『オズ』:1985、アメリカ&イギリス

エムおばさんとヘンリーおじさんは、半年前の竜巻からドロシーの頭が変になったと感じていた。ドロシーはオズの国で体験した出会った仲間や体験について話しただけなのだが、エムとヘンリーには全く信じられなかったからだ。エムは姉に金を貸してもらい、ドロシーを電気療法で有名なウォーリー医師に診てもらおうと決めた。ドロシーは雌鶏のビリーナが産んだ卵を探している時、鍵を見つけた。その形から彼女は、オズの鍵だと確信した。ドロシーは興奮した様子でエムに知らせるが、まるで信じてもらえなかった。
ドロシーは「友達が流れ星で送って来たのよ。友達が困ってる証拠だわ」と言うが、エムは「困ってるのは私たちよ。竜巻で家を無くして住宅ローンを抱え、冬が近いのに新しい家は完成していない」と嘆息した。エムはドロシーを馬車に乗せてフランクリン郡まで遠出し、ウォーリーの診療所を訪れた。ドロシーが語るオズの国の出来事を、やはりウォーリーも妄想だと決め付けた。ウォーリーはドロシーに、不眠治療のために電流装置を見せた。
エムは「明日になったら迎えに来るわ」と言い、ドロシーを診療所に預けて去った。ドロシーはウィルソン看護婦の案内で奥の部屋に通され、そこで待つよう指示された。ウィルソンが出て行った後、白い服の少女が現れた。彼女は「ハロウィンのプレゼントよ」と告げ、カボチャを差し出した。雷が鳴ると、少女は慌てた様子で「行かなくちゃ」と走り去った。ドロシーはウィルソンたちによって手術室へ運ばれ、診察台に拘束された。
ウォーリーが装置を取り付けて治療を開始しようとすると、停電が起きた。ウォーリーと看護婦たちが発電機の点検へ向かうと、少女が手術室に入って来た。彼女はドロシーの拘束を解き、「早く逃げるのよ。治療で変になった人たちが地下室にいる」と言う。2人が診療所から逃げ出すと、ウィルソンが追って来た。少女は濁流の川へ飛び込み、後に続くようドロシーに叫んだ。川に飛び込んだドロシーは、流れて来た木箱に乗り込んだ。
いつの間にか眠り込んだドロシーは、翌朝になって目を覚ました。すると隣にはビリーナがいて、人間の言葉でドロシーに喋り掛けた。そこは川ではなく小さな池で、周囲は砂漠だった。すぐにドロシーは、そこがオズの国だと気付いた。彼女は死の砂漠を抜けて森に入り、食料を探す。ランチボックスの木を見つけた彼女は、実の中に入っていたサンドウィッチで腹ごしらえをした。ノーム王の部下が、その様子を密かに観察していた。部下からドロシーが戻ったことを知らされたノーム王は、監視の続行を命じた。ドロシーが鶏を連れて来たと聞き、ノーム王は激しく驚いた。
森の中を歩いたドロシーは、竜巻で飛ばされた我が家を発見した。黄色いレンガ道が壊れているのを目にした彼女は当惑し、エメラルド・シティーへと急いだ。するとエメラルド・シティーは廃墟と化しており、全ての住民は石化していた。「ホイーラーズに気を付けろ」という文字が壁に書かれていたが、ドロシーには何のことか分からなかった。ブリキの木こりと臆病ライオンも石になっているのを見つけて、ドロシーは悲しい気持ちになった。
