『アレックス・ライダー』:2006、イギリス&アメリカ
ロンドン。14歳の中学生アレックス・ライダーは授業中、教師に指名される。彼はクラスメイトのサビーナたちの前で、家族について 書いた作文を発表する。彼は幼い頃に両親を亡くし、銀行員の叔父イアンと暮らしていた。しかしイアンは出張が多く、なかなか会うこと は無い。アレックスの身の周りの世話は、9年前から一緒に暮らす住み込みのアメリカ人家政婦ジャックが担当している。
イアンはアレックスに詳しい仕事の内容を教えてくれないが、その日はコーンウォールで会議だと聞かされている。だが、それは嘘だった 。アレックスはバイクの連中に追跡され、激しいチェイスの末に撃滅した。彼は授業を終えたアレックスに車から電話を掛け、夕飯までに 帰ると告げた。電話を切った直後、ヘリコプターから殺し屋のグレゴロヴィッチが現れ、イアンの車に銃弾を撃ち込んだ。
アレックスの元には、イアンが事故死したという知らせが届いた。葬儀の時、アレックスは司祭が「イアンは立派な愛国者だった」と口に したのが気になった。周囲を見回したアレックスは、怪しげな連中が銃を携帯しているのに気付いた。葬儀の後、イアンの勤務先の行員 ジョン・クロフォードが会長のアラン・ブラントと秘書のジョーンズ夫人を伴ってアレックスに挨拶した。彼らは「近い内に連絡する」と 告げ、その場を後にした。
アレックスは不審な車を発見し、自転車で尾行した。車はジョン・スレイター修理工場へと入った。アレックスは、銃弾の跡が残された イアンの車を発見した。身を隠したアレックスは、スレイターが部下に「イアンの車を潰せと言ったはずだ。俺はリバプール駅へ行って 戦利品を渡す」と話しているのを聞いた。修理工場の面々に見つかって包囲されたアレックスは、武術を使って蹴散らした。
修理工場を脱出したアレックスはジャックに事情を説明し、一緒に駅へと赴いた。クロフォードの姿を発見したアレックスは、後を追った 。するとクロフォードは証明写真の機械に入り、そのまま姿を消した。アレックスは機械に入り、硬貨を投入した。すると椅子がレールに 乗り、秘密の施設へと勝手に移動した。その施設にいたジョーンズ夫人は、アレックスが来ることを事前に把握していた。
ジョーンズ夫人はアレックスをエレベーターに乗せ、地下へと移動した。彼女は自分がMI6特別作戦局局長であり、イアンはMI6の優秀な 情報部員だったことを明かした。彼女はアレックスを局長であるブラントの元に案内した。ブラントはアレックスを情報部員として勧誘し 、それがイアンの望みだったことを口にした。イアンはアレックスに語学や空手、登山やスキューバ・ダイビングなどを教えて来たが、 それは全てスパイになるための訓練だったというのだ。
アレックスは「そんなのはデタラメだ」と反発し、施設を去ろうとする。ブラントは「ジャックのビザは7年前に切れている。このまま だと不法就労で収監されるだろう」と脅しめいた口調で告げた。アレックスはジャックの就労ビザと引き換えに、MI6で働くことを承諾 した。彼はウェールズのブレコンビーコンズにある特殊部隊訓練所に放り込まれ、特殊部隊の隊員であるウルフたちと共に2週間の訓練を 積んだ。最初はアレックスを毛嫌いしていたウルフたちだが、その活躍を認め、最後は仲良くなった。
訓練を終えたアレックスは、ブラントからIT事業家ダリウス・セイルを調査するよう命じられた。セイルは1ヶ月前、新世代のパソコン である「ストームブレイカー」をイギリス中の学校へ寄贈すると発表していた。MI6はセイルに疑いを持ち、半年前からイアンに調査を 行わせていた。セイル社はコーンウォールに工場を持っている。そこに潜入したイアンは、ウイルスに関する情報を得た模様だった。 しかし詳しい報告を受ける前に、イアンは殺されてしまったのだ。
6週間前、コンピュータ雑誌のコンテストでケヴィン・ブレイクという少年が優勝していた。優勝者はセイル社でストームブレイカーを 試すことが出来る。アレックスはブラントから、ブレイクに成り済ましてセイル社に潜入せよと指示された。2日後には科学博物館で ストームブレイカーの贈呈式が行われる。それまでに調査しろというのだ。アレックスはブラントに指示された玩具店へ行き、店長の スミザーズから玩具や文具を装った秘密兵器を受け取った。
コーンウォールに飛んだアレックスは、セイル社の広報担当者ナディア・ヴォールの出迎えを受けた。ナディアの車でセイル社に到着した アレックスは、セイルや彼の執事ミスター・グリンと会った。アレックスはストームブレイカーの部屋に通され、装置を付けた。彼は ナディアが立ち去った後、ヴァーチャル・リアリティー・システムを体験した。部屋を出た彼は、セイルが技術者たちと話している様子を 盗み見た。技術者はセイルに、離れた場所から全てのストームブレイカーを起動させる巨大な送信装置の説明を行った。
