはすました顔で「余計な予算を見直せば解決策が出て来るでしょう」と言う。歴史の授業で課題発表が行われるが、ティングルは生徒たちの提出した課題をことごとく酷評する。リーが提出した課題も、やはりティングルは冷淡に扱き下ろした
成績順位が廊下に貼り出され。リーはトルーディーと1ポイント差で2位だった。トルーディーは「貴方の歴史がAだったら順位は逆だったわね」と口にする。リーは進路指導のゴールド先生から「まだ1週間あるわ。逆転できる」と励まされる。リーとジョーが体育館にいると、ルークがやって来た。ビールを飲み始めるルークにリーが「やめてよ、私は卒業したいの」と文句を言うと、彼は歴史の卒業試験の問題用紙を見せた。リーが「マズいわよ」と告げると、ルークは何食わぬ顔で「コピーしたからバレてない」と述べた。
リーは問題用紙を返そうとするが、ルークは彼女のバッグの中にそれを突っ込んだ。そこへティングルが来て問題用紙を手に取り、「校長に報告します」と言って立ち去った。彼女は事務課へ赴き、バンクスに「ポッター校長を呼んで」と言う。「今は席を外しています」とバンクスが告げると、ティングルは「明日の朝、一番で話したいことがあると伝えて頂戴」と述べた。その会話を盗み聞きしていたリーはルークとジョーの元へ戻り、「もう終わりよ。3人とも退学になるわ」と口にした。
その夜、ジョーの提案で、リーたちはティングルの家へ出向いた。ジョーは「私が真実を話して来るわ」と言い、リーとルークを庭に残して玄関のチャイムを鳴らす。ジョーはリーが無実であることを説明し、自分が盗んだと証言する。ジョーは「母が重い病気を患って、集中治療室にいて」と、涙ながらに嘘をついて同情を買おうとする。しかしティングルは全く相手にせず、ドアを閉めた。入れ替わってリーが出向くと、ティングルはドアを閉めようとする。リーは半ば強引に家へ入り、潔白を訴える。しかしティングルは「歴史を見れば、潔白でも火あぶりになるのよ。帰りなさい」と冷淡に告げた。
そこへルークが乗り込み、「俺が1人で問題用紙を盗んだ」と言うが、ティングルは軽くあしらう。ジョーも行くと、ティングルは「警察を呼ぶわよ」と強硬な態度で受話器を取った。ルークはティングルが課題発表で生徒から没収した石弓を構え、「電話を元に戻せ」と脅す。しかしティングルは冷静に歩み寄り、ルークを殴って石弓を奪い取った。ティングルが電話を掛けようとするので、ルークは受話器を奪おうとして揉み合いになる。石弓を構えたジョーは誤って矢を発射してしまい、頭をかすめたティングルは気を失った。
リーたちはティングルを2階の寝室へ運び、ルークの指示で両手をベッドに括り付ける。リーは「先生は朝まで起きない。母の寝タバコが心配だから帰るわ」と言い、ルークとジョーを残して帰宅する。フェイに「課題の発表は?」と訊かれた彼女は、「先生は気に入ってた」と嘘をつく。「クラスで一番?」と問われ、リーは「ええ」と言う。フェイは「私たちの夢が叶うのね」と喜び、眠りに就いた。
ジョーがルークの寝顔を眺めてキスしようとした時、ティングルが目を覚ました。辛そうな表情で「ほどいて。痛いの」と頼むティングルに、ジョーは「ごめんなさい、こんなつもりじゃ」と釈明する。ティングルは「分かってるわ、あれは事故だった」と言うが、ジョーが両手の拘束を解くと、いきなり馬乗りになって首を絞めた。目を覚ましたルークが「そこまでだ」と言い、ティングルに石弓を向けた。彼はティングル両手を再び縛り、猿ぐつわも噛ませた。ジョーがルークにキスする様子を、ティングルはじっと見ていた。
翌朝、リーは再びティングルの家へ赴いた。ジョーはティングルに成り済まし、「風邪をひいたから休むわ」と事務課に電話を入れた。リーはティングルに朝食を運び、毅然とした態度で「私たちの行動は行き過ぎでしたが、反省しました。今回のことは水に流して下さい」と持ち掛ける。しかしティングルに「堂々と振る舞ってるつもり?怖がってるのは分かるわよ」と拒否され、「計画を変更します」と言う。1階に下りたリーは、ジョーに「学校を偵察して来るわ」と告げた。
登校したリーは法律の本を読み、同行したルークに「裁判所が私たちを犠牲者だと認めない限り、罪に問われるわ」と言う。見張り役で残ったジョーに、ティングルはリーとルークが親密な関係にあると吹き込んだ。学校から戻ったルークは、自分がティングルとベッドで一緒にいる写真を撮影し、彼女を強請ろうと提案する。リーは反対するが、ジョーに「ママが悲しんでもいいの?」と説得されて承諾した。その会話は排気口を通じて、ティングルに筒抜けだった。
ジョーがカメラを買いに出掛けた後、ティングルの書斎に入ったリーは、自分の課題がC評価なのを知る。ルークが寝室へ昼食を運ぶと、ティングルは「リーは貴方のことが好きよ」と告げる。ルークは「俺たちは終わってる」と言い、高校1年の時に一緒にパーティーに行ったが彼女が馴染めず、それから嫌われていることを話した。使い捨てカメラを買ってジョーが戻り、ルークが服を脱ごうとした時、アメフト部のコーチであるウェンチェルが訪ねて来た。慌ててリーたちは、ティングルに猿ぐつわを噛ませた。
リーとルークは1階に下り、声を潜めてウェンチェルの様子を窺う。ウェンチェルはチャイムを鳴らしたりノックしたりした後、植木鉢の下に隠してある鍵を使って勝手に入って来た。ティングルと彼は不倫関係にあったのだ。寝室に残ったジョーはドアを閉め、ティングルのフリをして「帰って頂戴、休みたいの」と言う。ティングルが必死で暴れ、彼女の犬がしつこく吠えた。ウェンチェルが「でもママにお尻ペンペンされたいんだ」と言うので、ジョーは「だったら下で待ってて」と告げた。
ジョーはウェンチェルに後ろ向きのまま目を閉じさせ、目隠しをしてワインを飲ませる。酒に強いウェンチェルだったが、時間を掛けて何とか眠らせた。リーたちはウェンチェルをベッドに運び、ティングルと一緒に寝ている姿を撮影した。リーとルークは、車で彼を自宅のポーチまで運んだ。ティングルはジョーに「ルークとリーは高校1年から密かに付き合ってたのよ」と吹き込み、動揺を誘った。
ジョーとルークがティングルの家に戻ると、ジョーは自宅に帰っていた。ティングルはリーに「貴方は常に恐れている。Aが貰えないんじゃないか、母親から逃げられないんじゃないか、なぜ父親から電話が無いのか。だから男の子を遠ざけようとする。望まない男の種を貰って街に足止めされ、惨めな人生を送るのが怖いのよ。私は貴方を知ってる」と挑発的に告げる。1階に下りたリーはルークとキスし、そしてセックスした。ルークが見つけた成績表を開いた彼女は、自分の評価をAプラス、トルーディーをBに書き換える。翌朝、登校したリーはガイダンス・カウンセラー室に侵入し、成績表を机に置いた…。

