『愛がこわれるとき』:1991、アメリカ

マーティンとローラのバーニー夫妻は、外から見れば仲の良い円満な夫婦だった。しかし、実際は違っていた。マーティンは外面はいいが、極度に神経質で嫉妬深く、物の位置が少しずれているだけで腹を立て、他の男を見ていただけでローラに暴力を振るうような男だったのだ。
近所に遊びに来た医師フライシュマンから夜のクルージングに誘われたマーティンは、子供の頃に溺れたのが原因で水を怖がっているローラも連れていくことにした。しかしヨットは激しい嵐に襲われ、海に投げ出されたローラは行方不明になってしまう。
ローラが身に付けていた物が発見され、彼女の葬儀が行われた。しかし、ローラは生きていた。彼女は3か月前から水泳教室に通って泳ぎを練習し、溺れたフリをして海岸まで泳ぎ着いたのだ。全てはマーティンから逃げるための計画だったのだ。
アイオワ州の小さな町に辿り着いたローラは、名前をサラ・ウォーターズに変えて新しい生活を始める。隣に住むベン・ウッドワードとも親しくなり、平和な毎日を過ごすローラ。しかし、ローラが生きていることに気付いたマーティンが、彼女を執拗に探し始めていた…。

監督はジョセフ・ルーベン、原作はナンシー・ブライス、脚本はロナルド・バス、製作はレナード・ゴールドバーグ、製作協力はC・タッド・デヴリン&マイケル・E・スティール、製作総指揮はジェフリー・チャーノフ、撮影はジョン・W・リンドリー、編集はジョージ・バウアーズ、美術はダグ・クラナー、衣装はリチャード・ホーナング、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
主演はジュリア・ロバーツ、共演はパトリック・バーギン、ケヴィン・アンダーソン、エリザベス・ローレンス、カイル・セコー、クローデット・ネヴィンス、トニー・アバテマルコ、マリタ・ジェラーティ、ハーリー・ヴェントン、ナンシー・フィッシュ、サンディ・シャッケルフォード、ボニー・クック、グラハム・ハリングトン他。


ジュリア・ロバーツが主演したスリラー映画。夫マーティンをパトリック・バーギン、新しい住まいの隣人ベンをケヴィン・アンダーソンが演じる。ネチネチした性格のはずのマーティンが淡白に描かれているなど、恐怖の演出にグダグダ感が漂う作品。

ローラが逃げたのは、発作的な行動ではない。
水泳教室に通ったり、荷物をまとめておいたりと、周到に計画していた行動だ。
それにしては、自分が生存しているという証拠を残しすぎだろう。
便器に結婚指輪を流すが残ってしまうなんて、完全に御都合主義の世界である。

そもそも、水泳教室に通うという行動自体がマヌケだろう。
ローラが死んだことを教室の仲間が知れば、お悔やみの電話を掛けてくることは容易に想像が付く。「自分では全ての証拠を消したつもりが、1つだけミスがあった」という形にしないと、計画がバレる過程に緊張感が生まれない。

そもそも、水が怖いという設定なのに夜の海を泳いで逃げるという展開は、ちょっと無理があるような気がするぞ。普通なら、もっと別の逃亡方法を考えるはずだ。
いっそのこと、「水が怖いというのも、実は逃亡計画のための嘘でした」ということにしてしまえば、それはアリだったのかもしれないが(いや、それもナシだな)。

ローラは老人ホームに入っている母親の世話をしようと考えているなど、どう考えたってマーティンにすぐに気付かれることは、計画している時点で分かるはず。
自分が逃げるよりも、マーティンを自殺や事故死に見せ掛けて殺害しようと考える方が自然じゃないだろうか。

ローラが逃亡途中の長距離バスの中で、初めて会ったオバサンにマーティンとの関係やこれまでの経緯をベラベラと喋るのは不自然。もっと違った形で、マーティンとローラのこれまでの流れを説明する場面を序盤に挿入できなかったのだろうか。

遺体も発見されていないのに、マーティンがローラは死んだと思って葬儀をするのは奇妙。そこまでの段階でローラへの強烈な執着心を示しているのだから、遺体が発見されない限りローラの生存を信じる方が自然だろう。
この辺りも、御都合主義と言わざるを得ない。

マーティンの偏執的な性格が、終盤までほとんど見えないのは問題だ。
中盤でも彼の暴力的な衝動を見せるなどの工夫が欲しい。
ローラがマーティンの接近に気付き始めるわけでもないので、中盤はほとんど緊張感の無いまま進んでいってしまうのだ。

中盤ではローラとベンの恋愛に多くの時間が割かれるが、それと同じぐらいマーティンの登場する場面も入れるべきではないだろうか。
そうすることによって、ローラの平穏な生活が長くは続かないことを観客に強くイメージさせることが出来るはずだ。

終盤になって、ようやくマーティンがローラの前に姿を現す。
だが、そこから終幕までの流れは、あっさりしたもの。
ベンは顔を出したと思ったらすぐに気絶して、最後までデクノボー状態。
ローラが必死に逃げ回るとか、マーティンがゾンビのように追い掛ける展開も無い。

 

*ポンコツ映画愛護協会