『アパッチの怒り』:1954、アメリカ

1892年、コチース率いるアパッチと騎兵隊の長く激しい戦いは、終わりを迎えた。コチース族長とハワード将軍は、講和条約を締結した。その3年後、チリカワ・アパッチのコチースは病に倒れ、息子のターザとナイチを呼び寄せた。彼は長男のターザに後を任せ、「白人との平和を守れ。我々の部族のことだけを考えろ」と説く。コチースはナイチに「兄を守れ」と告げ、2人に「墓が見つからないようにしろ」と言い残して息を引き取った。
ターザは部族と共に、白人に見つからないように父を埋葬した。白人との戦いを続けているジェロニモはコチースの死を知らされ、「全てのアパッチは自分が率いる」と宣言した。ナイチはチリカワ族の女であるウナを手籠めにしようとするが、通り掛かったターザが阻止した。ナイチが「俺は女の父親と仲がいい。臆病者じゃないからな。ジェロニモと共に戦う」と言うと、ターザは「俺がさせない」と告げる。ナイチはナイフで襲い掛かり、ターザを殺そうとする。ターザは彼を制圧するが、殺すことは避けた。
ターザは部下に、ナイチを村で見張るよう命じた。彼は愛し合うウナと抱き合い、村に戻った。深夜、武闘派のチリカワ族は見張りを殺し、ナイチを連れ出した。ナイチたちは野営している白人女性と2人の護衛を射殺し、馬車に火を放って逃亡した。ターザはナイチが姿を消したと知り、部下たちを率いて捜索に出た。一行は白人の遺体と荒らされた形跡を発見し、周辺を調べた。ターザは仲間と野営しているナイチを見つけ、襲い掛かって制圧した。
居留地の責任者を務めるバーネット大尉は、先住民との仲介役であるヘーガンと部隊を率いてチリカワ族の村へ赴いた。ヘーガンは旧知のターザに挨拶し、バーネットを紹介した。バーネットが白人が襲われた事件について説明すると、ターザは村の人間が犯人だと明かした。ナイチの一味が吊るされている場所へ案内されたバーネットは、「アパッチ砦に連行して罰を与える」とターザに告げる。ターザは「もう罰は与えられている」と言い、ヘーガンはバーネットに「彼らにとって銃殺は名誉だが、この吊るされ方は屈辱だ」と教えた。バーネットはターザに、「講和条約では、白人を殺した部族は居留地へ移送することになっている」と語った。
バーネットは「決定は将軍が下す。抗議してもいい」と告げ、ターザは沈黙した。ウナの父であるグレイ・イーグルから「アパッチは誇り高かった」と非難されたターザは、「昔とは状況が違う」と反論した。少尉はバーネットの指示を受け、ナイチたちのロープを外した。疲労困憊の1人は、少尉のサーベルに倒れ込んだ。男がサーベルを奪おうとしていると感じた少尉は、咄嗟に彼を殺害した。村人たちが憤る中、バーネットはターザに謝罪してナイチの一味を連行した。
ターザは部族を率いてアパッチ砦を急襲し、兵士たちと戦って制圧した。クルック将軍が砦に到着すると、ターザは「要求を飲めば捕虜にした兵隊を解放する」と持ち掛けた。「ナイチたちはチリカワ族で罰する」とターザが言うと、クルックは「それは無理だ」と拒絶した。ターザは部下たちに指示して砦に火を放ち、「父が約束した通り、居留地には移るが、耕す道具や種、羊や当面の食料を用意しろ」と要求する。クルックが承諾すると、ターザは「騎兵隊は配置するな」と要求する。クルックが「警備の任務がある」と言うと、彼は「自分たちで守る」と主張した。
バーネットはクルックに、ターザたちに警備隊を組織させてはどうかと提案した。彼が一切の責任を取ると約束したので、クルックは承諾した。ターザは自分への信頼を口にしたバーネットを、友人として認めた。彼が居留地に着くと、バーネットは軍服を渡した。ジェロニモが捕まったという報告を受けたバーネットは、数日で移送されてくることをターザに教えた。ターザが特務班の仕事に就くと、イーグルは「奴は裏切り者だ」と強い敵意を示した。
ターザはイーグルの部下のスキニアに襲われるが、反撃して退治した。彼は警備兵とに側近のチャトなど数名を選び、ナイチも指名した。ターザはジェロニモが炊事係の女に上げさせた合図の狼煙を発見し、バーネットに知らせた。ターザはジェロニモを迎えに行き、軍服姿を批判されて「父と私にとってお前は敵だ」と告げた。イーグルはナイチからウナがターザと密会していると聞き、密かに様子を見に行く。ターザはウナに「今夜、私を連れ出して」と言われ、「アパッチの掟は守りたい。父上に贈り物をする」と語った。
ウナはターザから居留地でジェロニモに狼煙を上げた人物について問われ、ナイチとスキニアと自分の父だと打ち明けた。ターザは「村を出る話を聞いたら教えてくれ」と頼み、その場を去った。イーグルはウナの背中を何度も鞭で殴り付け、「奴は敵だ。何も話すな」と声を荒らげた。ナイチやイーグルたちはジェロニモと会い、売人のティスウィンから銃と弾丸を購入する計画を話し合う。彼らはターザの警護を疎んじ、バーネットを始末しようと目論んだ。
翌朝、ターザはウナがイーグルから暴行を受けたことを知った。ウナは彼に、イーグルがジェロニモの側近のロボに拳銃を渡したことを教えた。ターザはイーグルの元へ行き、ウナを妻にしたいと申し入れた。イーグルが贈り物として銃と弾丸を用意するよう要求すると、彼は「それは出来ない」と断った。ターザはチャトを引き連れてロボを捜索するが、発見できないまま日が暮れた。彼はバーネットの事務所へ行き、報告を入れた。ロボは窓から中を覗いており、バーネットに発砲する。気付いたターザはバーネットを助け、逃げようとするロボを射殺した。ジェニロモの元へ出向いたターザは、ロボを殺したことを伝えた。
次の朝、チャトはターザがウナと挙式するつもりだと聞き、仲間と話し合って贈り物にする銀の装飾品を集めた。バーネットとヘーガンもターザの結婚を応援し、パーティーを開く準備に取り掛かった。ターザが装飾品をイーグルに渡すと、ナイチが現れた。彼はジェロニモの用意した300ドルをイーグルに渡し、ウナとの結婚を要求した。イーグルはターザに、改めて銃と弾丸の用意を要求した。ターザが拒むと、イーグルは3日後にナイチとウナの結婚式を催すと宣言した…。

