『陰謀の代償 N.Y.コンフィデンシャル』:2011、アメリカ

2002年、ニューヨーク市のスタテン島。118分署で勤務する警察官のジョナサン・ホワイトが帰宅すると、幼い娘のチャーリーが夜遅くまで起きて待っていた。ジョナサンが家に入ると、チャーリーは嬉しそうに迎えた。妻のケリーがチャーリーを2階の寝室へ行かせると、ジョナサンは「発作の薬を変えたのか」と訊く。チャーリーは病気を抱えているのだ。ケリーから「車で2時間も掛かる署に、どうして急に配属されたの?」と不満を吐露されたジョナサンは、「一番の下っ端だからさ。すぐ戻れる。我慢してくれ」と告げた。
ジョナサンはチャーリーの寝室へ行き、ベッドにいる娘と話す。最初は元気にお喋りしていたチャーリーだが、疲れたのか、急に笑顔が消えて静かになった。「パパがいたのはお城のある場所だったんでしょ」と尋ねるチャーリーに、ジョナサンは眠るよう促した。彼は娘を休ませ、1986年にクイーンズボロ公営住宅で起きた出来事を改装した。「ミルク」と呼ばれていた彼は、ヤク中のハンキーという男の拳銃を奪って浴室に隠れた。ハンキーが追い掛けて来た時、ジョナサンは反射的に発砲して撃ち殺してしまった。
2002年のニューヨーク市では、引退を控えたスタンフォード警察委員長が次期候補であるマサーズ警部と共に、クイーンズボロ公営住宅の治安向上作戦を展開していた。地元では「公営住宅は治安向上に効果が無く、臨海地区を住宅にする口実だ」という意見があり、抗議活動も起きていた。一方、ジョナサンは相棒のトーマス・プルデンティーと共にパトロールへ出掛け、騒ぎを起こしたオリーヴ・オイルを分署へ連行する。オリーヴは犯罪の常連なので、分署の連中も彼女の顔は見慣れている。
その日の勤務を終えて、ジョナサンは更衣室で着替える。土日は休みというのが118分署に配属された時の条件で、トーマスは「警部に気に入られてるな」と言う。彼は「その新聞を読んでおけってさ」と告げ、更衣室を去る。新聞には、ローレン・ブリッジスという記者が「1986年、ニューヨーク市警は2件の殺人を無視した」という記事を書いていた。マサーズはジョナサンに、匿名の投書が新聞社に届いたこと、3ヶ月前からローレンが熱心に取材していることを教えた。
1986年、ジョナサンはハンキーを殺した後、親友であるヴィニーと彼の妹であるヴィッキーに、「あいつ、お婆ちゃんの小切手を郵便受けからいつも盗んでた。殺されると思った」と話す。住人のジェロニモが部屋に入って来たので、ヴィニーは慌てて「クソしてるフリしろ」とジョナサンに言う。ジェロニモは排便するため、ヴィニーを押し退けて浴室に入った。彼は血だらけの浴室に驚き、落ちている拳銃を発見した。しかし彼はジョナサンが隠れている浴槽を覗かず、何も指摘せず、拳銃を盗んで立ち去った。ヴィニーはジョナサンに、「死体を捨てよう。どうせ警察は気にしない」と提案した。
2002年、ジョナサンは家族3人でサーカスに行った帰り、忘れた携帯電話を取りに行くため分署へ立ち寄った。ジョナサンが更衣室に行くとロッカーが何者かに荒らされており、「一体、何をしてる?」という殴り書きがあった。帰宅した彼は、1986年を改装する。住宅の外にハンキーの死体を捨てると、まだ一介の刑事だった頃のスタンフォードが捜査に乗り出した。ヴィニーはジョナサンに、「一通り調べたら帰るさ」と告げた。スタンフォードはジョナサンを外に連れ出し、「ハンキーってやつはクソほどの価値も無かった。何か耳に入ったら教えてくれ」と告げた。
マサーズはジョナサンとトーマスに、新聞社へ行ってローレンに「連続殺人犯でも追ってるつもりか。そんな暇があったらテロと戦え」と伝えるよう命じた。ジョナサンたちがクイーンズ・ガゼット紙のオフィスを訪れると、スタンフォードやマサーズを糾弾するポスターが貼られていた。トーマスがマサーズのメッセージをローレンに伝えた後、ジョナサンは「また手紙が来たら連絡してほしい」と告げた。彼がオフィスを去った直後、携帯に「過去を知ってるぞ」というメールが届いた。
ジョナサンは1986年の出来事を回想した。ヴィニーはジョナサンに、「病院へ戻すと脅された。戻ったらお前を守れなくなる。俺はホモじゃない」と告げた。しかしジョナサンは、ヴィニーが屋上で母親の彼氏にフェラチオされている現場を目撃していた。ヴィニーは彼に、「こんな場所から逃げ出したい。母親の彼氏が部屋に千ドルを置いてる。鍵も持ってる。それを盗めば、こんな場所から抜け出せる」と語った。ジェロニモはジョナサンを見つけると拳銃を見せ、「ハンキーに貸した300ドルを返してもらいたい。返してもらえなければ、警察に言うかもしれない」と脅した。
ジョナサンの帰りが毎晩のように遅いため、ケリーは浮気を疑った。ジョナサンは「親父のいた警察署に配属された。かつて住んでた場所を見に行ってるんだ」と釈明した。ジョナサンとトーマスは、クイーンズ・ガゼット紙のオフィスが荒らされたことをマサーズから聞く。2人はマサーズから、最重要事件として捜査することをローレンに伝えるよう命じられた。ジョナサンたちが新聞社を訪れると、ローレンは「警部の命令でアンタたちがやったんでしょ」と決め付けて非難した。
新聞社を去ったジョナサンは、1986年を改装する。ヴィニーと一緒に千ドルを盗んで逃げようと企てた夜、ジョナサンは犬も連れて行こうとした。ヴィニーは反対するが、仕方が無いので階段に繋いでおくよう指示した。ヴィニーが部屋に侵入していると、ジェロニモが廊下を通り掛かった。ジェロニモが吠える犬を暴行したので、ジョナサンは彼を突き飛ばした。するとジェロニモは階段から転落し、頭を打って死んでしまった。
ケリーの元に、知らない人物から電話が掛かって来た。相手は彼女に、「旦那が帰ったら、1986年の2件の事件について尋ねてみろ」と告げた。ケリーは警察署に電話を掛けてジョナサンに事情を説明し、早く帰って来るよう頼んだ。ジョナサンの元には、「良く警察官になれたな」と書かれた手紙が届いていた。ジョナサンはヴィニーの仕業だと確信し、住宅へ赴いた。彼がヴィニーの母親に会うと、「息子は昔と変わってしまった」と口にした。そこへヴィッキーがやって来るが、ジョナサンを冷たく一瞥して部屋に入った。
ヴィニーは母親は、息子と会わないようジョナサンに頼んだ。それを無視してジョナサンが屋上へ行くと、ヴィニーが佇んでいた。その虚ろな目に困惑しながらも、ジョナサンは「あんな手紙を書いたら2人とも人生終わりだぞ」と声を荒らげた。車に戻ったジョナサンは、電話でケリーと話した。その直後、後ろから車に激突され、彼は怪我を負って気絶した。意識を取り戻した彼の手元には、「次の記事で事件を隠蔽した警官の名前を暴露する」という手紙の写真が掲載された、最新号のクイーンズ・ガゼット紙があった。
ジョナサンが帰宅すると、ケリーは「電話してから2時間も掛かってる」と怒りを示した。しかしジョナサンは何も言わず、洗面所へ足を向けて1986年を回想した。入院したヴィニーの見舞いに出掛けた時、彼はジョナサンに「誰にも言ってない」と告げた。ジョナサンが帰宅すると、スタンフォードが来ていた。彼は「君のお父さんが亡くなった後、私は仕事を引き継いだ。我々は相棒だった。今、2つの事件を捜査してる」と言い、ジェロニモが持っていた拳銃を見せる。そして彼は、「死んだのは2人とも、誰も気に留めないような連中だ。捜査は終わりにした。だから頑張って長生きしろ」と述べた。
マサーズはジョナサンに、「手紙を出している奴は、犯人には興味が無いらしい。次の記事が出たら、お前の人生は終わりだぞ。自分の人生を守るために何をすべきか考えろ。私の懸念は出世だけだ。次の記事が出たら、お前の過去を暴露するぞ。肝に銘じておけ」と語った。ジョナサンが警察署を出ると、ローレンの元を訪れた。すると彼女は、「ここへ来た目的は見当が付いてる。でも、次の土曜に全てが明かされる。これが本物の報道よ」と告げた。
ローレンはジョナサンに、土曜に発売されるクイーンズ・ガゼット紙を見せた。そこに掲載されている手紙には、「事件を隠蔽した警官はスタンフォード」と書かれていた。ジョナサンは発売の中止を求めるが、もちろんローレンは拒否した。「1週間だけ待ってくれ」という頼みもローレンは拒絶し、「スタンフォードとマサーズに一撃を食らわせてやるわ」と言い放った。しかしジョナサンと別れた後、彼女は何者かによって殺害される…。

