『愛とセックスとセレブリティ』:2009、アメリカ

ロサンゼルス。ニッキは子供の頃から顔に自信があり、母親の友人と関係を持ったこともある。彼の夢は、働く必要の無いほど金持ちになり、楽に暮らすことだ。「ビバリーヒルズに住んで高級車を乗り回し、モデル級の美女と付き合う」という彼の夢は、ほぼ実現できている。その夜、彼は馴染みのクラブへ繰り出した。そこには彼が以前に関係を持った複数の女が来ている。だが、その夜の彼の狙いは若い女ではなく、囲ってくれる年上の金持ち女性だった。
ブランド品に身を包んでいるサマンサに目を付けたニッキは、彼女をナンパした。すぐにニッキはキスへと持ち込み、彼女の住む豪邸でセックスした。翌朝、サマンサは弁護士の仕事に出掛け、ニッキの朝食代としてカードを置いて行った。ニッキは夕食を作り、サマンサが帰宅するのを待ち受けた。その夜もニッキは、サマンサとセックスした。そして彼は、そのままサマンサの家で暮らすようになった。
ニッキが順調に点数稼ぎを続ける中、サマンサはニューヨークへ出張することになった。「一緒に来ない?」と誘われたニッキは、「ここで待ってるよ」と告げた。サマンサを空港で見送った後、ニッキは豪邸に大勢の男女を呼んで盛大なパーティーを開いた。友人のハリーはニッキに、「宝石鑑定士のエルパソに嫌われた」と相談した。ニッキは彼に、女の気持ちを掴むためのテクニックをアドバイスした。
かつて関係を持ったヘレンが酔っ払って豪邸に現れたので、ニッキはハリーに「彼女を家まで送ってくれ。このままだと、ここが俺の家じゃないとバラされる」と告げた。ニッキはクリスティーナという女を寝室へ連れ込み、セックスした。ヘレンを送り届けて戻って来たハリーは、「とんでもない女だ。運転中にジッパーを下ろそうとした」と述べた。ハリーは「ニッキは浮気してない?」と彼女に訊かれたことを明かし、「何も話してないよ」と告げた。
ニッキは元カノのエミリーを電話で呼び、セックスした。エミリーは「やり直さない?」と持ち掛けるが、ニッキにその気は無かった。彼はクリスティーナを呼んで、テレビを見ながらフェラチオをさせる。だが、そこへ予定より早くサマンサが出張から戻って来た。彼女はクリスティーナを追い払い、ニッキに怒りをぶつけた。サマンサはメイドのイングリッドから、ニッキが内緒でパーティーを開いたことも聞いていた。
サマンサは「私たちの関係を説明して」と言い、「答えられなきゃ私が言うわ。死ぬほど愛し合っているわけでもない。互いに思いやっているわけでもない」と感情的に喋った。ニッキが「俺たちは友達だ。セックス・フレンドさ」と口にすると、サマンサは「だったら一緒に住む必要はないわね」と告げる。ニッキが「だが、どうやって会う?俺は車を持っていないから、ここに来られない。それに家が無いから、セックスする場所も無い」と話すと、彼女は「勝手な子ね」と言いつつもセックスに誘った。こうしてニッキは、そのままサマンサの豪邸での同居生活を続けることになった。
ある日、ニッキはカフェで3日前から働き始めたというヘザーをナンパした。しかしヘザーは全く乗って来ず、電話番号も教えなかった。ニッキは電話番号と「電話して」というメッセージを書いたメモに残し、代金を支払わずに店を出た。ヘザーは店に来ていた配達係の青年からニッキの住まいを聞き出し、豪邸に押し掛けた。ニッキは「中に入れば」と誘うが、ヘザーは代金を受け取ってすぐに去った。
ニッキはハリーに「カフェで働いている子に惚れた。彼女と付き合いたい」と語り、協力を求めた。ニッキはハリーを連れてカフェへ行き、大事なビジネスの電話を掛けている芝居をしたが、すぐにバレた。ヘザーは「お気の毒に」と言い、駐禁の切符を切られていることを彼に教えた。外に出たニッキは婦人警官の容姿を褒め、手を取ってダンスを踊ったるその様子を見ていたヘザーは微笑を浮かべ、ニッキに電話番号を教えた。その夜、すぐにニッキは電話を掛け、ヘザーと会話を交わした。
