『エリザベス・ハーレーの明るい離婚計画』：2002、アメリカ＆ドイツアメリカ
ジョー・タイラーはファット・チャーリーに会うため、彼が経営する会員制カジノへ赴いた。用心棒に追い払われたジョーは、裏口の窓を割って侵入した。ジョーがディーラーのイカサマを指摘すると、奥の部屋からチャーリーが現れた。ジョーは「証拠写真がある」と言い、背広の懐から封筒を取り出した。チャーリーが封筒を開けると、入っていたのは裁判所からの召喚状だった。ジョーは彼に、「恐喝事件の証人として召喚する」と通達した。ジョーは外に刑事を待たせているように装い、店から脱出してオフィスに戻った。
召喚状を届けるのに６日も費やしたため、ボスのレイはジョーを叱責した。彼は「少しはトニーを見習え」と言い、同僚のトニーが２時間で仕事を済ませて来たことをジョーに告げる。しかしジョーは日付が昨日になっていることを指摘し、レイはマヌケなトニーを叱責した。テキサスから5000ドルの依頼があることをレイが告げると、ジョーとトニーは自分が担当しようとする。レイはミスのあったトニーではなく、ジョーにその仕事を任せることにした。レイは「最大の顧客からの依頼だ。成功すればビジネスが拡大する。スピードが最優先だ」とジョーに告げた。
テキサスで実業家をしているゴードン・ムーアは、ニューヨークへ行く妻のサラを空港まで車で送り届けた。車内ではサラへの愛を示すがゴードンだが、彼女を送り届けた直後、愛人のケイトを車に乗せた。そのゴードンから依頼され、サラに書類を届けるのがジョーの仕事である。ジョーの仕事を邪魔したいトニーはホテルにいるサラに電話を掛け、「花屋を装った男が書類を届けに行く。早く部屋から逃げろ」と告げた。
ジョーはホテルに入るが、サラはエレベーターで逃亡する。ジョーはサラを追い掛けるが、見失ってしまった。レイはジョーに腹を立て、その仕事をトニーに回した。ジョーはサラのいた部屋に侵入し、封筒や携帯電話などを盗み出した。ニューヨーク市警に赴いたジョーは、顔見知りである警官のミルトに金を渡し、短縮ダイヤルの住所を教えてほしいと依頼した。ジョーはマイアミのマリオット・ホテルに電話を掛け、サラ・ムーアの名前で明朝の予約を入れた。
ジョーは「マイアミ、マリオット、サラ・ムーア」と書いたメモをゴミ箱に捨て、自宅を出た。車で張り込んでいたトニーは、ジョーが隠している鍵を見つけて部屋に入った。メモを見つけたトニーはマリオットに電話を掛け、サラが明朝に予約を入れていることを知った。ジョーはガスの点検員に成り済まし、サラが匿ってもらっているアマンダの家に上がり込んだ。離婚手続きの通告書を渡されたサラは「何かの間違いよ。ウチは円満よ」と困惑するが、ジョーは証拠写真を撮って立ち去った。
車に戻ろうとしたジョーは、チャーリーの用心棒２人に襲われた。ジョーは殴られて失神し、車を奪われた。ジョーが仕方なくバスで移動していると、彼がいるとは知らずにサラが乗り込んで来た。嫌味を言うサラの言葉で、ジョーはトニーが仕事を妨害していたことを知った。さらに彼は、２ヶ月前からトニーが邪魔していたせいで配達相手がなかなか見つからない時期が続いていたのだと確信した。その頃、トニーはジョーに騙されたとも知らず、マイアミに入っていた。
サラが「こんな離婚ってある？財産の半分で我慢できると思う？」と不満を漏らすと、ジョーは「半分も貰えない。彼からの通告だし、テキサス在住だから有利だ」と言う。州によっては先に通告した方が有利であり、テキサス州は離婚の法律が最も保守的なのだとジョーは説明した。「もした私から通告してたら？」とサラが訊くと、ジョーは「裁判は君の住むニューヨークで開かれ、財産分与も遥かに公平だ。半分以上は貰えるだろう」と述べた。
サラはジョーに、「通告書は破棄して。私が倍の報酬で雇うわ」と持ち掛けた。「仕事の完了は報告済みだ。僕が寝返ったら評判が落ちて失業する」とジョーが断ると、彼女は慰謝料の10パーセントを渡すと提案した。「ウチの牧場は２千万ドルよ」という言葉に、ジョーの表情が変わった。100万ドルが貰えると分かり、ジョーはサラとの取引に同意した。彼はマイアミのマリオットに電話を掛け、フロント係に「サラ・ムーアはメーン州のマリオットに移った」というメッセージを頼んだ。
テキサスに飛んだジョーとサラは、ゴードンが会員になっているアスレチック・クラブへ赴いた。ジョーはサラに、彼の姿を見たら隠れるよう指示した。しかしゴードンを見つけたサラは思わず大声を発し、彼に逃げられてしまった。ゴードンの弁護士を務めるウォーレンはレイに電話を掛け、説明を求めた。ジョーの裏切りを知ったレイは狼狽し、「心配ありません。すぐに女を追い掛けます」と告げた。彼はトニーに連絡し、テキサスへ行かせることにした。
