『アメリカン・ピーチパイ』:2006、アメリカ&カナダ

コーンウォール高校に通うヴァイオラは、女子サッカー部員のセンターフォワードを務めている。男子サッカー部キャプテンを務める恋人のジャスティンは、「上達した。男子チームの半分より上手い」と彼女の実力を褒めた。だが、選手不足を理由に廃部が決定したため、ヴァイオラは部員のキアやイヴォンヌたちと共に男子サッカー部ヘッドコーチのピストネクを尋ね、入部テストを求めた。ピストネクは「女子は男子に勝てない」と侮蔑したような態度で却下し、ジャスティンも彼に同調した。「男子チームの半分より上手い」という言葉も「そんなことは言ってない」と彼が嘘をつくので、腹を立てたヴァイオラは「私たちの仲も終わりよ」と別れを告げた。
ヴァイオラが帰宅すると、双子の兄であるセバスチャンと交際中のモニークが背後から声を掛けて来た。後ろ姿がセバスチャンと似ていたので、間違えたのだ。モニークが高飛車な態度で「付き合ってあげてるんだから、捨てられたくなかったら電話するよう言っといて」と言うので、ヴァイオラは嫌味を浴びせた。彼女が家に入ると、母のダフネはデビュタント用ドレスを用意していた。ヴァイオラは「社交界に興味が無いって何度も言ったよね。時代錯誤なのよ」と冷たく告げた。
ヴァイオラの両親は離婚しており、セバスチャンは父の家で暮らしていることになっている。そのセバスチャンはダフネに見つからないよう自室に戻っており、ヴァイオラに「2週間、ロンドンへ行く。バンドで音楽祭に出る。母の真似をしてイリリア高校に電話を掛けて、適当な病名を付けて休むと言ってくれ」と頼む。「サボリで転校になったのに、いきなり2週間も休みじゃマズい」とヴァイオラは注意するが、セバスチャンは「俺はミュージシャン志望だ。夢を追うにはルールを破ることも必要だ」と告げて出発した。
ヴァイオラはセバスチャンに扮してイリリア高校の男子サッカー部員になり、対抗戦でコーンウォール高校を負かそうと考えた。そこで彼女は仲の良い美容師のポールに事情を説明し、「セバスチャンは転入生だから気付かれない」と告げて男子に化けるヘアメイクを依頼した。母には「パパの家で2週間過ごす」と嘘をつくが、認めてもらえなかった。そこで「社交界デビューに向けてモニークに教えてもらう」と言うとダフネは喜んで承諾し、「来週は資金集めのカーニバルがあるの。兄さんにも来るよう言って」と述べた。
ヴァイオラは男装してイリリア高校へ行き、男子寮に入った。ルームメイトは男子サッカー部のデュークで、隣の部屋で暮らすトビーとアンドリューも部員だった。ヴァイオラは他の新入生と共にヘッドコーチのディンクレイジが指導する入部テストを受けたが、2軍行きとなった。校長室に呼ばれたヴァイオラは、素性がバレたのではないかと心配する。しかし校長のゴールドは、「歓迎すると言いたかっただけだ。私も昔は転入生でね。思い入れがある。兄のように接することにしている」と述べた。
校長室を出たヴァイオラは、女子生徒のオリヴィアと遭遇した。彼女の靴に興味を持ったヴァイオラは思わず女性的な部分が出そうになり、慌てて取り繕った。ヴァイオラが学食でデュークたちと合流すると、別のテーブルにオリヴィアが来た。男子3人の会話で、ヴァイオラはデュークがオリヴィアに片思いしていることを知った。寮長のマルコムもオリヴィアに惹かれており、積極的にアプローチするが、全く相手にされていなかった。
ヴァイオラはデュークたちの会話で、オリヴィアが大学生の恋人に振られたばかりでドン底にあることを知った。「彼女は可哀想だ。同じような経験をしたばかりだ」とヴァイオラが語って遠い目をすると、デュークたちは気味悪がって席を外した。ヴァイオラはポールに電話を掛け、「周囲から変な奴だと思われてるし、試合にも出られない。迎えに来て」と弱音を吐く。するとポールは「サッカー部の件は何も出来ないが、人間関係なら考えがある」と告げた。