ホイーラーズと呼ばれる悪党グループが出現したので、ドロシーは慌てて逃走した。行き止まりに追い詰められた彼女は、ビリーナの助言を受けて鍵を使う。扉を開けた彼女は、小さな部屋に避難した。ホイーラーズは「ノーム王は鶏をオズへ入れることを禁じた。出て来たら、ズタズタにして死の砂漠に捨ててやる」と脅し、その場を去った。部屋を見回したドロシーは、国王軍の紋章が入ったゼンマイ仕掛けのロボットを発見した。ドロシーは説明書きを読み、ロボットを動かした。
そのロボットはティック・トックと名乗り、「かかし陛下が、ここで貴方を待て」と説明した。ティック・トックはドロシーを連れて外へ出ると、襲って来たホイーラーズを撃退した。リーダーを捕まえた彼は、ノーム王がシティーを占領して人々を石に変えたことを聞き出す。かかしの居場所についてドロシーが尋ねると、リーダーは「知っているのはモンビ王女だけ」と答えた。ティック・トックはリーダーを威嚇し、モンビの屋敷まで案内させた。
ドロシーが屋敷に入ると、モンビは奥の部屋へ連れて行く。そこには複数の頭部が飾られており、モンビは今の気分に合わせて取り替えた。彼女はドロシーに、「ノーム王がかかしを捕まえ、宝石を奪った。お前の頭が程良い大きさになるまで、塔に監禁する」と言う。モンビはドロシーを塔へ連れて行き、閉じ込めてしまった。ティック・トックは動く力が無くなり、停止してしまった。ドロシーはカボチャ頭のジャック・パンプキンヘッドと出会い、壊れている体を直してやった。
ジャックは「ママがモンビを脅そうとして、僕を作った。モンビは僕を壊そうとした時、魔法使いの命の粉を試した。それを振り掛けた物は、命を持つ」と言い、それがモンビのケースに入っていることをドロシーに教える。ドロシーは塔から抜け出してティック・トックのゼンマイを巻き、指示を出した。ティック・トックはジャックと共に、ソファーやホウキなどを使って飛行物体のガンプを作る。ドロシーは命の粉を盗み、ガンプに振り掛けた。
ドロシーたちはガンプに乗り、塔から飛び去った。モンビはホイーラーズを起こし、ドロシーを捕まえるよう命じた。ホイーラーズは後を追うが、死の砂漠に行く手を遮られた。ガンプは繋いでいたロープが切れてバラバラになり、ノーム王の山に墜落した。ノーム王の声が聞こえたので、ドロシーは「かかしを解放して、シティーを元に戻して」と頼む。するとノーム王はドロシーを地下へ落とし、「全ての宝石は、地下にある私の領地で作られた。上の世界の者たちが、掘り起こして盗んだのだ」と述べた。
「かかしはどこ?」とドロシーが問い掛けると、ノーム王は「魔法を掛けて飾り物に変えた。我が宮殿の陳列室を飾っている」と話した。ドロシーが悲しんでいると、ノーム王はゲームを持ち掛けた。彼はティック・トックたちをドロシーの元へ移動させ、順番に挑戦するよう促した。陳列室の中で、かかしが変身した飾り物を当たられるかどうかというゲームだ。1人に3回ずつのチャンスが与えられ、見事に当てられたら全員を解放し、かかしも元の姿に戻すとノーム王は説明した。しかし3度のチャンスで失敗した場合、その挑戦者も飾り物に変えられてしまう…。