脚本&監督はディート・モンティエル、製作はホリー・ウィーアズマ&ジョン・トンプソン&ディート・モンティエル、製作総指揮はリシャール・リオンダ・デル・カストロ&パトリシア・エバリー&トルーディー・スタイラー&アレックス・フランシス&カシアン・エルウィズ&ジェイク・プシンスキー&アヴィ・ラーナー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン、共同製作総指揮はジョイ・ゴーマン&ロニー・ラマティ、撮影はブノワ・ドゥローム、編集はジェイク・プシンスキー、美術はベス・マイクル、衣装はサンドラ・ヘルナンデス、音楽はデヴィッド・ウィットマン&ジョナサン・イライアス。
出演はチャニング・テイタム、アル・パチーノ、ジュリエット・ビノシュ、トレイシー・モーガン、ケイティー・ホームズ、レイ・リオッタ、ジェームズ・ランソン、ジェイク・チェリー、ウルスラ・パーカー、ブライアン・ギルバート、シモーヌ・ジョーンズ、レモン・アンダーソン、ロジャー・グーンヴァー・スミス、マイケル・リヴェラ、ショーン・クレガン、カレン・クリスティー=ウォード、ピーター・タンバキス、マリリン・ドブリン、デコルテ・スナイプス、クレイグ・ウォーカー、ジョニー・メイ他。