ニッキはヘザーから食事に誘われ、レストランへ出掛けた。しかしヘザーは電話を受けると「用事が出来た」と言い、すぐに帰ってしまう。ニッキはサマンサから「誰と寝てるの?」と問われ、「君だけだ」と答える。サマンサは「嘘つき」と告げ、「病院まで送って。明日、迎えに来て」と口にした。ニッキがカフェに行くと、ヘザーは仕事を辞めていた。夜、ニッキが物音を耳にしてプールを見ると、ヘザーが勝手に入り込んで泳いでいた。
ニッキが「急に帰るなんて、どういうつもりだ」と訊くと、ヘザーは多発性硬化症を患う弟からの電話だったのだと説明した。ニッキは彼女を優しく抱き締め、共に一夜を過ごした。翌朝、ニッキはヘザーの車を移動させようとして葉巻を見つけ、彼女の嘘に気付いた。彼はベッドのヘザーに「危うく騙されるところだった。帰れ」と告げ、家から追い出した。病院へサマンサを迎えに行ったニッキは、主治医の説明で彼女が膣の若返り手術を受けたことを知った。
ニッキはサマンサを家へ連れ帰った後、レストランへ繰り出して女をナンパした。翌朝になってニッキが戻ると、サマンサはソファーで寝ていた。「大丈夫か」とニッキが言うと、彼女は「ずっと連絡せず、電話にも出ないで朝帰り。大丈夫なわけないでしょ」と告げた。ニッキが口先だけで「悪かった」と詫びると、サマンサは「そう思ってるから態度で示して」と要求した。ニッキはサマンサにウンザリし、「俺たちはもう駄目だ」と口にした。
サマンサは感情的になり、「出て行くつもりなのね。覚えといて。アンタも年を取れば容姿が衰える。顔がいいだけで話術は無いし、頭がいいわけでもない。いつか私の苦しみが分かるわ」と告げた。ニッキが「気が済んだ?大丈夫だよ」と優しく抱き寄せると、サマンサのヒステリーは収まった。しかしニッキは荷物をまとめ、家を出て行くことにした。ニッキの携帯が鳴ると、サマンサは再びヒステリックになった。彼女は「若い女なんて」と言い、携帯を奪ってプールに投げ込んだ。
ニッキはエミリーの部屋に泊めてもらおうとするが、「昔は好きだったけど、今は何とも思ってない。中身が空っぽだし、セックスで女にタカるなんて男娼と同じ」と追い払われた。ニッキはハリーに電話を掛け、ストリップクラブで彼と会った。ハリーはショーンという友人と一緒にいた。ショーンが新人らしきストリッパーに無礼な態度を取ったので、ニッキは腹を立てて殴り付けた。ハリーから責められたニッキは「あいつの態度は酷すぎる。あの子は物じゃない。人間だ」と告げるが、「ジゴロのお前が言うな」と返された。売り言葉に買い言葉でハリーの妹を侮辱したニッキは、「二度と顔を見せるな」と拒絶された。
行く当ての無くなったニッキは所持品を安値で売却し、何とかモーテルの宿泊代を捻出した。彼は高級ホテルのプールサイドへ行き、年増の女を口説いて昼食を御馳走してもらおうとする。近くにヘザーがいるのに気付き、ニッキは慌てた。「あの時の態度は謝るから、邪魔しないでくれ」とニッキが言うと、ヘザーは「何言ってんの、同業者でしょ」と軽く告げる。ニッキが切羽詰まっていることを聞いたヘザーは、「私がおごってあげるわ」と口にした。
ヘザーはルームメイトのエヴァと暮らす家にニッキを連れ帰り、今は中古車の営業マンをカモにしていることを話した。ヘザーは営業マンに電話を掛けて食材の買い出しに出掛け、ニッキに夕食を御馳走した。デュークという大金持ちが女と別れてレストランに来るという情報が入ったので、ヘザーはニッキと共に出掛けた。ニッキはヘザーに助言し、デュークを食い付かせるための手伝いをした。その狙い通り、デュークはヘザーに興味を示した。だが、その様子を見たニッキは、寂しい気持ちになった。
店を出た後、ニッキは分け前を要求するが、ヘザーは軽く受け流した。帰宅したヘザーは、ソファーで寝るようニッキに指示した。しかしニッキは寝室へ侵入し、ベッドに体を滑り込ませた。最初は拒んだヘザーだが、結局は彼と関係を持った。そのまま同棲生活が続く中、ヘザーは一通の封書を受け取って沈んだ表情を見せた。ニッキが事情を訊くと、彼女は金持ちの婚約者と別れたことを明かした。「上手い話なのに、なぜ別れたんだ」というニッキの問い掛けに、ヘザーは「貴方を愛してるからよ」と答える。しかし彼女はニッキに「彼とやり直すことにした」という手紙を残し、ニューヨークへ旅立ってしまった…。