監督はダグラス・サーク、原案&翻案はジェラルド・ドレイソン・アダムス、脚本はジョージ・ザッカーマン、製作はロス・ハンター、撮影はラッセル・メッティー、美術バーナード・ハーツブルン&エムリッチ・ニコルソン、編集はミルトン・カルース、音楽はフランク・スキナー。
出演はロック・ハドソン、バーバラ・ラッシュ、グレッグ・パーマー、バート・ロバーツ、モーリス・アンクラム、ジーン・イグレシアス、リチャード・カッティング、イアン・マクドナルド、ロバート・バートン、ジョー・ソーヤー、ランス・フラー、ブラッド・ジャクソン、ジェームズ・ヴァン・ホーン、チャールズ・ホーヴァス、ロバート・ホイ、バーバラ・バーク、ダン・ホワイト他。


『第九交響楽』『世界の涯に』のダグラス・サークが監督を務めた作品。
原案&翻案は『抜き射ち二挺拳銃』『アリババの復讐』のジェラルド・ドレイソン・アダムス、脚本は『荒野の追跡』のジョージ・ザッカーマン。
ターザをロック・ハドソン、ウナをバーバラ・ラッシュ、バーネットをグレッグ・パーマー、ナイチをバート・ロバーツ、イーグルをモーリス・アンクラム、チャトをジーン・イグレシアス、サイをリチャード・カッティング、ジェロニモをイアン・マクドナルド、クルックをロバート・バートン、スキニアをジェームズ・ヴァン・ホーン、ロボをロバート・ホイが演じている。

当時のハリウッド映画では当たり前のことだったが、ゴリゴリの白人であるロック・ハドソンやバーバラ・ラッシュがチリカワ族を演じている。
これは「善玉だから人気の白人俳優が演じる」ってことではなく、悪玉のナイチやジェロニモを演じるのもゴリゴリの白人俳優だ。
そもそも、なぜアパッチが主役の作品を作ろうとしたのかという疑問は浮かぶ。
ただ、大量の西部劇が作られていた時代なので、少し趣向を変えてみようってことだったのかもしれない。