ゴードンはウォーレンの忠告を聞き入れず、用心棒のヴァーノンを呼び寄せた。彼はヴァーノンに、「送達人を俺に近付けるな。そいつがどうなろうと、俺は知らん」と告げた。サラはジョーを連れてゴードンのオフィスを訪れ、秘書のドリスと会った。するとドリスは、全員がゴードンの居場所を漏らさないという誓約書に署名したことを明かした上で、デュランゴのムーア牧場に向かったことを教えた。
サラはジョーと共に空港へ行き、航空券を購入しようとするが、クレジットカードが解除されていた。ゴードンの仕業だ。サラがショックを受けてトイレに行っている間に、ジョーはトニーに見つかった。トイレから戻って来るサラにトニーが気付くと、ジョーは犬を放して妨害した。ジョーはサラと共に逃げ出すが、空港に財布を忘れてしまった。トニーは財布を見つけただけでなく、ジョーたちがムーア牧場へ向かったことにも気付いた。
車でアマリロのデュランゴに入ったジョーだが、「夜の牧場は危険」とサラが言うのでホテルに宿泊することにした。トニーの方が先にムーア牧場へ到着するが、泥棒と間違われて発砲を受け、慌てて逃げ出した。ジョーは検査官を詐称して無料で安宿に泊まろうとするが、あっさりと断られた。しかしサラが受付係にオッパイを見せると、無料で泊まらせてもらえることになった。100万ドルを何に使うのかとサラに訊かれたジョーは、「ナパ・ヴァレーにブドウ畑を持ちたい」と答えた。
「真面目に答えて」とサラが言うと、ジョーは「僕は弁護士として成功し、全てを手に入れた。美人の婚約者もいた。だが、セメント業界の大物であるマフィアから依頼が来た時、自分が腐敗したことに気付いて事務所を辞めた。でも婚約者は急変し、収入と共に消えた」と語った。翌日、ジョーとサラがムーア牧場を張り込むと、ゴードンが日本人の客を案内していた。ヴァーノンに見つからないように移動した２人は、カウボーイたちから種牛の搾乳を助けに来た獣医に間違えられた。仕方なく獣医に成り済ましたジョーは、全く射精しない種牛の尻に腕を突っ込む羽目になった。その間にサラはカウボーイと話し、ゴードンが会社を売却するつもりだと知った…。監督はレジナルド・ハドリン、脚本はジェイ・シェリック＆デヴィッド・ロン、製作はダン・ハルステッド、製作総指揮はダン・コルスラッド、撮影はロバート・ブリンクマン、編集はジム・ミラー、美術はラスティー・スミス、衣装はフランシーン・ジェイミソン＝タンチャック、音楽はマーカス・ミラー、音楽監修はマシュー・ウォルデン＆バイロン・フィリップス。
出演はマシュー・ペリー、エリザベス・ハーレイ、ブルース・キャンベル、セドリック・ジ・エンターテイナー、ヴィンセント・パストーレ、ジェリー・スティラー、エイミー・アダムス、ジョー・ヴィテッリ、テリー・クルーズ、マーシャル・ベル、デレク・サウザーズ、ロビン・マクギー、ブレント・ダンカン、イーライ・ジャックス、ジョン・ウェイン・シェーファー、ヴィンス・セセラ、トニー・ロンゴ、ロデリック・ワトソン、マリー・ミランダ、アライナ・カランジ、ヘザー・ハント他。
『ハウス・パーティ』『ブーメラン』のレジナルド・ハドリンが監督を務め、『アイ・スパイ』のジェイ・シェリック＆デヴィッド・ロンが脚本を担当した作品。
ビデオタイトルは『明るい離婚計画』。
ジョーをマシュー・ペリー、サラをエリザベス・ハーレイ、ゴードンをブルース・キャンベル、レイをセドリック・ジ・エンターテイナー、トニーをヴィンセント・パストーレ、ミルトンをジェリー・スティラー、ケイトをエイミー・アダムス、チャーリーをジョー・ヴィテッリ、ヴァーノンをテリー・クルーズ、ウォーレンをマーシャル・ベルが演じている。出演者の名前が邦題に含まれている映画は、その出来栄えが良くないってのが私の持論だ。
例えば『マドンナのスーザンを探して』とか、『プリンス／アンダー・ザ・チェリー・ムーン』とか、『アーノルド・シュワルツェネッガー／ゴリラ』とか、その手の映画は山のように存在する。
この映画の場合、「マシュー・ペリーの」と付けても別に構わないわけだ。
でもＴＶドラマ『フレンズ』でブレイクした彼よりも、『オースティン・パワーズ』や『悪いことしましョ！』に出ていたエリザベス・ハーレイの方が、日本における人気や知名度は上だと配給会社の角川ヘラルド・ピクチャーズ（現在は合併によって消滅）が判断したのだろう。映画が始まってから10分が経過したところで、まだ１つも笑いのポイントが無い。