アレックスに不審を抱いたナディアは、彼の住所を調べた。ナディアはライダー家へ行き、イアンの写真を発見した。彼女はジャックに銃 を向け、アレックスの目的を尋ねた。ジャックはナディアと激しく格闘し、彼女を追い払った。アレックスは与えられた部屋を夜中に 抜け出し、セイルがビジネス・パートナーの使者グレゴロヴィッチと話している様子を盗み見た。グレゴロヴィッチは仕事でミスを犯した 部下を冷徹に射殺した。
ナディアから「アレックスはイアンと繋がっている」との報告を受けたセイルは、アレックスの抹殺を命じた。2人の会話を盗聴した アレックスは、セイル社を抜け出した。かつてスズ鉱山だった地下施設に入った彼は、グレゴロヴィッチたちがR5(アール・ファイヴ) と呼ばれる緑の液体をパソコンに注入している様子を目撃した。セイルはパソコンを使って病原菌をばら撒き、イギリス中の子供たちを 抹殺しようと企んでいたのだ……。監督はジェフリー・サックス、原作&脚本はアンソニー・ホロヴィッツ、製作はマーク・サミュエルソン&ピーター・サミュエルソン& スティーヴ・クリスチャン&アンドレアス・グロッシュ、製作協力はジェシカ・パーカー、製作総指揮はヒラリー・ダグデイル& ナイジェル・グリーン&アンソニー・ホロヴィッツ&アンドレアス・シュミット、撮影はクリス・シーガー、編集はアンドリュー・ マックリッチー、美術はリッキー・エアーズ、衣装はジョン・ブルームフィールド、音楽はアラン・パーカー。
出演はアレックス・ペティファー、ユアン・マクレガー、ミッキー・ローク、ビル・ナイ、ロビー・コルトレーン、アリシア・ シルヴァーストーン、スティーヴン・フライ、ミッシー・パイル、アンディー・サーキス、ダミアン・ルイス、ソフィー・オコネドー、 アシュリー・ウォルターズ、サラ・ボルジャー、ジミー・カー、マーティン・ハードマン、モーガル・ウォルターズ、ジェイミー・ケンナ 、デイヴ・レジェノ、コラーデ・アグボケ、アレックス・バーレット、リチャード・ハウ、ジュリアン・バックナル、デヴィッド・ロイル 他。
アンソニー・ホロヴィッツの小説『女王陛下の少年スパイ! アレックス」シリーズの第1作『ストームブレイカー』を基にした作品。
アレックスを演じたのは、500人のオーディションで選ばれた当時15歳のアレックス・ペティファー。
イアンをユアン・マクレガー、セイルをミッキー・ローク、ブラントをビル・ナイ、首相をロビー・コルトレーン、ジャックをアリシア・ シルヴァーストーン、スミザーズをスティーヴン・フライ、ナディアをミッシー・パイル、グリンをアンディー・サーキスが演じている。原作を読んだことは無いが、映画を見る限り、明らかに「少年版007」を狙っているように思われる。
所属する組織はMI6だし、ブラントはMで、ジョーンズ夫人はマネーペニー、秘密兵器担当者のスミザーズがQだ。
敵のボスは地下施設を作っており、アレックスを捕まえた時には自分で手を下さず、銃火器は使わず、巨大な殺人クラゲという「生物」を 使う。
その辺りも007シリーズを感じさせる。
007のように、本作品もシリーズ化を想定して製作されたものの、興行成績が冴えなかったため、どうやらポシャったようだ。イアンがグレゴロヴィッチの銃弾を浴びるまでがアヴァン・タイトルなのだが、そこまでの段階で、既にミスをしていると感じる。
アレックスが作文を読むというナレーション・ベースで、彼の世話をしているジャックの様子がチラッと写るのだが、初登場としては、 あまりにも雑な処理だ。
画面にジャックの姿を写すのなら、ちゃんと紹介の時間を取るべきだ。
だから、そこで彼女を登場させるべきではない。
タイトルの後、アレックスが帰宅すると彼女が寿司を作っているが、そこを初登場にすればいい。イアンがアレックスに電話を掛けるシーンも、無くてもいい。
アレックスが作文を語り、イアンが敵とチェイスをしている様子に移ったら、そのまま殺害シーンまで行けばいい。
っていうか、イアンが何かしらの組織のエージェントであることは冒頭シーンでバレバレにしてあるんだけど、アクションをさせずに銃で 撃たれるシーンだけを描いて、イアンの素性は隠したままの方が良かったかも。っていうか、そもそもアヴァンでイアンのチェイスを見せるという構成自体、どうなのかと思ったりもする。
アヴァンでアクションシーンを用意するのは本家007シリーズでもやっているし、それ自体は悪くない。
ただ、それをやるのがイアンってのが、どうなのかなあと。
その後もアレックスをサポートするのならともかく、そこだけで出番は終わりなのよね。
それなら、アレックスのアクションを持って来た方がいいんじゃないかなあと。と言うのも、アレックスの運動能力の高さを示すシーンが無いまま、車を自転車で追跡するシーンに入るという構成に、ちよっと難を 感じるのよね。