ポールはデュークたちがいる食堂「シザーリオ」で待機し、ヴァイオラに彼らの元へ向かうよう指示した。ポールはキアとイヴォンヌを順番にヴァイオラの元へ行かせ、未練がある元カノのように振る舞わせる。ヴァイオラもプレイボーイのように振る舞い、デュークたちの見方を変えさせた。モニークが入って来たので、ヴァイオラは顔を隠して逃げ回る。彼女が「君とは終わったんだ。目を閉じれば本当の姿が見える。最低の醜さだ」と言い放つと、モニークはヒステリックに叫んで走り去った。その様子を見たデュークたちは、喝采を送ってヴァイオラを受け入れた。シザーリオでの出来事は学校でも評判となり、周囲のヴァイオラに対する態度も変化した。
ヴァイオラやデュークたちが解剖の授業に出席すると、オリヴィアも教室に入って来た。クジ引きで実験のパートナーを決めることになり、デュークはオリヴィアと組むことを期待した。しかしユーニスという歯の矯正具を付けた女子生徒と組むことになり、彼はガッカリした。オリヴィアと組むことになったヴァイオラは、セバスチャンが歌詞を書き留めておいた紙を彼女に見られてしまう。ヴァイオラは慌てて「昔、俺が書いた」と嘘をつき、歌詞を読んだオリヴィアは「素敵な歌詞」とウットリした表情を浮かべた。
デュークはヴァイオラに、「俺と交際するようオリヴィアを説得してくれ」と頼んだ。彼が「説得してくれたら、レギュラーになれるようサッカーを教える」と持ち掛けると、ヴァイオラは「その話、乗った」と快諾した。ヴァイオラはデュークからサッカーを教わり、深夜も個人練習を積んだ。マルコムはオリヴィアがヴァイオラに夢中となっていることに憤慨し、「リサーチして弱みを握り、チャンスを潰してやる」と嫉妬心を燃やした。
次の解剖授業の時、マルコムはオリヴィアに「飼っているタランチュラのマルヴォーリオが行方不明になった」と捜索チラシを渡した。ヴァイオラから「デュークと付き合えば?お似合いだと思うよ」と言われたオリヴィアは、笑いながら「ハンサムだと思うけど、付き合う対象じゃないわ」と告げた。オリヴィアから「口説いてこない男子は初めて」と言われたヴァイオラは、「君は友達だからさ。心が休まる数少ない相手だ」と述べた。「私も同じ」とオリヴィアが口にすると、ヴァイオラは「だったらアドバイスを聞いて。彼と交際を」と言う。オリヴィアは微笑し、「考えてみるわ」と告げた。
ヴァイオラから寮の部屋で「一歩前進だ」と言われたデュークは、「デートを申し込むか?」と告げる。「まずは打ち解けるのが先だろ」とヴァイオラに諌められたデュークは、女性と話すのが苦手なのだと打ち明けた。「いつも余計なことを言ってしまう」と彼が吐露すると、ヴァイオラは「俺を女だと思って話し掛けるんだ」と促した。デュークがヴァイオラを相手に練習していると、マルヴォーリオが部屋に入って来た。ヴァイオラは甲高い声で悲鳴を上げ、2人はベッドに避難して抱き合った。
マルヴォーリオが去った後、デュークは「女みたいな声を出すな。混乱するだろ」と告げた。ダフネから留守電に「明日のカーニバル、忘れないで。兄妹揃って来る約束よ」というメッセージが入ったので、ヴァイオラは焦った。デュークは「お前の母親はジュニア・リーグの人間なのか」と確認した後、「俺も参加することになってる」と明かす。「今は困る」とヴァイオラが漏らすと、デュークは「そう悪くない。オリヴィアも来る。アプローチのチャンスだ」と述べた。
ヴァイオラはデューク、トビー、アンドリューの4人でカーニバル会場を訪れた。オリヴィアが「キス・コーナーに来てね」と声を掛けて去ると、デュークは彼女の後を追った。ヴァイオラはモニークを目撃すると、トビーたちに「ちょっと身を潜める」と告げて別行動を取る。簡易トイレで女の姿に戻ったヴァイオラは、ダフネの元へ赴いた。挨拶だけで去ろうとすると、ダフネは「キス・コーナーの登板よ。兄さんも綿アメ担当なのに」と言う。そこでヴァイオラは「捜してくる」と言い、その場を後にした。