ところが困ったことに、これがコメディー映画であることは伝わってくる。
つまり「コメディーのはずなのに導入部で笑い所が見当たらない」という構成になっているわけだ。
いや、最初からそういう構成を狙っているわけではなく、たぶん笑わせようとしているのに結果として笑えるポイントが無いってことなんだろうけど、重要なのは結果であって過程ではないので、導入部に笑えるポイントが無いという時点でキツい。笑いが生じていない理由は幾つか挙げられるが、まずシーンの内容として笑いを取りに行く意識が薄い。
カジノでジョーが従業員や客たちと交わす会話は、クールに決めようとしているだけ。
「クールに決めようとしてるけどマヌケにしか見えない」という笑いの取り方はしていない。
賭け金の紙幣がクシャクシャってのは、「ジョーがホントにイケてる男ではなくて、クールに見せてるけど中身が伴っていない」という一端を示す描写ではあるが、そこで笑いが生じるほどの力は無い。「刑事が待機しているように見せ掛けて実はガキがいるだけ」というのも同様で、笑いへの転化は無い。まだまだ圧倒的にクール寄りの描写になっている。
ジョーの表情やリアクションも、笑いを生み出すモノではない。「スタイリッシュでクールなコメディー」ってのを狙っているわけではなくて、単に笑いが足りていないだけ。
もっと問題なのは、ジョーに魅力が足りないってこと。それどころか、序盤は不快指数が高いキャラクターになっている。
話が進むにつれて不快指数は下がっていくけど、魅力は大して上がらない。トニーがサラに「部屋から逃げろ」と電話で告げる時点で、何の書類が届けられるのかは明かされていない。
それは明らかに順番が逆だわ。それが離婚書類であることを明かす工程を、後回しにしておく意味が無い。それを先に示した上で、「離婚書類だからサラが逃げ出す」という展開にした方がいい。
そこで「書類の中身は何なのか」というミステリーを作っても、話に入り込むことを無駄に阻害するだけだ。
ジョーとサラに追い掛けっこも、何の目的でやってるのかボンヤリしていたら気持ちが乗りにくい。っていうか、なんで先に「依頼主が誰で、どういう書類を誰に届けるのか」という説明をキッチリとやっておかないのか。
チャーリーに届ける際は、そこで「恐喝事件の証人として召喚する」とジョーが語っているんだから、どういう書類か分かった上で渡しているんでしょ。サラの時だって、それを分かった上で届けているはず。
だったら、それを観客にもさっさと明かすべきでしょ。
ジョーが中身を知らずに仕事をしているならともかく、そうじゃないんだから、観客に書類の中身を説明しない意味が分からん。
っていうか意味なんて無くて、単にやるべきことをやっていないだけにしか思えん。サラに逃げられた後、レイが「この仕事はトニーに任せる」と書類も渡しているのに、ジョーがサラを見つけ出すことに躍起になる理由がサッパリ分からない。そこまでムキになってその仕事を遂行することで、ジョーは何が得られるというのか。
これが「ジョーとトニーで出世争いをしている」ってことなら、それは理解できるのよ。だけど、そういう設定は用意されていない。
「トニーに仕事を取られるのが嫌だから」というぐらいしか、その仕事に固執する理由は見当たらない。
そして、それが理由だったとしたら、すんげえ弱い。サラは離婚手続きの通告書を受け取った時点では、「何かの間違いよ。ウチは夫婦円満よ」と困惑している。ところがバスでジョーと再会した時には、もう「財産の半分で我慢できると思う？」と財産分与に関する不満を口にしている。
わずかな時間で、すっかり夫に対する愛は冷めてしまったのかよ。
車でラブラブだったのは、ゴードンは芝居だったけど、アンタは本気だったんじゃないのかよ。それにしては、「離婚なんて信じられない」という気持ちから「あの男め」という気持ちへの変化が早すぎるわ。
離婚通告に対して「まさか」というショックがあったとすれば、まずはゴードンに本気かどうか確認しようとするべきじゃないのか。その作業を経ずに、いきなり「こっちから通告してやろう」ということになるのは違和感が強いわ。
そういう展開にしたいのであれば、サラもゴードンと同様に仮面夫婦としてラブラブを装っていただけで、本当は気持ちが冷めていたという設定にしておくべきじゃないかと。サラはあっという間に「こっちから通告してやろう、財産を半分以上ふんだくってやろう」という気持ちに変化したはずなのに、カードを解除されていると知ったら「そこまでするなんて」とショックで泣き出している。