脚本&監督はケヴィン・ウィリアムソン、製作はキャシー・コンラッド、共同製作はポール・ヘラーマン、製作協力はジュリー・プレック&ジーナ・フォーチュネイト、製作総指揮はテッド・フィールド&スコット・クルーフ&エリカ・ハギンズ&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ケイリー・グラナット、共同製作総指揮はマイケル・フィネル、撮影はジャージー・ジーリンスキー、編集はデブラ・ニール=フィッシャー、美術はナオミ・ショーハン、衣装はスージー・デサント、音楽はジョン・フリーゼル、音楽監修はミシェル・クズネツキー&メアリー・ラモス。
出演はヘレン・ミレン、ケイティー・ホームズ、ジェフリー・タンバー、ヴィヴィカ・A・フォックス、モリー・リングウォルド、バリー・ワトソン、マリサ・カフラン、リズ・ストーバー、マイケル・マッキーン、ジョン・パトリック・ホワイト、ロバート・ガント他。


『スクリーム』『ラストサマー』の脚本を書いたケヴィン・ウィリアムスンが初めて監督を務めた作品。
ティングルをヘレン・ミレン、リー・アンをケイティー・ホームズ、ウェンチェルをジェフリー・タンバー、ゴールドをヴィヴィカ・A・フォックス、バンクスをモリー・リングウォルド、ルークをバリー・ワトソン、ジョー・リンをマリサ・カフラン、トルーディーをリズ・ストーバー、ポッターをマイケル・マッキーンが演じている。
アンクレジットだが、レスリー・アン・ウォーレンがフェイ役で出演している。

この映画を、どういう作品として受け止めればいいのか、それが良く分からない。
邦題には「鬼教師」と付いているが、果たして「鬼教師のせいで酷い目に遭わされた可哀想な生徒の逆襲」として見るべきなのだろうか。
最終的に到達するシーンの描写からすると、たぶん、そういうことなんだろう。
でも、それにしては、生徒たちのキャラクター描写もティングルのキャラクター描写も中途半端だ。

まず、ティングルが陰険で嫌な教師であることは確かだ。彼女は生徒たちを扱き下ろし、嫌味なことを口にする。バカにした態度を取り、心を傷付けることを平気で言う。
もはや「厳格」とか「冷徹」というレベルではなく、明らかに生徒たちを傷付けることを目的としている。
ただし、リー・アンだけが攻撃の標的になっているわけではない。彼女はどの生徒に対しても、同じように陰険な態度を取っている。それどころか先生に対しても同様なので、同僚や校長からも嫌われているぐらいだ。
これが「何も悪いことをしていないのにリーだけが攻撃対象にされる」ということならリーに同情しやすいんだが、そうではない。みんなにとって陰険な教師なのだ。