『シティ・オブ・ドッグス』『アルティメット・ファイター』のディート・モンティエルが脚本&監督を務めた作品。
モンティエルはハードコア・パンク・バンド「Gutterboy」の元ヴォーカリストで、回想録の映画化作品『シティ・オブ・ドッグス』で監督デビューし、サンダンス映画祭でドラマ部門の監督賞とベスト・アンサンブル・キャスト賞を受賞している。
ジョナサンを演じたのは、モンティエル監督作には3作連続出演となるチャニング・テイタム。
スタンフォードをアル・パチーノ、ローレンをジュリエット・ビノシュ、ヴィニーをトレイシー・モーガン、ケリーをケイティー・ホームズ、マサーズをレイ・リオッタ、トーマスをジェームズ・ランソン、少年時代のジョナサンをジェイク・チェリーが演じている。

映画は2002年のスタテン島から始まるのだが、そこで過去の出来事を1つ描いてから現在の物語に移るのかと思ったら、1986年の出来事をジョナサンが回想する。そして、劇中の「現在」として2002年の物語が進行していく。
ただ、わざわざ映画が公開された2011年ではなく2002年を現在に設定していることのメリットが、映画を見ていても全く伝わって来ない。
2002年に設定した理由は明白で、「全米同時多発テロが起きた直後」にしたかったってことだ。でも、そうすることの必要性が良く分からない。「全米同時多発テロが起きた直後」という状況設定を外したとして、物語に大きな影響があるようには思えない。
劇中では「1986年の犯罪を掘り返すよりもテロと戦うべき」とマサーズがローレンの記事に腹を立てる描写もあるのだが、例えば「ずっと昔の犯罪を掘り返すより現状の問題を報じるべき」ということでも別にいいんじゃないか。
どこまで物語が進んでも、「テロ直後」ということが物語に大きく関与してくることは無いのだ。

当時の陰鬱な雰囲気ってのを求めたのかもしれないが、それもプラスに作用しているとは思えない。
シリアスな話ではあるのだが、それにしても陰鬱すぎると感じる。
「主人公が何者かに脅されている」ということによるサスペンス・ミステリーとしての緊迫感よりも、陰気だという印象の方が圧倒的に勝っている。
勝ちすぎて、サスペンス・ミステリーとしての面白味が全く伝わって来ないほどなのだ。

チャーリーが病気を抱えていることは冒頭シーンで提示されているが、何の病気なのかは分からない。結局、チャーリーの病名は最後までハッキリしない。
病名が分からないことで、物語に支障があるわけではない。ただ、元気に喋っていたのに急に表情が消える冒頭シーンで「相当にヤバい病気なのか」と思ってしまうので、病名が明かされないことで変に気になったまま映画を観賞する羽目になってしまう。
病名を隠しておくことのメリットは何も無いんだし、そこは明示した方がいいんじゃないかと思うなあ。
っていうか、もっと根本的な問題として、娘が病気という設定の必要性もあまり感じられないぞ。