この映画、実は3Dで作られている。当時の3Dなので、いわゆる立体映画だね。
果たして3Dに向いている題材かどうかは疑問もあるが、戦うシーンや大勢が馬を走らせるシーンは多いので、その辺りを考えてのことなのかもしれない。
奥行きを意識したような構図が多いような印象があるのだが、それは3Dを意識した結果なのかもしれない。
79分という上映時間は長編作品としては短めだが、3Dで予算が掛かるってのが関係しているのかもしれない。

コチースが死を迎える時、ナイチは彼の言葉を静かに聞いている。
なので父に従順で指示を聞くつもりなのと、ターザとの関係も良いのかと思っていたら、まるで違っていた。
ウナを犯そうとするわ、ジェロニモと戦うと言い出すわ、ターザを殺そうとするわと、かなり問題の多い奴だった。
だったらターザを殺そうとするシーンより前に、「平和主義には反発している」とか「ウナに横恋慕している」といった設定には触れておいた方がいい。

「そもそも白人が先住民の土地を奪って支配下に置いた」という経緯をひとまず置いて考えると、白人を殺したナイチたちをターザが村で吊るしただけで終わらせず、砦へ連行して処罰しようとするのは当然のことだろう。
ヘーガンは「彼らにとって吊るされるのは屈辱」と説明するけど、「だから銃殺刑にする必要は無い」ってのは白人側からすると納得できない理屈だろう。
ターザは「白人は白人を罰する。アパッチはアパッチを罰する」と主張するが、それはナイチたちの殺人シーンを見せられると同意できないわ。

少尉は男が倒れ込んだ時に「サーベルを奪おうとしている」と勘違いして殺すが、これは状況を見ていると止むを得ないと感じる。
最初から殺すつもりで白人を襲撃したナイチたちの犯行とは、まるで事情が異なる。なので、それでターザたちが激怒して砦を襲うのは、ただ野蛮で卑劣なだけにしか見えない。
ところがバーネットは、そんなターザの味方になる。ターザがクルックに要求を飲ませようとすると、彼は「ターザは誠実です」と擁護する。
でも、ターザは砦を急襲して兵士を殺しているのに、誠実と言われても。バーネットは「ターザを信じてます」と言うけど、砦を急襲するのは信じるに値しない行動でしょうに。

ナイチは村で吊るされただけで、あっさりと自由の身になっている。醜悪な殺人にふさわしい罰を与えられたようには、到底思えない。
しかもターザは、ジェロニモに同調して白人を憎んでいるナイチを警備兵に選ぶのだ。
それは身内を甘やかしているだけにしか思えないぞ。
何しろ、白人を殺したナイチの一味は吊るしただけで済ませたのに、バーネットを殺そうとして未遂に終わったロボは容赦なく射殺しているんだし。整合性が全く取れていないじゃねえか。やっぱり吊るしただけで終わらせたのは甘すぎだろ。

先住民が主人公だからと言って、白人を悪玉にして「先住民vs白人」という対立の図式にしているるわけではない。
悪玉も同じアパッチのジェロニモたちであり、ようするに内輪揉めってことだ。
ターザという男は、あくまでも白人にとって都合のいいアパッチだ。
白人のやり方を批判することもあるが、居留地で暮らすことは承諾するし、白人に迎合して警備隊も組織する。バーネットとは信頼関係を築き、クルックの方針にも従っている。

終盤、ジェロニモたちが居留地を脱走して武器の入手に向かうと、バーネットは騎兵隊で出撃しようとする。
ターザは騎兵隊を出せば他のアパッチもジェロニモに従うと考え、自分たちだけで解決させるよう要求する。バーネットは承知するが、クルックが却下する。
肝心なトコでクルックがターザを信頼せず、白人の都合だけで動くわけだ。
だが、ターザはクルックたちがピンチの場面に駆け付けてジェロニモの一味と戦うので、形としては白人の最後まで味方であり続けるのだ。

(観賞日:2021年7月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会