それと、生徒たちの方にも問題があるように思える。
ティングルは歴史の課題発表で全ての生徒の提出作品を酷評するが、「分からんではないなあ」と思ってしまうんだよね。
まずジョーは、マリリン・モンローのコスプレで一人芝居をやる。
ティングルの「酷い歴史解釈だし、演技力も低い」というコメントは、そりゃあ冷たいとは思うが、言ってることは間違っていない。
手製の石弓を組み立てて、誤って矢を発射して危うく女子生徒を殺害しそうになった生徒も問題があるし、ただの石を提出したルークが嫌味を言われるのも仕方が無い。

リーは17世紀の魔女裁判で火あぶりになった女性の資料を集め、彼女に成り切って書いた厚い日記を提出するが、それは単なる創作物に過ぎない。
どの生徒の提出した作品も、「歴史の授業の宿題として、それって正しいのか」と思ってしまう。
ただし、トルーディーはフランス革命の時のバスティーユ牢獄の精巧なミニチュアを提出してA評価を貰っているので、それもどうかと思うけどさ。
結局、そういう「歴史の授業の宿題」としてふさわしいとは思えないモノでもOKにしちゃってるのかよ。

とは言え、トルーディーがA評価を貰ったのは、「彼女の家がお金持ちだから」とか、そういうことではなさそうだ。劇中で、ティングルがトルーディーをえこひいきしているという描写は見られない。
ってことは、つまり陰険で嫌味なティングルであっても、A評価を貰っている生徒はいるわけだ。
だとしたら、リーがA評価を貰えないのは、彼女の提出した課題作品の出来が悪かったからじゃないのか。
それを「ティングルがA評価をくれないせいで奨学金が貰えない」というのは、ただの逆恨みに過ぎないってことになる。

それと、リーは肝心なことを忘れていて、そもそもルークが問題用紙を盗んで彼女のバッグに突っ込んだのが悪いのだ。
それさえ無ければ、ティングルを監禁するようなハメにならずに済んだのだ。
それなのにルークは自分の行為を全く反省せず、ティングルを監禁するわ、「家に火を付けよう」と言い出すわと、最低な男である。
「リーとジョーがどっちもルークに惹かれていて」という恋愛劇があるのだが、ルークの愚かしい行動が事件の発端なので、そんな奴にヒロインが惹かれるロマンスなんて、これっぽっちも魅力を感じない。

ティングルは監禁されて以降、ただの陰険で嫌味な教師ではなくなる。何しろ生徒の首を絞めるぐらいだし、完全なるモンスター教師に成り下がる。
でも、そういうモンスター性ってのは、最初から示しておいて欲しいんだよな。
そうすりゃ「モンスター教師のせいで理不尽な目に遭わされる生徒たちの反撃」という風に見ることが出来ただろう。
監禁されてからモンスター化されても、そもそも「ティングルに矢を放って監禁する」というリーたちの行動にも問題があるので、ティングルを一方的にワルとして見ることが難しい。
しかも、ただ巻き込まれただけの善良な生徒だったはずのリーも、成績表を書き換えてルークと同じレベルに成り下がっちゃうし。

監禁後の流れを見る限り、ホントはリーたちに感情移入したいところだ。
ただ、「監禁されている人物が、監禁している連中の気持ちを言葉巧みに操り、優位に立とうとする」というのは、監禁されている側を被害者にして、そっちに感情移入して見た方が面白いと感じることの出来そうな筋書きなんだよな。
しかしながら、その動揺を誘う言葉の内容は、やっぱり不愉快なものなのだ。
もうねえ、何をどう見ればいいのか、サッパリ分からんよ。

あと、ティングルがリーたちの気持ちを言葉巧みに操るってのも、「彼女の言葉でリーたちが動揺し、そのせいで不協和音が生じて作戦に乱れが出る」というところへは、そんなに上手く繋がっているわけじゃないんだよな。
終盤になって、ようやくジョーが裏切るところへ繋がるだけだ(実際は裏切っておらず、芝居をしているだけ)。
そこまでに、リーたちが互いに疑心暗鬼になったり、相手の気持ちを探ろうとしたり、関係がギクシャクしたりってのは無いんだよな。

ちょっと調べたら、これってブラック・コメディーらしいんだけど、どこがどのようにブラックで、どこがどんな風にコメディーなのか、サッパリ分からない。
たぶんワシのコメディーに対する感覚が鈍いんだろうとは思うけど、コメディーらしさが感じられるのって、ウェンチェルが絡むシーンぐらいでしょ。
ただ、そこは面白いんだよね。
だから、そういうノリを全面的にやってくれたら、ブラック・コメディーとして楽しめたんじゃないかとは思うけど。

(観賞日:2013年9月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会