キス・コーナーのチケットを購入したデュークは列に並び、自分の番を待った。しかし直前でオリヴィアからヴァイオラに交代したので、彼は落胆した。ヴァイオラとキスしたデュークは、口を離して「これで一枚分」と言う。するとヴァイオラは「まだ残ってる」と言い、またキスをした。そこへジャスティンが現れ、「俺の彼女に手を出しやがって」と怒って2人を引き離す。ヴァイオラが「元彼女ね」と訂正すると、デュークは「セバスチャンの妹か」と理解した。
デュークとジャスティンが喧嘩を始めそうな雰囲気になったので、ヴァイオラは仲裁に入った。デュークは「試合で勝負しよう」と言うが、ジャスティンが殴り掛かったので喧嘩が勃発する。ヴァイオラが制止に入って揉めていると、ダフネが駆け付けて叱責した。寮へ戻ったヴァイオラに、デュークは会場での出来事を語った。「君の妹とキスしたけど、チャリティーだから」とデュークが言い訳すると、彼女は「遠慮なくやってくれ」と告げた。
ヴァイオラが「君が妹を好きなら、付き合えばいい」と言うと、デュークは「オリヴィアを忘れて?」と口にする。ヴァイオラは「君とオリヴィアは、上手く行くとは思えない。でもヴァイオラならバッチリだ」と述べた。ヴァイオラがデュークと練習する様子を見ていたディンクレイジは、コーンウォール高との試合で先発するよう言い渡した。ヴァイオラは喜んでデュークに抱き付くが、そこには別の感情も込められていた。
オリヴィアは友人のマリアに、セバスチャン(男装したヴァイオラ)を好きになったと打ち明ける。友達扱いしかされていないことを彼女が言うと、マリアは「男を利用して嫉妬させるのよ」と助言した。オリヴィアはヴァイオラの前でデュークを誘惑し、デートの約束をする。ヴァイオラはオリヴィアを追い掛け、「やっぱり君とデュークは合わないと思う」と告げる。オリヴィアは「心配ならあなたも来て、見守ってくれない?ダブルデートよ。ユーニスと一緒に」と述べた。
ヴァイオラはユーニスと共にシザーリオへ行き、デューク&オリヴィアと同じテーブルに就いた。オリヴィアがデュークにベタベタすると、ユーニスもヴァイオラとイチャイチャしようとする。ヴァイオラがユーニスを引き離して「失礼する」と立ち去ると、オリヴィアも後を追って店を出た。本物のセバスチャンは空港からモニークに電話を掛け、留守電に「ロンドンにいる。予定より1日早く帰るよ。君に話があるんだ」とメッセージを残した。
ジュニアリーグの集会が開かれ、代表を務めるダフネは社交界デビューの心得について語る。オリヴィアやモニークたちが席に就く中、遅れて会場入りしたドレス姿のヴァイオラは無作法な態度で昼食を取った。トイレでオリヴィアと2人になった彼女は、「デュークとキスするなら、引き延ばした方がいい。唾液の量が凄い」と吹き込む。オリヴィアが「本当に好きなのは彼じゃなくて、同部屋のセバスチャンなの。嫉妬させたくて」と明かすと、ヴァイオラは困惑した。
ヴァイオラが「混乱を招いてるわ。みんなにホントのことを話すべきよ」と言うと、オリヴィアは「そうね。セバスチャンと会って情熱的なキスをするわ」と述べた。そこへ個室に入っていたモニークが現れ、「この泥棒猫」とオリヴィアを罵った。モニークはオリヴィアに突っ掛かり、喧嘩が勃発した。ヴァイオラも加わって争っていると、ダフネが駆け付けて叱責した。その夜、セバスチャンがタクシーで学校へ戻ると、オリヴィアは相手を確かめずに駆け寄った。彼女は熱烈なキスをしてセバスチャンの歌詞を朗読し、人違いに気付かないまま走り去った。その様子を目撃したデュークは、これまた人違いに気付かず、ヴァイオラが自分を裏切ったと思い込む…。

