『いそしぎ』:1965、アメリカ
カリフォルニアの人里離れた海辺の家で、画家のローラは9歳の息子ダニーと2人で暮らしていた。ローラは文明社会を極度に嫌悪し、距離を置いて生活していた。彼女は学校教育にも否定的で、ダニーを学校には通わせていなかった。
しかしダニーが問題行動を繰り返したため、判事の命令で彼をミッション・スクールに入れることが決まる。ローラは仕方なく従うことにするが、校長で神父のエドワードに対して、強い口調で学校教育や宗教に対する批判的意見を浴びせる。
だが、ローラとエドワードは、次第に惹かれ合うようになっていく。エドワードにはクレアという妻も息子もいたが、その気持ちは抑え切れず、ついに2人は関係を持つ。不倫の恋を続けるローラとエドワードだが、その関係をクレアに知られてしまう…。監督はヴィンセント・ミネリ、原案はマーティン・ランソホフ、脚本はダルトン・トランボ&マイケル・ウィルソン、追加脚本はイレーヌ・カンプ&ルイス・カンプ、製作はマーティン・ランソホフ、製作協力はジョン・コーリー、製作総指揮はベン・カディッシュ、撮影はミルトン・クラスナー、編集はデヴィッド・ブレサートン、美術はジョージ・W・デイヴィス&ユーリー・マックリアリー、衣装はイレーヌ・シャラフ、音楽はジョニー・マンデル。
出演はエリザベス・テイラー、リチャード・バートン、エヴァ・マリー・セイント、チャールズ・ブロンソン、ロバート・ウェッバー、ジェームズ・エドワーズ、トリン・ザッチャー、トム・ドレイク、ダグ・ヘンダーソン、モーガン・メイソン他。
1963年の『クレオパトラ』で共演したエリザベス・テイラーとリチャード・バートンは不倫の恋に落ち、それは大きなスキャンダルとなった。
2人は1964年に結婚し、これが夫婦となって初の共演作となる。
リズがローラ、バートンがエドワード、エヴァ・マリー・セイントがクレアを演じている。
主題歌の「The Shadow of Your Smile」は、アカデミー賞の歌曲賞を受賞した。のっけから、ローラとダニーのイカレっぷりが示される。
森で鹿を撃ったダニーは、「殺して楽しむことの意味を知りたかった」と平然と語る。
その前にも、彼は急に見知らぬ少女の太股を触ったり、繋いであった馬を暴走させたりと、「ああ、どうやらオツムがイカれた人なんだな」と思わせる行動を取っている。
だが、そんなダニーの行動に対して、母親のローラは全く注意する様子も無い。
それが悪いことだという感覚は、ローラにも無いのだ。
ローラは自由奔放や天真爛漫というのではなく、完全にモラルが欠け落ちている。ローラは学校教育を否定し、エドワードに対して「私がダニーに教えている」と言う。
だが、人間としてのモラルは全く教えていない。
「あの子はまだ洗脳されていない」と言うが、ダニーはローラに洗脳されている。
そもそも、色々と理由を付けてはいるが、ローラは子離れできていないだけだ。
ダニーに友達がいないことも、何とも思っていない。しかし、実のところ、この映画にとってダニーなんて、どうだっていい存在なのだ。
彼は「出会ったローラとエドワードが最初は対立するが、次第に惹かれ合うようになっていく」という流れを生み出すための、きっかけとなる道具でしかない。
ローラとエドワードの不倫の恋を描くことが、この映画の唯一の目的だ。
だから自分の役目を果たした後、ダニーは消えて行ってしまう。「最初は対立する」という部分も、一応の体裁を取り繕うための見せ掛けでしかない。
だから、ローラはエドワードに批判的な態度を取っていたはずなのに、若い頃に男性への恐怖心を抱いたことを、すぐにベラベラと喋るようになる。
そこには、ローラとエドワードの恋愛の障害となるべき壁は全く存在しない。
後は、ジョニー・マンデルの音楽に乗せて、出来損ないの昼メロのような不倫愛の模様がダラダラと描かれていくだけである。妻子があるということも、神父という職業も、エドワードのローラに向ける感情に関して、ストッパーの役目は全く果たしていない。
不倫に対する罪の意識や、周囲の人々に知られることへの恐れが、ストッパーとしては全て役立たずなので、ローラとエドワードのアツアツぶりを延々と見せられるだけ。
たまにローラが男女の関係などについて語るが、特に意味は無い。この映画のポイントは、ローラと妻子あるエドワードが恋に落ちるという部分である。
これは、リズとバートンの関係と重なるものがある。
つまり、これはエリザベス・テイラーとリチャード・バートンが実際に起こしたスキャンダルを利用して、それだけを売りにした、完全なキワモノ映画なのである。ローラとエドワードは自己中心的で身勝手すぎるので、何の魅力も感じない。
それに比べて、何の落ち度も見られない100パーセントの被害者であるエドワードの妻クレアが、とも可哀想に見えてしまう。
それは、リズとバートンにとっては、ものすごく皮肉なことだろう。