監督はデヴィッド・マッケンジー、原案はジェイソン・ディーン・ホール&ポール・コルズビー、脚本ジェイソン・ディーン・ホール、製作はジェイソン・ゴールドバーグ&アシュトン・カッチャー&ピーター・モーガン、製作協力はエリオット・カウフマン&カリン・スペンサー・マーフィー&ジェイソン・ディーン・ホール、製作総指揮はマイルズ・ネステル&アンソニー・コーリー&アーロン・カウフマン&ロン・ハーテンバウム&ダグラス・クーバー&ポール・コルズビー&ジョン・リモット、撮影はスティーヴン・ポスター、編集はニコラス・エラスムス、美術はカボット・マクマレン、衣装はルース・カーター、音楽はジョン・スウィハート、音楽監修はエリザベス・ミラー。
主演はアシュトン・カッチャー、共演はアン・ヘッシュ、マルガリータ・レヴィエヴァ、セバスチャン・スタン、レイチェル・ブランチャード、マリア・コンチータ・アロンゾ、アシュレイ・ジョンソン、ソーニャ・ロックウェル、シェーン・ブローリー、エリック・バルフォー、デレク・カーター、ジョーダン・ブラック、ダニ・レヴィン、サラ・バクストン、ピーター・マーク・ジェイコブソン、ジェーン・アルトシュウェイガー、リンジー・ブロード、エイミー・モッタ、ローリー・ジョンソン、マディソン・バウアー、ジョシュ・リッチマン他。


『ジャスト・マリッジ』『バタフライ・エフェクト』のアシュトン・カッチャーが主演と製作を務めた作品。
監督はイギリスで活動していた『猟人日記』『アサイラム/閉鎖病棟』のデヴィッド・マッケンジーで、初めてハリウッドに招かれて手掛けた作品。
TVドラマ『バフィー〜恋する十字架〜』などで俳優活動をしていたジェイソン・ディーン・ホールが、初めて脚本を担当している。
ニッキをアシュトン・カッチャー、サマンサをアン・ヘッシュ、ヘザーをマルガリータ・レヴィエヴァ、ハリーをセバスチャン・スタン、エミリーをレイチェル・ブランチャード、イングリッドをマリア・コンチータ・アロンゾが演じている。

「物質的には恵まれた生活を送っていた主人公が、精神的には空虚だったことに気付かされる」「女を食い物にしか考えていなかった男が本気の恋をしてするが失恋してしまい、でも良い経験をして今までの考え方を捨てる」というという苦みを帯びた成長物語として描きたいという狙いは何となく分かる。
ただし皮肉なことに、「空虚だった男の生き方」を描く本作品自体が空虚な物語になっているのだ。
映画が始まってからニッキがサマンサをナンパし、ヒモ生活を始めるってのは構成として失敗だろう。今までに若い女たちと関係を持ったことはモノローグで示されているが、そうなると「囲ってくれる年上女をナンパしたのは、その時が初めてなのか」というトコで無駄に引っ掛かる。
後でエミリーが「今度は誰の家?」と言っているので、ニッキが女の家に転がり込むことを繰り返しているのは推測できるが、金持ちの年上女を引っ掛けたのが最初なのかどうかは良く分からない。

それと、映画が始まってからナンパして豪邸に転がり込むと、ニッキとサマンサの関係をゼロから始めなきゃいけないってことになる。
でも、その関係をじっくり描くような時間の余裕は無いから、サマンサが簡単に惚れて、あっという間に「もう長く付き合っているような関係性」が構築されている。
どうせニッキにとっては利用するだけの相手だから、時間なんて無意味かもしれない。
しかし見ている側からすると、ニッキが本当の恋に落ちた際、サマンサのヒモになった直後か、長い付き合いかってのは、重要な意味を持つ違いになるのだ。

ニッキは何かに付けて、「ジゴロとしての正しい行動」についてモノローグや台詞でレクチャーする。
だが、それにしてはメイドが見ているのに平気で盛大なパーティーを開いたり、サマンサが帰った来たのに気付かないままクリスティーナにフェラチオさせたりと、かなり軽率な行動を取っている。
これまでも女の家に転がり込む生活を繰り返してきたはずなのに、学習していないってことなのか。
それとも、豪邸は初めてだから浮かれて調子に乗っちゃったってことなのか。