オープニングで「彼は普通の中学生じゃない」ということを示した方がいいんじゃないかと。
その自転車の扱いも、工場で武術を使って敵を蹴散らすのも、「なぜ普通の中学生が、そんなことをやれるのか」という引っ掛かりを 感じてしまうのだ。
そう考えると、冒頭シーンで優れた運動能力を発揮し、「それはイアンから学んだ」ということを説明した方がスムーズだ。アレックスはジョーンズ夫人からイアンがMI6の情報部員だったことを聞かされても、まるで驚かない。
かなりビックリするような事実のはずなのに、クールに対応している。
その落ち着きぶりは、どうなのよ。
そこは子供らしさという意味で、もっと激しく驚くリアクションが欲しいところだなあ。
その冷静沈着ぶりも、イアンが目的を教えずに訓練を積ませていた結果ということなのかな。ただ、運動能力に優れているのは「子供とは思えない」という設定でいいけど、一方でティーンズらしさも見せることで、キャラの魅力に 繋がると思うんだけどな。
あと、前半でアレックスがスパイとしてスカウトされるので、「普段は普通の中学生として暮らしているが、任務の時だけはスパイとして 活動」というギャップの面白さが描かれるのかと思ったら、普通の中学生としての生活シーンはアヴァンだけなのね。
まあ、その二重生活の面白味は、2作目以降で描くつもりだったのかもしれないけど。前述のように明らかに007シリーズを意識した「リアルじゃないスパイ物」だし、ティーンズ向けの作品だし、ある程度の荒唐無稽は歓迎 する。
だけど、MI6が14歳の少年をスパイとしてスカウトする展開には、ちょっと無理を感じるなあ。
「局員の一人がアレックスのセンスに着目するが、ボスは反対する」ということなら、まだ受け入れやすいんだけど、アレックスを勧誘 するのはブラントなので、MI6全体の意思という形になっているのよね。
それよりも、例えば「アレックスがイアンの死に不審を抱いて調査に動き、セイルに接近する。MI6もセイルを調べていたので成り行きと して協力することになり、事件が解決した後でスカウトする」とか、「アレックスがイアンの遺志を継いでスパイになりたがるがブラント は拒否する。しかしアレックスは独自にセイルを調べ、その活躍が認められて正式に情報部員になる」とか、そういう形の方が良かったん じゃないかなあと思ったりする。アレックスって運動能力には優れているけど、簡単に修理工場の連中に見つかっているし、軽率で未熟な部分も多いので、スパイとして 勧誘するには早いんじゃないかと。勧誘してから特殊部隊の訓練に送り込んでいるけど、訓練しなきゃ役に立たないのなら、少年じゃ なくて他の奴でもいいんじゃないかと。
それに、もう「イアンの仇討ち」という目的が何となく示されているのに、そこで訓練を挟んで話を停滞させるのも構成として 上手くない。
あと、訓練を終えたアレックスはブラントから「2日後にストームブレイカーの贈呈式がある」と言われるけど、そんなに差し迫った危機 があるのなら、2週間の訓練を積ませている場合じゃないでしょ。他の優秀なスパイを差し向けるべきでしょ。
「今すぐに解決しなきゃいけない問題のために、14歳にスパイとしての訓練を積ませて、それから任務に当たらせる」って、おかしな話 でしょ。アレックスはケヴィンという少年に成りすましてセイル社へ行くが、雑誌のコンテストの優勝者なのに、その雑誌の関係者が一人も同行を 許されないというのは不自然。
アレックスはストームブレイカーの部屋に案内されるが、そこにあるのはヴァーチャル・リアリティーを体験するための大きな装置。でも ストームブレイカーってパソコンのはずだから、それは変だ。
ナディアはアレックスを残して部屋を出るが、彼を一人にするのは不自然。
何かの罠かと思ったら、単に無警戒なだけだった。
施設内には防犯カメラも無いし。アレックスに不審を抱いたナディアは彼の家に行き、そこでジャックと格闘を繰り広げるが、そんなことよりアレックスの格闘シーンを 用意した方がいいんじゃないのか。
前半に修理工場でドニー・イェンが指導したと思われるクンフー的アクションをやったのに、それ以降は格闘シーンが皆無なんだよな。
それは勿体無いぞ。
無名の新人の活躍だけでは厳しいということで、彼より有名な脇役の出番を増やしているのかもしれないが、そこは覚悟を決めて、もっと アレックスを活躍させることに集中した方がいい。セイルは病原菌を散布して子供たちを抹殺しようと企んでいるのだが、それならパソコンを使う必要性って皆無でしょ。
わざわざ病原菌をパソコンに仕込んで、首相がボタンを押してパソコンを起動させると同時に撒き散らされるという仕掛けにしている意味 は何なのかと。
あと、その犯行の動機が「小学生の時にイジメを受けたから」というのも、ショボいよなあ。何の野望も無いんだぜ。
そんな動機で、手下たちは付いて来るのかよ。(観賞日:2011年6月25日)