監督はウォルター・マーチ、原作はL・フランク・ボーム、脚本はウォルター・マーチ&ギル・デニス、製作はポール・マスランスキー、製作総指揮はゲイリー・カーツ、製作協力はコリン・マイケル・キッチンズ、撮影はデヴィッド・ワトキン、美術はノーマン・レイノルズ、編集はレスリー・ホジソン、衣装はレイモンド・ヒューズ、音楽はデヴィッド・シャイア。
出演はフェアルーザ・バーク、ニコル・ウィリアムソン、ジーン・マーシュ、パイパー・ローリー、マット・クラーク、ミシェル・サンディン、ティム・ローズ、マック・ウィルソン、スチュワート・ラランジ、スティーヴ・ノリントン、ジャスティン・ケース、ディープ・ロイ、エマ・リドリー、ソフィー・ウォード、フィオナ・ヴィクトリー、ポンズ・マール他。
声の出演はショーン・バーレット、デニス・ブライアー、ブライアン・ヘンソン、ライル・コンウェイ。


L・フランク・ボームによる小説「オズ・シリーズ」の第2巻『オズの虹の国』と第3巻『オズのオズマ姫』を基にしたディズニーの実写映画。
編集マンや音響マンとして活動していたウォルター・マーチが初監督を務めている。
彼と共同で脚本を手掛けたギル・デニスは、これが商業映画デビュー作。
ドロシーを演じたフェアルーザ・バークは、これが映画デビュー作。ウォーリー医師&ノーム王をニコル・ウィリアムソン、ウィルソン&モンビをジーン・マーシュ、エムをパイパー・ローリー、ヘンリーをマット・クラークが演じている。
ジャックの声を担当しているのは、マペット作家として有名なジム・ヘンソンの息子であるブライアン・ヘンソン。

映画が始まると物悲しいBGMが流れ、やけに陰気な雰囲気が漂う。
その時点で「なんか変だぞ」と感じたが、「変なのはドロシーの頭」という設定だった。
そりゃあ冷静に考えれば、オズの国の出来事なんて周囲の人々に信じてもらえないのが当り前だろう。
ただ、だからと言って、「ドロシーがエムとヘンリーからキチガイ扱いされ、電気療法を受けさせられる」って、なんちゅう導入部なのかと。
ディズニーの子供向け映画なのに、なんか怖いわ。オズの鍵が見つかっても、ちっともワクワクできないわ。

勘違いされては困るのだが、そういう導入部のエピソードは、『オズの虹の国』にも『オズのオズマ姫』にも存在しない。
完全に映画オリジナルの要素である。
そもそも、映画オリジナルのエピソードをカンザスのパートに持ち込んでいる時点で、大いに引っ掛かるわ(入れるのであれば、オズの国のパートにすべきじゃないかと)。
持ち込むにしても、よりによって、なんで子供が絶対に喜ばないようなエピソードにするのかと。

ドロシーがオズの国に到着した後も、「黄色いレンガ道が崩壊しており、エメラルド・シティーは廃墟と化して住民は石にされている」という展開が続き、ずっとシリアスで暗いテイストに包まれたまだ。
ドロシーが新しい仲間であるティック・トックと出会っても、高揚感は乏しい。
『オズの虹の国』ではジンジャー将軍がエメラルドの都を陥落させる展開があったけど、決してシリアスで殺伐とした雰囲気ではなかったからね。
軽妙で明るいテイストだったからね。

愛犬のトトが登場するにも関わらず、一緒にオズの国へ行くパートナーがビリーナってのは「なんでやねん」と言いたくなる(原作ではドロシーがヘンリーと船旅をしている途中でオズの国へワープするので、トトは登場しなかった)。
そもそも、ドロシーが川を流された時には、ビリーナがいなかったわけで。
それなのに、「翌朝になったらビリーナがいる」という形でパートナーにするんだけど、そこまで強引な手を使って、ビリーナに固執する意味ってあんのかと。

謎の少女が診療所に現れてドロシーを連れ出す展開も、「そんなの要らんわ」と言いたくなる。
なんでカンザスのパートに「謎の少女」を出すかね。
完全ネタバレになるけど、それはオズマ姫なのよ。だけど、オズの国の住人がカンザスに出現するのは、越えちゃいけない線を越えてると感じるのよ。オズの国の住人は、オズの国にいてこそだと思うのよ。
しかも、連れ出して一緒に逃亡したのに、いつのまにか消えちゃってるから不自然だし。少女が消えたことを全く気にしないドロシーにも不自然さを感じるし。
せいぜい「オズマ姫の声がしてドロシーを導く」という程度に留めておけばいいのに。
オズマを登場させたことで、「オズの鍵」が持つ意味まで弱くなるし。

原作の『オズの虹の国』は、“オズ”シリーズでドロシーが登場しない唯一の作品である。
L・フランク・ボームが1作目のファンから続編を要望されて執筆したのだが、「ドロシーはどうなったのか?」という手紙が多く届いたため、3作目以降はドロシーを登場させるようになったのだ。
それを考えると、『オズの虹の国』を外して、単純に『オズのオズマ姫』を映画化すれば良かったんじゃないかという気がしないでもない。
『オズの虹の国』を外しても、『オズの魔法使い』からの流れとして、大きな支障は無かったはずだ。