監督はアンディー・フィックマン、着想はウィリアム・シェイクスピア『十二夜』、原案はユアン・レスリー、脚本はユアン・レスリー&カレン・マックラー・ラッツ&キルステン・スミス、製作はローレン・シュラー・ドナー&ユアン・レスリー、製作総指揮はトム・ローゼンバーグ&マーティー・ユーイング&ゲイリー・ルチェッシ、撮影はグレッグ・ガーディナー、美術はデヴィッド・J・ボンバ、編集はマイケル・ジャブロー、衣装はカティア・スターノ、音楽はネイサン・ワン、音楽監修はジェニファー・ホークス。
主演はアマンダ・バインズ、共演はチャニング・テイタム、ローラ・ラムジー、ヴィニー・ジョーンズ、デヴィッド・クロス、ジュリー・ハガティー、ジョナサン・サドウスキー、ロバート・ホフマン、ロバート・トルティー、ジェームズ・スナイダー、アレックス・ブレッケンリッジ、アマンダ・クルー、ジェシカ・ルーカス、ジェームズ・カーク、ブランドン・ジェイ・マクラーレン、クリフトン・マーレイ、エミリー・パーキンス、リンダ・ボイド、ジョン・パイパー・ファーガソン、ケイティー・スチュアート他。


ウィリアム・シェイクスピア作の喜劇『十二夜』をモチーフにした作品。『アメリカン・ピーチパイ/サッカーに恋して』というタイトルでTV放送されたこともある。
原題は「She's the Man」なので邦題は全く違うのだが、『アメリカン・パイ』に便乗したことは、ほぼ間違いないだろう。
監督のアンディー・フィックマンは、これが初の劇場用映画。脚本は『恋のからさわぎ』『キューティ・ブロンド』のカレン・マックラー・ラッツ&キルステン・スミスと、これがデビューとなるユアン・レスリーの共同。
ヴァイオラをアマンダ・バインズ、デュークをチャニング・テイタム、オリヴィアをローラ・ラムジー、ディンクレイジをヴィニー・ジョーンズ、ゴールドをデヴィッド・クロス、ダフネをジュリー・ハガティー、ポールをジョナサン・サドウスキー、ジャスティンをロバート・ホフマン、ピストネクをロバート・トルティー、マルコムをジェームズ・スナイダーが演じている。
2002年から放送されていたTVドラマ『恋するマンハッタン』で人気者になったアマンダ・バインズが主演ってことで、いわゆるアイドル映画だね。

導入部の展開が、ものすごく慌ただしい。
まずタイトルロールでは、ビーチでサッカーをするヴァイオラとセバスチャンの様子が描かれる。その流れで2人の交際が提示され、シーンが切り替わるとヴァイオラが高校で女子サッカー部の仲間と話している。そこへ廃部の報告が届き、ヴァイオラは男子サッカー部の入団テストを要望して却下され、自分を見下すセバスチャンと別れる。
ラブラブ交際を示した直後に愛想を尽かして別れるのなら、そんな関係なんて要らないんじゃないかと思ってしまう。
終盤に対抗戦で戦う展開があるので、そこに向けたネタ振りではあるんだけど、だったら、もう少し丁寧にやるべきじゃないかと。