それはキャラの動かし方として、整合性が取れていないだろ。
しかも、そこで彼女に「悲しくて泣き出す」という行動を取らせるストーリー上の意味は、何も無いのだ。
そこで「ショックのサラが泣く」という部分だけを排除すれば全く違和感は無かったはずで、なんで余計なことをやっちゃうかね。空港のコンベアーに乗ったジョーとサラが流される展開は、「そこで急にドタバタ劇みたいなことをやっちゃうのね」と感じる。そういうことをやる雰囲気が全く漂っていなかっただけに、その「アクションで見せる喜劇」という展開には違和感を覚えてしまう。
そして、その違和感が正しかったことは、すぐに証明された。
なぜなら、「コンベアーにサラのジーパンが引っ掛かり、助けるためにジョーがジーパンを破り、パンツ丸見え状態になったサラが適当な服を見つけて着替える」という展開が待っているからだ。
そこで彼女が着替えたのは、ミニスカのヘソ出しルック。
ようするに、それをやりたかっただけなのよ。
いや、別にさ、お色気サービスが悪いってわけじゃないのよ。ただ、もうちょっとスムーズにやれんものかと。安宿に宿泊したところで、「かつてジョーが弁護士として成功していたが、腐っていると気付いて事務所を辞めたら婚約者が去った」という過去が明かされる。
だが、その設定の、どうでもいいことといったら。
それを明かすことでジョーの好感度を上げようとしているなら、大して意味は無い。っていうか、それ以外の理由だとしても、まるで意味が無い。どういう方向へも、有効に作用していない。
「そんな過去を経て、ジョーの生き方が変わりました」という形にするなら、そこをもっと厚く描いておかないと機能しない。その話を聞いた途端、ベッドを独占していたサラはジョーが隣に寝ることを承諾するのだが、それも違和感たっぷりだわ。
いや、男女がずっと一緒に行動している内容だから、たぶんジョーとサラをカップルにしようとするんじゃないかという予感はあったよ。
だけど、そこまでの展開で、この２人に愛が芽生える兆しなんて全く無かった。
そんで、そこに来て急激に心の距離を縮めさせようとしているんだけど、かなり無理を感じるぞ。しかも、そこで心の距離が近付いたものの、そこから互いの恋愛感情が高まっていく様子が描かれるわけではない。そのくせ、高級ホテルに宿泊したところで急にジョーがサラを口説き、２人はキスをする。
スムーズな流れってモンが全く用意されていない。
おまけに、ジョーはサラとキスした直後、ケイトのお色気とボインに気持ちをすっかり持って行かれている。
そこに来て、その手の軽薄さはダメだろ。
しかも、それがケイトの色仕掛けによる罠なんだから、どうしようもない。その後でジョーとサラがカップルになる展開に着地しても、素直にハッピーエンドとして受け取れないわ。ムーア牧場に入り込んだジョーが獣医と誤解されて牛の射精を手伝う羽目になるという展開は、「もう開始から１時間を経過しているのに、そこに来てダラダラしちゃってるなあ」と感じる。すぐに近くにゴードンやヴァーノンがいるのに、そこで主要キャストでも何でもない連中と絡む出来事に時間を費やすのは、無駄に道草を食っているようにしか思えない。
結果的には「ゴードンが会社を売却する」という情報を得るものの、異なるエピソードでも同じ情報を得る形には出来るわけだし。
その後、ヴァーノンがジョーとサラを見つけて追い掛けるが、ここの絡みが遅い。
開始から約63分後にようやく初遭遇で、ニアミスもその数分前にあっただけ。そもそもヴァーノンがゴードンから指令を受けたのが開始から40分頃なので、そこも少し遅いと感じるが、そこから計算すれば23分程度というジョーたちとヴァーノンの初遭遇は、やはり遅い。
しかも、そこでヴァーノンの出番は終わりなんだぜ。
こいつ、ほとんど何もしてないじゃねえか。ジョー＆サラを追い掛けているのがトニーとヴァーノンだけであり、トニーも空港で接触して以降はしばらく消えているので、ジョー＆サラは一方的にゴードンを追い掛けている時間が長くなる。
それだと、トニーやヴァーノンを有効活用しているとは言い難い。
「自分たちは追われる身である」という認識をジョー＆サラが持たない形にしてしまうのなら、追跡者なんて要らないでしょ。
ヴァーノンを追跡者として登場させるなら、もっと出番やジョー＆サラとの絡みを増やさないとダメでしょ。（観賞日：2014年8月31日）