ただ、原作の中で最初の3作はファンからの人気が高いので、やはり『オズの虹の国』の要素も盛り込みたいと考えたんだろう。
そのこと自体に、文句を付けようとは思わない。
ただ、それならキャラクターとしてジャックとガンプだけを引っ張って来て、後は基本的に『オズのオズマ姫』の内容で構築すれば良かったものを、欲張ってモンビ関連の要素を持ち込んだせいでゴチャゴチャしている。
その一方、人気キャラであるウォグル・バグ(ウォグル・ムシノスケ)は使わないんだから、そこの取捨選択はどうだったのかなと。

モンビは「複数の頭部を用意し、気分に合わせて取り替える」というキャラだが、これは原作に無い設定だ。
原作だと、それは第3作に登場するエヴの国のラングイディア姫のキャラクター設定だ。そういう別のキャラの要素をプラスし、ノーム王の配下という設定にしているわけだ。
でも、そうなると、もはやモンビである意味が無いんじゃないかと。
「首を取り替える」という部分が個性として最も強いんだから、だったらラングイディア姫で良かったんじゃないかと。

「モンビがオズマを隠している」という『オズの虹の国』の設定は踏襲されているけど、それごと排除してしまえば何の問題も無いでしょ。
そもそもモンビがオズマを隠している設定は、「それまでドロシーたちと一緒に行動していた人物が、実はオズマだった」という仕掛けがあってこそ機能するモノなんだから。
そっちの設定を捨てておいて、モンビがオズマを隠している設定だけ使っても意味が無いのよ。
それなら、『オズのオズマ姫』のようにオズマを序盤からドロシーと行動させるか、逆に排除しちゃった方がいいぐらいだ。

モンビとジャックを登場させながら、一方でチップ少年を排除したことによって、ジャックの誕生に関する設定が大幅に変更されている。
ジャックは「ママがモンビを脅そうとして、僕を作った。モンビは僕を壊そうとした時、魔法使いの命の粉を試した」と語るが、そのママが何者なのかは全く分からない。
また、モンビがジャックを壊そうとしたのなら、命の粉を試すのは筋が通らない。それを使ったら命が宿るんだから、むしろ壊すのとは正反対でしょ。
しかも、なぜかモンビは少し壊れているけど普通に動ける状態のジャックを塔に放置しているし、ワケが分からんよ。

あと、キャラクターの扱いで何よりもマズいと感じるのは、かかし&ブリキの木こり&臆病ライオンの存在感の薄さだ。
製作会社は異なるけど、多くの観客は『オズの魔法使』の続編という意識で鑑賞するはずで(『オズの魔法使』はMGMの製作)。
だったら「そもそも演者が違う」という問題は置いておくとして、ドロシー、かかし、ブリキの木こり、臆病ライオン、それにトトというメンバーは再集結させた方がいいんじゃないかと。
かかしはノーム王に捕まり、ブリキの木こりと臆病ライオンは石化しているから終盤まで登場しないんだけど、だったら逆に存在を意識させない方がマシだと思うぐらいだわ。

映画用の改変がプラスに作用していると感じる部分は、一つも見当たらない。
『オズの魔法使』と違ってミュージカル形式を採用しないという判断は、別に構わない(むしろ、そこまで模倣してしまうと、『オズの魔法使』との違いが激しく気になる)。
だけど、テンポは悪いし、ちっともワクワク感が無いし、やたらとダークだし、誰が得をするのかと。
やたらとサスペンスフルにしてあるのも、まるで賛同できないわ。
マジな緊迫感なんて、極端に言えばゼロでもいいのよ。明るく楽しい雰囲気で進めてくれたら、それでいい。

どうせ決まり切っていることだからネタバレでも何でもないだろうが、最終的にドロシーはカンザスへと無事に戻る。
すると心配していたエムとヘンリーが迎えに来て、落雷から逃げ遅れたウォーリーが死んだことを教える。
ウィルソンは逮捕されたのか、馬車で連行される姿が写る。
それによって「悪党は駆逐されました」というハッピーエンドを擁しているつもりなのかもしれないけど、それも含めて嫌な感じの終わり方だわ。ちっともハッピーな気分にならんよ。

(観賞日:2016年10月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会