セバスチャンにしても、登場したかと思ったら、すぐに出発してしまう。
そしてセバスチャンが出発した直後、ヴァイオラは彼に化けてイリリア高サッカー部に入ることを思い付く。
その前にモニークが「後ろ姿がセバスチャンにそっくり」と言うネタ振りはあったものの、それ以外で「ヴァイオラとセバスチャンが良く似ている」と思わせるための撒き餌は何も無かったわけで。
諸々を含め、導入部の展開はテンポがいいってことじゃなくて、バタバタしているという印象を受ける。

女子サッカー部の件にしても、ヴァイオラが部員と喋るシーンが描かれたかと思ったら、その直後に廃部の知らせが来る。すんげえ拙速に思えるのよ。
そりゃあ、そこは話を始める発端でしかないから、長く時間を割くわけにいかないってのも分かるのよ。
ただ、そもそも選手不足で廃部になるのなら、それが急に宣告されるなんてことは有り得ない。必ず「何人を下回ったら廃部ですよ」とか、「このまま部員が増えないと廃部ですよ」という猶予期間があるはずだ。
で、女子サッカー部が廃部になるという展開を用意するのなら、「このままだと廃部になってしまうので、存続させるために奮闘する」という話にした方がいいんじゃないかと思ってしまうのよ。

ヴァイオラは兄に化けてイリリア高へ行くことにするのだが、「セバスチャンは転入生だから顔が違ってもバレない」ってのは、ちょっと無理を通している印象だ。
あと、「対抗戦でセバスチャンを負かす」と言ってるけど、イリリア高のサッカー部に入ったからって、試合に出場できるとは限らない。もうレギュラーは固定されているわけで、仮に一軍に入ったとしても、最初の試合から起用される可能性は低いだろう。
わずか12日前に入ったばかりの新入りだったら、連携なんて全く出来ていないわけだから。
入団テストの後でポールに「試合にも出られないし」と弱音を吐くけど、「そんなの最初から分かり切ってるだろ。バッカじゃなかろか」と思ってしまう。

原作が『十二夜』だから、ヴァイオラが兄に扮する期間を12日にしているのは間違いじゃない。
っていうか、そうすべきだ。
ただ、その日数で物語を構築する上で、「ヒロインが転入生の兄に化けて男子サッカー部に入部し、レギュラー組に入って対抗戦で元カレのチームと戦う」という内容にしたのは失敗だろう。
コメディー映画だし、あんまりガチガチな文句を言うべきではないのかもしれんけど、それはサッカーを舐めているとしか思えんよ。

それと、ヴァイオラが試合に出場しても、サッカーってのは個人競技じゃないから、「ヴァイオラvsセバスチャン」という図式だけでは成立しないのよ。
つまり互いにチームの仲間がいるわけで、仮にイリリア高が勝ったとしても、それは「ヴァイオラがセバスチャンに勝利した」ってこととイコールじゃないわけで。
イリリア高がコーンウォール高を圧倒する実力チームであれば、ヴァイオラがハンデになっていても勝てちゃう可能性はあるわけで。
そういう諸々を考えると、セバスチャンが元カレという設定なんて排除して、単純に「サッカーを続けたいから、ヴァイオラは男子に扮してサッカー部に入る」ってことでも良かったんじゃないかと。

サッカー関連では、それ以外でも問題がある。
大いに引っ掛かるのは、ヴァイオラのサッカーに対する情熱がイマイチ伝わって来ないまま話が進んでしまうってことだ。
実はサッカーの練習をするシーンって、そんなに多くないのよ。デュークとはサッカー部の仲間だけど、サッカーを離れたトコで一緒にいることが大半だし。「オリヴィアの説得と引き換えにサッカーを教えてもらう」というシーンになるまで、しばらくはサッカーのことなんて完全に忘れちゃってるし。
ヴァイオラがデュークからサッカーを教えてもらうことになっても、いきなりオーバーヘッドキックの練習を始めているので、バカじゃねえのかと言いたくなる。
あと、わずか数日だけエースFWにコーチしてもらって、それで大事な試合に先発で使ってもらえるようになるのなら、そんなサッカー部のレベルはタカが知れてるだろ。ヴァイオラが天才的なセンスを持つサッカー少女という設定ならともかく、そうじゃないんだから。