ジョナサンがチャーリーを休ませた後、1986年の出来事が描かれるのだが、そこで回想シーンが入るってのはタイミングとして上手くない。
たぶんチャーリーの「パパがいたのはお城のある場所だったんでしょ」という言葉で過去を思い返した、ということだろうとは思うけど、ローレンの記事を知ったところで回想が入るのだから、そこで初めて1986年の出来事を描く形にしても良かったんじゃないかと。
それと、その回想では、ジョナサンは「ここは僕の家だ」と言っているのにヴィニーとヴィッキーが室内に居るのでホントに彼の家なのかどうか分かりにくいし、ハンキーとの関係性も分かりにくい。
殺した後、トイレに入って来る男が何者なのかも良く分からない。その後も何度か回想が入り、その中で「ジョナサンは祖母と2人暮らし」「ハンキーは同じ住宅に住む男で、ジョナサンや祖母とは赤の他人」「トイレに入って来たのは同じ住宅に住む男」といったことが分かって来るけど、謎が生じていることには何の意味も無いんだから、もっと最初から分かりやすい形にしておくべきだろう。
っていうか、ジェロニモに関しては、ジョナサンや兄妹と何の関係も無いのなら、なぜ部屋に入って来てクソしようとするのかサッパリ分からんぞ。

ローレンは118分署を激しく糾弾し、全米多発テロ以降の警察の在り方を全否定するのだが、どういうキャラとして描こうとしているのか良く分からない。
結果的には腐敗があるわけだから、それを暴こうとしているローレンの姿勢は正しい。
だけど、見ている限りは「思想が偏り過ぎている女」にしか見えないんだよな。
警察を目の仇にして「9.11テロの慈善イベントをする偽善者ども」と言い放つ辺り、何か個人的な恨みでもあるんじゃないかと思ってしまう。

ジョナサンが初めて新聞社を訪れた後、立ち去る際に犯人から携帯にメールが送られて来る。
そこで『ラストサマー』を連想してしまい、思わず苦笑してしまった。
文言こそ「We Know What to Do」だから違うんだけど、内容としては「お前が何をしたか知ってるぞ」だから、『ラストサマー』の犯人と同じ脅し方なんだよな。
まあ『ラストサマー』に限らず、主人公が過去の過ちを知っている人物にメッセージで脅されるってのは良くあるパターンだけど。

子供時代のヴィニーは「また入院させられる」「入院したくない」などと言っているのだが、なぜ病院の世話になっているのかは、その時点では教えてもらえない。
ジョナサンが現在の住宅へ行くとヴィニーの母親は「息子は昔と変わってしまった」と言い、ヴィニーは虚ろな目をしているのだが、どういう状態なのかは良く分からない。
回想シーンでスタンフォードがジョナサンに「ヴィニーがまた幻聴を訴えているらしい」と語るところで、ようやく「どうやら幼い頃から精神を病んでおり、それが大人になっても続いているようだ」ということが推測できるのだが、そこを謎めいた状態で引っ張るメリットなど何も無いはずだ。
しかも、スタンフォードが幻聴について語るシーンがあっても、まだハッキリしたわけじゃなくて、あくまでも「何となく推測できる」という程度なのだ。

チャニング・テイタムの顔面アップを多用することで、ジョナサンの苦悩を表現しようとしているのかもしれないが、だとしたら成功していない。
むしろ、成長したジョナサンの苦悩よりも、子供時代のジョナサンの不安の方が伝わるモノは多い。
人種差別や貧困、蔓延する犯罪といった要素を絡め、「普通の暮らしをしたかったジョナサンの苦悩」を描き出そうとしているんだろうが、そこも上手く絡み合っていない。
マサーズやスタンフォードも、濃いはずなのにキャラがボンヤリしている。治安向上作戦の裏に何か陰謀めいたモノでもあるのかと思ったら、特に何も無いし。

完全ネタバレだが、新聞社に手紙を送っていたのはヴィッキーだ。
ただ、その動機が良く分からない。
「私たちはゴミなんかじゃない」という怒りを吐露しているので、たぶん治安向上作戦に不満があって、スタンフォードを攻撃するためにやったってことなんだろう。
ただ、あんな手紙を新聞社に送って事件のことを明らかにしたら、ジョナサンとヴィニーも追い込むハメになるってことに気付かなかったのか。気付かなかったとしたら、アホすぎるだろ。

手紙の送り主はヴィッキーだとして、じゃあロッカーに殴り書きをしたり、メールや電話で脅しを掛けたりしたのは誰なのかという謎が残るわけだが、それはマサーズの仕業だ。
で、マサーズだけじゃなくてスタンフォードとトーマスもグルになっているんだけど、その脅しの動機も良く分からん。
手紙の送り主がジョナサンじゃないかと疑っているのなら、そんな脅しは何の意味も無いし、むしろハッキリと追求した方がいい。
終盤になってヴィニーの始末をジョナサンに要求するが、そのための脅しとしては遠すぎるし、弱すぎる。
しかも、ヴィニーの殺害をジョナサンが尻込みすると自分たちでやろうとしているんだから、最初からそうすりゃいいだけだし。

(観賞日:2014年6月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会