そんなニッキのボンクラすぎる行動にサマンサは腹を立てながらも、結局は受け入れている。
そんな風に、「サマンサがニッキのナンパで簡単に落ちて、豪邸に住まわせて暮らすようになり、浮気や内緒のパーティーを知るけど全てを受け入れて同性を続行する」という交際スタートから安定期に入るまでの経緯を描くってのは、無駄な時間にしか思えない。
最初から「ニッキが年上の金持ち女であるサマンサの豪邸でヒモ生活を送っていて、サマンサはニッキの浮気も知っているけど黙認している」という状態で話を始めた方が早い。
そうすることで生じるデメリットは思い浮かばない。

ニッキはハリーの前で「ヘザーにマジで惚れた」と言うのだが、ちっともマジには思えない。ナンパしたのに軽く袖にされたから、意地になって口説き落とそうとしているだけにしか見えない。
つまりマジはマジでも、「女を落とすことに対してマジになった」という風にしか感じない。
一方のヘザーにしても、ニッキのどこに惚れたのかはサッパリ分からない。
ようするに、ここだけは「本気で惚れ合った2人」でなきゃいけないのに、そこさえも空虚で薄っぺらい関係にしか見えないのだ。

それと、一方的な思いではあるものの、サマンサのニッキに対する感情は本物の恋心だ。
しかも、「ニッキがヘザーに対して本気になり、その気持ちで突っ走る」というのをさんざん描いた後、終盤になってチラッと「実は サマンサもニッキに本気で惚れていた。
割り切った交際を受け入れていたわけではなかった」と明かす程度ではなく、早い内から彼女の本気は描写されている。スキンシップを求めたのにニッキが立ち去った時の寂しそうな表情や、ニッキがヘザーに電話を掛ける様子を見る寂しそうな様子が描かれている。
サマンサはニッキが他の女にマジ惚れしていると気付いても、すぐさまヒステリックに感情をぶつけたり、金に物を言わせて支配しようと目論んだりするわけではない。浮気心を知りつつも、態度には出さずに抑えている。そしてニッキの気持ちを取り戻すために、膣の若返り手術を受ける。

まあ正直に言って、その行動は「怖い」と感じさせるモノだけど、けなげで一途な恋愛感情があることは確かだ。
その後でサマンサはヒステリックな態度を示すけど、それは手術が終わった後で精神的に参っている中、ニッキが彼女を放り出して女遊びに出掛けたまま朝まで戻らなかったからだ。
サマンサがヒステリックになっても同情心が湧くし、「ウンザリしたから家を出る」というニッキの態度に身勝手さを感じる。
養ってもらうためにナンパして家に転がり込み、そのくせヒモとして彼女に尽くすこともなく平気で遊びまくっておいて、面倒になったから捨てるって、すんげえ身勝手でしょ。

だから、サマンサを捨てた後でヘザーに走るニッキの恋愛劇なんて、ちっとも応援する気が湧かない。
しかも、サマンサのことをひとまず脇に置いておくとしても、ニッキとヘザーの恋愛劇は薄っぺらい。
まずヘザーが同業者だと分かった時点で、ニッキの気持ちは冷めている。一方、その時点でのヘザーにとっては、ニッキは単なるカモでしかなかった。
その後、ホテルのプールで再会したヘザーはニッキを家に泊めてやるのだが、その日の内に2人は関係を持つ。
どうやらデュークを引き付けるためにキスをした段階でニッキはヘザーに惚れた様子で、一方のヘザーもニッキと関係を持つんだから好意があったんだろうけど、「いつ、どの辺りで?」と思ってしまう。

ニッキとヘザーが互いに惹かれ合うまでの経緯は、まるで描かれていない。
そして家でセックスしてから関係を深める様子もダイジェストでサラッと処理されるだけだから、やはり薄い。
2人の関係が薄いまま、ヘザーが「貴方を愛してるから婚約者と別れた」と言ったり、ニューヨークへ発った彼女をニッキが追い掛けたりという「本気の愛」をアピールする言動を描写しているのだ。
でも、その前提となる「2人の恋愛の高まり」が伝わっていないから、そこに観客の気持ちを引き付ける力が生じない。

(観賞日:2015年5月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会