サッカーという要素が、「ヒロインが双子の兄に扮して、男として暮らす」という話を作るための道具に過ぎないことなんて分かり切っているのよ。
ただ、それがシナリオとして露骨に出ちゃってるのはマズいでしょ。サッカーという要素を持ち込んだのなら、ちゃんと使うべきだよ。
すんげえテキトーに扱うぐらいなら、最初から持ち込まなきゃいい。
ぶっちゃけ、「ヒロインが男に成り済ますことで生じるドタバタ恋愛劇」が重要なわけで、むしろサッカーの要素を排除した方が何かと都合がいいんだよな。そこが余計な枷になっていると言ってしまってもいいぐらいだぞ。

ドタバタ劇にしても、強引さが否めない箇所が気になる。
カーニバルのシーンでは、ヴァイオラがトビーたちと離れて女の姿に戻る。だが、ダフネに挨拶した後、すぐ男装に戻っている。それは仲間の元へ戻るためなのかと思ったら、モニークから逃げた後、また女の姿になって、そのままキス・コーナーへ移動する。
「短い間隔で男装と女装を繰り返す」というドタバタ喜劇をやりたいってのは分かるけど、そのための設定に無理がありすぎるだろ。
あと、キス・コーナーって何なのかというと、「担当になった高校生の女子が、チケットを買った男子とキスする」というコーナーなのだ。
例え女性が嫌がっていても「チャリティーだから」ってことでキスしなきゃいけないんだけど、酷いイベントだよな。アメリカってセクハラなんかにうるさい国なのに、そういうのは平気でやってんのか。

恋愛劇の方も、あまり上手く描写できているとは言い難い。
まずオリヴィアがヴァイオラと知り合って早々から、明らかに好意を抱いている様子を示しているのは引っ掛かる。
彼女は年上の彼氏にフラれたばかりで、落ち込んでいるはずでしょ。それなのに、まだ中身を全く知らない、出会ったばかりのヴァイオラに対して目がハートになっちゃうのは、なんか軽い奴に見えちゃうぞ。
それと、食堂での一件は彼女の耳にも入っているはずで、だったら「セバスチャンはプレイボーイ」という認識になったはずだ。
それなのに、彼氏にフラれたばかりのオリヴィアが、そんな女好きの奴にゾッコン惚れ込んだまま気持ちが変わらないってのも、これまた違和感があるのよ。

オリヴィアはヴァイオラに出会った直後から意識する態度を見せているが、それだけでなく「女性の気持ちが分かる」という部分も好意に繋がっている。
だが、そういう部分でオリヴィアがヴァイオラに惹かれる形にすると、後片付けの時に困るのだ。
と言うのも、当たり前だが2人がカップルになる着地など無くて、最終的にオリヴィアの恋は叶わないわけで。
でも、そのままだとオリヴィアが不憫だから、セバスチャンとカップルになる展開が用意してある。
それは『十二夜』と同じ展開だから構わないのだが、何しろセバスチャンが登場して彼女と知り合うのは終盤に入ってからであり、そこからの逆転劇には相当に無理があるのだ。

そもそも「セバスチャンの登場が終盤で、オリヴィアと知り合うタイミングも遅い」という段階で難しいモノはあるけど、そこを少しでも上手く運ぶための方法はある。
そのためのヒントは、セバスチャンの歌詞を見たオリヴィアが「素敵」と言うシーンにある。
つまり、彼女がヴァイオラの外見や彼女自身の性格ではなく、「ヴァイオラがセバスチャンの真似をしている部分」に惚れる形にすればいい。
それなら、「ヴァイオラを通して、セバスチャンの性格や言動に惚れる」ということに出来る。

そのためには、ヴァイオラがオリヴィアと接する際、もっと「セバスチャンっぽい言動」を見せるべきだ。例えば兄の受け売りの台詞を口にするとか、あるいは兄が作った曲のデモテープを自作として聴かせるとかね。
だけど実際には、ヴァイオラは兄の名前を借りているだけであり、兄の物真似をしようとしているわけではないのだ。
ってことは、オリヴィアは完全に「男装したヴァイオラ」に惚れたことになってしまう。
それは『十二夜』でも同じことだけど、シェイクスピアの古い演劇だったら許容できてしまうことでも、現代の高校を舞台にしたコメディーだと、それはマズい設定になってしまうのよ。

キス・コーナーまで互いに全く意識していなかったヴァイオラとデュークが、そこでキスしたことによって急に盛り上がるのは無理がある。
ヴァイオラに至っては「彼女が好きなら付き合えばいい」と言うぐらい完全に惚れちゃうんだけど、どう考えたって上手くないやり方だ。少なくともヴァイオラの方は、それより前からデュークに仄かな思いを寄せている設定にしちゃった方がいいぞ。
ただし、そこまでに彼女がデュークに惚れるきっかけが何かあるのかというと、何も無いんだよな。
ぶっちゃけ、デュークって恋愛対象としての魅力を全く発揮していないのよ。
まあ「見た目に反して情けない男」ってことで、母性本能はくすぐるかもしれんけど。

オリヴィアがデュークを誘惑して偽セバスチャンの嫉妬心を煽る作戦を取り始めると、彼女の好感度が一気に下がってしまう。
コメディーであろうとも、それはやるべきじゃないなあ。友達がそそのかしても、「デュークに悪い」ってことで難色を示すべきだよ。
でも、むしろノリノリで彼を誘惑するんだよな。それはイマイチ笑えないなあ。
後で「悪いとは思うけど」ってなことを言うけど、心底から罪悪感を抱いている様子は皆無だし。

一方、ヴァイオラのオリヴィアに対する嫉妬心も、これまた醜くてイマイチ笑えない。
オリヴィアが本気でデュークを好きなら両想いってことになるわけで、つまりヴァイオラは横恋慕しているだけってことになるのよ。
それなのに「2人は合わない」と言って仲を引き裂こうとするんだから、ただの身勝手で卑怯な奴になっちゃってるでしょ。
むしろ、「デュークに惹かれるけど、彼からオリヴィアと交際する協力を要請されているので悩む」という形にしておけば、共感を誘うし、魅力的に思えるんじゃないかと。

本物のセバスチャンがタクシーで学校に到着した時、オリヴィアがキスしたのに人違いに気付かないってのは無理がありすぎる。
そもそも、「なぜタクシーからセバスチャンが降りて来るのが分かったのか」というトコからして疑問があるけど、それは置いておくとしよう。
ただ、正面から駆け寄っているんだから、キスの瞬間は目を閉じるにしても、別人ってことは分かるはずでしょ。
オリヴィアが人違いしたままセバスチャンが彼女に惚れる展開を作るために、あまりにも無理がデカすぎるわ。

ヴァイオラがデュークからサッカーを教えてもらうことになった時、いきなりオーバーヘッドキックの練習を始めているのは、もちろん伏線なんだろうと思っていた。
だからクライマックスでは、「オーバーヘッドを決めるための伏線を決めて試合に勝利する」というシーンがあるんだろうと思っていた。
ところが、クライマックスで待ち受けているのは、「ヴァイオラがPKを獲得し、GKのジャスティンにシュートを弾かれ、デュークがヘディングで繋ぎ、ヴァイオラがジャンピング・ボレーで決勝点を決める」というシーン。
オーバーヘッドじゃねえのかよ。

(観賞日:2015年8月30日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[アマンダ・バインズ]
ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(女性)】部門[アマンダ・バインズ]
ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[アマンダ・バインズ]

 

*ポンコツ映画愛護協会